• 更新日 : 2024年12月2日

取締役のスキルマトリックスとは?重要性と実践方法を解説

企業が持続的に成長し競争力を維持するためには、取締役会のメンバーがどのようなスキルを持ち、どのように企業に貢献できるかを可視化し、最適なバランスを取ることが不可欠です。昨今のコーポレートガバナンス強化においても、取締役のスキルセットを開示するスキルマトリックスが重要視されています。

本記事では、スキルマトリックスの定義や作成方法、開示における重要性や注意点について、実務的な視点から詳しく解説します。

スキルマトリックスとは?

はじめに、スキルマトリックスの定義や目的など、全体像について解説します。

スキルマトリックスの定義

スキルマトリックスは、取締役会に所属するメンバーのスキル、知識、経験を一覧化し可視化したツールのことです。

企業の経営陣が持つ専門的な能力を俯瞰してスキルセットや経験に不足がないかを把握し、将来的な取締役会の構成を戦略的に決定するために使用されます。

コーポレートガバナンスコードでは上場企業に対し、スキルマトリックスなどを用いて取締役のスキルを適切に開示することが求められています。

なおコーポレートガバナンスコードについては、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:マネーフォワード「コーポレートガバナンス・コードとは?基本原則や特徴・改定ポイントを解説

スキルマトリックス作成の目的

スキルマトリックスを作成する目的には次の3点が挙げられます。

  1. 取締役会のスキルバランスを確認し、企業の長期的な戦略に沿った取締役構成を維持すること
  2. 取締役会が企業のリスクに対応し、新たなビジネスチャンスを捉えるためにどのようなスキルが不足しているかを特定すること
  3. 取締役会が適切なスキルと経験を持っていることを社内外に示すことで、投資家や株主に対して信頼を築くこと

これらによって、企業のガバナンス体制の強化が可能となります。

スキルマトリックスの対象者

スキルマトリックスの対象者は、取締役会のメンバーである取締役、監査役、執行役員などです。特に上場企業やグローバル企業では、取締役会の構成が企業の競争力や透明性に直結するため、全てのメンバーが企業のニーズに応じた適切なスキルセットを持っていることが重要視されます。

スキルマトリックスの具体項目

本章では、スキルマトリックスに記載すべき主な項目を紹介します。
企業の戦略や業界によって異なる部分もありますが、一般的に考慮されるべき重要な要素として、以下の項目が挙げられます。

  1. 業界知識
  2. リーダーシップ
  3. 財務・会計・監査
  4. 技術・IT
  5. 人事労務
  6. 法務・コンプライアンス
  7. 内部統制・ガバナンス
  8. リスク管理
  9. サステナビリティ・ESG

1. 業界知識

取締役が業界に関してどれほど深い知識と経験を持っているかを評価します。急成長している市場や規制が厳しい業界においては、業界に精通した人材の存在が特に重要です。

2. リーダーシップ

取締役会において戦略的な方向性を示し、意思決定をリードする力が評価されます。取締役には、企業の未来を左右する重大な判断を下す能力が求められるでしょう。

3. 財務・会計・監査

財務諸表の分析やリスク管理に関する知識も重要です。企業の財務的健全性を監視し、資本市場との連携を強化する上で欠かせないスキルといえます。

4. 技術・IT

急速に進化するデジタル技術やITに精通しているかどうかも重要です。特にデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める企業では、サイバーセキュリティやデータ管理、技術革新に関する知識が求められます。

5. 人事労務

取締役が人事政策や労働関係に関する知識を持ち、従業員のモチベーション管理や組織文化の形成、労務リスクへ対応することができるかは重要な観点です。多様な人材のマネジメント力や、働き方改革などの観点も含まれます。

6. 法務・コンプライアンス

法的リスクや規制対応に関する知識も問われます。特にグローバル企業では、各国の法規制やコンプライアンスの遵守が重要な課題となります。

7. 内部統制・ガバナンス

企業の内部統制システムやガバナンスに関する知識も重要です。取締役会の責任において、適切な内部統制体制の構築と維持、ガバナンス強化が求められます。この分野は、特に企業の透明性やコンプライアンス体制の強化に直結します。

