• 更新日 : 2024年12月2日

SPAC上場とは?仕組みやメリット・デメリット、プロセスを解説

SPACとは、事業を運営せず、非公開企業の買収による対象企業の上場を目的とする会社です。米国で認められている制度であり、日本では2024年10月時点で導入されていません。しかしSPAC上場のブームを受けて、日本でも導入の検討が開始されています。

SPAC上場は、これまでのIPOと比較して上場審査が簡易かつ審査期間が短いという特徴があります。本記事では、SPAC上場の意味やメリット・デメリット、プロセスをお伝えします。

SPAC上場とは

はじめに、SPAC上場の仕組みや動向について、従来のIPOと比較しつつ解説します。

SPAC(特別買収目的会社)の仕組み

SPACはペーパーカンパニー(事業を運営しない企業)であり、非公開企業の買収による上場を目的に設立されます。英語では”Special Purpose Acquisition Company”、日本語では「特別買収目的会社」といいます。また、SPACを用いた上場を「SPAC上場」と呼びます。

SPACは、以下の流れで上場を実現します。

  1. 主に著名な投資家や経営者が自己資金をもとにSPACを設立する
  2. SPACを株式市場に上場させる
  3. 複数の投資家からキャッシュを集め、それを利用して非上場企業を買収する
  4. 買収した企業とSPACを合併させることで、実質的に非上場企業のIPOを実現させる

従来のIPOとの違い

従来のIPO(Initial Public Offering)とSPAC上場は、「上場審査の難易度」と「上場までの期間」の2点に違いがあります。

上場審査の難易度上場までの期間
従来のIPOによる上場高い長い
SPAC上場低い短い

SPACは自ら事業をしない「空箱」であるため、事業会社と比べて投資家に開示すべき情報が少ないことから、上場審査が簡易になる傾向があります。また、投資家への説明なども必要としないため、上場までの期間も短縮できます。加えて、買収される未公開企業は審査を受けない点などからも、SPACでの上場難易度は低いといえます。

※参考:株式会社東京証券取引所「事務局説明資料(第1回研究会)

SPACをめぐる動向

SPACは米国発祥の制度であり、2024年現在において日本では認められていません。ただし、2020年以降米国でSPAC上場が活発に実施されたことに伴い、日本でも導入に向けた前向きな検討が行われるようになっています。

具体的には、東京証券取引所に「SPAC制度の在り方等に関する研究会」が設置されたり、日本の成長戦略会議において、スタートアップの創出・成長発展を目的とした施策としてSPACについて言及されたりしています。

参考:SPAC制度の在り方等に関する研究会「SPAC上場制度の投資者保護上の論点整理

SPAC上場のメリット

SPAC上場のメリットを、企業側と投資家側の視点から2点ずつお伝えします。

【企業側】メリット1:スピーディーに上場できる

SPAC上場の最大のメリットは、スピーディーに上場できる点です。

従来のIPOは、株式公開に向けた準備や市場との交渉、財務情報の開示などにより、多くの時間(2〜3年ほど)を要します。また、準備や専門家の起用に伴うコストもかかります。

一方でSPACの場合、上場済みのSPACが対象企業を買収することで、対象企業の上場が間接的に完了します。これにより手続きの複雑さは軽減され、通常のIPOと比べてスピーディーに(1〜2年ほど)上場できます。また、期間が短縮されることでコストの抑制にもつながります。

【企業側】メリット2:多額のキャッシュを迅速に確保できる

SPACを用いると、企業は多額のキャッシュを迅速に確保でき、成長を加速させることができます。

未公開企業の多くは、実績に乏しかったり将来性が不透明であったりするため、まとまった金銭を出資してくれる投資家を見つけることは難しいです。

一方でSPAC上場の場合、設立やIPOを通じて確保したキャッシュが未公開企業の買収に充てられます。そのため、従来のIPOと比べスピーディーに多額のキャッシュを確保でき、事業拡大や新規事業への投資を迅速に行うことができます。

また、有名で実績豊富な経営者や投資家のSPACによる買収であれば、信頼性の高さによって多額のキャッシュを継続的に確保しやすいでしょう。

【投資家側】メリット1:一般の投資家でも未公開株式に出資できる

通常、未公開企業への投資は機関投資家やベンチャーキャピタル、エンジェル投資家などに限定されています。一方でSPAC上場の場合、一般の個人投資家でも、上場したSPACに出資することで実質的に未公開企業(SPACの買収対象)に投資できます。また、市場を通じて購入するため、比較的少額からでも投資できます。
今後の飛躍が期待できる未公開企業への出資となるため、大きなリターンを得られる可能性もあります。

