• 作成日 : 2024年10月21日

IPOによるイグジット戦略とは?M&Aとの違いやメリット・デメリットを解説

イグジットとは、企業が上場後に株式を売却し、投資家としての利益を確定するプロセスを意味します。

IPOにおいてイグジットは、重要な戦略の1つとなり、成功するイグジット戦略は資本の回収だけでなく、企業の成長戦略にも影響を及ぼします。

そこで本記事では、IPOによるイグジット戦略の概要やメリット・デメリットなどを解説します。

IPOによるイグジット戦略とは

IPOによるイグジット戦略とは?M&Aとの違いやメリット・デメリットを解説
まず、イグジットとは株式を第三者に売却することで利益を得ることですが、IPOによるイグジット戦略はそのイグジットをIPO(株式の公開)によって実現するための計画です。
具体的には、上場によって企業は公開市場での評価を受け、株式を売却することで投資回収を実現します。

企業の資本構成が改善し、新たな資金調達の機会を得ることができますし、IPOは企業の知名度を高め、ブランド価値を向上させる効果もあります。

日本でのイグジット戦略はIPOが主流

IPOによるイグジット戦略とは?M&Aとの違いやメリット・デメリットを解説
経済産業省が公表している調査によると、日本では2019年までM&AよりIPOが多く、イグジット戦略の手段に用いられています。

日本におけるイグジット戦略としてIPOが主流である理由は、主に以下3つです。

日本は米国に比べてIPOの敷居が低く、スタートアップがIPOを選択する傾向が強い
M&Aにおいて、買い手と売り手で価格交渉が合意に至らないケースが多い
M&A後のPMI( Post Merger Integration)がうまくいかない

特に日本では、上場基準が柔軟であるため、スタートアップ企業でも比較的短期間でIPOを果たすことが可能です。

規制当局や証券取引所が提供するサポートやアドバイザリーサービスも充実しており、これが上場準備をスムーズに進める助けとなっています。

さらに、日本の企業は、家族経営や長期間にわたる歴史を持つ企業が多い傾向にあり、企業の価値を数字で正確に評価することが難しい場合があります。

売り手側は、自社の価値を高く評価しがちであり、買い手側はコストを抑えたいと考えるため、双方の期待値のズレが生じやすくなるのです。
IPOによるイグジット戦略とは?M&Aとの違いやメリット・デメリットを解説
出典:経済産業省|大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書(バリュエーションに対する考え方及びIRのあり方について)

IPOによるイグジットのメリット・デメリット

IPOによるイグジット戦略とは?M&Aとの違いやメリット・デメリットを解説
IPOによるイグジットのメリット・デメリットは、主に以下の通りです。

メリットデメリット
・利益が多い傾向にある

・経営権を維持できる

・会社の信用度が向上する

・時間と費用がかかる

・情報公開やコンプライアンス強化が必要になる

敵対的買収のリスクにさらされる可能性がある

メリット

企業がIPOを行うことで、上場時に市場から受ける評価によって、企業の価値が公正に反映されるため、通常よりも高い価格で株式を販売することが可能です。

上場によって得られる資金は、企業の事業拡大や新規プロジェクトの立ち上げに活用でき、公開市場での取引によって市場の評価が反映されるため、売却価格が高くなることが一般的です。

このように、IPOによる利益は単なる売却価格にとどまらず、企業の成長ポテンシャルを最大限に引き出す可能性を高めます。

さらに、M&Aにおいては、企業は公開市場に株式を売却するものの、創業者や現経営陣は株式を保有し続けることができます。

企業の戦略的な意思決定や経営方針を引き続きコントロールすることが可能となります。

経営者は株式の一部を公開することで、企業の成長資金を調達しながらも、企業の運営に対する影響力を維持することができるのです。

デメリット

IPOのプロセスには相当な時間と費用が必要です。企業が上場を実現するためには、詳細な準備と複雑な手続きが求められます。

まず、企業は上場前に財務諸表内部統制の整備を行い、証券取引所や規制機関の要求に応じた報告書や文書を作成する必要があります。

準備段階には数ヶ月から数年がかかることもあり、その間に発生するコストもかなりの額になるでしょう。

さらに、上場企業としての要件を満たすためには、定期的な財務報告や内部統制の強化が求められます。

上場後は、投資家や規制当局に対して詳細な情報を公開する義務が生じるため、企業は透明性を高め、正確な情報を適時に提供する必要があります。

これには、内部監査の強化や、ガバナンス体制の見直しが含まれ、特に内部統制の整備やコンプライアンス体制の強化は、上場企業にとって重要な課題です。

M&Aによるイグジットのメリット・デメリット

IPOによるイグジット戦略とは?M&Aとの違いやメリット・デメリットを解説
前述の経済産業省の調査結果のとおり、アメリカにおいてはIPOよりM&Aによるイグジット戦略が主流です。

