• 更新日 : 2023年6月7日

東証プライム市場とは?その特徴や上場基準を分かりやすく解説

プライム市場に上場したいけれど、何から始めたらよいかわからない人もいるのではないでしょうか。プライム市場は、旧東証一部に相当する市場で、上場できれば会社の知名度・信頼性は大きく高まります。この記事を読めば、プライム市場とはどのような市場なのか、上場するメリット・デメリットもわかります。これからプライム市場を目指したい人は、ぜひ最後までお読みください。

プライム市場とは?

東京証券取引所(以降、東証)は、2022年4月に市場区分の再編を実施しました。プライム市場は、今回の再編で新たにスタートした市場のひとつです。再編後は、東証一部、東証二部、東証マザーズ、JASDAQ(スタンダード・グロース)の5つの市場区分から、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの市場区分に変わりました。

画像引用元:日本取引所グループ|市場区分見直しの概要

東証の公式サイトでは、プライム市場のコンセプトを次のように表記しています。

【プライム市場のコンセプト】
多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場

引用:日本取引所グループ 新市場区分のコンセプト・上場基準
わかりやすく言うと、海外投資家からも魅力的に映る企業となるようにコンセプトを設定しているということです。そうした取り組みの1つとして英語での情報開示が促進されている他、上場時の基準と上場を維持する基準がほぼ同じに設定されているといったことが挙げられます。

こうしたこともあり、主要な株主が国内に限られる企業や、上場後の上場維持基準を満たし続けることに負担を感じる企業は旧東証1部上場企業であってもスタンダード市場への移行を選択するケースが見られます。

東証の市場区分再編の狙い

東証プライム市場とは?その特徴や上場基準を分かりやすく解説

東証が市場区分を再編する理由は、主に2つあります。1つは、市場区分のコンセプトの明確化です。本来、市場区分は、新興企業向け、実績のある企業向けなど、それぞれ異なるコンセプトが大切です。しかし、現状は、東証マザーズとJASDAQの位置づけがあいまいになっているなど、多くの投資家にとって違いがわかりづらく、利便性が低いという問題がありました。

また、上場廃止基準が大幅に緩和されていることや、新規上場よりも、他の市場から移転した方が、条件が緩和されているなどの理由で、上場後も企業価値を向上しようという動きが行われにくいという問題点も、再編理由の1つとされています。

これらの問題点を解決するために、すでに上場している企業は以下のスケジュールに則って市場区分の再編が行われました。

時期内容
2021年9月1日~12月30日上場会社の選択期間
2022年1月11日上場会社の新市場区分の選択結果公表
2022年4月4日一斉移行日

企業数はプライム市場がトップ

再編前の東証一部上場企業の約85%が、プライム市場に移行しました。これは、今回スタートする3つの市場の中で、最も多い企業数です。

再編後区分の上場企業数

プライム市場スタンダード市場グロース市場
1,839社1,466社466社

参照:日本取引所グループ 新市場区分の選択結果について

ただし上記の東証一部上場企業のうち、プライム市場の上場維持基準に満たない企業は617社あり、そのうち296社は経過措置を受けての上場予定となっていました。しかし、2023年1月に東京証券取引所が経過措置を実質4年で終了する案を発表したことから、これら基準を満たしていない企業は上場維持するための経営改革が急務となっています。
参照:株式会社 東京証券取引所 上場部「論点整理を踏まえた今後の東証の対応」

プライム市場の上場基準

プライム市場は、多くの機関投資家の投資対象となるような時価総額(流動性)の高い銘柄の上場を想定しています。そのため、流通株式比率が、他の市場よりも高めに設定されている点が特徴的です。

新市場区分の上場基準

項目プライム市場スタンダード市場グロース市場
流動性株主数800人以上400人以上150人以上
流通株式数2万単位以上2千単位以上1千単位以上
流通株式時価総額100億円以上10億円以上5億円以上
売買代金時価総額250億円以上--
ガバナンス流通株式比率35%以上25%以上25%以上
経営成績
財政状態
収益基盤・最近2年間の利益合計が25億円以上
または、
・売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上
最近1年間の利益が1億円以上-
財政状態連結純資産50億円以上連結純資産額が正(プラス)であること-

