- 更新日 : 2024年7月12日
内部統制における職務分掌|業務分掌との違いや作成方法を詳しく解説
内部統制の実施を検討するにあたって、職務分掌が必要であると耳にしたことはないでしょうか。内部統制において職務分掌は非常に重要な役割を担っています。とはいえ、職務分掌とは具体的にどういったことを指すのか、メリットやデメリットがよくわからないという方は多いと思います。
この記事では職務分掌と業務分掌の違いや、内部統制において職務分掌を定めるメリットとデメリット、そして職務分掌を定める手順を解説します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
職務分掌とは
職務分掌とは、各部署や役職、担当者の行うべき業務を配分し、責任の所在と業務範囲を明確化することです。職務分掌は、内部統制の目的としている部分でもあり、内部統制の整備においてぜひ知っておきたいポイントです。ここでは、職務分掌と類似する業務分掌、そして職務分離との違いを解説します。
業務分掌との違い
職務分掌と類似する言葉に、業務分掌があります。業務分掌とは、部署単位の業務範囲を明確化することを指し、担当者ごとの業務範囲を明確化する職務分掌とは単位が異なります。
もう少し具体的に説明すると、職務分掌は従業員一人ひとりに対し、「あなたの仕事はここからここまで」と決めてしまうことです。一方、業務分掌は「あなたたち部署Aの人たちはここからここまでを担当してください」と部署単位で役割が決まります。
職務分離との違い
さらに、職務分掌と間違われやすい言葉として「職務分離」があります。職務分離とは、ひとつの業務フローに複数人の担当者がかかわることで起こるミスや不正を未然に防ぐための内部統制です。
内部統制における職務分掌の必要性
では、内部統制で職務分掌はどのように役立つのでしょうか。そもそも内部統制とは、経営者や取締役が事業目標を達成するために、より効率的・有効的に業務を進められているかを評価し、問題点があれば改善することで目的を遂行することを指します。内部統制の基本的要素は以下の6つに分けられます。
- 統制環境
- リスクの評価と対応
- 統制活動
- 情報と伝達
- モニタリング
- ITへの対応
そんな内部統制において、職務分掌はとくに統制活動において必要不可欠です。統制活動とは、経営者の指示が確実に実行されるために整える方針と手続きのことを指します。
経営者の指示が確実に実行されるためには、業務の責任の所在が決まっていなければなりません。さらに、業務担当者がいなければ実行することは不可能です。
このように、内部統制の統制活動を遂行するにあたって、職務分掌はなくてはならないパーツといえます。内部統制の整備は、内部監査や上場審査で必要書類を提出する必要があります。その際、職務分掌に関する担当者の整備は欠かせません。
職務分掌を定めるメリット
職務分掌を定めることで、内部監査や上場審査の際に役立つだけでなく、さまざまなメリットがあります。主なメリットは、以下のとおりです。
- 責任者を明確にできる
- 担当外の業務を減らせる
- 不正のリスクを減らせる
- 人材育成を効率的に行える
ここでは、それぞれのメリットについて詳しくみていきましょう。
責任者を明確にできる
職務分掌は責任の所在を明確にできることがメリットです。業務の範囲が決められていれば、ミスや不正が起こった場合に該当者を特定しやすくなるメリットもあります。不正を防止するだけでなく、万が一の際も情報収集を素早く行うことができるでしょう。
担当外の業務を減らせる
職務分掌を定めることで、従業員の担当外の業務を減らせることもメリットのひとつです。職務分掌では業務範囲を一人ひとり設定します。それまで担当外の仕事を誰がやるのか明確になっておらず、業務負担の軽い人が担当していた業務にも担当者がつくため、担当業務に加えて担当外の業務に携わっていた従業員の負担を減らせます。
従業員の担当外の業務が減ることで、「なぜ自分がやらなければいけないのか」といった従業員の不満を減らせるため、企業には離職防止となることもメリットです。
不正のリスクを減らせる
不正のリスクを減らせることも、職務分掌を定めるメリットです。職務分掌では一人ひとりの業務範囲が限定されるため、権限が分散化できたり、チェック機能を強化したりすることで不正リスクが減ります。
企業にとって不正は、ブランドイメージの低下や社会的信用の低下が起こるリスクとなります。職務分掌を定めて不正リスクを減らすことでそういったリスクを減らせることがメリットです。
人材育成を効率的に行える
職務分掌を定めることで、人材育成の効率化も期待できます。なぜなら、職務分掌により職務に必要な知識やスキルが明確になるため、評価基準が統一できるからです。
人材育成を効率的に行えることで、研修期間を短縮しても新規メンバーが即戦力として活躍しやすくなります。また、退職などにより担当者が変わる場合。引き継ぎ作業がスムーズになることもメリットです。
職務分掌を定めるデメリット
多くのメリットがある職務分掌ですが、一方でデメリットもあります。主なデメリットは、以下のとおりです。
- 担当者のいない業務が宙に浮く可能性がある
- 指示系統の硬直化が起きる
ここでは、職務分掌を定めることでどのようなデメリットがあるのか解説します。
担当者の決まっていない業務が宙に浮く可能性がある
職務分掌を定めることで、担当の決まっていない業務が宙に浮いてしまう可能性があります。職務分掌では名前のない業務について担当者を定めないケースもあり、その場合は担当外の業務を行う人が不在となり、仕事がストップしてしまいかねません。
職務分掌を定めても担当外の業務が宙に浮かないようにするには、業務を細分化して担当者を定めることが必要です。そのためには、業務の洗い出しを細かい部分まで行う必要があります。
指示系統の硬直化が起きる
指示系統の硬直化が起きる場合があることも、職務分掌を定めるデメリットです。