M&A(合併・買収)によるイグジット戦略は、企業の売却や合併を通じて投資家やオーナーが利益を実現する手段です。

M&Aでイグジットを行うメリット・デメリットは、主に以下の通りです。

メリットデメリット
・比較的短期間でイグジットできる

・相乗効果により事業の成長を加速できる可能性

・経営権を失う可能性がある

・企業文化の衝突や組織統合の難しさ

・買収価格の交渉やデューデリジェンスの負担

メリット

M&Aによるイグジットは、比較的短期間で実施できる点が大きな利点です。IPO(新規株式公開)など他のイグジット戦略と比べると、M&Aはプロセスが迅速に進行することが多く、数ヶ月から1年程度で取引が完了する場合があります。

特に迅速な資金回収や投資回収を目指す企業にとって、M&Aは魅力的な選択肢となるでしょう。

また、M&Aによって得られる相乗効果もメリットです。相乗効果とは、合併や買収によって、異なる企業が統合することで生まれるシナジー効果を指します。

例えば、買収された企業が持つ技術や市場、顧客基盤が、買収企業の事業と結びつくことで、成長を加速させる可能性があります。

新たな市場へのアクセスや技術の強化、コスト削減などが実現することで、単独での事業運営よりも高い効果を得られる場合があります。

このような相乗効果によって、統合後の企業は市場での競争力を一層高め、持続的な成長を遂げることができるのです。

デメリット

M&Aを通じてイグジットを行う場合、企業の創業者や現経営陣が経営権を失う可能性が高いです。

特に買収される側の企業では、経営陣が買収企業の一部として統合されることが一般的ですが、最終的な意思決定権を持つのは買収側の企業となります。

創業者や主要な経営陣は、自らのビジョンや戦略を直接的に実行する機会を失い、買収後は新たな経営陣の方針に従わざるを得なくなります。

さらに、M&Aに伴う企業文化の衝突や組織統合の難しさも重要なデメリットです。異なる企業が統合される際、それぞれの企業文化や業務プロセスが異なるため、統合プロセスでの摩擦が生じることが多々発生します。

たとえば、企業文化が異なることで、社員間のコミュニケーションや業務の進め方に対する考え方が合わず、ストレスや不満が蓄積されることがあります。

また、組織統合の過程で、役割や業務プロセスの再構築が必要となり、これに伴う調整やトラブルが発生することも少なくありません。

このような統合の難しさが、企業の生産性や業務の効率性に悪影響を及ぼす可能性があるでしょう。

IPOによるイグジット戦略が向いている会社

IPOによるイグジット戦略とは?M&Aとの違いやメリット・デメリットを解説
前述のとおり、イグジット戦略の手段として、IPOとM&Aのそれぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが向いているかは会社の状況によって異なります。

IPOによるイグジット戦略は以下のような会社に向いています。

  • 資金調達を行いたい
  • 経営権を手放したくない
  • 既に市場で高い認知度がある
  • 透明性が高い

逆に、短期間でイグジットを行いたい、市場の拡大を狙いたい、特定の技術を持っている、安定したビジネスモデルがあるなどの会社にはIPOによるイグジット戦略は向いていません。

資金調達を行いたい

IPOによるイグジット戦略は、特に資金調達を行いたい企業にとって、IPOは魅力的な手段です。

企業が株式を公開することで、より多くの投資家から資金を集めることができ、その資金を使って事業の拡張や新規プロジェクトの実施、研究開発などに充てることができます。

これは、特に成長途上の企業や新たな市場への進出を計画している企業にとって、必要な資金を一度に調達できる大きなメリットです。

経営権を手放したくない

経営権を手放したくない企業にとって、IPOは特に適した手段です。

IPOでは企業の株式を公開市場で売却することにより、多くの投資家から資金を集めることが可能ですが、公開された株式の割合は経営権を脅かすほどにはならない場合が多いです。

これにより、創業者や経営陣が依然として経営の中心として企業を指導し続けることができます。

既に市場で高い認知度がある

既に市場で高い認知度を持つ企業は、そのブランドや製品、サービスが広く知られており、安定した顧客基盤を有しています。

こうした企業は、IPOを通じて新たに資金を調達する際に、投資家からの関心を引きやすくなります。

市場での信頼性と認知度が高い企業は、投資家に対してより大きな魅力を持ち、結果として公開株式の引受けがスムーズに進む傾向があります。

透明性が高い

透明性の高い企業は、経営情報や財務データ、業務運営に関する詳細を公開し、ステークホルダーに対してオープンな姿勢を示しています。

これは、IPOを行う上で非常に重要な要素です。投資家は、企業の将来性や経営の健全性を評価するために、十分な情報を必要とします。

したがって、財務状況や経営戦略、リスク管理に関する正確で詳細な情報を提供できる企業は、信頼を得やすく、IPOの成功確率が高まります。

まとめ

IPOによるイグジット戦略は、第三者に株式を売却したり、IPO(株式公開)をしたりなどを行い、利益を得る方法となります。

日本ではスタートアップがIPOを選択する傾向が強く、イグジット戦略はIPOが主流です。

イグジットを成功させるためには、最適なタイミングで実施することが重要であり、事前に戦略を考えてから実行するようにしましょう。


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