- 作成日 : 2025年1月6日
IPO(新規上場)の必要資金は?上場準備や維持にかかる費用も解説
企業が上場する際、フェーズごとに多額の費用が発生し、支払先も多数存在します。IPOへの参加を検討する際、どれほどの資金が必要かを正確に理解することは、資金計画の立て方に影響を与えるため、事前に知っておきたいでしょう。
本記事では、IPOにかかる費用やその内訳、上場時にかかる費用などを詳しく解説します。
目次
IPOにかかる費用はいくらか?
IPOにかかる主な費用は、一般的に5000万円近くはかかると言われています。その費用の内訳は、下記の通りです。
- 監査法人へ払う費用
- 主幹事証券会社へ払う報酬
- 証券印刷会社へ払う費用
- 株式事務代行機関へ払う費用
- 弁護士やIPOコンサルティング会社などの専門家に払う費用
- 内部統制に係る費用(J-SOXコンサルティング)
企業が新規に株式を公開するための準備費用として膨大な額にのぼることがあり、この費用の規模感は、企業の規模や業種、さらには上場を目指す市場によって大きく変動します。
【時期別】上場にかかる費用の内訳と目安
IPOプロセスごとにかかる費用の内訳と目安額は、下記の通りです。
時期 | 費用項目 | 全体の費用目安 |
---|---|---|
上場準備 | 監査費用 主幹事証券会社の報酬 申請書類の印刷費用 コンサルティングの費用 弁護士や税理士等の費用 内部統制に関する費用 | 5000万~7,000万円 |
上場時 | 上場審査料 新規上場料 株式の公募や売出にかかる費用 登録免許税 証券会社の引受手数料 | 1,000万~2,000万円 |
上場後(維持) | 上場維持費 新株発行等にかかる費用 新株上場にかかる費用 法定開示書類・適時開示書類の作成にかかる費用 合併にかかる費用 株式事務代行の費用 監査報酬 弁護士報酬 | 50万~500万円 |
上場準備にかかる費用
上場準備にかかる費用は、主に以下の通りです。
費用項目 | 費用目安 |
---|---|
監査費用 | 1,000万円~ |
主幹事証券会社の報酬 | 500万円~2,000万円 |
申請書類の印刷費用 | 200万円~500万円 |
コンサルティングの費用 | 500万円〜 |
弁護士や税理士等の費用 | 500万円 |
内部統制に関する費用 | 500万〜1,000万円 |
監査費用
監査費用は、企業の規模や複雑さ、上場を目指す市場によって異なりますが、一般的な中小企業でも数百万円から数千万円の費用がかかります。
ショートレビュー・準金商法監査が監査費用として該当し、それぞれ下記の費用目安です。
- ショートレビュー:150万~400万円
- 準金商法監査:1,000万円~
財務やガバナンスに関する監査法人のフィードバックを受けられる手続きのことです。
準金商法監査とは、新規株式公開を目指す企業が金融商品取引法(通称:金商法)に基づいて行う準備段階で実施される監査の一環です。
これは、IPOを行う企業が投資家に対して提供する財務情報や経営状況が適切であり、透明性が確保されているかを確認するために行われます。
主幹事証券会社の報酬
主幹事証券会社は、企業の新規株式公開をスムーズに進めるために重要な役割を果たし、上場全般のアドバイスや株式の売出しを担当します。
主幹事証券会社の報酬は、年間500万円~2,000万円が一般的です。
申請書類の印刷費用
IPOを実現するためには、多くの書類が必要となり、その中には申請書類、目論見書、財務諸表、監査報告書など、関係者に配布される多くの文書が含まれます。
これらの書類を印刷するために必要な費用であり、200万円~500万円が一般的です。
コンサルティングの費用
コンサルティングの費用は、年間500万円は最低でもかかってくるとされています。
コンサルタントは、企業が上場に向けて必要な手続きや戦略を円滑に進めるための専門的なアドバイスを提供し、上場の実現を支援します。
特に内部統制の整備や財務報告体制の強化、法的要件の確認など、多岐にわたる業務が必要となるため、コンサルティングの力を借りることで、スムーズに準備を進めることが可能です。
弁護士や税理士等の費用
弁護士や税理士等の費用は、最低でも総額500万円は見ておく必要があります。
IPOプロセスでは、法務および税務に関する複雑な問題が多く発生するため、専門家の助言が必要です。
弁護士は契約書の作成や法的リスクの評価、企業法務全般に関するアドバイスを行い、税理士は税務戦略の策定や適切な申告のための支援を提供します。
内部統制に関する費用
