- 更新日 : 2024年12月4日
上場準備における予算管理とは?重要性や流れ、ポイントを解説
上場準備における予算管理とは、収支を予測しその実績を管理・改善するプロセスです。正確な予算管理を行うことで決算内容の報告がスムーズになり、長期的な経営計画の策定や業績評価が容易になります。
本記事では、上場準備に必要な予算管理の重要性や流れを解説します。
目次
上場準備における予算管理とは
はじめに、上場準備における予算管理の基本について解説します。
予算管理の意味
予算管理とは、企業が一定期間における収入や支出を予測し、その実績をモニタリングしながら管理するプロセスを指します。予算と実績の数値を比較し、その差が生まれた理由を分析することが重要です。
予算管理が求められる制度
原則としてIPO準備企業は、中長期の経営計画に基づいて1年分の月次予算を策定し、取締役会で承認を得る必要があります。この際に、市場環境やリスクを考慮した合理的な予算設定と、月次での予算・実績の差異分析や改善が重要となります。
では、具体的にどの程度の精度が求められるのでしょうか?
上場企業では、売上高で概ね±10%、利益で概ね±30%の乖離が生じることが判明した場合、速やかに業績予想の修正を開示する必要があることから、IPO準備企業でもこの規制に準じた管理体制が必要であると考えられます。
予算管理に着手するタイミング
予算管理に着手するタイミングは、上場準備の初期段階であることが理想的です。
なぜならば、スケジュールに余裕を持って組織体制の構築やルールの設定を行うことで、各部門の数値をスピーディーかつ正確に集計し、予算管理の精度を高めることが可能となるためです。
また上場準備を進める中で、新たなコストや予期せぬ支出が発生する事態も想定されることからも、早期の着手をおすすめします。
具体的には、遅くともn-1期(直前期)までには予算管理体制を整備しておくことが重要です。そのためには、組織体制構築やルール設定などの事前準備をn-3期(直前々々期)から行うことが望ましいでしょう。
上場準備における予算管理の重要性・目的
上場準備において、予算管理を行う重要性・目的は以下の3点です。
上場時に決算内容を報告しやすくなる
予算管理を徹底することで、決算内容の報告がスムーズに行えます。投資家や規制当局は、企業の財務状況を正確に把握するために詳細な決算報告を求めます。適切な予算管理は、これらの報告を正確かつ迅速に行うための基礎となります。
IPOを実施した後は、株主に対して定期的に決算報告を行う必要があります。また、次期業績(売上高や利益など)の予想を開示することも必要です。
そして実績数値が予想から大きく乖離した場合、速やかに業績予想の修正を行うための手間が発生してしまいます。
上場準備中から予算管理を徹底することで、決算内容の報告をスムーズかつ正確に行えるようになるため、上記の手間を回避しやすくなるでしょう。
長期的な経営計画を立てやすくなる
予算管理は、企業の長期的な経営計画の策定にも役立ちます。
上場後の持続的成長を目指すには、短期的な収支の把握に加えて、中長期的な財務戦略の策定が重要です。予算管理により将来の収支の見通しが立てやすくなり、適切な事業投資が可能になります。
また投資家としても、長期的な予算・経営計画が明確であることで、投資に踏み切りやすくなります。つまり、より一層自社に対する株式投資を促す効果も期待できるのです。
業績評価や業績向上案の策定につながる
予算と実績の差異を分析することで、各事業所や部門の業績を可視化し、合理的な評価を下しやすくなります。また、目標達成状況や改善点も明確になり、課題解決に向けた具体的な対応案を決定することにも役立ちます。結果として、予算の範囲内で効率的に業績を向上させやすくなります。
上場準備における予算管理の流れ
上場準備における予算管理は、一般的に以下の流れで進めていきます。
- 予算の設定
- 予算と実績の差異チェック
- 改善の実施
以下で、それぞれの流れを詳しく解説します。
手順1:予算の設定
まず、企業全体および各部門ごとの予算を設定します。予算の対象には売上、利益、原価、経費、キャッシュフローなどが含まれます。予算の種別としては、当初予算と着地見込を設定します。
市場の状況や競合他社、過去実績などをもとに、合理的かつ具体性のある数字を導き出すことが重要です。また、経営陣や各部門長が設定した予算を精査することも必要です。
手順2:予算と実績の差異チェック
予算を設定した後は、定期的に実際の収支と比較し、その差異を確認します。
月次や四半期単位で細かくチェックすることで、予測どおりに進行しているか、予算を上回る支出が発生していないかをチェックできます。差異が大きい場合はその原因を迅速に特定し、必要な対策を講じます。差異が生じる原因としては、一般的に販売・仕入単価や販売量の変化などが挙げられます。
上記の業務は、会計・経理システムを導入し、人為的な作業を減らしてデータを参照することで効率的に進めることができます。
手順3:改善の実施
