• 作成日 : 2024年11月18日

IPOにおける労務管理とは?重要性やポイント、システム導入の効果を解説

労務管理は、労働時間や雇用契約などの観点から労働を管理する業務です。労務管理は通常の事業運営だけでなく、上場審査を有利に進めるという視点からIPO準備においても重要な役割を担っています。

本記事では、IPOにおける労務管理の重要性やポイントを解説します。また、労務管理を効率化するための労務管理システムの機能や重要性についても紹介します。

労務管理とは

労務管理とは、従業員の労働全般を管理する業務であり、「人事管理」とおおよそ同じ意味合いです。また一般的に、人事担当が労務管理の業務を遂行します。

業務内容としては、主に下記が挙げられます。

  • 雇用契約、入社および退社管理
  • 就業規則の作成および改訂
  • 各種社会保険の管理
  • 給与計算および年末調整
  • 勤怠管理
  • 健康および安全衛生の管理
  • 福利厚生制度の策定

法令遵守を図ることのみならず、従業員の権利や健康を守る上で、労務管理は重要な業務です。

IPOにおける労務管理の重要性

労務管理は、通常の事業運営ではもちろん、IPOの準備においても重要な業務です。

最大の理由は、上場審査基準の一部に労務管理に関連する内容が含まれているためです。
内部管理体制が十分に整備されていなかったり、安定的に事業を運営できる体制が整備されていなかったりすると、上場審査における「実質基準」を満たしていないと判断され、審査をクリアできない可能性があります。IPOを円滑に果たすために、上場準備に際して労務管理をより一層強化することが重要です。

また、従業員の働く環境を整備することで、従業員のモチベーション向上や離職率の低下が期待できます。加えて、クリーンな事業運営をしているとみなされ、「対外的なイメージアップ」や「投資家からの評価向上による資金調達力の向上」なども見込めます。

結果として企業価値の向上も見込めるため、IPO準備を行う企業にとって労務管理は不可欠といえるでしょう。

【法務視点】IPOにおける労務管理のポイントと方法

法務視点から見た場合、IPOを見据えた労務管理体制の構築と、労働法に基づいた規則の遵守が重要です。具体的には、以下のポイントを押さえることが求められます。

労働契約の適正化

雇用契約は口頭でも成立しますが、双方の認識にズレがあった場合、後々になってトラブルに発展する恐れがあります。また証拠となる書面がないため、それぞれの主張の正当性を証明することも困難です。

こうしたリスクを軽減するためにも、労働条件を具体的に記載した契約書を締結することが不可欠です。

労働時間の管理

上場審査では、労働時間を適切に管理できているかが重点的にチェックされるといわれています。

労働時間を適切に管理するには、厚生労働省が公表している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に沿った対応が必要です。
具体的には、タイムカードやパソコンの記録などを活用し、適正で客観的な記録を行うことが重要です。また、実態と記録にズレが生じないように管理することも求められます。

36協定の適切な届出

厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」によると、法定労働時間を超えて労働者に時間外労働を行わせる場合、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。要件に該当するにもかかわらず提出していない場合は、IPO準備に際して提出しておかなければなりません。

また、36協定を提出している場合でも、時間外労働時間には上限が設けられています。
この上限を上回らないように労働時間を管理することも不可欠です。

未払賃金の解消

給与や残業代などに未払い分がある場合、労務管理が不適切であると判断され、上場審査に悪影響を及ぼす可能性があります。このリスクを防ぐためにも、賃金(特に見落としがちな残業代)を未払いなく正確に支払う仕組みを構築しましょう。すでに未払い分が発生している場合は、早急に対応することが求められます。

その他

法令を遵守するにあたっては、上記以外にも主に下記の項目を押さえることが求められます。

  • 最新の法改正に対応する体制の運用
  • 就業規則の整備
  • 対象労働者に関する社会保険の加入
  • 労働法違反や過労を防ぐための体制整備

※参考:
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針

【人材管理視点】IPOにおける労務管理のポイントと方法

IPOにおける労務管理では、法令遵守の視点だけでなく、従業員のエンゲージメントを高め、企業全体のパフォーマンスを向上させるという視点も大切です。具体的には、以下2つのポイントを押さえることが効果的です。

  1. 従業員のモチベーション管理を図る
  2. 報酬制度を見直す

1つ目に関しては、IPOの準備や事業の成長のために、経営陣だけでなく従業員全体を巻き込んでいくことが求められます。具体的な方法としては、評価制度を明確化した上で、成功事例を全社で共有する仕組みを作ることが効果的です。また、ゴールとする目標や経営ビジョンなどを全社で共有し、一体感を醸成する方法もあります。

2つ目に関しては、ストックオプションや譲渡制限付株式などを付与したり、成果に応じたボーナスを支給したりすることが効果を発揮します。「頑張って会社に貢献するほど、自分の利益につながる」という意識を持ってもらうことで、各従業員の生産性や主体性を高めることができるでしょう。

IPO後の労務管理

労務管理は、IPO準備に向けて行うだけのものではありません。事業を継続的に成長させるには、上場後も継続的に労務管理を強化することが必要です。
具体的には、準備時点で発見された改善点を踏まえて、労務管理の方法やプロセス、システムなどをアップデートすることが効果的です。また、事業規模に合わせて継続的に評価制度を改善し続けることもおすすめです。

事業規模の拡大に伴い、従来のリソースでは労務管理の業務に対応しきれなくなるケースも考えられます。その場合は、ITシステムへの投資を強化したり、一部の業務を専門業者に外注したりすることも検討すると良いでしょう。

IPOにおける労務管理システムの重要性

IPOを見据えた労務管理を行うにあたっては、労務管理の業務を担うシステムの導入がおすすめです。本章では、労務管理システムの機能と重要性を解説します。

労務管理システムの機能

労務管理システム(≒勤怠管理システム)には、労働時間を客観的な形で記録できる機能や時間外労働を防止する機能などが搭載されています。また、特化こそしていないものの、ERPなどのITシステムにも、労務管理やそれに付随する業務の自動化・効率化につながる機能が搭載されています。

労務管理システムはなぜ重要なのか

労務管理システムが重要である理由は、以下の2点です。

  • 従業員データ管理や勤怠管理の自動化を図れる
  • 従業員評価とフィードバックを最適化できる

労務管理業務を自動化することで、ヒューマンエラーを防げる上、現場の負担軽減にもつながります。また、人材評価やフィードバックの質を高めることで、従業員のモチベーションや業務の品質アップも期待できるでしょう。

まとめ

労務管理は、上場審査をクリアする上で重要な業務の1つです。労働時間の適切な管理や未払い賃金の解消といった法令遵守の視点はもちろん、人材のモチベーションアップといった攻めの視点も必要です。

労務管理の内容は多岐にわたる上に対応すべき業務も多いため、リソースが不足しやすいスタートアップにとっては難しい課題となり得ます。少しでも労務管理の負担を軽減するためにも、勤怠管理システムやERPといったITシステムを積極的に導入することがおすすめです。


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