参照:日本取引所グループ 新市場区分のコンセプト・上場基準

また、今回の市場区分の見直しで最も重要な点が、「流通株式数の定義の変更」です。
まず、流通株式数の計算方法を比較してみましょう。

【従来の流通株式数の計算式】
上場株式数-(10%以上保有している主要株主が所有する株式数+役員所有株式数+自己株式数)

【2022年4月4日以降の流通株式数の計算式】
上場株式数-(10%以上保有している主要株主が所有する株式数+役員所有株式数+自己株式数+国内の普通銀行・保険会社・事業法人などが所有する株式+その他東証が固定的と認める株式)

この、流通株式数の定義の変更は、流通株式から政策的に保有している株式や企業間の持ち合い株を除外することを意図していると考えられます。

日本の企業は、互いの企業の株を保有し合う、持ち合い株という慣習があります。持ち合い株は、会社間の結束を高めたり、敵対的買収を防ぐことができたりというメリットがあります。しかし、一般株主の意向が反映されないほか、投資資金が株式の持ち合いの資金に割り当てられ、資本効率が悪くなるなどのデメリットもあります。

流通株式数の定義の変更により、上場基準やTOPIX(東証株価指数)の採用・除外基準に影響をあたえるため、企業の持ち合い株を解消する動きが増えると予想されます。

プライム市場の上場維持基準

新市場区分には、新規上場基準と同等の「上場維持基準」が設けられており、仮に抵触した状態のまま改善しないと、上場廃止となります。

プライム市場の上場基準・上場維持基準

項目上場基準上場維持基準
流動性株主数800人以上800人以上
流通株式数2万単位以上2万単位以上
流通株式時価総額100億円以上100億円以上
売買代金平均売買代金平均0.2億円以上
ガバナンス流通株式比率35%以上35%以上
経営成績
財政状態
収益基盤・最近2年間の利益合計が25億円以上
または、
・売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上
-
財政状態純資産50億円以上純資産額が正(プラス)であること

参照:日本取引所グループ 新市場区分のコンセプト・上場基準

従来の東証一部の上場廃止基準は、株主数400人未満、流通株式数2千単位未満、流通株式時価総額5億円未満などと、比較的緩い基準でしたので、大幅に厳格化されている点がポイントです。

経過措置に関する問題点

再編前の東証一部上場企業のうち、プライム市場の上場基準にを満たない企業は、プライム市場に上場するための経過措置が設けられています。また、この経過措置には期限がありません。そのため、上場基準に満たない企業が、いつまでもプライム市場の上場企業として残ってしまうという問題が生じます。

プライム市場のメリット

プライム市場に上場すると、次のようなメリットがあります。

  • 海外の機関投資家などから、幅広く資金調達をすることができる
  • 社会的信用が高まることで企業価値が上がる

幅広く資金調達できる

プライム市場は、従来の東証一部に相当する市場です。国際的な知名度も高く、市場自体の安心感もあるため、世界の機関投資家を含めた幅広い投資家から資金調達できると予想されます。
プライム市場の基準は旧東証一部より厳しい基準となっており、銀行からも高い評価を受けやすく、融資を受ける際にプラスになる点もポイントです。さらに、2022年4月時点ではプライム市場の全銘柄がTOPIXの構成銘柄となっており、国内外の機関投資家からの投資の他、日銀による買い入れも期待できます。

社会的信用が高まることで企業価値が上がる

先述したように、プライム市場は旧東証一部よりも厳しい基準が採用されており、また企業の業績や財務状況に関する情報開示が厳格に求められているため透明性が高く、投資家からの信頼性が高いとされています。その結果として、株式市場での需要が高まることが予想されるでしょう。需要の増加によって、株式の価格が上昇し、企業の株式評価が向上すると考えられます。
また、プライム市場は上場維持にも厳しい基準が設けられているため、単に数字基準をクリアするだけでなく、社会貢献をはじめとした企業価値向上のための取り組みなどが求められるのです。プライム市場に上場する企業は旧東証一部よりさらに数が少なくなり、プライム市場上場企業である対外的価値はより高まっていると言えるでしょう。