差異分析の結果に基づき、改善策を迅速に実施します。改善策は、経営陣による会議や専門家によるアドバイスをもとに立案することが一般的です。
具体的な改善策としては、予算オーバーの原因を解消するためのコスト削減や、収益増加を目指した新たな施策導入などが挙げられます。
差異が生じている項目(売上予算や原価予算など)によって必要となる改善策は異なるため、状況に応じた対応が求められます。また、継続的に改善策を見直し、その効果をモニタリングしながら進めることも重要です。
上場準備における予算管理を成功させるポイント
最後に、上場準備における予算管理を成功させる4つのポイントを解説します。
ポイント1:経営計画と連動させる
予算管理を成功させるためには、企業の経営計画と連動させることが不可欠です。経営計画に基づいて予算を設定することで、企業の目標達成に向けた具体的な行動計画が明確になります。また、より優れた経営戦略の策定にもつながります。
ポイント2:責任の所在を明確にする
予算管理を効果的に行うためには、各部門および担当者の責任範囲を明確にすることが重要です。予算設定時には、部門ごとに具体的な目標を設定し、その達成に係る責任者を明確にします。これにより、各部門が主体的に予算管理を行い、企業全体での予算達成に向けた協力体制が整います。
また、目標利益と現状の乖離が生じた場合に備えて、担当者がどのような行動を取るべきかを明確化しておくことも大切です。そうすることで、不測のケースにも円滑に対処しやすくなるでしょう。
ポイント3:迅速に分析や改善を行う
予算と実績の差異が発生した場合には、迅速に分析を行い、適切な改善策を講じることが求められます。遅れが生じると問題が深刻化し、修正が困難になる可能性があるためです。定期的なモニタリングと迅速な対応を徹底することで、予算管理の精度を高めることにもつながるでしょう。
ポイント4:ITツールで効率的に管理する
予算管理ソフトウェアや財務管理システムを導入することで、リアルタイムでのデータ収集・分析が可能となり、予算と実績の差異を迅速に把握できます。
また、これらのツールを活用することで、手作業によるミスを防ぎ、管理業務の効率化も図ることができます。
導入するITツールに関しては、「カスタマイズ・修正のしやすさ」、「予算管理に直結する機能の豊富さ」、「内部統制に関する対応可否(入力データを承認する機能の有無など)」といった基準で、比較検討することがおすすめです。
まとめ
上場準備における予算管理は、IPOを目指す企業の財務状況を正確に把握し、透明性を確保する上で重要なプロセスです。
適切な予算管理により、上場審査への対応を円滑に行えるだけでなく、上場後の持続的な成長にもつながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
ESGにスタートアップが取り組むメリットや課題、事例を解説
ESGとは、環境、社会、ガバナンスの各要素を重視する経営スタイルです。ESG経営により、スタートアップは「投資家からの評価獲得」や「売上増加」などのメリットを期待できます。本記事では、ESGとCSRの違いやメリット・課題、実施する際のポイン…
詳しくみる第三者割当増資とは?目的や手続きの流れ・事例をわかりやすく解説
企業が成長するためには、資金の調達が重要です。その中でも、企業と関わりのある第三者から資金を調達する第三者割当増資があります。第三者割当増資を利用すると資金調達できますが、手法を利用する目的や手続きの流れについてなどわからない点もあるでしょ…
詳しくみるIPO前に意識すべき時価総額について解説
IPOにおいて、「時価総額」は企業の規模や成長性を測る上で重要な指標の1つであり、投資家の投資判断に大きな影響を与えます。この時価総額について、正しく理解できていない方や、どのように活用したらよいのかいまひとつわかっていないという方も少なく…
詳しくみるシリーズBとは?資金調達における定義や投資ラウンドについて解説
シリーズBは、スタートアップの成長を支える資金調達プロセスの一環です。この段階での資金調達は、事業の拡大と安定化を目指す企業にとって重要なステップです。 本記事では、シリーズBの定義、資金調達方法、および他の投資ラウンドとの関係性について、…
詳しくみる少人数私募債とは?公募債や私募債との違い、メリット、デメリット、制限事項、発行の流れを解説
「少人数私募債」とは、少人数の投資家を対象に、特定の条件下で発行手続きが簡素化された社債の一種です。中小企業には銀行からの融資や一般の社債発行が難しく感じられる場合も少なくないため、注目を集めています。 そこでこの記事では、少人数私募債の特…
詳しくみるグローバルオファリングを活用したIPOとは?メリットや事例から見る成功のポイントを解説
グローバルオファリングとは、株式や債券等の有価証券を国内のみならず、米国市場やユーロ市場などで同時に募集、売出すことです。 IPO時にグローバルオファリングを実施することで、大規模な資金調達の成功が期待できます。 しかし、海外での投資勧誘活…
詳しくみる