- 作成日 : 2024年11月11日
IPOの監査とは?段階ごとの監査内容や監査の役割を解説
IPOを目指す企業にとって、監査法人の役割は極めて重要です。
監査法人は、財務情報の正確性を確認し、内部統制や経営管理体制が適切であるかを評価します。IPO審査通過後も、上場企業としての透明性と信頼性を保つため、監査は欠かせません。
また、監査は企業の成長戦略を支える重要なサポート役でもあります。本記事では、IPOプロセスにおける監査内容や監査の役割を詳しく解説します。
目次
IPOにおける監査法人の重要性
IPOにおいて監査が必要である理由や、監査法人が果たす役割を解説します。
監査が必要となる理由
証券取引所の上場審査基準では、IPOに際して、公認会計士や監査法人による「会計監査」によって財務諸表の正確性を保証することが求められています。会計監査とは、直近2期分の財務諸表について、監査が適正かつ法令に準拠して作成されているかを確認するプロセスです。
また、監査法人は内部統制の設計や運用の評価も行い、必要に応じて改善点を指摘します。上場準備段階で早期に信頼できる監査法人を選ぶことは、財務諸表や内部統制の整備に有利に働きます。
参考:日本取引所グループ「上場審査基準」
監査の役割
監査には「監査証明業務」と「非監査証明業務」の2つの役割があります。
監査証明業務は、財務諸表に対して独立した検証を行い、信頼性や正確性を保証するものです。金融商品取引法や会社法に基づき、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、株主資本等変動計算書を総合的に検証し、財務状況や業績が正しく報告されているかを確認します。
非監査証明業務は、監査証明以外の業務効率やリスク管理を支援する業務です。アドバイザリー業務としては、業務プロセス改善やリスク管理の強化、ITシステム導入支援などが含まれます。また、税務計画や申告の支援、内部統制の強化に対する助言も行います。
IPOにおける監査内容
IPO準備で監査法人が実施する監査内容を4つに分けて解説します。
財務諸表の監査
上場前の2期分の財務諸表について、重大な虚偽表示がなく、適用される会計基準に従った、正確で信頼できるものであるかを確認するプロセスです。結果は監査報告書としてIPO申請時に提出されます。
監査人は取引記録や契約書、帳簿などの証拠を収集し、財務諸表の項目が適正に処理されているかを検証します。IPOに際しては、未上場企業での税務会計から上場企業の企業会計に移行する必要があり、監査は収益認識や資産・負債の測定基準について指導を行います。
内部統制の監査
内部統制報告制度への対応や内部統制システムが適切に設計・運用されているかを確認するプロセスです。監査人は内部統制の設計評価を行い、リスク管理、業務プロセス、財務報告の各領域におけるコントロールが合理的かどうかを確認します。
そして、内部統制が実際に運用されているかを評価し、その実施状況を調査します。この調査結果から内部統制が期待通りの効果を上げているかを評価し、不備や改善点が見つかれば、修正提案を行います。
経営管理体制の監査
経営層が効果的な経営戦略を策定し、その実行を適切に管理・監視しているかを評価するプロセスです。経営戦略が現実的な目標を持ち、収益予測やコスト管理が適切かを確認します。
また、経費精算や承認プロセスなどの社内規定の遵守状況を評価し、労働法や環境規制、倫理規定もチェックします。最後に、内部監査制度の有効性を評価し、企業全体の経営の健全性や透明性を確保することで、持続的な成長を目指します。
予算管理体制の監査
予算の策定、実行、管理を適切に行っているかを確認するプロセスです。予算策定プロセスでは、まず売上や利益、原価の根拠や前提条件の妥当性を評価します。次に、月次や四半期ごとに実績と予算を比較し、差異を分析して、予算がどれだけ適切だったかを評価します。
その後、実績の変化に応じた予算修正の方法を検証し、その合理性を確認します。
事業年度別の監査の役割
直前々々期:ショートレビュー
IPO準備の開始時点で受ける監査法人による予備監査や短期調査は、初期の問題把握とIPO準備の進捗確認が目的です。まず、過去の財務諸表が適切な会計基準に基づいて作成されているか、税務会計から企業会計への移行準備が進んでいるかを評価します。
次に、内部統制の整備がまだ不完全なことが多いため、その状況を把握することが重要です。
最後に、内部監査制度や業務プロセスの問題点を早期に発見し、後続の管理体制強化に向けた改善策を提案します。
ショートレビューについては以下記事でも詳細に解説しています。
直前々期:管理体制の整備
IPO後に求められる透明性や信頼性を確保するため、利益管理体制、組織運営体制、内部統制体制を整備・強化します。
利益管理体制では、予算編成プロセスや利益計画を整備し、適時に調整を行って業績管理の精度を高めます。
組織運営体制では、稟議制度や承認プロセス、会計処理、取引先管理、コンプライアンス規程を整備し、法令遵守を強化します。
内部統制体制では、業務プロセスの標準化やフローの見直しを行い、特に財務や経理の透明性と効率性を確保します。
直前期:管理体制の運用
内部統制やリスク管理、財務報告の適正性を確認する段階です。監査は、内部統制システムの実行状況を評価します。
- 内部統制の実施:経理処理がルールに基づいて行われているか
- リスク管理の強化:財務リスクへの対応策が機能しているか
- 内部監査の機能強化:ガバナンス体制が適切に機能しているか
- 法令遵守:法令や業界規則の遵守が確実に行われているか
- ガバナンス体制:取締役会や監査役会などガバナンスが適切に機能しているか
- ITシステムの運用:財務報告や業務処理の自動化が適切に行われているか
申請期:本格的な運用
IPO準備段階では、企業の管理体制の適切な運用を続け、株主や投資家の信頼を得ることが重要です。監査では、上場申請に必要な条件が整っているかを最終確認します。
財務報告の正確性や内部統制の適切な機能を再検証し、上場後の安定した経営を証明します。また、証券取引所や規制当局の基準に沿った報告が行われていることも確認し、信頼性の高い情報を提供します。
IPO後:監査の継続対応
継続的な監査対応は、IPO後も法令や規制を遵守し、正確な財務報告、適切な内部統制を行うために不可欠です。
定期的な監査を通じて、内部監査部門や経理部門の強化、リスク管理の見直しを行い、ガバナンス体制を継続的に整備する必要があります。
具体的には、財務プロセスの効率化や不備指摘の改善、リスク管理体制の強化、内部監査の定期実施によって、リスクや不備を早期に発見し、適切な対策を講じることが求められます。
まとめ
この記事では、IPOプロセスにおける監査の重要性、具体的な監査内容、年度ごとの役割について詳しく解説しました。
IPOを目指す企業にとって、監査法人は不可欠です。監査法人は財務情報の正確性を確認し、内部統制や経営管理体制の適正性を評価します。IPO審査通過後も、上場企業としての透明性と信頼性を確保するため、定期的な監査が求められます。また、監査は企業の成長戦略を支える重要な役割も果たします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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