- 作成日 : 2024年7月29日
危機管理とは リスク管理との違いやプロセス、事例を解説
危機管理は、発生した危機に対して迅速に対応することで事業停止などのリスクを軽減する取り組みです。事後対応を重視する点で、事前に危機を予防するリスク管理とは異なる概念ですが、ビジネスではこの両方とも行うことが重要です。
本記事では、危機管理の重要性やプロセス、事例を解説します。
目次
危機管理とは
はじめに、危機管理の定義と重要性について解説します。
危機管理の定義
危機管理とは、発生した(もしくは今後発生する)危機に対して、適切かつ迅速な対応を行うための一連の取り組みであり、クライシスマネジメント(Crisis Management)とも呼ばれます。具体的な危機としては以下のようなものが挙げられます。
- 自然災害:地震や洪水、津波など
- 企業内部の問題:製品トラブルや法律違反など
- 人災:事件や事故など
危機管理の重要性
危機管理は、以下の観点から重要です。
- 発生した危機による悪影響(業績悪化や事業停止、従業員の生命や健康が脅かされる事態など)を軽減する
- 危機状態からスピーディーに回復・脱出する
- 法令遵守・企業の信頼や評判を維持する
危機管理とリスク管理の違いとは
危機管理と類似する取り組みに「リスク管理」があります。この章では、リスク管理の意味を解説した上で、危機管理との違いを解説します。
リスク管理とは
リスク管理とは、想定される危機をあらかじめ防止する目的で行う一連の取り組みであり、リスクマネジメント(Risk Management)とも呼ばれます。具体的なリスクや実施する目的は、基本的に危険管理と同じです。
危機管理とリスク管理における範囲の違い
両者が管理する対象や実施する目的はおおよそ同じですが、危機管理とリスク管理では「重点を置く範囲」に大きな違いがあります。
危機管理では、「既に発生した危機への対応」に重点を置いています。「発生した危機に対してどのような対応をとるか」を事前に計画立てて仕組み化しておき、発生時に実行します。
一方でリスク管理では「あらかじめ危機を防ぐこと」に重点を置いています。「どのような危機が想定されており、それを防止するには何をすべきか」を分析し、実行に移していきます。
つまり、危機管理は「計画・対処」、リスク管理は「予防」を重視した取り組みであるといえます。
不祥事を例にすると、不祥事が生じないように対策しておくことが「リスク管理」であり、生じた際の対応を検討・実行することが「危機管理」に該当します。ビジネスにおいては、危機管理とリスク管理の両方が不可欠です。
例えば予防が万全であっても対処方法を想定していないと、万が一の事態に対応できなくなります。また、対処方法だけが万全でも予防が不十分では、頻繁に危機が発生してしまい、事業停止などのリスクが高まるでしょう。
本記事では危機管理にフォーカスして解説を進めますが、常にリスク管理と両輪で対策を進めることが重要です。
危機管理のプロセス
実際のビジネスでは、危機管理の流れを理解することが重要です。この章では危機管理体制の構築から、発生後のフォローアップまでの流れを解説します。
Step1:危機管理体制の構築
まずは危機管理に取り組む体制を構築します。実際に危機が発生した際に対処する人員はもちろん、危機管理マニュアルの策定に携わる人員も選定します。
また選定した人員の役割や権限、危機発生時の流れや指揮命令系統などを明確にすることも重要です。
Step2:危機管理マニュアル(危機管理計画)の策定
次に、危機管理のマニュアル(計画)を策定します。危機管理マニュアルには、「誰が、いつ、何を、どのような方法で行うのか」を具体的に定めます。具体的には、最低でも以下の項目を盛り込む必要があります。
- 危機の分析結果:各危機の発生可能性や損害の大きさなどを順位づけしたもの
- コミュニケーションのルール:情報発信の担当者や方法など
- 緊急連絡先:緊急時の連絡先一覧
- 行動開始基準:危機発生時に計画された行動を開始するタイミング
- 危機への対応手順:危機発生時における、各担当者の具体的な行動の流れ
- 危機対応後の評価:危機対応に関する評価基準
また、策定した危機管理マニュアルを全社に周知することも不可欠です。たとえ質の高いマニュアルを作成できても、それが従業員に知られていなければ、危機発生時に混乱を招いて想定した対応を行えなくなるためです。
Step3:危機発生に対するシミュレーションおよびトレーニングの実施
危機管理マニュアルを作成し、従業員に共有したら、マニュアルに沿ったシミュレーションやトレーニングを行いましょう。具体的には、実際に危機が発生した場合を想定して、各従業員がマニュアルに沿った行動をする、といった練習です。
定期的に繰り返し練習を行うことで、実際の危機への対応力が高まります。また、練習を通じてマニュアル内に不足している事項を発見することにより、マニュアルの精度向上にもつながります。
Step4:発生した危機への対応
実際に危機が発生した際には、マニュアルや日々のトレーニングに沿った対応をとります。基本的には、以下の流れで危機からの回復を図ります。
1. 代表者や責任者への連絡
2. 情報収集および事実関係の確認
3. 対応方針の策定
4. 情報開示や謝罪、被害拡大の防止など
5. 事実誤認の確認と訂正
特に4番目のプロセスでは、企業の信用力を低下させることがないよう迅速かつ真摯な対応をとることが重要です。
Step5:危機発生後のフォローアップ
危機からの回復の兆しが一定程度見られたら、危機管理体制のチームを中心にフォローアップを実施します。具体的には、以下の業務を行います。
- 計画通りに進んだことと、計画では想定していなかったことの分析
- 危機が発生した根本的な原因の分析
- 上記を踏まえた再発防止策の策定やマニュアルの改善
フォローアップの質がその後の危機管理のクオリティを左右するため、徹底的な実施が求められます。
危機管理に取り組む企業の事例
危機管理に取り組む企業として、大手機械メーカーのナブテスコ株式会社を紹介します。
ナブテスコでは、大規模災害などによる事業停止や供給サービスの長期中断といった被害の最小化を図るために、主要な事業拠点と調達先のBCP(事業継続力)強化に取り組んでいます。具体的には、CEOを最高責任者として、本社にBCP統括事務局、各事業拠点にBCP事務局を設定し、全社的にBCPの推進を図っています。
内閣官房が主管するレジリエンス認証(国が事業継続の実効的な取り組みを評価する制度)について、日本でトップクラスの取得状況を誇っており、高いレベルで危機管理を図れているといえるでしょう。
また、同社では企業価値の維持および向上を目的に、リスクマネジメントも徹底しています。具体的には、取締役会に対して災害時の被害や製品の品質などの状況をタイムリーに報告する体制を整備し、リスクの早期発見や損失の極小化に努めています。他にも、年1回のリスクアセスメントやリスク対策のモニタリング、対策案の審議などを継続的に実施しています。
このように、ナブテスコでは「危機管理」と「リスク管理」の両輪を、非常に高いレベルで実践しています。そのため、危機管理やリスク管理に注力したい企業にとっては、モデルケースになる事例です。
参考:
ナブテスコ株式会社「リスクマネジメント」「BCP(事業継続)強化の取り組み」
まとめ
危機管理は、中長期的にビジネスを継続し企業価値を高める上で非常に重要なプロセスです。
自然災害や事故はもちろん、不祥事などに対する消費者の目も厳しくなっていることから、今後はより一層多角的な視点で危機管理に取り組む必要があるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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