- 作成日 : 2025年1月14日
親子上場とは?上場事例や問題点・メリットについても解説
親会社と子会社がそれぞれ上場している状態を指す親子上場は、企業の成長戦略や資金調達の方法として注目されています。
本記事では、親子上場の仕組みやメリット、デメリットなどを詳しく解説します。
目次
親子上場とは何か
親子上場とは、親会社と子会社がそれぞれ独立した上場企業として、異なる証券取引所に上場している状態を指します。
親会社は、他の企業の株式を所有することにより、その企業の経営に対する支配権を持つ企業を意味します。子会社は、親会社の支配を受けている企業であり、親会社がその株式の過半数以上を保有していることが一般的です。
親子上場の定義と仕組み
親会社と子会社は、株式の保有割合を通じて経営上の支配関係が築かれています。親会社が子会社の株式の過半数、通常は50%以上を保有している場合、親会社は子会社の経営に対して支配権を有します。
この支配関係が親子上場の基本的な要件です。親会社は、子会社の経営方針に対して決定的な影響を与え、子会社はその方針に従う形で事業を運営します。
また、親子上場において議決権比率も重要です。議決権比率とは、株主総会で決議を行う際に、株主が有する議決権の割合を指します。
親会社が子会社の議決権の過半数を保有していれば、親会社は子会社の株主総会での決議において支配的な影響を持ちます。
株式市場における親子上場の状況
日本の株式市場における親子上場企業数は、特にバブル経済期において急増していましたが、近年では、減少傾向があり、17年連続で前年度末比の純減となっています。
2024年3月末時点での親子上場会社の数は190社となり、30年ぶりに200社を下回っている現状です。親子上場の減少にはいくつかの要因が絡んでいますが、第一に、企業統治(ガバナンス)の強化が挙げられます。
親子上場の場合、親会社と子会社の間で利益相反が生じる可能性が高く、透明性の確保が求められます。これにより、親会社が子会社の経営に対して過度に影響を及ぼし、株主の利益が損なわれるリスクが生じるのです。
参考:野村資本市場研究所|親子上場の状況(2023年度末):随所に「潮目の変化」-親子上場企業数200社割れ、親会社の持分減少が解消の主要因に-
親子上場のメリット・デメリット
親会社・子会社それぞれの立場からメリット・デメリットをは以下の通りです。
立場 | メリット | デメリット |
親会社 |
|
|
子会社 |
|
|
親会社と子会社が独立した上場企業として活動できれば、市場での評価を直接受け、資金調達や投資家からの信頼を得やすくなるといったメリットがあります。
ただし、利益相反や経営の効率性が損なわれるなどのリスクもあるため、注意が必要です。
親会社にとってのメリット・デメリット
親子上場を通じて、親会社は子会社の経営権を維持しながらも、株式市場での資金調達を容易にすることが可能です。
親会社は、上場した子会社の株式を活用して、必要な資金を調達でき、その資金をさらにグループ全体の成長や新規事業の開発に活用できます。グループ全体の資金効率を向上させるといった影響力を持つのが親会社です。
メリット
親会社にとってのメリットは、主に以下の通りです。
- 資金調達手段の多様化
- 子会社の株式価値向上によるグループ全体の企業価値向上
- ブランド力強化
特に親会社が直接資金調達を行うだけでなく、子会社自体が市場から調達した資金をグループ全体の成長や投資に回すことができます。
必要な資金を確保できれば、さまざまな事業へ投資でき、結果的に企業価値の向上やブランド力の強化に繋げられるでしょう。
デメリット
一方、親会社にとってのメリットは、主に以下の通りです。
- グループガバナンスの複雑化
- 追加的な情報開示コスト
- 利益相反問題への対応負担を説明する
親会社が子会社の株式を保有したまま、子会社が上場企業として独立することで、親子間の関係がより複雑になることは否めません。
また、親子上場を行うことで追加的な情報開示コストが発生することも重要なデメリットです。
上場企業としては、株主や投資家に対して定期的な情報開示が求められますが、親会社と子会社がそれぞれ異なる経営状況や業績を持っている場合、両者の情報開示の整合性を取るためにはかなりの手間とコストがかかります。
子会社にとってのメリット・デメリット
独立した上場企業として市場で評価されることで経営の自由度が高まるメリットがある一方で、親会社の影響力を完全には排除できないデメリットも存在します。
ここからは、より深掘りしてメリット・デメリットを解説します。
メリット
親子上場に伴う子会社のメリットの一つは、上場企業としてのステータス向上がもたらす人材採用や取引関係への好影響です。上場することにより、子会社は一般的に知名度が向上し、企業の信頼性が高まります。
多くの求職者にとって、上場企業で働くことはキャリアアップの一環として魅力的に映り、労働環境や給与面で安定性があると判断できるほか、成長の機会も豊富であることから、応募者の関心を引き寄せられるでしょう。
