• 作成日 : 2023年12月28日

スチュワードシップコードとは?コーポレートガバナンスコードとの違いや改訂状況を解説

スチュワードシップコードとは、機関投資家の望ましい姿や行動を定めた指針です。機関投資家がスチュワードシップコードを導入すると、企業の中長期的な成長や利益増大が促進されるというメリットがあります。
本記事では、スチュワードシップコードの特徴や8原則、日本における受け入れ状況などを解説します。

スチュワードシップコードとは

スチュワードシップコードとは、金融機関などの機関投資家に対して、正しい行動や望ましい姿を示した指針を指します。
具体的には、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすことを目的としています。
スチュワードシップ責任とは、機関投資家が投資先企業と積極的な対話を行うことで、企業の価値向上や持続的成長を促し、「顧客・受益者の中長期的な投資収益の拡大」を図る責任です。

スチュワードシップコードの特徴

スチュワードシップコードには、3つの特徴があります。

法的拘束力を持たない

スチュワードシップコードはあくまで指針に過ぎず、それを受け入れるかどうかは機関投資家が自由に選択できます。

プリンシプルベース・アプローチ

スチュワードシップコードには、実践すべき項目が具体的に記載されておらず、あくまで基本的な原則のみが記載されています。機関投資家には、基本原則を踏まえた自主的な行動が求められています。

コンプライ・オア・エクスプレイン

スチュワードシップコードでは、原則の全てを遵守しなくても良いと定められています。ただし各原則を遵守しない場合には、その理由を説明することを求めています。

コーポレートガバナンスコードとの違い

スチュワードシップコードとコーポレートガバナンスコードは、「誰の行動原則であるか」に違いがあります。
コーポレートガバナンスコードとは、上場企業に対して、幅広い利害関係者(株主や従業員・顧客など)と真っ当に協働しつつ、中長期的な収益力改善を図ることを求める行動原則です。
つまり、スチュワードシップコードは「機関投資家」、コーポレートガバナンスコードは「一般企業」の行動原則であるという点が異なります。

コーポレートガバナンスコードについては、以下の記事でくわしく解説しています。

スチュワードシップコードが注目される背景

スチュワードシップコードが注目されている背景を解説します。

制定の経緯

発端はリーマンショックです。機関投資家である金融機関が投資先企業の経営を十分に監視できていなかったとの反省から、2010年にイギリスで導入が開始されました。

その後日本でも、安倍政権における「日本再興戦略」でスチュワードシップコードの必要性が議論され、2014年2月に制定されました。

2020年の改訂でESGの側面が強調された

2020年のスチュワードシップコードの改訂において、「スチュワードシップ責任」の定義が変更されました。具体的には、対話に際して、ESG要素などのサステナビリティを考慮すべきである旨が追加されました。

追加の背景としては、検討会の議論において「ESG要素を考慮することで、収益機会の確保や事業のリスク減少につながること」を指摘されたことが挙げられます。

ESGの側面が強調された改訂により、企業価値向上に貢献する指針として、投資家や一般企業などから幅広く注目を集めるようになりました。

日本版スチュワードシップコードの8原則

スチュワードシップコードに関する有識者検討会「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫」では、下記が8原則として示されています。
1〜7は機関投資家、8は機関投資家向けサービス提供者に関する原則です。なお、原文の一部を簡潔な表現に修正しています。

原則1:責任を実現するための方針の作成・公表

機関投資家は、スチュワードシップ責任の実現につながる明瞭な方針を作成・公表すべきである。

原則2:利益相反の管理に関する方針の作成・公表

スチュワードシップ責任を実現する上で管理すべき利益相反に関して、機関投資家は明瞭な方針を作成・公表すべきである。

原則3:投資先企業の状況把握

投資先企業の持続的成長を実現するために、機関投資家は当該企業の状況を的確に把握すべきである。

原則4:対話による問題改善

投資先企業との建設的な目的を持った対話により、機関投資家は投資先企業と認識共有を図ると同時に、問題改善に努めるべきである。

原則5:議決権行使に関する方針の明瞭化

機関投資家は、議決権行使と行使結果の公表に関して明瞭な方針を持つと共に、議決権行使の方針に関しては、形式的な判断基準に限定されず、投資先企業の持続的成長に貢献するものとなるように工夫すべきである。

原則6:スチュワードシップ責任に関する定期的な報告

議決権行使も含めスチュワードシップ責任をどのように果たしているのかに関して、機関投資家は原則として、顧客・受益者へと定期的に報告すべきである。

原則7:機関投資家としての実力確保

投資先企業の持続的成長に貢献できるよう、機関投資家は事業環境や投資先企業などに関する深い理解に加えて、運用戦略を踏まえたサステナビリティに対する考慮に基づき、スチュワードシップ活動や当該企業との対話に伴う判断を正しく実施するための実力を有するべきである。

原則8:インベストメント・チェーン全体の機能向上

機関投資家がスチュワードシップ責任を実現する際、機関投資家向けサービス提供者は正しいサービスを実現し、インベストメント・チェーン全体における機能向上に貢献するものとなるよう努めるべきである。

スチュワードシップコードが企業にもたらすメリットとデメリット

スチュワードシップコードが企業にもたらすメリットとデメリットを解説します。

スチュワードシップコードのメリット

スチュワードシップコードのメリットは、企業価値の向上と、投資家との信頼関係が構築できる点です。

企業価値の向上

機関投資家がスチュワードシップコードを導入すると、企業側には「収益性や企業価値の向上を期待できる」というメリットがもたらされます。
スチュワードシップコードを導入している機関投資家は、投資先の企業と対話を行い、中長期的な利益・企業価値向上に向けた経営方針・戦略の作成に努めます。
つまり導入しない場合と比べて、方針や戦略が中長期的な視点に基づいたものとなり、収益や企業価値の向上に結びつく可能性がより高まるのです。

投資家との信頼関係の構築

スチュワードシップコードは、企業が投資家との信頼関係を築く手段となります。
スチュワードシップコードを導入した機関投資家との対話を経て、企業が透明性や責任のある行動を行うことで株主の期待に応え、信頼を深めることができます。
またスチュワードシップコードが推奨する持続可能性への取り組みは、企業の評価向上に寄与する可能性があります。

スチュワードシップコードのデメリット

スチュワードシップコードのデメリットは、企業の負担増加や、意思決定に制約を受ける可能性があるという点です。

企業の負担増加

スチュワードシップコードの導入は、企業側に業務の負担増加というデメリットをもたらします。
機関投資家との頻繁な対話により、対話やその準備、事後対応(議事録作成等)に多大な時間や人員、工数が発生する可能性があります。場合によっては本業に支障を来す恐れもあるため、スチュワードシップコードに対して消極的な姿勢を見せる企業も少なくありません。

意思決定に制約を受ける可能性がある

株主との対話や合意形成に時間を費やす可能性があり、迅速な意思決定が難しくなる恐れがあります。

まとめ

スチュワードシップコードは、中長期的な利益増加や成長の実現につながるという点で、企業にとってメリットの大きい指針です。
今後もさらなる改訂が行われる可能性があるため、上場企業の経営者はもちろん、今後IPOによって上場する予定の起業家も動向を注視しておくのがおすすめです。


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