- 更新日 : 2024年7月12日
ストック・オプションの会計処理はどうやる?時系列で仕訳を紹介
近年、ストック・オプションを導入し従業員や役員に付与することで、業績の拡大を目指している会社があります。しかし、なかには会計処理や税務処理が複雑で、導入を見送っている企業もあるでしょう。
本記事では、ストック・オプションとは何かについてと付与や行使・および失効に際しての仕訳方法、税務処理について解説します。ストック・オプションや、会社で導入されているけど仕訳方法に疑問を持っている人は参考にしてください。
目次
ストック・オプションとは
ストック・オプションとは、会社が従業員および取締役に対して会社の株式をあらかじめ定めた価格(権利行使価格)を期間内に行使して株式を取得する権利を与える制度で、新株予約権の一種です。
例えばストック・オプションの対象者に、「今後3年間であればいつでも1,000円で500株まで購入できる」権利を与えた場合、その後会社の業績が伸びて1株2,000円になっても対象者が権利を行使すれば、1株あたり1000円で株式を取得できます。その結果、最大(2,000円-1,000円)×500株=50万円の収入が得られるようになるのです。
ストック・オプション制度を導入することにより、会社として以下のメリットがあります。
- 社外関係者との関係を長期的に築ける
- 株式の持分比率が下がっている経営陣に向けて持分の回復ができる
- 権利を付与された従業員にリスクがない
ストック・オプションの詳細は「ストックオプションとは?発行前に知っておきたい仕組みやメリットを徹底解説!」を参考にしてください。
ストック・オプションの会計処理を時系列で紹介
ここでは、具体的な数字を示して会計処理を時系列で説明します。
仕訳が必要となるタイミングは、主に以下の通りです。
- ストック・オプションを付与したときの会計処理
- ストック・オプションの権利が行使されたときの会計処理
- ストック・オプションの権利が失効したときの会計処理
なお、株主や投資家が特定の権利を受け取るための権利確定日に、その権利を実際に受け取るかどうかはわからないため、会計処理は行うとは限りません。
本記事で使用する数値は以下のとおりとします。
対象者 | 50人 |
評価単価 | 1,000円 |
ストック・オプションの権利行使価額(1株当たり) | 2,000円 |
ストック・オプションを付与したときの会計処理
会社がストック・オプションを付与した時の仕訳は、次のとおりになります。
借方 | 貸方 |
(株式報酬費用)50,000円 | (新株予約権)50,000円 |
ストック・オプションは、従業員や役員の給与の前払いと判断できるため、株式報酬費用という費用の勘定科目で仕訳をします。
株式報酬費用の計算方法は、評価単価に対象人数をかけた合計となります。この場合、評価単価1,000円×対象者50人=50,000円となり、借方には費用勘定の株式報酬費用として、貸方には資本勘定の新株予約権を勘定科目として起票してください。
ストック・オプションの権利が行使されたときの会計処理
対象者50人中20人が行使した場合、以下のように会計処理を行います。
借方 | 貸方 |
(当座預金)40,000円 (新株予約権)20,000円 | (資本金)60,000円 |
対象者20人がストック・オプションの行使価額2,000円で行使したと仮定すると、対象者が会社に払い込む金額は2,000円×20人=40,000円となり、会社の資産勘定である当座預金が40,000円増加します。
また、借方に対象者20人がストック・オプションを行使したことで、資本勘定の新株予約権が減少した分を起こさなければなりません。この場合、1,000円×20=20,000円を借方に新株予約権20,000円を起こす必要があります。
貸方には借方の当座預金と新株予約権の合計額、つまり40,000円+20,000円=60,000円を資本勘定の資本金に振り替えなければなりません。
なお、権利行使までに退職予定の人がいる場合は、退職者を除いた人数で計算する必要があるため、注意してください。
ストック・オプションの権利が失効したときの会計処理
ストック・オプションの権利行使期間が過ぎ、権利が失効したときの仕訳についても解説します。なお下表の数値と計算式は、先に出てきた権利行使をした従業員以外の30人が、権利を行使しなかったと仮定した場合です。
借方 | 貸方 |