プライム市場のデメリット

上場した場合のデメリットは、以下の通りです。

  • 上場や維持にコストがかかる
  • 投資家への対応が増える
  • 買収されるリスクが高まる

 

上場や維持にコストがかかる

プライム市場に上場するデメリットとして、上場や維持にコストがかかる点が挙げられます。

まずは、上場時の費用を見てみましょう。

プライム市場スタンダード市場グロース市場
上場審査の料金400万円300万円200万円
新規上場の料金1,500万円800万円100万円

さらに、上場後も上場時時価総額に応じて年間上場料を支払わなければなりません。

また、プライム市場に上場することで海外投資家向けに英語での情報開示を進めなければならなかったり、気候変動に関する事業リスクの開示義務があったりと、開示に関するコストもかかってしまう点には注意が必要です。

投資家への対応が増える

プライム市場に上場することで、投資家への対応が増える点もデメリットだと言えるでしょう。先述したとおり、プライム市場に上場することで英語での情報開示や気候変動に関する事業リスクの開示を進めなければなりません。

これらのコストがかかってしまうのに加え、海外投資家や、気候変動に関する事業リスクに関して関心がある投資家からの問い合わせへの対応なども実施する必要があるでしょう。

買収されるリスクが高まる

企業の知名度が上昇すると、敵対的買収の標的となる可能性も高まります。どんなに時価総額が大きな企業でも、圧倒的な規模を誇る外資企業に目をつけられると、たちまち経営権を失ってしまうという可能性は、ゼロではありません。

プライム市場に新規上場する方法

市場再編に伴う移行ではなく、新規のプライム市場の上場案件として受理してもらうためには、新規上場日が2022年4月4日以降であることが必要です。上場申請エントリー後は、プライム市場の上場に必要な手続きを済ませて、書類を提出します。ヒアリングを何度か繰り返した後、審査を受けて問題なければ、上場承認という流れになります。

申請の流れ

プライム市場の上場申請から上場承認までの主な流れは、次のようになります。申請から上場までかかる期間は、申請からおおよそ3ヶ月です。

  1. 上場申請エントリー
  2. 事前確認・スケジュール調整…担当者、日本証券取引所自主規制法人の審査担当者、主幹事証券会社の間で行われます
  3. 上場申請、申請書類受理、ヒアリング…申請書類を提出し、上場申請の手続きをした後、審査担当者から上場申請理由や、会社の沿革、事業内容などのヒアリングを受けます
  4. 質問事項送付~回答、ヒアリング(質問~ヒアリングのやり取りは3回程度)…不明な点があれば、審査担当者から質問事項を提示。質問に対する回答書をもとに、再度ヒアリングを受けます
  5. 各種面談…審査担当者が審査項目に適合しているか確認をしていきます
  6. 社長説明会…代表が事業内容や事業計画などを東証に対して実施します
  7. 上場承認

 

【必要書類】
有価証券新規上場申請書
・新規上場申請有価証券訂正通知書
・反社会勢力との関係がないことを示す確認書
・反社会勢力との関係がないことを示す確認書(別添 個人法人リスト)
・新規上場申請に係る宣誓書
・主要な事業活動の前提となる事項について
・株券等の分布状況表
・独立役員届出書(ドラフト)
・コーポレート・ガバナンスに関する報告書
・提出書類一覧
・eラーニング受講対象者一覧

プライム市場の場合は、上場審査料が400万円、新規上場料1,500万円、その他、年間上場料として、上場時価総額に応じて以下の年間上場料がかかります。

【年間上場料(プライム市場)】

年間上場料(プライム市場)は以下の通りです。

上場時価総額プライム市場
50億円以下96万円
50億円超250億円以下168万円
250億円超500億円以下240万円
500億円超2,500億円以下312万円
2,500億円超5,000億円以下384万円
5,000億円超456万円

