• 作成日 : 2024年10月28日

IPO準備の業務内容は?流れや期間別に必要な手続きについて解説

IPO業務に関心を持つ企業にとって、適切な準備と手続きは成功の鍵です。株式公開を目指す過程では、財務の透明性、法的準拠、ガバナンスの強化が求められ、多岐にわたる業務が発生します。

本記事では、IPO準備の全体像と期間、業務内容などを詳しく解説します。

IPO準備の全体像と期間

IPO準備の業務内容は?流れや期間別に必要な手続きについて解説
一般的に、IPOを実現させるためには、準備期間含めて3年以上かかると言われています。

ここではまず、IPO準備の全体像と期間を詳しく解説します。

IPOまでの大まかな流れ

上場(IPO)のスケジュール|期間の目安や期間別にやるべきことを解説
IPOを達成するには少なくとも3年以上の時間が必要で、その間に多くの準備を行う必要があります。

主な準備期間の流れは、以下の通りです。

流れ業務内容
➀直前々期の期首前(N-3期以前)
  • 事業計画と資本政策の策定
  • 監査法人の選定
  • ショートレビューの実施
  • プロジェクトチームの結成
  • 主幹事証券会社の選定
  • IPOコンサルタントの選定
  • ➁直前々期(N-2期)
  • 利益管理制度の整備
  • 業務管理制度の整備
  • 組織運営体制の整備
  • 会計管理体制の整備
  • 特別利害関係者等との取引解消
  • 子会社・関連会社の整理
  • J-SOXへの対応
  • ③直前々期(N-1期)
  • 経営管理体制の運用
  • 株式事務代行機関の選定
  • 証券印刷会社の選定
  • 上場申請書類の作成
  • 主幹事証券会社の中間審査
  • ④申請期
  • 主幹事証券会社の引受審査
  • 証券取引所の上場審査
  • IPO準備にかかる期間

    先ほどもお伝えしたとおり、IPOまでにかかる時間は一般的に3年以上と言われています。

    そのほとんどは準備にかかる期間となり、準備期間の目安は1年~数年です。

    上場審査の基準として、2期分の会計監査が必要となっています。2期分の会計監査を行うには、それなりに時間を要しますが、実際には企業の規模や業種、内部体制の整備状況によって大きく異なります。

    企業の規模が大きくなるほど、会計やガバナンスの透明性を確保するための体制強化に時間がかかる傾向があり、特に大規模な企業は部門ごとに異なる業務フローを統合・整備する必要があるのです。

    IPO準備段階における業務内容

    IPO準備の業務内容は?流れや期間別に必要な手続きについて解説
    IPOを実現させるには、準備に時間を要する必要があります。

    本項では、以下4つの期間に行う業務について解説します。

    • 直前々期の期首前(N-3期以前)
    • 直前々期(N-2期)
    • 直前期(N-1期)
    • 申請期

    直前々期の期首以前(N-3期以前)の業務内容

    直前々期の期首前(N-3期以前)には、主に以下のような業務を行います。

    • 事業計画と資本政策の策定
    • 監査法人の選定
    • ショートレビューの実施
    • プロジェクトチームの結成
    • 主幹事証券会社の選定
    • IPOコンサルタントの選定

    事業計画と資本政策の策定

    事業計画の策定は、IPOを成功させるための基本的なロードマップを描く作業です。これには、企業が今後数年間でどのように成長し、収益を上げていくかを明確にすることが含まれます。

    投資家や市場に対して企業のビジョンを伝え、信頼性を高めるためにも、目標を達成するための具体的な方法や資金計画などをしっかりと策定しましょう。

    監査法人の選定

    監査法人の選定は、IPO準備の初期段階から必要不可欠であり、企業が上場を目指すうえで、適切な財務報告やコンプライアンス対応を確保するための基盤を築くものです。

    企業の規模や業種、ビジネスモデルに適した専門知識を持つかどうかが重要なポイントです。選定の際には、監査法人が企業の特性に精通しているか、業界に関する理解が深いかなどが評価されます。

    さらに、IPO準備において監査法人は、財務報告の適正化だけでなく、内部統制やコンプライアンスの強化にも積極的に関与するため、長期的な協力関係を見据えて慎重に選ぶ必要があります。