(新株予約権)30,000円 | (新株予約権戻入益)30,000円 |
対象者30人がストック・オプションの権利行使を行わなかったため、貸方にある資本勘定の新株予約権(1,000円×30人=30,000円)が失効します。そのため、借方に新株予約権30,000円を起こすことにより、貸方の新株予約権を相殺するのです。
貸方には収益勘定である「新株予約権戻入益」を起こします。これは、当初費用勘定として「株式報酬費用」を起こし費用計上していたものの、実際には費用として20,000円しか使われていなかったためです。そのため、収益勘定の「新株予約権戻入益」を計上し、使われなかった費用を戻し入れしなければなりません。
非上場企業における評価単価の計算方法
非上場企業では、評価単価の計算が必要になります。その理由として挙げられるのが、非上場企業は株式市場での公開情報が限られていることです。株式市場での公開情報が限られていることで、ストック・オプションの公正な評価額について信頼性を保って見積もることが困難となります。
そもそも企業の評価は、企業の経済的価値を理解し、その価値を数値化するプロセスです。この評価では、企業の財務データや将来の予測などが会計基準に基づいて評価され、結果として「単位当たりの本源的価値」を導き出します。
つまり、「単位当たりの本源的価値」は、会計基準に基づいて企業の評価が行われる際に導き出される評価指標の一つと考えることができるのです。
「単位当たりの本源的価値」とは、算定時点にストック・オプションが権利行使されるとみなされた場合の単位当たりの価値のことを指します。
計算方法は、以下の通りです。
ストック・オプションの本源的価値ー自社の株式の評価額=行使価格の差額
ぜひ参考にしてみてください。
【ケース別】ストック・オプションの税務処理
ストック・オプションは、税制適格要件を満たすか否かで次の2種類に分けられます。
- 税制適格ストック・オプション
- 税制非適格ストック・オプション
それぞれの税務処理方法が異なるため、以下で詳しく解説します。
税制適格ストック・オプションの税務処理
税制適格ストック・オプションとは、付与者が権利行使し株式を取得したときに発生した利益に対する課税が、株式売却時まで繰り延べ(先送り)できる制度です。つまり、税制適格ストック・オプションでない税制非適格ストック・オプションの場合、付与者はストック・オプションを行使したときに発生する利益および株式売却に発生する利益の両方に所得税がかかってきます。
※令和6年度の所得税については、定額で減税される特別控除が実施されます。詳しくは下記記事を参考ください。
適用条件
税制適格ストック・オプションとして認められるためには以下の条件をクリアしなければなりません。
【税制適格ストック・オプションの適用条件】
1.ストック・オプションの取得者にかかる要件
付与対象者 | 自社および関連会社の取締役・従業員、およびその相続人(監査役不可)。社外人材でも適用可能な場合もある |
所有株式数 | 非上場の場合は発行済株式の3分の1を超えない。上場の場合は10分の1。 |
2.ストック・オプションの発行内容および行使の要件
権利行使期間 | 付与決議日の2年~10年後 |
権利行使価格 | 契約締結時の時価≦行使価格 |
権利行使価額の制限 | 権利行使価額が年間で1200万円を超えない |
譲渡制限 | 他人への譲渡禁止 |
発行形態 | 無償 |
3.ストック・オプションのその他の要件
株式の交付 | 会社法に反しないこと |
保管・管理等の契約 | 証券会社等と契約していること(付与時は不要) |
その他の事務手続き | 法定調書、権利者の書面等の提出(権利行使時) |
従業員にストック・オプションを付与する場合、税制適格ストック・オプションになるよう設計するのが一般的です。税制適格ストック・オプションにすることで、税制面で優遇を受けることができるためです。
課税・損金算入のタイミング
権利を付与された従業員にかかる課税タイミングと会社の損金算入タイミングは以下のとおりです。
付与者の課税タイミング | 会社の損金算入タイミング | |
---|---|---|
ストック・オプションを付与したとき | 課税なし | 損金算入しない |
ストック・オプションの権利を行使したとき | 課税なし | 損金算入しない |
取得した株式が売却されたとき | 課税あり(譲渡所得) | なし |