職務分掌を定めると業務の責任の所在が明確になり、「Aの業務を始めるには部長の許可が必要」「Bが担当者だからBがいなければ仕事を進められない」といった硬直化が起き得ます。その結果、生産性の低下が起きる可能性もあります。
指示系統の硬直化が起きないようにするためには、従業員の自主性を高める教育や評価体制が必要です。
職務分掌を定めるための手順
内部統制のための職務分掌は、下記の手順で定めます。
- 内部統制の目的を明確にする
- 従業員から職務分掌の了承を得る
- 企業の組織図を作成する
- 業務内容や責任を細分化する
- 権限の振り分けをする
- 職務分掌規程を作成する
最後に、全体の流れについて詳しく見ていきましょう。
内部統制の目的を明確にする
職務分掌を定める前に、まずは内部統制の目的の明確化が必要です。内部統制の目的が明確化できていない場合、先に職務分掌を定めてもうまく機能しない可能性があります。
- 内部統制の実施目的には、主に以下の4つが挙げられます。
- 業務の有効性・効率性を向上させる
- 財務報告の信頼性を高める
- 事業活動に関わる法令などを遵守する
- 資産を適切に管理する
職務分掌のメリットとして、業務範囲を明確化させることで業務遂行の効率化を図れます。また、不正を防ぐメリットもあります。内部統制の目標を決める際は上記の実施目標と照らし合わせ、本当に企業にとってプラスになるのか、どのような課題を解決したいのかを検討しながら考えていきましょう。
従業員から職務分掌の了承を得る
内部統制の目的を明確にしたら、次に従業員から了承を得るフェーズに入っていきます。「経営者の指示だから従業員の了承はいらないのでは?」と思うかもしれませんが、従業員一人ひとりがいるからこそ事業が遂行されていることを忘れないようにしましょう。従業員の納得がないまま進めてしまっては、思ったような効果は得られません。
従業員から職務分掌の了承を得るには、まず従業員へアンケートやヒアリングを行い、職務内容をまとめていきます。同時に役職者の理解を仰ぎ、なぜ職務分掌を定めるのか、どのようなメリットがあるのかをひとつひとつ説明します。
従業員から了承を得るためには、従業員にとってメリットが必要です。メリットを提示し、問題点をヒアリングすることで従業員の納得するルールを作り上げていきましょう。
企業の組織図を作成する
企業の組織図とは、組織の内部構造を可視化したものです。トップである経営者から、部署、課の下部組織までを図で表します。
繰り返しになりますが、職務分掌は担当者ごとに業務範囲を定めるものです。職務分掌を定める際は、組織図に従って権限を定めていく必要があります。
企業の組織図の作成するときは、支社を含め部門・部署など企業を構成する要素をすべて書き出します。そうすることで、部署同士の関係性や連携が必要になる際の業務範囲が明確になるためです。
業務内容や責任を細分化する
組織図が完成したら、次に業務内容や責任の細分化をしましょう。現在、部署や職務単位で担当している具体的な業務や責任を洗い出します。社内アンケートやヒアリングをすることで、従業員の声をひとつひとつ拾うことが重要です。
権限の振り分けをする
業務内容や責任を細分化できたら、権限の振り分けをします。権限の振り分けとは、職務分掌で負う個々の責任の範囲を定めることにもつながるかもしれません。権限の振り分けができていないと、イレギュラーな事態が発生した際、誰が責任を負うのかが不明瞭となり対処が遅れたり、責任の押し付け合いになったりと、望ましくない状況が発生してしまう可能性があります。しっかりと詳細を定めておきましょう。
職務分掌規程を作成する
権限を振り分けたら、いよいよ職務分掌規程を作成します。職務分掌規程とは、職務ごとに果たすべき責任や権限を明文化した規程です。職務分掌の実行後は、この職務分掌規程に則り運用していきます。ただし、職務分掌規程は義務ではありません。作成しなくても問題はありませんが、職務分掌規程を作成するメリットとして、以下が挙げられます。
- 明文化することで誰でも確認できるようになる
- 新たな業務が発生した場合に活用できる
職務分掌を作成するときは、イチから作成するのではなくテンプレートを使用したり、社労士に相談したりするのがおすすめです。専門家に依頼することで、必要な項目を過不足なく作成してもらえるだけでなく、作成にかかる時間をほかの業務に当てられます。
職務分掌を作成する際は、繰り返しになりますが従業員の声を反映させて作成することがポイントです。現場の声を理解せず作成してしまうと、実際の業務からズレが生じて使用しにくい規程になってしまう可能性もあります。
まとめ
職務分掌とは、担当者の行うべき職務範囲を定め、責任の所在を明らかにすることです。責任者を明確にしたり、担当外の業務を減らしたりできるメリットのほかに、不正リスクの軽減や人材育成の効率化といったメリットもあります。
ただし、担当外の業務を押し付けあったり、指示系統が硬直化したりするデメリットもあることに注意しましょう。内部統制において、職務分掌は重要なパーツです。この記事で紹介した手順に則り、ポイントや注意点を理解したうえで作成に取り組みましょう。
よくある質問
そもそも職務分掌って何?
職務分掌とは、各部署や役職、担当者の行うべき業務を配分し、責任の所在と業務範囲を明確化することです。業務分掌とは異なり、職務ごとに定められます。
職務分掌のメリット・デメリットは?
内部統制において職務分掌を定めるメリットは、以下のとおりです。
- 責任者を明確にできる
- 担当外の業務を減らせる
- 不正のリスクを減らせる
- 人材育成を効率的に行える
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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