- 更新日 : 2024年7月16日
執行役員とは?取締役や管掌役員との違いについて解説!
執行役員とは、取締役が決めた経営方針に従い、業務を執行する役職です。役員という名前のため間違えやすいですが、会社法で定義された役員ではなく、各企業が任意で設置します。執行役員の定義や役割、取締役や管掌役員との違いに加え、執行役員制度を導入する際の注意点などをまとめました。
目次
執行役員とは?
執行役員とは、取締役が決定を下した方針に従い、業務を遂行する役職です。役員という名称が入っているため間違えやすいですが、会社法上の役員には含まれない点に注意しましょう。
とくに規模が大きい企業では、取締役が経営と業務の執行を両立することが現実的ではないといった理由により、取締役と現場のパイプ役となる執行役員を置くケースが増えてきています。
ここでは、執行役員と混同しやすい「取締役」「管掌役員」「執行役」との違いについて、確認していきましょう。
取締役との違い
取締役とは、経営に関する意思決定を行う役員のことです。一方、執行役員は、取締役の決定した方針に沿って業務を遂行する役職で、両者はその役割に違いがあります。
また、取締役は会社法で定義されている役員ですが、執行役員はそれぞれの企業の裁量に基づいて置かれているポジションで、法律のうえでは従業員と位置づけられている点も異なります。
近年では取締役と執行役員を兼務する企業も少なくありません。取締役として戦略を決定し、同時に執行役員としてその実行を担うことで、意思決定と実行の間にギャップが生じるのを防ぎ、迅速な意思決定と実行が可能になります。また、特定の分野に深い知識や経験を持つ取締役が専門性を活かして直接業務に携わることで、より効果的な経営が期待できるでしょう。
ただし両方の役職を兼務することで、業務量が大幅に増え、負担が大きくなる可能性があります。また問題が発生した場合、責任の所在が曖昧になってしまうことも考えられます。
管掌役員との違い
管掌役員とは、その言葉どおり、人事部門や財務部門などの担当する部門を持つ取締役のことです。ただし、会社法において管掌役員に関する定義はなく、単に取締役と登記される点をおさえておきましょう。
管掌役員と取締役は同義であることを前提にすると、管掌役は経営の意思決定を、執行役員は業務執行を担う点が違います。そのほか、会社法上で定義されているかどうか、企業と雇用契約を締結しているか否かという点も異なります。
執行役との違い
本来は取締役会の権限である業務執行の決定と、業務の執行を行うのが執行役です。執行役は会社法上で定義づけられているのに対し、執行役員は会社法で定められていない点が異なります。ただし、いずれも、業務の執行を行う点は共通しています。
相談役との違いについてさらに知りたい方は以下の記事もご覧ください。
執行役員制度とは?意味や目的
執行役員制度を導入する主な目的は、取締役が担う会社経営に関わる職務と、現場の業務執行を切り分けるためです。会社経営と現場の業務執行を明確に切り分けることで、取締役は事業の意思決定に注力でき、効率的かつ円滑な企業経営が可能になります。
1990年代後半から2000年代中頃までの期間に、執行役員制度が普及したとされています。現在では上場企業を中心に、多くの企業に定着している制度といえるでしょう。
執行役員制度のメリット・デメリット
執行役員制度を採用するメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
---|---|
・取締役が経営に注力でき、意思決定が速くなる ・経営人材の育成につながる ・執行役員の賞与は経費に計上できる | ・組織は複雑化する可能性がある ・経営陣と現場の間にギャップが生じる ・立場が曖昧になりやすい |
執行役員制度のメリット
執行役員制度のメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。
- 取締役が経営に注力でき、意思決定が速くなる
- 経営人材の育成につながる
- 執行役員の給与は経費に計上できる
