- 更新日 : 2024年7月17日
新株予約権無償割当とは?メリットや注意点を解説
新株予約権無償割当とは、企業が既存株主に対して新株予約権を無償で割り当てる制度です。
企業の成長戦略や資金調達の一環として行われ、特に既存株主の利益に配慮した資金調達方法だといえます。
ただし、新株予約権の無償割当には、上場規程や会社法上のルールが存在するため、それらを遵守することが大切です。
本記事では、新株予約権無償割当の仕組みや種類、メリットや留意点などを解説します。
目次
新株予約権無償割当の基本知識
新株予約権無償割当とは、その名の通り、新株予約権を無償で割り当てることです。
「無償割当」は新株予約権の割当方法の一種であるため、まずは「新株予約権」について理解する必要があります。
新株予約権
新株予約権は、発行元の企業に対して行使することで、株式の交付を受けられる権利を指します。
この権利を持つ株主は、将来のある時点で一定の行使価格を振り込むと、株式を取得できます。行使価格は通常、将来の株式発行価格よりも低く設定されるため、株主は株価上昇による売却益を得ることができます。
新株予約権は、株主に対しては「企業の成長や企業価値の上昇に参加する機会」を、企業に対しては「資金調達を行うための柔軟な手段」を提供するのです。
新株予約権無償割当の仕組み
金融庁の「『ライツ・オファリングの制度整備』についての基本認識と論点」によると、新株予約権無償割当は「株主全員に新株予約権を無償で割り当てることによる増資手法」です。つまり新株予約権無償割当とは、新株予約権の割当方法の一種を指しています。
新株予約権無償割当を受けた株主は、新株予約権の行使や株式の取得ができますが、定められた期間内に権利を行使しなかった場合、新株予約権無償割当の価値はなくなります。なお割当を受けた株主は、取引所を介して権利を売却することも可能です。
新株予約権無償割当の特徴
以下では、新株予約権無償割当の特徴について解説します。
既存株主全員に株式取得の権利が付与される
他の増資方法である公募増資や第三者割当増資では、特定株主に新株の割当がされるので、不公平感が否めません。
しかし、新株予約権の無償割当では、既存株主全員に株式取得の権利が付与されるので、既存株主の株式価値の希薄化を防ぐことができます。
既存株主に不利益が生じない
通常、大規模増資で新株を大量発行すると、既発行の株式の希釈化を招きます。
しかし、無償割当は既存株主の利益に配慮できます。金融庁が提示する「『ライツ・オファリングの制度整備』についての基本認識と論点」によると、新株予約権の無償割当は、大規模増資が必要な場合に欧州で積極的に活用されている手法だそうです。
まさに、投資家利益の保護と円滑な資金調達を両立した手法だといえるでしょう。
新株予約権無償割当の種類
発行体の上場有無によって、新株予約権無償割当は以下の2つに分類されます。
ライツ・オファリング
ライツ・オファリングとは上場企業の既存株主に新株予約権を無償割当する手法です。
上場企業の新株予約権なので、市場で取引し、売買することができます。上場企業の増資要請に応じる株主は権利を行使し、増資に応じない株主は市場で権利を売却して利益を得られます。
またライツ・オファリングは、株主が権利行使しなかった場合に引受証券会社が権利行使を約する「コミットメント型」と、そのような約定がない「ノンコミットメント型」に分類されます。
非上場企業の無償割当
非上場企業が新株予約権の無償割当を実施することもあります。
非上場企業であるため、発行された新株予約権は市場で売買できません。売買ができる機会が限られているため、上場企業が発行する新株予約権に比べて制約があるといえます。
企業が新株予約権無償割当を行うメリット
この章では、新株予約権の無償割当のメリットについて詳しく解説します。
既存株式の希薄化を防げる
仮に、新株を大量に発行し、既存株主に配分しない場合を想定してみましょう。この場合、発行済みの株式価値が希薄化して、既存株主の利益が侵害されてしまいます。