例えば付与者が50万円の時価株式をストック・オプションにより20万円で取得し、70万円で売却した場合は次のとおりになります。
- ストック・オプションの権利を行使したとき
株式時価50万円-取得価額20万円=30万円となり、利益は出るものの税制適格ストック・オプションの場合は課税なし。 - 取得した株式を売却したとき
売却価格70万円-株式取得価格20万円=50万円となり売却益である50万円が譲渡所得として課税対象となる。
会社としての税務処理は一切なく、権利を行使した従業員が株式を売却した際に発生した売却益に対して課税されるのみです。税制適格を受ける基準が厳しい反面、従業員・会社にとってもメリットが大きいストック・オプションと言えます。
税制非適格ストック・オプションの税務処理
税制非適格ストック・オプションとは、付与者がストック・オプションを行使した時に発生する利益、および株式売却に発生する利益の双方に所得税がかかってきます。
権利を付与された従業員にかかる課税タイミングと会社の損金算入タイミングは次のとおりです。
付与者の課税タイミング | 会社の損金算入タイミング | |
---|---|---|
ストック・オプションを付与したとき | なし | 損金算入しない |
ストック・オプションの権利を行使したとき | 課税あり(給与所得) | 損金算入する |
取得した株式が売却されたとき | 課税あり(譲渡所得) | なし |
先の例と同様に、税制非適格ストック・オプションで付与者が50万円の時価株式をストック・オプションにより20万円で取得して70万円で売却した場合、次のとおりになります。
- ストック・オプションの権利を行使したとき
株式時価50万円-取得価額20万円=30万円となり、利益である30万円が給与所得として課税対象となる。 - 取得した株式を売却したとき
売却価格70万円-ストック・オプション行使時の株式の時価50万円=20万円となり、売却益である20万円が譲渡所得として課税対象となる。
つまり、税制非適格ストック・オプションでは、ストック・オプションの権利行使時(給与所得)および株式売却時(譲渡所得)の二度、課税されます。また、会社としても権利行使された際には損金算入をしなければなりません。
注意する点として、ストック・オプションを行使して得た株式を長期間保有する場合、権利行使時に発生した給与所得に対する納税資金を株式売却資金以外から調達する必要があります。
まとめ
ストック・オプションとは新株予約権の一種で、会社が従業員および取締役に対して会社の株式をあらかじめ定めた価格(権利行使価格)を期間内に行使して株式を取得する権利を与える制度のことです。ストック・オプションの会計処理は、ストック・オプションを「付与したとき」「権利が行使されたとき」「失効したとき」の3つタイミングで行われます。
非上場企業では、株式市場での公開情報が限られているため、以下の評価単価の計算が必要です。
計算式:ストック・オプションの本源的価値ー自社の株式の評価額=行使価格の差額
また、税制適格要件を満たすか否かで、税制適格ストック・オプションと税制非適格ストック・オプションの2種類に分類されます。ストック・オプションの会計処理について正しく理解し、仕訳を行うようにしましょう。
よくある質問
ストック・オプションの会計処理が必要なタイミングはいつ?
ストック・オプションの会計処理が必要なタイミングに次の3つのケースがあります。
- ストック・オプションを付与したとき
- ストック・オプションの権利が行使されたとき
- ストック・オプションの権利が失効したとき
ストック・オプションの仕訳はどうすればよい?
ストック・オプションの仕分けは、付与・権利行使時・権利失効時で次のように分かれています。
【ストック・オプションを付与したとき】借方 | 貸方 |
(株式報酬費用)××× | (新株予約権)××× |
【ストック・オプションの権利が行使されたとき】借方 | 貸方 |
(当座預金)××× (新株予約権)××× | (資本金)××× |
【ストック・オプションの権利が失効したとき】借方 | 貸方 |
(新株予約権)××× | (新株予約権戻入益)××× |
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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