ここまでお伝えしてきたとおり、業務の執行を行う執行役員というポジションを設けることで、取締役が経営に注力できるようになり、意思決定が速くなると考えられます。
経営人材の育成につながる点もメリットです。執行役員は従業員の最上位という位置づけで、経営層と近い立場で業務を行います。それにより、経営的な視点で考える機会も増えるでしょう。執行役員としての経験を積むことで、取締役に就任した際にもスムーズに対応できます。
また、執行役員は従業員の立場であるため、給与のみならず賞与は経費計上が可能です。ほかの従業員と同じように会計処理ができるため、会計における業務負荷が軽減されます。
執行役員制度のデメリット
一方、執行役員制度のデメリットとして考えられるのは、次の3点です。
- 組織は複雑化する可能性がある
- 経営陣と現場の間にギャップが生じる
- 立場が曖昧になりやすい
執行役員制度の導入によって階層が1つ増えることで、組織の重層化が進む可能性はあります。執行役員の設置により専務執行役員や常務執行役員などの役職が増え、それに伴い承認プロセスも増えてしまうケースも散見されます。
経営陣と現場の間にギャップが生じやすい点にも、注意が必要です。執行役員と取締役が職務の切り分けを行うと、経営陣が現場の状況を捉えにくくなる場合があるためです。結果的に、取締役が現場の状況と乖離した経営判断を下したり、執行役員による業務執行の方向性が経営戦略とズレてしまったりするリスクが生じます。
執行役員制度のデメリットとしては、執行役員の立場が曖昧になりやすい点も挙げられるでしょう。たとえば、現場の業務に深く入り込む取締役や経営陣に意見ができる部長・事業部長がいるような場合などは、その存在意義を問われてしまう可能性があります。役職が形骸化し現場に混乱が起きないようにするためにも、それぞれの権限の範囲や役割を明確にしておくことが不可欠です。
執行役員制度を導入する際の手順
執行役員制度を導入する手順は、以下の通りです。
- 執行役員規程の制定
- 執行役員候補者の選定
- 執行役員待遇の決定
- 取締役会議での執行役員選任
- 候補者との契約締結(外部の場合)
➀執行役員規程の制定
執行役員規程の制定とは、会社が執行役員という役職を設ける際に、その役員の権限、責任、報酬、任期など、あらゆる事項を定める規程を作成することです。
具体的には、以下のような項目を詳細に定めます。
- 執行役員の選任・解任の手続き
- 執行役員の職務範囲
- 執行役員への報告義務
- 執行役員の報酬体系
- 執行役員の責任と免責
- 執行役員の兼務の可否
執行役員規程は、会社が執行役員制度を円滑に運用するための「ルールブック」のようなものです。
➁執行役員候補者の選定
執行役員候補者の選定とは、会社が新たな執行役員を選ぶ際に、適任者を探し、決定するプロセスのことです。
具体的には、以下のステップで進めます。
- 会社内で実績のある社員、外部からのヘッドハンティングなど、様々な方法で候補者をリストアップする
- 経験、能力、リーダーシップ、将来性など、執行役員に求められる資質を明確にし、評価基準を設定する
- 候補者との面接を行い、経験やスキル、会社のビジョンへの共感度などを評価する
- 評価結果を総合的に判断し、最終的に執行役員にふさわしい人物を決定する
選定の目的は、 会社の将来を担う人材を選抜し、経営の安定と発展に貢献することです。なお選定にあたっては、透明性と多様性が重視されます。
③執行役員待遇の決定
執行役員待遇の決定とは、会社が執行役員に支給する報酬や福利厚生などの待遇を具体的に決めることです。
具体的には、以下のような項目を決定します。
- 報酬体系:基本給、賞与、ストックオプションなど
- 福利厚生:健康保険、年金、住宅手当、社用車など
- 評価制度:執行役員の業績評価と報酬を連動させる評価制度の設計
- 社内規定:会社全体の報酬体系や福利厚生規定との整合性の確認
決定にあたっては、以下のステップで進めます。
- 同業他社の執行役員報酬を調査し、自社の競争力のある報酬体系を設計する
- 会社の業績や将来性を考慮し、報酬水準を決定する