    ショートレビューの実施

    ショートレビューは、企業の財務状況や内部統制、コンプライアンス体制を早期に評価し、IPOプロセスにおいて必要となる改善点やリスクを事前に洗い出すための一連のレビューです。

    ショートレビューの目的は、企業が上場基準を満たしているかを確認するだけでなく、今後どのような改善が必要かを具体的に明らかにすることです。

    特に財務諸表や内部統制の整備状況を確認し、監査法人や証券会社などの外部パートナーと協力して適切な修正や強化を図るための初期段階として機能します。

    プロジェクトチームの結成

    IPOを実現させるためには、財務、法務、内部統制、資本政策など多岐にわたる分野での準備を必要とします。これらを円滑に進めるためには、専門的な知識と経験を持つメンバーで構成されたプロジェクトチームが必要不可欠です。

    プロジェクトチームは、各部門からの専門家やリーダーを集め、上場準備に向けた全体的な戦略を立案し、実行に移す役割を担います。

    主幹事証券会社の選定

    主幹事証券会社は、IPOプロセス全体をリードし、企業が円滑に上場を進めるための戦略的パートナーとなる存在です。

    選定の際には、証券会社が企業の業種やビジネスモデルを深く理解しており、さらに市場動向や投資家のニーズに応じた適切なアドバイスができるかが重要なポイントとなります。

    特に、企業の成長性や上場後の株価安定性を重視し、上場審査を通過するための具体的なサポートができる証券会社を選ぶことが大切です。

    IPOコンサルタントの選定

    IPOプロセスは、財務や法務、内部統制の整備、証券会社との連携など多岐にわたり、企業内でのリソースや知識だけでは対応しきれない複雑な作業が含まれます。

    そこで、専門的な知見を持ったIPOコンサルタントを選定し、そのサポートを受けることが、準備作業を円滑に進める上で欠かせません。

    IPOコンサルタントの選定においては、まずそのコンサルタントが過去にどのような企業の上場支援を行ってきたのか、そしてその成果を出しているかが選定の基準です。

    直前々期(N-2期)の業務内容

    直前々期(N-2期)には、主に以下の業務を行います。

    • 利益管理制度の整備
    • 業務管理制度の整備
    • 組織運営体制の整備
    • 会計管理体制の整備
    • 特別利害関係者等との取引解消
    • 子会社・関連会社の整理
    • J-SOXへの対応

    利益管理制度の整備

    利益管理制度は、企業が上場準備を進める際に、収益の正確な把握と適切な管理を確保するための制度です。

    企業の利益計上の方法や基準を明確にし、内部での一貫性を保つことが求められます。具体的には、中期事業計画の策定や費用の計上基準を定め、それが適切に実施されているかを確認します。

    業務管理制度の整備

    業務管理制度は、企業の業務プロセスや運営の効率性を高め、上場後の安定した経営を支えるための基盤を整える制度です。

    具体的には、各部門の業務フローを明確にし、それに基づいて業務手順や規程の整備を行います。これらを行うことで、業務の実行が一貫性を持ち、無駄な作業やエラーを減少させられます。

    組織運営体制の整備

    組織運営体制の整備は、企業が上場を成功させるための基盤を提供し、上場後の安定した経営を支えるための制度です。

    具体的には、企業の経営陣や各部門の役割と責任を明確にし、適切な組織図を作成することや定期的に取締役会や株主総会を開くなどです。業務の実施や意思決定が迅速かつ効果的に行えるようになり、上場後の企業運営がスムーズに進行します。

