- 更新日 : 2024年7月24日
ショートレビューでよくある指摘事項とは?【テンプレート付き】
これから上場したいと考えている株式会社は、上場のための監査のことを考慮して、上場基準に合わせた経営を行う必要があります。ただ、基準に合わせるにあたり、現在の経営について具体的にどの部分を改善すべきなのかがわからないという場合も多いのではないでしょうか。
そこで、上場のために必要な改善点や指摘事項をはっきりさせるためにも「ショートレビュー」を受けることが重要となってきます。今回は、企業の上場準備担当者ならば押さえておきたいショートレビューについて詳しく解説していきます。
目次
ショートレビューの概要
ショートレビューとは、株式上場を希望する企業が上場に向けての課題をはっきりさせるために受ける調査のことです。「予備調査」「短期調査」「クイックレビュー」とも呼ばれており、監査法人や公認会計士事務所などが行います。現地での調査、企業の担当者への聞き取り調査を2日~1週間程度で行うのが一般的です。調査後は、1週間程度で報告書を受け取ります。費用は調査の範囲にもよりますが、100万円台~400万円台を見ておきましょう。
ショートレビューでは、会社組織や内部管理体制が現時点でどのような状態かを確認します。さらに財務基盤について、関係会社や取引先との取引状況も調査されます。この時点で上場基準を満たしていない部分があれば、改善案を検討し、いつまでに修正できるかを決めていくのです。
ショートレビューの報告書には主に以下の内容について記載されています。
- 調査概要
- 会計処理基準の件
- 貸借対照表・損益計算書の個別勘定について
- 経営計画や管理体制について
- 社内規程の整備状況
- 内部監査制度の整備状況
- ディスクロージャー体制の現状
- 株式上場までに行う準備およびスケジュール など
改善すべき点が具体的にわかれば、修正までの道筋が見えてきます。そうすると「いつ上場できるのか」という時期まではっきりと決めることができるようになるはずです。
また、ショートレビューの報告書は、上場の手助けをする幹事証券会社から提出を求められることもあります。報告書がないと幹事を引き受けない証券会社がある点から考えても、上場を考える企業がショートレビューを受けることは必須であるといえるでしょう。
ショートレビューを行う時期はいつ?
上場をするためには、幹事証券会社や上場する証券取引所による審査がありますが、その際は2期(2年)分の会計監査が行われます。そのため、ショートレビューを受けるのであれば、上場を希望する時期の3期ほど前に行うのがベストなタイミングといえます。
ショートレビューを受けた後は、指摘された点を改善するために、社内に上場準備専任の従業員を配置した「上場準備室」や、プロジェクトチームなどをつくるのが一般的な流れです。
ショートレビューで指摘されやすいポイント
ショートレビューでの改善点をなるべく減らしておくためにも、よく指摘されるポイントについて押さえておきましょう。
経理の処理方法
ショートレビューでは、経理・会計といった部分について厳しくチェックされます。上場を希望した時点から上場企業水準での経理処理に変更することをおすすめします。
現在、決済時に数字を計上する「現金主義」で経理処理を行っているのであれば、上場企業の経理と同様の取引発生時に経理処理を行う「発生主義」に早めに変更しましょう。
また、貸借対照表の中に不明瞭な資産・科目・金銭の残高がある場合は、その点も指摘されます。ショートレビューの前に内容をはっきりとさせておき、調査をスムーズに進めることができるようにしましょう。
従業員の管理について
従業員をどのように管理しているかもショートレビューでチェックされます。例えば、過重労働させていないか、残業をしている場合は残業代がきちんと支払われているかも確認されますので、気を付けておきましょう。
万が一、残業代の未払いが判明した場合は、過去3年間にさかのぼって支払わなければなりません。これはすでに退職した従業員に対しても扱いは同じです。未払い残業代の支払いが終わらないと上場準備を進めることはできないと考えておいてください。
総務・経理の正確性
総務経理を他社にアウトソーシングしているという企業もあるのではないでしょうか。その際の秘密保持契約がきちんとなされているかもチェックされます。ショートレビューの前にアウトソーシング先とどのような契約を結んでいるかも確認する必要があります。
その他、売上計上の際は2人以上のチェックを通しているかといった確認もあります。事業計画の合理性を審査する上で予算実績管理も厳しくチェックされるので、今まで1人の担当者に経理処理を任せていたという企業は特に注意してください。
また、業務の正確性も重要ですが、特に業務フローについても指摘されるケースが多くあります。ワークフローなど内部統制の基準に適合した業務フローを設計しておくとよいでしょう。
コンプライアンスについて
「法令を遵守しているか?」など、コンプライアンス意識を持って企業経営を行っているかは必ず問われます。ショートレビュー前に社内で確認しましょう。会社法、労働基準法など企業関連の法律・法令などの把握も必要です。
公正・公平な企業経営がなされているか
いわゆる「コーポレートガバナンス」と呼ばれるものです。東京証券取引所でも、「適切な情報開示」「透明性の確保」「取締役会等の責務」などを、コーポレートガバナンスコードとして公表しています。ショートレビューでもこれらの点は指摘されますので注意してください。
例えば、重要事項を決定する際は取締役会を通しているか、稟議のシステムが確立されているかもチェックされますので、不備がある場合は早めに改善しておきましょう。
【参考資料】ショートレビューのチェックリストを公開
実際にショートレビューを行っている公認会計士事務所の例を参考にショートレビューチェックリストを一部ご紹介します。
- 回収が難しい売掛金の有無
- 評価損計上が必要な棚卸資産の有無
- 売上の計上基準
- 取締役会は少なくとも3ヵ月に1回開催されているか、議事録は残されているか
- 名目取締役・監査役はいないか
- 内部監査は実施されているか
- 就業規則は作成されているか
- 会社法に則った定款を作成しているか など
ショートレビューでチェックされる項目は、財務の状況や内部統制に関する点を中心に数多くあります。できれば事前にチェック項目を確認して、できるところは改善した上でショートレビューを受けてください。
ショートレビューを受けるにあたっての心構え
上場を希望する場合、ショートレビューを受けることは必須といえます。そこで指摘された点を上場の監査に向けて改善していくことも大切です。しかし、上場をしてしまえばそこで改善や業務の健全化に関しての活動は終わりというわけではありません。
上場以降は、株主の期待に応えていかなければなりません。そのためにも継続的な成長は必要です。上場が実現した後も「改善点がないか」「さらに自社を成長させるためにはどうすればよいのか」を考えながら企業経営を行うことが重要となります。
ショートレビューは、企業の改善点を確認することができる大切なものです。上場した後の経営のことも想定しながらショートレビューを受けましょう。
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まとめ
企業が上場を考える際、まず行うことは「ショートレビューを受けること」です。ショートレビューを受けると、上場基準に達するには何が足りないのかが判明します。そして具体的な改善点、改善にかかる時間がどの程度がわかれば、上場できる時期まで決定することもできるはずです。
また、ショートレビューの報告書は、上場手続きの手助けをする幹事証券会社から求められることも多々あります。報告書がないと幹事を引き受けてもらえない可能性もありますので、必ず受けるように心がけましょう。
なお上場の監査では、2期分の会計をチェックされます。改善にかかる時間も考慮して、ショートレビューを受ける時期は、上場を考える時期の3期ほど前に設定しておくとよいでしょう。
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※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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