内部統制は、財務報告の信頼性を確保し、法令遵守を徹底するための仕組みであり、上場企業に求められる基準を満たすためには、この制度の構築と運用が欠かせません。
内部統制を構築するために、J-SOXコンサルティングという内部統制構築の専門家に依頼するケースがほとんどです。
会社によって費用は異なりますが、年間500万〜1,000万円を見ておく必要があります。
上場時にかかる費用
上場時にかかる費用は、主に以下の通りです。
費用項目 | 費用目安 |
---|---|
上場審査料 | 200万〜400万円 |
新規上場料 | 100万〜1,500万円 |
株式の公募や売出にかかる費用 | 公募額の1万分の9に相当する金額 |
登録免許税 | 3万円〜 |
証券会社の引受手数料 | 公募総額の5~9%が一般的 |
上場審査料
上場審査料とは、企業が証券取引所に上場申請を行う際に必要となる費用です。
企業の規模や上場市場によって異なるものの、東京証券取引所では200万〜400万円となっています。
- グロース市場:200万円
- スタンダード市場:300万円
- プライム市場:400万円
新規上場料
新規上場料とは、企業が証券取引所に新たに上場を申請する際に支払うものです。
新規上場料は上場審査料と同様に、企業の市場価値や選択する取引所の種類によって異なりますが、東京証券取引所では100万〜1,500万円が相場となります。
- グロース市場:100万円
- スタンダード市場:800万円
- プライム市場:1500万円
株式の公募や売出にかかる費用
株式の公募は、企業が新たに発行した株式を一般投資家に向けて販売するプロセスであり、売出は既存株主が保有する株式を市場で販売することを指します。
公募や売出にかかる費用には、主に引受手数料や手続き関連費用が含まれます。
引受手数料は、主幹事証券会社が新規発行株式の販売を引き受ける際に発生するもので、一般的に公募額の1万分の9に相当する金額が必要です。
売出しの場合は、売出し総額の1万分の1に相当する金額を用意する必要があります。
登録免許税
会社が新たに発行する株式の数や、その株式が発行される際の資本金に基づいて計算されます。
登録免許税は資本金の0.7%が基本的な課税率として適用されますが、最低でも30,000円が課税されるため、小規模企業であっても一定のコストが発生することになります。
証券会社の引受手数料
引受手数料は、主幹事証券会社が新規株式の引き受けを行い、その株式を市場で販売するための手数料として設定されます。
引受手数料の目安は、公募総額の5~9%が一般的です。
上場後にかかる費用(維持費用)
上場後にかかる費用は、主に以下の通りです。
費用項目 | 費用目安 |
---|---|
上場維持費 | 48万〜456万円 |
新株発行等にかかる費用 | 公募:公募総額の1万分の9に相当する金額 売出し:売出し総額の1万分の1に相当する金額 |
新株上場にかかる費用 | 1株当たりの発行価格 × 発行又は処分する株券等の数 × 1万分の8 |
法定開示書類・適時開示書類の作成にかかる費用 | 年間数千万円規模の費用 |
合併にかかる費用 | (その合併等に際して発行する株券等の数 + 交付する自己株式の株券等の数) × 合併等の効力発生日の売買立会におけるその株式の最終価格 × 1万分の2 |
株式事務代行の費用 | 300万~400万円 |
監査報酬 | ほとんどの場合1000万円以上かかる |
弁護士報酬 | 300万円~500万円 |
上場維持費
上場維持費とは、上場企業としての地位を保つために必要なコストです。
上場時価総額や上場市場によって費用相場は異なりますが、48万〜456万円となります。
上場時価総額 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
---|---|---|---|
50億円以下 | 96万円 | 72万円 | 48万円 |
50億円以上250億円以下 | 168万円 | 144万円 | 120万円 |
250億円以上500億円以下 | 240万円 | 216万円 | 192万円 |
500億円以上2,500億円以下 | 312万円 | 288万円 | 264万円 |
2,500億円以上5,000億円以下 | 384万円 | 360万円 | 336万円 |
5000億円以上 | 456万円 | 432万円 | 408万円 |
引用:日本取引所グループ「上場料金」
新株発行等にかかる費用
上場後に株式の売出しを行う場合、主幹事証券会社への支払い義務が発生します。費用は下記の計算式で求めます。
- 公募:公募総額の1万分の9に相当する金額
- 売出し:売出し総額の1万分の1に相当する金額