    会計管理体制の整備

    会計管理体制の整備は、企業が上場に向けて信頼性の高い財務情報を提供するために必要な制度です。

    財務諸表の作成に関わる内部のプロセスや会計基準の適用方法を統一し、財務状況・経営状況を外部に報告するための財務会計の適切な管理が大切となります。

    これにより、企業は一貫した財務報告を行い、上場審査で求められる透明性を確保することができます。

    特別利害関係者等との取引解消

    特別利害関係者とは、企業の経営者や主要株主、取引先など、企業の業務に対して特別な影響を及ぼす可能性のある関係者を指します。

    IPO準備段階での特別利害関係者との取引解消には、企業はすべての取引先や契約内容を洗い出し、特別利害関係者との取引を特定する必要があります。

    子会社・関連会社の整理

    子会社や関連会社の整理は、上場の準備段階において企業の財務構造を整え、経営の透明性を高めるために必要な要素です。

    企業のグループ全体の構造を見直し、それぞれの子会社や関連会社の役割と業務内容を再評価する必要があります。たとえば、似たような業務を行っている複数の子会社がある場合、それらを統合することで、経営資源を効率的に配分し、企業全体のパフォーマンスを向上させることができます。

    J-SOXへの対応

    J-SOX法は、企業の内部統制に関する制度であり、財務報告の信頼性を高めるために設けられた規制です。

    上場を目指す企業は、J-SOXに適切に対応することで、財務情報の透明性と正確性を高め、投資家や取引先からの信頼を得ることができます。

    上場企業は、事業年度ごとに内部統制報告書を提出する義務があるため、企業は、財務報告に関連する業務プロセスやリスクなどを明確にした上で、J-SOXへの対応を行いましょう。

    直前期(N-1期)の業務内容

    直前期(N-1期)には、主に以下のような業務内容があります。

    • 経営管理体制の運用
    • 株式事務代行機関の選定
    • 証券印刷会社の選定
    • 上場申請書類の作成
    • 主幹事証券会社の中間審査

    経営管理体制の運用

    経営管理体制の運用では、まず、企業の経営戦略や目標に基づいた管理体制の整備が求められます。

    経営陣は、組織の目標達成に向けて、適切な管理プロセスや指標を設計し、実施する必要があり、主に下記のようなものが該当します。

    • 業績評価のためのKPI(重要業績評価指標)の設定
    • 予算管理
    • 業務プロセスの明確化

    株式事務代行機関の選定

    株式事務代行機関とは、企業の株式に関する事務作業を専門的に扱う機関です。株式事務代行機関の選定においては、その機関の提供するサービスの内容と質を慎重に評価することが重要です。

