- 更新日 : 2024年7月12日
中小企業において内部統制が重要な理由3つ|進め方をわかりやすく説明
内部統制は法律で定める大企業、上場企業に義務化されています。しかし、対象外の企業も内部統制を構築しても何ら問題はありません。むしろ中小企業が内部統制を整備することで、企業の成長を促進できる可能性があるのです。
本記事では、中小企業に内部統制が義務化されていない理由や内部統制の重要性、進め方を解説します。
目次
内部統制とは

内部統制とは、企業が事業活動を健全に、また効率的に運営するために必要とされる仕組みです。金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」によって定義されていますが、以下のように定義されています。
(引用:金融庁 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準)
なお、よく混同されるものに「コーポレートガバナンス」があります。内部統制が経営者を含めた全社員が対象なのに対し、コーポレートガバナンスは株主や取締役会が経営者を監視する仕組みです。不正や暴走を防ぐためのものですが、内部統制とは監視者・対象者が異なります。
内部統制の詳細について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
中小企業は内部統制が義務化されていない

内部統制は、会社法・金融商取引法で以下の企業に義務付けられています。
上記以外の企業は各自の判断で内部構成を構築・運用することになります。やらなくても罰則はありませんが、内部統制を実施することで得られるメリットは非常に多く、何よりも企業の成長につながる可能性もあるでしょう。実施するかの最終判断は企業側の決断で決まりますが、特に理由がなければ内部統制の構築をおすすめします。
会社法における内部統制の詳細について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
内部統制とコンプライアンスの違い

内部統制とよく似たものに「コンプライアンス」があります。コンプライアンスは全従業員が遵守すべき決まりのことであり、直訳すると「法令順守」です。実際には倫理規範や就業規則まで含まれますが、内部統制と同じ意味ではありません。とはいえ完全に無関係なのではなく、コンプライアンスを遵守することで内部統制の強化につながります。
コンプライアンスとの違いについて詳細を知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
中小企業における内部統制の重要性

中小企業において内部統制が重要と言われている理由は、以下の3つです。
- 経営者の監視の負担を軽減できる
- 取引先に透明性をアピールできる
- 企業価値を向上できる
企業であれば大小を問わず重要なポイントもありますが、中小企業ならではのメリットもあります。詳しく見ていきましょう。
経営者の監視の負担を軽減できる
中小企業で内部統制を実施することで、経営者が従業員を監視する負担を解消できます。一般的に中小企業では内部の監視を経営者自身が行っているケースも少なくありません。しかし、経営者一人ですべてを監視し、対処することは不可能でしょう。
また、会社規模が大きくなると監視する人数が多くなるため、経営者の負担はさらに増加します。これらの問題を解決するのに、内部統制は非常に有効です。内部統制は大手のものと考えず、経営者の負担を軽減するための優れた制度であると考えましょう。
取引先に透明性をアピールできる
内部統制を実施していると、取引先に対して透明性をアピールできます。ここで言う透明性とは、企業内での業務の動きが明確になっていることを指します。ブラックボックスになっている部分がないため、言い換えればクリーンな経営ができている証拠となるのです。
あわせて取引先が上場企業の場合、「品質」「価格」「納期」といった基本的な要件に加え、内部統制が十分できているかを問われることも珍しくありません。取引先との信頼関係構築のためにも、内部統制は実施しておくのはおすすめです。
企業価値を向上できる
企業価値を向上できるのが、内部統制を整備するメリットでもあります。取引先との関係に重点を置く守りの内部統制と捉えられることもありますが、自社の企業運営を見直して成長するための攻めの内部統制と認められることもあるのです。
例えば、棚卸の実数を照合する際に正確な財務諸表を作成して管理するのが重要です。攻めの内部統制ではさらに踏み込んで、適切な在庫数にするための販売戦略の構築や販売を策定します。結果、キャッシュフローの改善につながるため、企業価値を向上できるのです。
中小企業における内部統制の進め方

