- 作成日 : 2024年7月22日
取締役会実効性評価とは?アンケート項目や実施方法・事例を紹介
取締役会が信頼できる機関であれば、企業全体の信頼性が高まり、取締役会の機能を確認する手段として取締役会実効性評価が用いられます。
本記事では、取締役会の実効性評価の概要や評価方法について詳しく解説します。
目次
取締役会の実効性評価とは
取締役会の実効性評価は、企業のガバナンス強化を目的として取締役会がその機能を適切に果たしているかどうかを評価するプロセスです。
この評価は、企業が持続可能な成長を遂げるために欠かせないものであり、その重要性はますます高まっています。
取締役会の実効性評価の主な目的は、取締役会が企業の戦略的方向性を効果的に監督し、経営陣のパフォーマンスを適切に監視できているかどうかを確認することです。
この評価プロセスを通じて、取締役会がその責務を果たす上での強みと弱みを明らかにし、必要な改善点を特定することが可能になります。
コーポレートガバナンス・コードが目指す取締役会の在り方
コーポレートガバナンス・コードは、上場企業が企業統治を実行するにあたり、参考にすべき原則やガイドラインを示したものです。
コーポレートガバナンス・コードが目指す取締役会の在り方は、企業の持続可能な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するための基盤として、取締役会が果たすべき役割や機能を明確に定義し、その実効性を高めることにあります。
(A)取締役会を監督に特化させることを志向する会社 | (B)取締役会の意思決定機能を重視しつつ取締役会内外の監督機能の強化を志向する会社 | |
---|---|---|
機関設計 | 典型的には指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社 | 典型的には監査役設置会社 |
権限移譲 | 個別の業務執行決定は執行側に大幅に権限移譲 | 個別の業務執行決定のうち重要性の低いものは執行側に権限移譲 |
構成 | 社外者が中心 | 社内の業務執行者が中心 |
指名委員会・報酬委員会 | 審議の効率化のために、指名委員会、報酬委員会に対してタスクアウト | 監査機能の確保のために、社外者中心の指名委員会、報酬委員会を設置し、タスクアウト |
開催頻度 | 個別の業務執行の決定は最小限であるため、頻度は相対的に少ない | 個別の業務執行の決定を相当数行うため、迅速性を損なわないために、頻度は相対的に多いことが想定される。 |
引用:経済産業省|コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGS ガイドライン)
日本の取締役会評価が抱える問題点
日本の取締役会評価には、主に以下のような問題があります。
- 評価の形式化と表面的な実施
- 取締役会の独立性と多様性の欠如
- 継続性
多くの企業では、取締役会評価が形式的な手続きとして行われ、本質的な改善や改革につながっていない場合が多いです。
対応策として、評価のプロセスを再検討し、評価結果が実際の改善アクションに反映されるような仕組みを構築する必要があります。
また、日本の取締役会は、しばしば内部取締役が多数を占め、外部の視点や専門性が不足しています。対応策としては、外部取締役の増員や、取締役の選任プロセスの透明性向上が必要です。
多くの企業では、取締役会評価が一度行われた後、継続的なフォローアップが行われないことも問題となっており、定期的な評価の実施とフォローアップの仕組みを導入することも重要な要素となるでしょう。
取締役会実効性評価の評価項目
取締役会実効性評価の評価項目の内容は、主に以下の通りです。
分類 | 評価項目の例 |
---|---|
構成 | ・取締役会の人数は適切か ・メンバー構成は適切か など |
開催頻度 | ・開催頻度は適切か |
発言 | ・発言内容は適切か ・議題の議論がしっかりされているか |
付議事項 | ・審議すべき付議事項の数は適切か ・付議事項について審議は十分に進められているか |
意思決定としての役割 | ・迅速かつ柔軟な意思決定ができているか ・経営会議の位置付けは明確になっているか |
資料提供 | ・事前の資料提供のタイミングが適切か ・社外取締役でも企業の事業や環境などについて理解できるような資料になっているか |
モニタリング | ・経営戦略が適切か ・経営計画が適切か |
内部統制 | ・不祥事が起きた時の対策や対処は適切か |
取締役会実効性評価の主体
コーポレートガバナンス・コードが求める取締役会の実効性評価は、取締役会が主体となって行われ、第三者による評価も必要となります。
取締役会は企業の最高意思決定機関であり、その機能が適切に発揮されているかどうかを自ら評価することは、自律的なガバナンスの基本です。
自己評価を通じて、取締役会は自らの活動を振り返り、強みや改善点を認識できます。
自己評価では、取締役会の構成、会議の運営方法、意思決定プロセス、リスク管理の実効性など、多岐にわたる要素が評価の対象です。
取締役会はこれらの評価結果を基に、取締役の研修や教育の必要性、会議運営の改善点、新たなガバナンス体制の導入などを検討し、実際に行動に移すことが求められます。
取締役会実効性評価の方法
取締役会実効評価はPDCAに沿って、一般的に下記の流れで行います。
- 評価の実施
- 評価の分析・改善計画
- 評価結果の開示
①評価の実施
評価を実施するための手法は一般的に「アンケート」が多く用いられますが、インタビューもあります。
アンケート
アンケートの実施においては、まず評価の目的と範囲を明確にし、具体的な評価項目を設定することが重要です。
これには、取締役会の構成や多様性、会議の運営方法、議題の設定と議論の深さ、取締役の専門性や独立性などが含まれます。
評価項目が明確になることで、取締役は自らの役割や取締役会全体の機能について具体的に考えることができ、より詳細なフィードバックが得られます。