    主要な業務には、株主名簿の管理、株式の発行・配分、株主総会の運営サポート、株式関連の通知や報告の発行などが含まれます。

    これらの業務が正確かつ効率的に行われることが、企業の上場後のスムーズな運営を支える鍵となります。

    証券印刷会社の選定

    証券印刷会社は、IPOに関連する各種文書の印刷と配布を担当する専門業者です。

    これには、株式公開に関する重要な書類、例えば目論見書(プロスペクタス)、株式発行に関する証書、そして上場時に必要な各種通知書類が含まれます。

    これらの文書は、上場企業が投資家に提供する重要な情報源であり、正確かつ迅速な印刷と配布が求められます。

    上場申請書類の作成

    上場申請書類とは、証券取引所に対して上場を申請するために提出する公式な文書であり、企業の財務状況や業務内容、経営戦略などの詳細な情報を含むものです。

    これには、目論見書(プロスペクタス)、上場申請書、そしてその他関連する書類が含まれます。

    これらの書類は、投資家に対して企業の実態や将来性を正確に伝え、証券取引所による上場審査を受けるための基盤となります。

    主幹事証券会社の中間審査

    主幹事証券会社の中間審査は、企業の上場準備状況を詳細に評価し、上場の可否を判断するためのプロセスです。

    この審査は、企業が上場に向けて整備した各種の書類や制度が、証券取引所の要求に適合しているかを確認することを目的としています。

    必要に応じて適切に事業計画・資金政策を見直すなどが大切です。

    申請期の業務内容

    申請期には、主に以下のような業務内容があります。

    • 主幹事証券会社の引受審査
    • 証券取引所の上場審査

    主幹事証券会社の引受審査

    引受審査は、主幹事証券会社が企業の上場申請を受けて、上場に向けた最終的な審査を実施する重要なステップです。

    引受審査の主要な目的は、上場企業の財務状況や業務運営、内部統制が適切であるかを評価することです。

    証券会社は、上場申請書類に記載された情報が正確で信頼できるものであるかどうかを詳細に確認します。

    証券取引所の上場審査

    証券取引所の上場審査は、企業の財務健全性や業務運営、法令遵守など、多岐にわたる要素を厳格に評価します。

    具体的には、過去の財務諸表が正確であるか、将来の財務予測が現実的で信頼性があるかどうかが検討されます。

    上場審査は、形式要件と実質審査基準の2つがあり、どちらも問題なければ上場できるといった流れです。

    IPO準備の業務をスムーズに進めるためのポイント

    IPO準備の業務内容は?流れや期間別に必要な手続きについて解説
    IPO準備の業務をスムーズに進めるためのポイントとして、主に以下があります。

    • タスクを網羅的に把握する
    • 早期から計画的に準備を進める
    • 専門家と密に連携する
    • 関係部署間で密に連携する
    • 法改正など情報収集を怠らない

    タスクを網羅的に把握する

    タスクを網羅的に把握するためには、まず、IPOプロセス全体のフレームワークを把握することが重要です。

    これには、各ステージやその要求事項、必要な書類や手続きの詳細を理解することが含まれます。

    IPO準備は多岐にわたる業務が関与するため、各タスクの全体像を明確に理解することが成功への鍵となります。

    早期から計画的に準備を進める

    IPO準備の業務をスムーズに進めるためには、早期から計画的に準備を進めることが大切です。

    IPOのプロセスは複雑で多岐にわたるため、事前にしっかりとした計画を立てることで、問題の発生を未然に防ぎ、効率的に進行できます。

    解決に時間を要するタスクや、優先的に着手すべき重要なタスクは、早い段階で明確にしておく必要があるでしょう。

    専門家と密に連携する

    専門家には、主幹事証券会社、会計監査法人、法務顧問など、さまざまな分野のプロフェッショナルが該当します。

    これらの専門家とのコミュニケーションを密にすることで、情報の伝達ミスや認識のズレを防ぎ、プロジェクト全体の進行状況を適切に把握することが可能です。

    専門家と定期的に打ち合わせを行い、進捗状況や問題点を共有するようにしましょう。

    関係部署間で密に連携する

    IPO準備を円滑に進めるためには、関係部署間での密な連携が不可欠です。IPOプロジェクトは、財務部門、法務部門、広報部門、そして経営陣など、多岐にわたる部門の協力が求められます。

    例えば、財務部門は財務諸表の準備や会計監査の対応を担当し、法務部門は上場に必要な法的手続きや契約書の整備を行います。

    広報部門は、企業のイメージ向上や投資家向けのコミュニケーション戦略を策定します。これらの部署が一体となって協力し、情報を共有し合うことで、問題が早期に発見され、迅速に対処することが可能です。

    法改正など情報収集を怠らない

    法改正や新たな規制が発表されると、企業が遵守すべき基準や手続きが変わるため、これに適応するための準備が必要です。

    例えば、証券取引所の上場基準が変更されると、これに基づいた企業の内部体制や報告書の内容が見直される必要があります。

    もし企業がこれらの変更に対して適切に対応しなければ、上場申請の遅延や不承認のリスクが高まります。

    そのため、法律事務所や専門のコンサルタントから最新の情報を収集し、常に新しい法規制に対応できる体制を整えておくことが大切です。

    まとめ

    日々の業務と並行してIPO準備を進めるのは負担が大きいですが、社内の主要メンバーやキーパーソンを積極的に巻き込みながら取り組むことが大切です。

    IPOの遅延を防ぐためには、IPO準備の全体像と優先順位を明確に把握し、計画的に進める必要があります。

    まずは本記事を参考にし、やるべきことを明確にしてから準備に入りましょう。

    よくある質問

    IPO準備とは?

    IPOの準備とは、企業が株式を公開して一般投資家から資金を調達するために、さまざまな要件を満たし、外部の投資家にとって魅力的な状態に整えるプロセスです。 IPO準備には財務面、ガバナンス、内部管理体制の整備などがあります。

    IPO業務の魅力は?

    IPO業務の魅力は、企業の成長や変革に直接貢献できることです。 財務の精緻な分析や、適切な内部統制の構築を通じて、上場後の企業が持続的に成長するための土台作りに深く関わることができるのは、大きなやりがいとなるでしょう。


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