一方で、新株予約権の無償割当ではどうでしょうか。この場合、既存株主全員に株式取得の権利が付与されるため、株主が保有している発行済み株式の希薄化を招きません。
また、株式取得の権利は既存株主に付与されるため、既存株主の利益に配慮した資金調達方法だといえるでしょう。
株主が増資に応じるか決定できる
新株予約権を無償割当する際、既存株主は企業の増資に応じるかどうかを自由に決定できます。
増資に応じる株主は新株予約権を取得、権利行使することで株主を取得できます。
一方で、増資に応じない株主はどうすればよいのでしょうか。
上場企業であれば、無償割当された株式を市場で自由に売買することで対価を得られます。
このように無償割当された株主が増資に応じるかどうかを自由に決定できるという点で、既存株主の利益に配慮した資金調達方法だといえるのです。
資金調達の柔軟性向上
企業が資金調達を行う場合は、銀行などの金融機関からお金を借りたり、社債を発行したりすることが多いですが、借入金や社債は将来返済する必要があります。
しかし、新株予約権の発行なら、借入や社債などの将来の返済なしに資金調達が可能です。
また新株予約権の発行方法の中でも、無償割当は特に、既存株主の利益に配慮した方法です。
仮に企業の都合で既存株主の利益を害してしまうと、株主による集団訴訟に発展するリスクがあります。集団訴訟に発展しなくても、一度株主の利益を害すると、今後新たに株主を獲得することが困難となり、企業の将来的な資金調達に支障が出るかもしれません。
このように新株予約権の無償割当は、企業の将来の資金調達の柔軟性にも配慮した資金調達方法とだといえるでしょう。
新株予約権無償割当を行う際の注意点
この章では、企業が新株予約権の無償割当を行う際の注意点を2点解説します。
上場規程による開示義務
東京証券取引所の「有価証券上場規程」の402条では「直ちにその内容を開示しなければならない」として、「株式無償割当て又は新株予約権無償割当て」を挙げています。
なお
なお開示対象であっても、投資家の投資判断に与える影響が少ないと判断されれば軽微基準が設けられていることがあります。
しかし、新株予約権無償割当に軽微基準はないため、決定次第「直ちに」内容を公開する義務が生じます。
開示する際には東京証券取引所の「適時開示に関する実務要領」に準拠しなければなりません。同実務要領によれば、新株予約権無償割当が買収防衛策を目的とする場合、東証の上場担当者への相談が必要です。
また、新株予約権無償割当てにより発行する新株予約権証券を上場しようとする場合には、公表予定日の10日前までにメールで開示資料を送付しなければなりません。
開示資料は東京証券取引所のホームページからダウンロードして準備します。
会社法で規定された事項の決定
新株予約権の無償割当は、会社法による規制を受ける点に留意して下さい。
会社法278条において「株式会社は、新株予約権無償割当てをしようとするときは、その都度、次に掲げる事項を定めなければならない」と規定されています。
「次に掲げる事項」とは、以下のとおりです。
- 新株予約権付社債の社債の種類、各社債の合計額またはその算定方法(新株予約権が新株予約権付社債に付されている場合)
- 新株予約権無償割当がその効力を生ずる日
- 新株予約権無償割当を受ける株主が保有する株式の種類(株式会社が種類株式発行会社の場合)
なお上記の事項を決定する時には、株主総会の決議が必要です。
まとめ
本記事では、新株予約権の無償割当について、仕組みや種類、メリットや留意点などの基本的な項目について解説しました。
新株予約権の無償割当は、発行元の企業に対し権利行使することで株式の交付を受ける権利である新株予約権を、既存株主に無償で割り当てる資金調達方法です。
企業にとっては柔軟性の高い資金調達方法であると同時に、既存株主の利益に配慮した資金調達方法でもあります。
ただし、上場規程や会社法による規制を受ける点には十分留意しましょう。
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