- 更新日 : 2024年7月12日
内部統制システムとは?どんな会社に運用が義務付けられているのか、事例も交えて解説
内部統制を整備することで、企業の経済的損失や信頼の失墜を未然に防ぐことができます。この内部統制を正常に運用するための仕組みが「内部統制システム」です。企業価値を向上させるには欠かせないシステムでもあります。
本記事では、内部統制システムの概要と役割・目的、決定すべき内容や構築のメリットを解説します。内部統制の遂行を視野に入れている企業の方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
内部統制システムとは
内部統制システムとは、企業を健全な状態で運営し、違法行為や情報漏洩などを防止するための体制です。これは会社法と金融商品取引法に基づき、要件を満たす企業に対して義務付けられています。
内部統制システムは、経営者や役員を含む全社員に適用されるルールや仕組みであり、企業の透明性と効率性を高めることを目的としています。
また、内部統制システムの構築及び整備と運用は、法律で義務化されている企業以外でも設置可能です。中小企業においても、内部統制システムの導入により経営活動の透明化と活性化が期待できます。
会社法における内部統制システムの定義
内部統制システムの整備について、会社法では以下のように定義しています。
会社法 第362条4項6号(一部抜粋)
取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
引用:e-GOV法令検索|会社法(平成十七年法律第八十六号)
この定義に基づき、内部統制システムは、以下の目的を持っています。
- 法令遵守:企業が法律や規制に適合して運営されることを保証する
- 透明性の向上:経営者や役員を含む全社員に適用されるルールや仕組みを通じて、企業の経営活動を透明にし、ステークホルダーに対して信頼性を高める
- リスク管理:不正行為や情報漏洩などのリスクを最小限に抑えるための仕組みを提供する
つまり、内部統制システムは企業の健全な成長に欠かせない体制であり、法令遵守や透明性の確保に貢献しています。
金融商品取引法における内部統制システムの定義
内部統制システムの整備について、金融商品取引法では以下のように定義しています。
金融商品取引法 第24条4項4号(一部抜粋)
当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制
引用:e-GOV法令検索|金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)
金融商品取引法における内部統制システムは、以下の4つの目的を達成することを目的としています。
- 情報共有やITを効果的に活用することにより、資源(人・モノ・金)も効率的に活用できるようになるための体制をつくる(業務の有効性及び効率性)
- 株主の投資判断に重要となる、財務諸表などの財務情報の信頼性と透明性を向上させる(財務報告の信頼性)
- 社会的信用を保つために重要な、企業が法令違反を犯していないかを監視する(事業活動に関わる法令等の遵守)
- 企業の資本金や資金を守るためのルールを定義する(資産の保全)
金融商品取引法において内部統制システムを整備することで、企業の信用力向上や業務の効率化、従業員や役員の不正防止に寄与します。また、内部統制システムは上場企業に該当する会社に義務付けられています。
これらを踏まえて、会社法と金融商品取引法による内部統制システムの定義の違いについて、下表にまとめました。
会社法による内部統制システム | 金融商品取引法による内部統制システム | |
---|---|---|
目的 | 組織の業務適性を確保すること | 財務報告の信頼性を確保すること |
対象企業 | 資本金5億円以上または負債200億円以上の企業(大会社)で、取締役会がある株式会社 | 有価証券報告書の提出義務があり、証券市場への投資家の信頼確保を目指す企業 |
内部統制システムの整備・運用が義務付けられている会社
内部統制は、会社法と金融商品取引法で運用義務が定められていますが、それぞれ対象企業は異なります。
会社法により義務付けられている会社の定義
会社法第362条5項における定義は次の通りです。
原則として、内部統制の整備・運用は企業ごとの判断・責任となっています。しかし、上記の規模のいわゆる大会社と呼ばれる企業に対しては会社法により整備・運用が義務付けられています。
金融商品取引法により義務付けられている会社の定義
金融商品取引法24条1項には、内部統制を実施する企業の定義として以下のように記載されています。
- 有価証券報告書の提出義務を負う会社
簡単に言えば、いわゆる上場企業に該当すれば内部統制の整備・運用が義務づけられているということになります。上場企業は内部統制報告書に、整備した内容を記載して開示しなければなりません。
会社法か金融商品取引法のいずれかに該当すれば、内部統制を整備・運用しなければならない点を覚えておきましょう。
内部統制システムの役割・目的
金融庁が提示している「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」によると、内部統制の目的は以下の4点です。
- 業務の有効性および効率性
情報共有の徹底やITの効果的活用により「人・モノ・金」などの資源を有効活用するためのもの。事業活動の目的達成を促進するのに有効とされています。 - 報告の信頼性
財務諸表などの財務情報の信頼性・透明性の向上を目的としています。株主の投資判断の材料や企業の取引先選定において重要な判断基準となります。 - 事業活動に関わる法令などの遵守
企業が何らかの法令違犯を犯していないかを監視する仕組み。企業の社会的信用を大きく損なわないためにも重要な項目です。 - 資産の保全
企業の資本金・資金を守るためのルール。内部統制による管理・運用の効率化と活用を定義することで、事業活動を健全化します。
内部統制システムで決める内容
会社法施行規則第100条では、内部統制システムで決めるべき内容は次の通りとされています。
共通で定める事項
共通で定める事項は、以下の通りです。
- 取締役の職務執行に係る情報の保存・管理体制
- 損失の危機を管理する規定および体制
- 取締役の職務執行が効率的に行われることを確保できる体制
- 使用人(従業員など)の職務執行が法令や定款に適合するかを確保する体制
- グループ企業などにおける業務の適正を確保する以下の5つの体制
◻︎子会社の取締役・執行役・業務執行社員などの職務執行に関係する事項の報告体制
◻︎子会社の損失危機を管理する体制