8. リスク管理

金融、法務、サイバーセキュリティ、サステナビリティなど、さまざまなリスクや課題に対応する能力が問われます。迅速にリスクを予測し、適切に対応できることが求められるでしょう。

9. サステナビリティ・ESG

昨今では環境、社会、ガバナンスに対する知識と経験も非常に重要視されます。これらは、持続可能なビジネス戦略を推進し、企業価値を長期的に高めるために必要な知識でもあります。

設定すべき項目は企業により自由に変更可能ですが、テンプレートをご用意しているため、ぜひご活用ください。
参考:マネーフォワード「スキルマトリックス(ワード) テンプレート

スキルマトリックスの作成方法

続いて、スキルマトリックスを作成する際のステップを解説します。

  1. 必要なスキルの洗い出し
  2. 取締役のスキル評価
  3. スキルギャップの特定
  4. 定期的な更新と見直し

1. 必要なスキルの洗い出し

企業の現在の戦略や市況に基づいて、取締役に必要なスキルセットを決定します。企業にどのようなリスクや機会があるかを考慮し、将来を見据えたスキルセットを設定しましょう。

2. 取締役のスキル評価

次に、現行の取締役会メンバーが持っているスキルを評価します。この評価は、スキルの習熟度を「基礎」「中級」「専門家」などといった段階で設定することが効果的です。

3. スキルギャップの特定

スキルマトリックスを作成した後、取締役会全体で不足しているスキルや経験を分析します。ギャップを把握することで、次に招聘(しょうへい)すべき取締役のプロファイルや、既存メンバーの育成計画を明確にできます。

4. 定期的な更新と見直し

スキルマトリックスは静的なものではなく、企業の成長や市場環境の変化に合わせて定期的に更新するものです。新たなスキルが求められる場合は、それに合わせてスキルマトリックスを調整しましょう。

一般的には、年次レビューを行い、企業の戦略やリスクプロファイルに適したスキルが維持されているかを確認します。

スキルマトリックス作成・開示時の注意点

最後に、スキルマトリックスを活用する際に留意すべき点を解説します。

  1. 公平で客観的なスキル評価
  2. プライバシーと法的配慮
  3. ステークホルダーへの説明責任

1. 公平で客観的なスキル評価

スキルの評価は主観的になりがちですが、自己評価に加え、第三者による客観的な評価や外部コンサルタントの助言を取り入れることが重要です。スキル評価の信頼性を高めることで、取締役会全体の能力を正確に把握できるようにしましょう。

2. プライバシーと法的配慮

スキルマトリックスを開示する際、各取締役の個人情報や詳細な評価結果については慎重に扱う必要があります。開示する情報は取締役会のスキルバランスを示すために必要な範囲に限定し、個々の評価内容については、匿名化や要約された形で開示することが推奨されています。

3. ステークホルダーへの説明責任

スキルマトリックスの開示は、単に取締役会のスキルを示すだけでなく、ステークホルダーへの説明責任を果たすための重要なツールにもなります。特に株主や投資家に対して、取締役会の構成が企業の戦略やリスクにどのように対応できるかを示すための根拠としてスキルマトリックスを活用しましょう。

企業のビジョンや目標に基づいたスキルセットがどのように反映されているかを丁寧に説明し、透明性と信頼性を確保することが重要です。

まとめ

取締役向けのスキルマトリックスは、企業のガバナンス強化と戦略的意思決定の質を向上させるための強力なツールです。企業が市場の変化や新たなリスクに直面する中で、取締役会のスキルセットが適切に整備され、バランスが取れていることを確認するアクションは、持続可能な成長を支える基盤となるでしょう。

スキルマトリックスを効果的に活用するためには、企業のビジョンや戦略に沿ったスキルの洗い出しと客観的かつ公平な評価、定期的な更新が不可欠です。


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