新株上場にかかる費用
新株上場とは、既に上場している企業が追加の株式を市場に上場させるプロセスです。
必要な費用は以下の通りです。
- 1株当たりの発行価格 × 発行又は処分する株券等の数 × 1万分の8
法定開示書類・適時開示書類の作成にかかる費用
1年間の開示書類作成には数千万円規模の費用がかかると言われています。法定開示書類とは、会社法や金融商品取引法に基づき、定期的に提出が義務付けられている書類を指します。
具体的には、四半期報告書や有価証券報告書などが該当し、これらは投資家や市場に対して企業の経営状況を透明にする役割を果たしているといった感じです。
適時開示書類は、企業が重要な事実や事件を迅速に市場に伝えるために作成されるもので、例えば、業績の大幅な変動や経営陣の変更、合併・買収に関する情報などが含まれます。
合併にかかる費用
上場後に企業が合併を行う場合、合併契約書の作成や法的手続きなど、さまざまな費用が発生します。
費用は以下の通りです。
- (その合併等に際して発行する株券等の数 + 交付する自己株式の株券等の数) × 合併等の効力発生日の売買立会におけるその株式の最終価格 × 1万分の2
株式事務代行の費用
株式事務代行業務には、株主名簿の管理、株主総会の運営、配当金の支払い、そして株式の発行や移転に関する手続きが含まれます。
株式事務代行機関に支払う費用は、企業の規模や株主の数、必要なサービスの内容によって異なります。一般的に、年間300万~400万円が目安です。
監査報酬
監査は、外部の独立した監査法人によって行われ、財務諸表が正確であり、適切な会計基準に基づいて作成されているかを検証するプロセスです。
監査費用は、企業の規模感によっても異なりますが、年間1,000万円以上はかかると言われています。
弁護士報酬
上場後に発生する弁護士報酬は、企業が法律面でのリスクを適切に管理し、コンプライアンスを遵守するために必要です。
相談の頻度やプランなどで費用が異なるため、費用の断定は難しいですが、一般的に年間300万円~500万円ほどかかると言われています。
IPOの費用を抑えるポイント
IPOにかかる費用を効果的に抑えるためのポイントは、主に以下の通りです。
- 早期準備によるコスト削減
- 専門家との綿密な打ち合わせ
- 助成金制度の活用
詳しく解説します。
早期準備によるコスト削減
上場を目指す企業にとって、準備期間の短縮は直接的な費用削減につながるだけでなく、業務の効率性や資金調達のタイミングにも影響を及ぼします。
まず、早期準備によって、法務や財務に関する整備が進むことで、必要なドキュメントや報告書の作成がスムーズになります。
たとえば、会計処理や内部統制の整備が早い段階から行われることで、監査対応が円滑に進むため、監査費用の増加を防ぐことができます。
多くの企業が直面する問題の1つは、上場直前に慌てて準備を進めることによって生じる時間的な余裕のなさです。
この状況では、専門家への依頼が増えるため、結果としてコストが膨らむ可能性が高まります。
専門家との綿密な打ち合わせ
IPOに関わる専門家には、弁護士、税理士、監査法人、証券会社などが含まれます。
専門家との早期のコミュニケーションは、上場に必要な法的手続きや財務諸表の整備を効率的に行うための基盤です。
たとえば、上場に際しての法的要件や適用される規制についての正確な情報を得ることで、後々のトラブルを回避できるだけでなく、不必要な修正作業を減少させることができます。
このように、事前の打ち合わせによって発生する可能性のあるコストを低減することが可能です。
助成金制度の活用
助成金を利用することで、IPOにかかるさまざまな費用を削減することが可能です。
たとえば、上場準備に伴うコンサルタントや監査法人への依頼費用、法務手続きの費用など、特定の事業や研究開発に対する助成金を利用することで、これらの支出を軽減できる可能性があります。
ただし、要件を満たしていないと利用できないため、しっかりと利用要件に満たしているか確認しましょう。
まとめ
IPOにかかる費用は、数千万円単位とかなり高額になります。そのため、企業はこれらのコストを正確に見積もり、適切な資金計画を立てる必要があります。
また、資金面の計画だけでなく、市場の動向や競合の状況を見極め、最適なタイミングで上場を果たすことが重要です。
複数の外部業者に協力を仰ぎながら、上場準備を円滑に進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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