さらに、上場企業としての独立性を持つことができ、親会社の方針や戦略に従うだけでなく、市場環境や自社の状況に応じた独自の経営判断を下せるようになるのも魅力です。
デメリット
親会社の経営方針が子会社に強く影響を与えるため、子会社はその影響下で経営を行うことになります。
親会社が持つ株式の議決権比率が高い場合、親会社は子会社の経営に対して直接的な介入を行うことができ、子会社の経営戦略や事業の方向性に独自性が出にくくなる可能性があるのがデメリットです。
また、親子上場の場合、子会社には少数株主が存在します。少数株主は、親会社が持つ支配的な立場に対して十分な影響力を行使できないため、株主としての権利が十分に守られないリスクが生じます。
親会社が自己の利益を優先する決定を下した際に、それに対抗する力を持たず、時には不利益を被ることがあり、保護するには企業のガバナンス体制を十分に行う必要があるでしょう。
親子上場における3つの大きな問題点
親子上場における問題点は、主に以下3つです。
- 少数株主の利益が軽視される可能性
- 資金の二重取り・子会社利益の外部流出
- コーポレートガバナンス上の課題
少数株主の利益が軽視される可能性
親会社が子会社の支配権を持つ場合、親会社の利益が優先される傾向が強く、少数株主の利益が後回しにされる状況が発生しやすくなります。
具体的なケースとしては、親会社が子会社に対して不利な取引を強いる場合が挙げられます。例えば、親会社が自社の製品やサービスを子会社に強制的に購入させる契約を結ぶことが考えられます。
このような取引では、親会社の利益が確保される一方で、子会社やその少数株主にとっては不利益を被る可能性があるのです。
親会社による利益相反行為のリスク
少数株主の利益が軽視される可能性が高まる大きな要因の1つは、親会社による利益相反行為のリスクです。
親会社が子会社を支配する立場にある場合、その意思決定において親会社の利益が最優先されることが多く、結果として少数株主の利益が犠牲になることがあります。
利益相反行為とは、親会社が自社の利益を最大化するために、子会社や少数株主にとって不利な決定を下すことです。
例えば、親会社は子会社に対して不公平な取引条件を押し付けたり、子会社の資産を親会社の利益のために利用したりする場合があります。
親会社が子会社に対して過度に支配的な立場を取ることによって、少数株主は自らの意見を反映させることが難しくなり、不利な条件に置かれることが多いのです。
子会社独自の成長戦略が阻害される懸念
親会社が子会社を支配する立場にあるため、子会社の戦略的意思決定に親会社の意向が強く反映されがちです。
そのため、子会社が独自に描いた成長計画や事業戦略が、親会社の方針に合わない場合、実行に移せないことがあります。
特に、子会社が新規事業に投資しようとする際や、異なる市場での成長を目指す場合、親会社の影響力が強すぎると、その計画が親会社の戦略と一致しない場合に進展を妨げられることがあるでしょう。
資金の二重取り・子会社利益の外部流出
親子上場の企業構造において、親会社と子会社がそれぞれ独立した上場企業として存在するため、資金調達の面で二重取りが発生することがあります。
親会社は、子会社が上場することによって株式公開を通じて資金調達を行いますが、同時に親会社自体も別途資金調達を行うことが可能です。
親会社による不当な利益配分
親子上場の構造では、親会社が子会社の株式を保有し、支配する立場にあるため、親会社は子会社からの利益配分に強い影響を及ぼすことができます。
具体的には、親会社は子会社から受け取る配当金や利益を最大化するため、子会社の収益が親会社に優先的に配分されるような取引条件を設定することがあります。
例えば、親会社が子会社に対して不公平な契約を締結させ、子会社の利益が親会社に移転する形を取ることがあるのです。子会社が本来享受すべき利益が親会社の手に渡り、少数株主にとっては自分たちの利益が損なわれることになります。
子会社の資金が親会社に吸い上げられる構造
親子上場の仕組みでは、親会社が子会社の株式を所有しており、子会社の利益や資産は最終的に親会社の利益に結びつくことが一般的です。
ここで問題となるのは、親会社がその支配的な立場を利用して、子会社からの利益を過剰に吸い上げる可能性があることです。
例えば、親会社が子会社に対して不公平な契約条件を設定し、子会社の利益が親会社に優先的に配分されるような状況が生まれることがあります。子会社が本来手にするべき利益が親会社の手に渡り、少数株主にとっては自分たちの利益が損なわれる結果となります。
コーポレートガバナンス上の課題
親子上場特有のガバナンス上の問題点は、主に以下の通りです。
- 透明性・公正性の確保の難しさ
- 適切な情報開示の必要性
透明性・公正性の確保の難しさ
親会社と子会社がそれぞれ上場している状態では、両者の関係が複雑であり、企業間の意思決定や情報開示の透明性が損なわれる可能性があります。
特に、親会社が子会社の経営に強い影響を持つ場合、親会社の利益を優先させるあまり、子会社の少数株主に対する情報開示が不十分になることが考えられます。
このような不透明なガバナンス体制は、投資家やステークホルダーの信頼を損ね、企業全体の評価にも悪影響を与える恐れがあるのです。