審査内容

プライム市場の上場審査では、株主数などの形式要件とは別に、「実質審査基準」も定められています。実質審査基準とは、申請会社が安定的・継続的に収益性を維持し、適切な管理体制を構築して、将来性のある経営が適切に行われているかなど審査する基準です。書類審査のほか、ヒアリングや実地調査などで、審査します。

実質審査基準の項目と主な内容を、以下に紹介します。審査基準は、スタンダード市場とほとんど変わりありません。

プライム市場の実質審査基準

プライム市場の実質審査基準は以下の通りです。

項目内容
企業の継続性および収益性・事業計画がビジネスモデル、事業規模、リスク要因などを踏まえ適切に策定されていること
・今後において安定的な、利益を計上できるか合理的な見込みがあること
・経営活動が、安定かつ継続的に遂行できる状態にあること
企業経営の健全性関連当事者と特定の者との間での取引行為などにおいて、不当な利益の供与や享受をしていないこと
・役員相互の親族関係、その構成などが、公正・忠実な業務の執行を損なうような状況でないこと
・親会社からの独立性を有する状態であること
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性・役員の適切な職務の執行を確保する体制が、適切に整備・運用されていること
・内部管理体制が適切に整備・運用されている状況であること
・経営活動の安定、適切な内部管理体制維持のために必要な人員が確保されていること
・実態に即した会計処理基準が採用されており、会計組織が適切に整備・運用されていること
・法令順守の体制が適切に整備・運営されていること
企業内容等の開示の適正性・経営に重大な影響を与える事実などの会社情報を管理し、適時・適切に開示できる状況にあること。また、未然防止体制が適切に整備・運用されていること
・企業内容の開示に係る書類が、法令に準じて作成されており、かつ、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事項(新規上場申請者の企業グループが、中長期的な企業価値の向上のための投資活動により、相応の利益を一時的に計上しないことが見込まれる場合は、当該投資活動に係る事項を含める)、主要な事業活動の前提となる事項については適切に記載されていること
・関連当事者その他特定の者との間の取引行為や株式の所有割合の調整により、企業グループの実態の開示を歪めていないこと
・親会社に関する事実などの会社情報を、投資者に対して適時・適切に開示できる状況にあること
その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項・株主の権利内容やその行使の状況が公益または、投資者保護の観点で適当と認められること
・経営活動や業績に重大な影響を与える紛争などを抱えていないこと
・反社会的勢力による経済活動への関与を防止するための社内体制を整備していること

参照:日本取引所グループ 2022 新規上場ガイドブック(プライム市場編) 3.上場審査の内容

まとめ

プライム市場は、2022年4月に行われた東証の市場区分の再編に伴いスタートした市場です。従来の東証一部に相当する市場で、新規上場基準、上場維持基準いずれも厳格な基準が設定されています。しかし、資金調達力は非常に高いので、プライム市場を目指す起業家・事業主の方は、専門家と連携を取りながら進めていく必要があります。

この記事では、プライム市場に上場するメリットやデメリットのほか、新規で上場する際の流れについても紹介しました。新規上場基準や上場維持基準はもちろん、上場方法についてもしっかり確認し、上場の検討材料にしていきましょう。

よくある質問

プライム市場とは?

2022年4月に再編された、新しい市場区分のうちのひとつです。再編後は、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの市場区分に変わりました。

プライム市場に上場するメリットは?

プライム市場は、従来の東証一部に相当する市場です。知名度・信頼性の高い市場であるため、世界中の投資家から安定した資金調達を行えます。

プライム市場に上場するデメリットは?

プライム市場は、東証一部よりもはるかに厳格な維持基準を採用しています。そのため、IR情報や経営計画など、投資家向けに必要な情報提供も多く、多くの労働コストが発生します。


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