【投資家側】メリット2:投資家保護の規定が設けられている

SPAC上場が認められている米国では、投資家保護の規定が設けられています。主なものとして下記が挙げられます。

  • 上場の際に一般投資家から受け取ったキャッシュは信託しなければならない
  • 買収に反対する一般投資家は、キャッシュの返還を受けることができる
  • 設立・上場から24ヶ月以内に買収が実現しない場合、SPACの上場は廃止となり、キャッシュが返還される

上記の規定により、投資家は最低限のリスクヘッジをしつつ未公開株式へ投資することができます。

SPAC上場の失敗につながるリスクとデメリット

SPAC上場の失敗に直結する3つのリスク(デメリット)について解説します。

【企業側】デメリット1:スピーディーに買収を完了させる必要がある

前述のとおり、「SPACは設立から通常2年以内に買収を完了しなければならない」という制約を有します。

この制約により、SPAC側は期限内に適切な買収先を見つけるプレッシャーを受けることになり、急いで交渉を進めるケースも想定されます。
結果として、デューデリジェンス(企業価値評価)が不十分になり、粉飾決算などの問題が後から発見されたり、高値掴みしたりするリスクがあります。

【企業側】デメリット2:十分な準備なく上場することで、株価下落や業績悪化のリスクがある

従来のIPOと比較してSPAC上場は手続きが簡易なため、十分な準備をできずに上場する企業も少なくありません。その結果、買収後の企業の財務状況や成長見通しが市場の期待に応えられず、株価の急落や業績悪化を招くリスクがあります。

【投資家側】デメリット:投資のリスクが大きい

投資家保護の規定は設けられていますが、SPAC上場を通じた未公開企業への投資はさまざまなリスクを有します。主なリスクとして下記が挙げられます。

  • 実績や能力不足の経営陣によって運営されている企業に投資してしまう
  • 簿外債務や法令違反などの問題が買収後に発覚する

上記の事態は株価の暴落を引き起こす恐れがあり、その場合投資家は多大な損失を被ってしまいます。こうしたリスクがあるため、投資家側はSPACの運営者や買収先の未公開企業などについて、十分に精査することが求められます。

SPAC上場のプロセス

本章では、SPAC上場の流れを解説します。

手順1:SPACの設立

まず、SPACを設立します。主にPEファンドなどの金融機関や、事業経営の経験が豊富な投資家などが設立者(スポンサー)となります。

設立時には自己資金を投入し、一定の株式を保有するケースが一般的です。これにより、SPAC上場が成功した場合に大きなリターンを得られる可能性があります。

手順2:SPACによる上場

次に、SPACを公開市場に上場させます。上場により、幅広い投資家から短期間で多額のキャッシュを確保することができます。

なお、SPACの上場に伴って確保したキャッシュは、投資家保護の一環として、買収対象企業が決定するまでの間、信託口座に預けられます。

手順3:事業会社の買収

SPACの上場後、設立者は一定の期間内(原則として2年)に未公開企業を買収ます。設立者は、業界や成長性などを考慮して適切な企業を見つけ出し、2年以内に買収を完了できるよう、交渉を開始します。

このプロセスでは企業価値の評価(デューデリジェンス)や条件交渉が行われ、両者が合意に至れば、買収が正式に決定します。

なお、買収には一般投資家から調達したキャッシュが用いられることが一般的です。

手順4:SPACと被買収企業の合併

買収が遂行されたら、SPACと買収された企業の合併を実施します。この際、被買収企業を存続会社、SPACを消滅会社とします。これにより、残った被買収企業は、通常の上場審査で遂行される手続きを経ずに上場を実現できます。

まとめ

米国で認められているSPAC上場は、上場までの期間を短縮しかつ資金調達の機会を広げるなど、企業にとって多くのメリットがあります。また企業側だけではなく、投資家にとっても未公開企業への投資を可能にするというメリットがあります。一方で、投資リスクが大きさや、スピーディーな買収が求められるなど、相応のデメリット(リスク)も有します。

米国市場への上場や日本におけるSPACの動向を検討する際には、こうしたメリット・デメリットを考慮すると良いでしょう。


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