- 執行役員の貢献度や役割を考慮し、個別化された報酬体系を検討する
執行役員待遇の決定は、会社にとって重要な経営課題であり、執行役員のモチベーション維持や優秀な人材の確保に大きく影響します。
④取締役会議での執行役員選任
取締役会議での執行役員選任は、会社の経営陣を構成する重要な決定事項です。
具体的には、以下のようなプロセスを経て行われます。
- 候補者の選定
- 選任の提案
- 審議と決議
- 職務範囲の決定
- 選任の通知
取締役会議での執行役員選任は、 会社の経営体制を強化し、事業を円滑に進めるために不可欠な手続きです。
⑤候補者との契約締結(外部の場合)
候補者との契約締結とは、採用が決まった候補者と雇用契約を結ぶ手続きです。
一般的には従業員の雇用とほぼ一緒ですが、具体的には、以下の様なステップを踏みます。
- 雇用契約書の作成
- 契約条件の説明
- 契約書の署名・捺印
- 入社手続き
候補者との契約締結は、 会社と候補者の双方にとって重要な手続きであり、入社後の円滑な関係構築に繋がります。
執行役員の権限は?取締役よりも偉い?
執行役員には、経営陣が決定した方針に従い業務を遂行するという権限が与えられています。取締役が持つ、経営に関する重要事項を決定する権限はありません。
ただし、一般的な定義と、各企業における実際の業務内容や責任の範囲が異なることは珍しくありません。そのため、執行役員と取締役のどちらが偉いかを、一概に決めることは困難といえるでしょう。
執行役員の役割
執行役員は、取締役会で決定された現場の業務を執行するリーダーとしての役割を担っています。現場で大きな発言権を持ち、取締役に対して現場の状況を伝える役割も持っているのが一般的です。
ただし、会社法などの法律でその役割を定義付けられているわけではないため、企業によって実際の権限の範囲や業務内容は異なるでしょう。
執行役員の給与体系 – 賞与や各種控除はある?
執行役員は企業と雇用契約を結んだ従業員であるため、ほかの従業員と同様に、社内規程に従って決められた額の給与や賞与が支給されます。一方、取締役に支給されるのは、取締役会や報酬委員会などで決められた役員報酬です。
また、たとえば給与所得控除や、基礎控除や医療費控除などをはじめとした所得控除も適用されます。
報酬については、ストックオプションを導入するというケースもあります。仕組みやメリット・デメリットは以下記事でご紹介しています。
執行役員を解任するときの注意点
執行役員の解任は、雇用契約を結んでおり執行役員の解任後も雇用関係が残るのであれば、通常は労働基準法に抵触する可能性はないと考えられます。
ただし、解任する事由が重大なもので、解雇を伴うものである場合は「解雇予告は解雇の30日前に行う」などの、労働契約の終了に関する基本的なルールに則した対応が必要です。執行役員が企業に与えた損害の大きさや、本人の事情などを一切考慮しない一方的な解雇ではないか、社会通念に照らして解雇理由が不当ではないかなどの確認も怠らないようにしましょう。
執行役員制度の導入に際して権限や役割を正しく理解しておこう
執行役員とは、取締役が定めた経営方針に従い、業務を遂行する役職です。役員という名称がつくものの、会社法上の役員には含まれず、各企業が任意に設置するポジションであることをおさえておきましょう。
執行役員制度を導入する主な目的は、取締役が担う会社経営に関わる職務と、現場の業務執行を切り分けるためです。会社経営と現場の業務執行を明確に切り分けることで、取締役は事業の意思決定に注力でき、スピード感のある企業経営が実現します。
ただし、執行役員制度の導入によって階層が1つ増えることで、組織がより複雑化するリスクもあります。また、執行役員の立場が曖昧になりやすい点にも注意が必要です。執行役員制度の導入に際しては、その権限や役割を整理し、社内で共有しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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