◻︎子会社の取締役・執行役・業務執行社員などとの職務執行が効率的に行われていることを確保する体制
◻︎子会社の取締役・執行役・業務執行などと使用人の職務執行が法令・定款に適合することを確保する体制
監査役設置会社かどうかで異なる事項
監査役設置会社ではない場合、以下のようになります。
- 「共通に定める規定」の体制において取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制
一方で、監査役設置会社の場合は、以下の通りです。(※指名委員会等設置会社もほぼ同様)
- 監査役が職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における使用人に関する事項
- 「共通に定める規定」の使用人の取締役からの独立性に関する事項
- 監査役の第一号使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
- 以下の体制その他の監査役への報告に関する体制
◻︎取締役および会計参与・使用人が監査役に報告をする体制
◻︎子会社の取締役・会計参与・監査役・執行役・業務を執行する社員、会社法第598条第1項の職務を行うべき者、その他これらの者に相当する者および使用人またはこれらの者から報告を受けた者が監査役に報告をする体制 - 「共通に定める規定」の報告をした者が当該報告をしたことで不利な取扱いを受けないことを確保する体制
- 監査役とその他の当該職務の執行について生じる費用の前払または償還の手続、債務の処理に係る方針に関する事項
- その他監査役の監査が実効的に行われることを確保する体制
監査役設置会社においては、社内の執行役など以外にも監査役の監視機能を発揮させるための体制づくりが求められています。
内部統制システムを構築するメリット
内部統制システムを構築すると、次のメリットを享受できます。
- 不正を防止できる
形骸化しているルールを含めて、社内ルールや業務チェックを徹底できます。その結果、粉飾決算や経費の不正申請を防止でき、クリーンな財務状況での会社運営が可能です。 - 業務効率を向上できる
企業が存続できる体制を作るための仕組みであるため、様々な業務を見直す必要があります。その結果、業務の整理ができるほか、新たに浮上した課題を含めて業務効率化できるようになるでしょう。 - 社員のモチベーションが向上する
業務の透明化を実現する仕組みであるため、社外だけではなく社内に対しても業務に対する信頼度が向上します。業務効率化との関係も深く、業務負担が軽くなるなど従業員のモチベーション向上につながります。 - 民事責任や刑事責任のリスクを軽減できる
内部統制を整備することで、民事・刑事両方のリスクを軽減できるようになります。会社ぐるみの場合を除き責任の所在が明確になるため、企業が受ける被害や賠償責任のリスクが少なくなります。
内部統制システムは設置義務がない企業でも設置できるため、会社法・金融商品取引法で義務化されていなくても内部統制システムを整備・運用することをおすすめします。詳細は「内部統制システムを整備するメリットは?内容やポイントを説明」で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
内部統制システムの不備に寄与する過去の事例
ここでは、内部統制システムが機能していなかったが故に起きてしまった、過去の代表的な事例を紹介します。
本事例の概要
大阪に本拠地を置く、ある企業の販売した肉まんに使用されていた添加物に、国内での使用認可を受けていないものが混ざっていることが判明しました。しかし、その企業はこのことを公表せず、6,300万円を当該業者に支払って隠ぺいしていたのです。
本事例の判決
その後、大阪府の立ち入り検査を受けて表沙汰になったことで、取締役および監査役に対する株主代表訴訟が発生。結果的に大阪高裁は、隠ぺいに関与した取締役と監査に対して約53億4,000万円の支払いを命じました。
また、関与していない取締役・監査役11名に対しても善管注意義務違反であると判断し、連帯責任として約5億6,000万円の損害賠償責任を言い渡しています。ここまでが民事責任です。刑事責任では、運営会社とフード部門の担当専務、販売店担当の取締役3名が食品衛生法違反容疑で書類送検されました。
これは、内部統制システムが機能していなかった事例として、事件発生から20年以上が経過した現在でも引き合いに出される事件です。内部統制システムが機能していれば起きなかったのではないか、と言われています。
まとめ
内部統制システムは、企業の経営活動を活性化させるだけではなく、企業を守るための重要な仕組みです。
法的に整備・運用が義務付けられている企業もありますが、義務の対象外であっても設置することをおすすめします。内部統制システムの構築は大企業だけのものではありません。企業の成長には欠かせないものであることを理解し、整備・運用を検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
内部統制システムとは?
内部統制システムとは、企業を健全な状態で運営し、違法行為や情報漏洩などを防止するための体制です。経営者や役員を含めた全社員に適用されるルール・仕組みであり、企業の健全な成長にも欠かせない体制でもあります。
内部統制システムの運用が義務化されている対象は?
会社法第362条5項では、「資本金5億円以上または負債200億円以上を満たす、会社法で大会社と定義される企業」とされています。 一方で金融商品取引法24条1項では、「金融商取引法で定義された、有価証券の提出義務を負う上場有価証券等の発行会社」が義務化の対象とされています。
内部統制システムとコーポレートガバナンスとの違いは?
内部統制は会社法、金融商品取引法によって定義されており、経営者から従業員に対して実施するものになります。 一方でコーポレートガバナンスは、法律で定義されてはいないものの金融庁と東京証券取引所によるガイドラインによって義務付けられており、株主などが全社員に対して企業活動が健全に行われているかをチェックします。
内容 | 定められている法律 | |
内部統制システム | 経営者が従業員などを管理するための仕組み。経営者を監視・管理することに重きを置いていない。 | 会社法、金融商品取引法 |
コーポレートガバナンス | 株主や取締役会、場合によっては顧客や株主などが、経営者の不正や暴走を防ぐための仕組み。 | 法律はないが金融庁と東京証券取引所によるガイドラインはある |
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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