中小企業における内部統制の進め方は、以下のとおりです。
- 評価範囲を選定する
- 整備状況を把握する
- 運用状況を評価する
- 決算・財務報告プロセスを評価する
- 不備を検討する
それぞれどのようなことを行うのかを詳しく解説します。
①評価範囲を選定する
まずは評価範囲を選定する必要があります。選定にあたっては、直近の期末決算における実績値と次年度の予測値に基づき、次の項目を分析しなければなりません。
- 各拠点および各勘定科目の量的(金額的)な重要性
- 各拠点および各勘定科目の質的(項目的)な重要性
評価範囲を選定する際、拠点であれば対象をグループ全体の売上高で95%に入らない箇所を除外します。また、質的な重要性も含めて検討し、評価範囲を決定しましょう。
勘定科目では、売上と売掛金、棚卸資産の3種類を含めるのが一般的です。企業によっては見積りや非定型取引などを含める場合もあります。評価範囲の選定は以下の流れで行いましょう。
- 重要性の低い拠点を除外する
- 重要な拠点を選定する
- 重要な勘定科目の範囲を策定する
- 個別評価科目を追加選定する
②整備状況を把握する
整備状況の評価とは、内部統制に関する規程や手順書、体制などを整えることです。内部統制が会社内に整備されていなければ作成する必要があります。調査段階でどの程度内部統制が整備されているかを評価するフェーズと考えればいいでしょう。
評価方法は、文章でリスクを低減できているかを確かめ、実際に統制活動が行われているかをウォークスルーなどでチェックします。ウォークスルーとは取引開始から財務諸表への記載に至るまでの過程を帳票上で追跡する方法です。このほかの方法として、従業員へ質問をしたり、観察したりする方法もあります。
③運用状況を評価する
運用状況の評価は、内部統制に関する承認や決裁・チェックといった運用が、文章に定めたとおりかどうかを評価するフェーズです。また、必要に応じれ内部統制が適用されているかのチェックも、運用状況の評価に該当します。
代表的な評価方法はサンプリングテストです。内部統制上特に重要と判断された箇所をサンプルとして使用し、総合的に評価を下します。監査法人に依頼もできますが、経営者が実施しなければならないパターンもあるでしょう。監査法人と協議のうえ、サンプル件数や抽出方法、サンプリング方法を決めましょう。
④決算・財務報告プロセスを評価する
決算・財務報告プロセスとは、経理部門が主となって担当する決算業務において不正などがないかを確認することを言います。「決算統制」とも呼ばれており、評価範囲は以下の6点です。
全社的な観点 個別の観点
なお、評価には全社的観点の項目に対してはチェックシートを、個別観点の項目では3点セットを使用します。3点セットはフローチャートと業務記述書、リスクコントロールマトリックスを総称した言葉で、内部統制には欠かせない書類です。
⑤不備を検討する
内部統制の評価で不備が見つかった場合、その不備が整備上のものなのか運用上のものなのかを判断し対処しなければなりません。不備があるということは内部統制に問題がある裏返しです。放置してしまっては内部統制が破綻してしまう可能性もあるため、迅速に対応しましょう。
また、不備の中には「開示すべき重要な不備」と呼ばれるものがあります。投資者に対して行うもので、内部統制上、誤った財務報告を行う可能性が高いことを指します。無用な混乱を避けるためにも、重要な不備が見つかった場合は情報を開示するとともに対策をしましょう。
まとめ
中小企業に対して内部統制は義務化されていませんが、社会的には取り組む企業も増加傾向にあります。メリットも多く、経営者や従業員にとっても利益があることであるため、ぜひ導入に向けて動き出してみるといいでしょう。運用は大変かもしれませんが、監査法人などのサポートを付けて取り組めば、早期で運用できるようになるかもしれません。
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よくある質問
中小企業の内部統制は義務?
内部統制は、会社法・金融商取引法で以下の企業に義務付けられています。
- 有価証券報告書の提出が必要な上場企業
- 資本金5億円以上または負債額200億円以上の大企業
中小企業が内部統制をおこなうメリットは?
中小企業が内部統制を実施するメリットは、以下の3つです。
- 経営者の監視の負担を軽減できる
- 取引先に透明性をアピールできる
- 企業価値を向上できる
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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