メリット | デメリット |
---|---|
・実際にやり取りする中で意見を幅広く確認できる ・質問を掘り下げることができる ・取締役会の強みや改善点、潜在的な課題が明確になる | ・インタビュー実施に伴う工数がかかる |
なお、取締役会の状況や前年の実効性評価の結果を踏まえて、アンケート項目を毎年見直すことが重要です。
インタビュー
インタビューは、取締役会の実効性を深く理解するための有力な手段です。
取締役一人ひとりの意見や経験を直接聴取することで、アンケートだけでは得られない具体的で詳細なフィードバックを収集できます。
メリット | デメリット |
---|---|
・実際にやり取りする中で意見を幅広く確認できる ・質問を掘り下げることができる ・取締役会の強みや改善点、潜在的な課題が明確になる | ・インタビュー実施に伴う工数がかかる |
インタビュアーは、取締役の意見を引き出すために、傾聴の姿勢を持ち、追求質問を行いながら、取締役会の実際の運営や課題について深掘りすることが大切です。
②評価の分析・改善計画
取締役会の実効性評価が実施された後、収集されたデータを詳細に分析することが求められます。
評価データは、取締役会のメンバーからのアンケート結果やインタビューのフィードバック、外部評価機関からの報告など、多岐にわたる情報を含みます。
このデータを統合し、定量的または定性的な分析を行うことで、取締役会の現状と課題を明確にすることが可能です。
③評価結果の開示
評価結果の開示は、まず取締役会全体で共有されます。このステップでは、評価プロセスで得られたフィードバックや分析結果を取締役全員に報告し、全体の認識を一致させます。
取締役会のメンバーは、評価結果を基にした改善点や強化すべき領域について議論し、具体的なアクションプランを策定しましょう。
内部共有のプロセスは、取締役会の連携と協力を強化し、改善に向けた意識を高めるために必要不可欠です。
取締役会実効性評価の活用事例
最後に、取締役会実効性評価の活用方法について、東京証券取引所が取りまとめている事例を紹介します。
参考:株式会社 東京証券取引所|コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集
三井物産株式会社
三井物産株式会社は、持続的な成長と企業価値の向上を目指して、取締役会の実効性評価を積極的に取り入れています。
評価方法は、主に以下の通りです。
- アンケート
- 意見交換
- ガバナンス委員会での議論
取締役会の構成や運営状況、役割・責務などをアンケートでヒアリングし、意見交換では内部統制やリスクマネジメント、サステナビリティなど全社的なテーマや世の中のトレンド・時事を踏まえた議題について議論しています。
特に取締役会の運営に関して、「事前資料配布の更なる早期化」「重要な個別営業案件の審議の充実化」など多数の意見が寄せられました。
これを踏まえて、「ドラフト段階での資料共有」「重要案件に関する、資料の記載充実」などを対策として掲げています。
アサヒグループホールディングス株式会社
アサヒグループホールディングス株式会社は、認識した課題に関し、ガバナンス向上、ESG、新グループ理念制定に関する議論などを行いました。
アンケート結果からすると、認識した課題については、十分又は概ねできているとの評価が多数となり、改善が進んでいるとの評価を下しています。
今後の取り組みとしては、主に以下のようなことを行う方針です。
実効的なコーポレートガバナンス体制の強化-取締役会と指名・報酬委員会の実効性の向上
グループガバナンスの強化に向けたリスク体制の整備
ESGへの取組みのレベルアップ
株式会社荏原製作所
株式会社荏原製作所は、2017年度の評価にて、取締役会と委員会の構成や運営が適切で高く評価されていましたが、一方で企業価値向上のための長期的課題や中期経営計画の進捗モニタリングの必要性が指摘されました。
また、事業環境の変化に対応し、取締役会の規模や構成の適切性を維持するために、監督機能の実効性を定期的に検証する必要があると認識しました。
なお、今後は下記のようなことを継続的に取り組むことで取締役会の実効性を高めていく方針です。
- 企業価値の向上に資する長期的な課題及び中期経営計画の進捗と課題に関する議論の充実
- 重要な課題について、取締役会審議後の取組・改善状況の継続的なモニタリング・実行に向けた後押しの強化
- 取締役会の規模・構成の定期的な検証
- 社外取締役のサクセッションプランに関する議論の充実
まとめ
取締役会の実効性評価は、企業ガバナンスを強化し、持続可能な成長を達成するための重要なプロセスです。
特にコーポレートガバナンス・コードは、取締役会が果たすべき役割を明確にし、その実効性を高めることを目指しています。
日本の取締役会評価では、形式的な実施や独立性の欠如が問題であり、評価結果を基にした継続的な改善が必要です。
評価項目には構成、会議の運営、リスク管理などが含まれ、内部評価と外部評価を組み合わせた包括的なアプローチが求められます。
適切な評価を行い、必要な改善点を洗い出して改善していきましょう。
よくある質問
取締役会実効性評価の目的は?
取締役会実効性評価の目的は、企業ガバナンスの強化と持続的な企業価値の向上を実現するために、取締役会がその役割を効果的に果たしているかを検証し、改善点を明らかにすることです。 具体的には、取締役会が適切なメンバーで構成されているか、また会議の進行や意思決定のプロセスが効率的かつ効果的であるかなどを評価します。
取締役会実効性評価の質問票の項目は何がある?
取締役会実効性評価の評価項目の内容は、主に以下の通りです。
- 構成
- 開催頻度
- 発言
- 付議事項
- 意思決定としての役割
- 資料提供
- モニタリング
- 内部統制
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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