- 更新日 : 2024年7月12日
ファントムストックとは?仕組みやメリット・デメリット、注意点などを解説
ファントムストックは、企業が役員や従業員に対して提供する金銭報酬の一種です。企業の成長に貢献した役員や従業員を評価し、モチベーションを高めるための仕組みです。この制度では、対象者によって異なる支給ルールが適用されます。
この記事では、ファントムストックの概要やメリット・デメリット、運用上の留意点などを詳しく解説します。
目次
ファントムストックとは
ファントムストックは、企業が役員や従業員に対して提供する金銭報酬の一種です。
近年では、企業が中長期的に価値を向上させるため、固定の役員報酬だけでなく、業績に連動したインセンティブ報酬を導入する動きが広がっています。高水準の報酬は優れた人材を引きつけ、企業の業績向上に寄与することが期待されます。
その中でもファントムストックは、通常の株式や株式の購入権利を直接与えるのではなく、企業が設定した仮想の株式を付与し、その仮想の株価に基づく業績連動型報酬を現金で支給する制度です。
役員報酬
役員報酬は、企業の役員に支払われる金銭の報酬を指します。役員には、会社法で規定された取締役や執行役、監査役などが該当します。しかしそれだけでなく、法的な定義に該当しなくても、実質的に経営に関与している人々(使用人を含む)も役員とみなされることがあります。
役員は企業の業務執行や監督を担当する幹部で、通常の従業員とは異なる存在です。
そのため、従業員給与ではなく、役員報酬を受け取ります。
近年では、特に役員に対して企業価値を中長期的に向上させるため、固定の報酬だけでなく、業績に連動したインセンティブ報酬を導入する動きが広がっています。
インセンティブ報酬を導入する主な目的は、各自の仕事に対するモチベーション向上です。従業員と同じく、役員も企業の業績向上に貢献しており、成果に応じた報酬を受けることでモチベーションが高まります。ファントムストックは企業が役員や従業員に対して、さまざまな目的で利用できるインセンティブとなります。
従業員給与
従業員給与は一般の従業員に対して支払う給料や賞与などを指します。基本給以外にも、時間外手当や家族手当などが含まれます。ファントムストックは役員だけではなく従業員に支給されるケースもあります。
ファントムストックを受け取る役員や従業員は、権利が与えられた後、一定期間が経過するとその権利を確定し、その後、仮想の株価に基づいた報酬を得ることができます。ファントムストックを発行した企業は、ファントムストックの権利行使時の株価が付与時よりも上昇した場合、その差額をプラスして報酬を支払います。これにより、現金報酬を得ることが可能です。
ファントムストックのメリット
この章では、ファントムストックのメリットについて説明します。
実際の株価に影響を与えない
ファントムストックの大きなメリットの一つは、実際の株価に影響を与えないことです。架空の株式であるため、実際の株価には影響を与えません。
社員のモチベーションが向上する
ストックオプションの権利を得た従業員や役員が企業の業績向上を目指し、業務に対するモチベーションを高める一助となります。
報酬制度の柔軟性が高い
実際の株式を発行せず現金で報酬を支給するため、企業の株式構造に変更を加えずに、報酬を柔軟に設計できる点もメリットです。
ファントムストックのデメリット
この章では、ファントムストックのデメリットについて説明します。
税務処理が不透明
日本ではまだファントムストックを導入している企業が少ないため、税務処理が確立していません。多くの企業は賞与などの労務などで処理しています。
株価変動のリスクがある
ファントムストックの価値は、企業の株価に連動しています。株価の変動によって社員が受け取る報酬も変動するため、それに応じて企業の現金負担額も変動します。
キャッシュアウト費用が発生する
キャッシュアウト費用が発生するため、権利の付与の制限や支払額の上限設定などの対策が必要とされています。
ファントムストックの会計処理
この章では、ファントムストックの会計処理について解説します。
権利を付与した時の会計処理
仕訳は必要ありません。
期末の会計処理
役員報酬と引当金の勘定科目を用いて、以下のように処理します。
借方)役員報酬 ××× 貸方)引当金 ×××
現金支払時の会計処理
従業員や役員がファントムストックの権利を行使し、会社が現金報酬を支払った場合は、以下のように処理します。
借方)役員報酬 〇〇〇 貸方)現預金 △△△
引当金 ×××
ファントムストックの税務処理
実際の株式ではなく、従業員に架空の株式を付与する仕組みであるため、税務処理にも注意が必要です。
権利を付与した時の税務処理
権利付与時には、税金がかかりません。
権利が確定した時(現金支払時)の税務処理
ファントムストックの発行会社から現金報酬が支払われると、通常の所得税がかかります。この分は給与所得として課税されます。
※令和6年度の所得税については、定額で減税される特別控除が実施されます。詳しくは下記記事を参考ください。
ファントムストック導入の注意点
ファントムストックを導入する際は、従業員に対するわかりやすい説明が必要です。
役員・従業員には、株式に基づいた利益が得られるが、実際に株式が付与されるわけではない点や、利益が出ない場合にはメリットがないということを明確に伝えながら導入しましょう。
多くの場合、ファントムストックを利用する企業は上場企業であり、株価は明確に変動します。ただし、非上場企業がファントムストックを利用する場合は、評価額の決定方法を明確にしておく必要があります。
またファントムストックは実際の株式ではなく、企業が現金を支出することになります。株価が上昇した場合に備えて、上限額を設定し、換金の上限を事前に定めるなどの対策を検討しましょう。
ファントムストックの導入事例
ファントムストックはアメリカではすでに一般的な制度となっていますが、日本ではまだ浸透しているとは言い難いでしょう。
以下では近年ファントムストックを導入した企業を紹介しますので、参考にしてみてください。
株式会社クレディセゾン
株式会社クレディセゾンは、企業価値の向上を目指し、全社員を対象にしたファントムストックを導入しました。
単体経常利益の期初計画に対し、期末の実績が超過した場合に、その超過額の一定割合を決算賞与として支給するとしています。この支給は、2/3が現金で、1/3がファントムストックで構成されています。2023年3月31日時点で在職中の全社員を対象に、役職や勤続年数に関わらず一律に適用されます。
今回の制度導入は、業績向上に寄与した全社員への適切な報酬を通じて、社員エンゲージメントの向上を図り、一部をファントムストックにより支給することで、全社員の企業価値への参画意識を一層高め、持続的な企業成長を目指すものです。
三菱地所株式会社
三菱地所株式会社は2022年に役員報酬制度を改定し、役員に対してファントムストックを導入しました。
執行役などに対して、持続的な業績と企業価値の成長に寄与するためのインセンティブの提供と、株主との価値共有を目的としています。このスキームでは書面上は株式報酬として扱われるものの、配当金は支払われない新株発行というという形をとっています。
まとめ
ファントムストックに焦点を当て、その概要やメリット・デメリット、注意点について詳しく解説しました。
ファントムストックは金銭報酬としてさまざまな利点があり、将来的にストックオプションなどの業績連動型報酬の導入を進めたい企業にとっては重要な選択肢だといえます。ただし、日本ではまだ発展途上の仕組みであり、会計や税務処理には不透明な面もあります。
将来的にファントムストックを導入しようと考えている企業は、専門家に相談し、税務当局の指摘を避けるための適切な処理方法を検討する必要があります。
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