適切な情報開示の必要性
親子上場では、親会社と子会社が別々に上場しており、両者の間で異なる利害関係や経営戦略が存在するため、透明で公正な情報開示が重要です。
親会社と子会社が密接に関わる中で、両社の間における取引や経営の意思決定過程が不透明であると、株主や投資家はその正当性に疑問を抱くことになります。
特に少数株主にとっては、親会社がどのような影響を与えているのか、子会社の独立性がどの程度保たれているのかといった点が重要な関心事となります。
企業が自社の財務状況や経営方針、取引内容などを詳細かつ正確に公開することで、株主や投資家は会社の実態を把握しやすくなり、意思決定をより適切に行えるようになるでしょう。
親子上場に関する企業事例
ここからは、親子上場に関する企業事例についてご紹介します。
親子上場を解消した企業とその背景
親子上場を解消した企業は、主に以下の通りです。
- ソフトバンクグループ
- 日産自動車
- 住友商事と住友不動産
ソフトバンクグループはヤフーの子会社として上場していましたが、2018年にソフトバンクグループがヤフーの株式を買い取り、完全子会社化しました。
解消後、Zホールディングスは自社のブランド力を強化し、グループ内でのシナジーを最大化するために、より柔軟な経営体制を整えることに成功しています。
次に、日産自動車とその子会社であるルノーの関係です。
日産は以前、ルノーとともに複雑な親子上場を構築していましたが、経営戦略の見直しに伴い、2019年に両社の関係を再編成することが決まりました。
親子上場を解消することによって、両社は独立性を確保し、国際的な競争力を高めることに成功しています。
住友商事は、グループ内の企業間で重複している業務やリソースの最適化を進めるため、住友不動産の完全子会社化を決定しました。この決断は、事業領域における統合的なアプローチを強化し、重複する業務の効率化を図ることを目的としています。
親子上場解消後、住友商事はより一層事業運営のスピードと効率を向上させ、グローバルな競争力を強化しました。
現在も親子上場を維持している企業
現在も親子上場を維持している企業には、伊藤忠商事が挙げられます。
伊藤忠商事は、日本を代表する大手総合商社であり、プリマハムなど複数の子会社を持っていますが、親子上場を維持している背景には、商社としての強力な事業基盤と、それぞれの子会社の独自の成長戦略を尊重するための戦略的な意図があります。
多様な事業領域にわたる事業ポートフォリオを展開し、グループ全体でのシナジーを追求していますが、個々の子会社が独立して上場することで、各企業はそれぞれの事業特性や市場環境に応じた経営判断を下すことができるのです。
親子上場の解消の動きと今後の展望
近年、親子上場を取り巻く環境には大きな変化が見られ、企業の戦略やガバナンスのあり方に対して新たな視点が求められています。
この背景には、株主利益の最大化を目指す流れや、企業のガバナンス強化を図るための規制強化が影響しています。ここ最近では、親子上場の解消に向けた動きが加速しているのが現状です。
コーポレートガバナンスコードの改訂と親子上場への影響
親子上場の解消の動きは、近年のコーポレートガバナンスコードの改訂が大きな影響を与えています。
この改訂では、親子上場における利益相反の防止や少数株主の保護が強く求められるようになりました。
具体的には、親会社が子会社を支配する状況において、独立性の確保や取引の公正性が重視され、親会社が経営判断や取引条件を通じて子会社に不当な影響を与えることを防ぐための規制が強化されています。
親子上場解消に向けた具体的な方法
親子上場解消に向けた具体的な方法として、子会社の完全子会社化が挙げられます。完全子会社化とは、親会社が子会社の発行済株式をすべて取得し、子会社の株主が親会社だけになる状態を指します。
このプロセスを通じて、親会社は子会社の経営を完全に掌握できるようになり、利益相反やガバナンス上の課題を解消することが可能です。
完全子会社化を実現する方法には、株式公開買付け(TOB)、株式交換、株式移転などがあります。中でも親子上場の解消に向けた具体的な方法として注目されているのが、TOB(株式公開買付け)を活用した子会社株式の取得です。
この手法では、親会社が公開市場で取引されている子会社の株式を買い集め、完全子会社化を目指します。TOBを実施する際には、適正な価格設定や公正な手続きを確保することが求められ、特に少数株主にとって、公平な条件での売却機会が提供されることが重要です。親会社は、市場や株主の期待に応えるための説明責任を果たす必要があるでしょう。
まとめ
親会社と子会社が共に上場することは資金調達や事業拡大に寄与する一方で、利益相反や経営の非効率といった課題を伴います。
メリット、デメリットをしっかりと理解した上で適切な判断を持って投資するようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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