• 更新日 : 2025年3月19日

会計監査人とは?設置義務と企業対応のポイントについて解説

会計監査人は、企業の財務報告における透明性を確保する重要な役割を担います。とくに大会社や上場企業などには、法律で設置が義務付けられています。

本記事では会計監査人設置義務の基本要件から、設置のタイミング、選任・解任の手続き、義務違反時のリスクについて分かりやすく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

会計監査人とは

会計監査人とは、企業の財務諸表の適正性を検証する専門家で、公認会計士か監査法人に限られています。また、公平で厳正な監査を行うために、独立した立場を維持することが必要です。

会計監査人の役割と業務内容

会計監査人は、企業の財務状況を精査し、投資家や債権者、株主といった利害関係者に対し、財務の信頼性を保証する役割を担います。

さらに、会計監査人が独立した第三者の立場から会計全般を厳格にチェックすることで、内部統制が正しく機能しているかを確認し、健全な経営活動を促します。

具体的な業務は、企業の計算書類やその付属明細書、臨時計算書類、付属計算書類を詳しく監査し、それらの適正性や正確性を評価、報告することです。

会計監査人と監査役との違い

会計監査人と監査役はどちらも企業の内部状況を監査する役割がありますが、その立場や業務内容には明確な違いがあります。

会計監査人は、外部から派遣された公認会計士か監査法人でなければならず、主に財務諸表の信頼性を高めるために、会計業務に限定して監査を行います。とくに大会社や上場企業で設置が義務付けられていることが多いです。

一方、監査役は株主総会で選任される会社法上の役員です。その会社で勤務してきた従業員が就任するケースも見られますが、社外から招かれる場合もあります。また、監査役は会計や業務が適正に行われているかチェックし、取締役の職務執行の適正性を監査します。

両者の大きな違いは、会計監査人が会計監査に特化した外部の専門家であるのに対し、監査役は会社の内部者として幅広い監査を行う点です。

会社法に基づく会計監査人設置義務の要件

会計監査人は、特定の会社に対し、設置義務があります。会社法の条文に基づく会計監査人の設置要件は、以下の3つです。

1. 大会社

大会社は会社法第328条により、会計監査人の設置が義務付けられています。

会社法第2条第6号により「大会社」は、以下のいずれかを満たすものとして定義されています。

  • 最終事業年度にかかる貸借対照表に計上した資本金が5億円以上であること
  • 最終事業年度にかかる貸借対照表に計上した負債額の合計が200億円以上であること

この場合の貸借対照表とは、定時株主総会で報告、承認されたものです。

規模が大きな会社は社会的な影響力が大きいため、株主や取引先などの利害関係者を保護するという観点から、会計監査人による厳格な監査が義務付けられています。

参考:会社法|e-Gov法令検索

2. 監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社

会社法第327条5項により、「監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社は、会計監査人を置かなければならない」と定義されています。

2014年の会社法改正により導入された監査等委員会設置会社は、3人以上の取締役で構成され、その過半数が社外取締役である監査等委員会を設置する会社形態です。取締役の職務執行を監査する機能をもち、企業統治の強化を目的としています。

指名委員会等設置会社とは、会社法第2条第12号で「指名委員会、監査委員会、報酬委員会を置く株式会社」と定義されています。各委員会の過半数が社外取締役で構成されるため、企業の透明性を高め、監督機能を強化できる仕組みです。

欧米を中心に海外では指名委員会等設置会社が一般的であるため、海外からの信頼を得やすいでしょう。

3. 任意で会計監査人を置くことを定めている会社

大会社以外の会社のように、会社法で会計監査人設置要件にあたらない株式会社でも、任意で会計監査人の設置が可能です。

会社法第326条第2項で、「株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる」と定義されています。なお、定款に定めることが条件です。

中小企業や非上場会社でも、取引先や金融機関へ対しての信頼性の向上につながるため、戦略的に設置する場合があります。

上場企業の会計監査人の設置義務

上場企業は、金融商品取引法第193条の2により、「上場企業は貸借対照表、損益計算書その他の財務計算の書類など内閣で定めるものには、その者と特別な利害関係のない公認会計士か監査法人に監査証明を受けなければならない」と定義されています。

上場企業で、会計監査人設置義務の要件を満たす場合は、会社法の会計監査人による監査と金融商品取引法による公認会計士か監査法人による監査証明の両方の監査を行うことが必要です。なお、要件を満たさない上場企業は、会計監査人設置義務はありません。

参考:金融商品取引法|e-Gov法令検索

会計監査人の設置義務はいつから?

企業が増資を行ったり借入金を増額したりして、資本金5億円以上または負債総額200億円以上の「大会社」の条件を満たした場合でも、すぐに会計監査人の設置義務が発生する訳ではありません。

以下より、会計監査人の設置義務はいつから発生するのか具体例をあげて解説します。

会計監査人監査が義務付けられる具体例とタイミング

大会社の会計監査人設置要件は、「最終事業年度における貸借対照表の資本金が5億円以上または負債が200億円以上であること」です。

ここでいう最終事業年度の貸借対照表とは、会社法第2条第24号により、当該事業年度のもっとも遅い定時株主総会で承認されたものをいいます。

例えば、2025年3月期の貸借対照表で負債が200億円以上または資本金が5億円以上になった場合は、会社法上の「大会社」に該当する事実が発生します。なお、すぐには設置義務は発生しません。

次に、2025年6月頃の定時株主総会で報告・承認されて、はじめて2026年3月期から会計監査人による監査が必要となります。このように、「大会社」の要件を満たしてから、実際に設置義務が生じるまで、一定期間の猶予があります。この期間を利用して会計監査人の選定や内部体制を整備することが大切です。

他の事例として、2025年12月に資本金が6億円となったが、2025年3月には減資して5億円未満となった場合、会計監査人の設置義務は発生しません。

会計監査人の選任と任期・解任手続きと要件

会社法第337条第1項で、会計監査人は公認会計士か監査法人でなければならないとされています。ただし、これらに該当する者であっても、その子会社や取締役などから会計監査業務以外で継続的な報酬を受けている者やその配偶者などは、会計監査人にはなれません。第337条第3項で定義されており、適正な監査を促すためです。

選任は、定時株主総会の決議を経て行われるのが一般的で、任期は1年とされています。なお、はじめて会計監査人を選任する場合は、設置する旨の記載について定款変更決議も事前に必要となるため注意してください。

また会計監査人は、株主総会の普通決議によりいつでも解任できます。また、職務怠慢や不正な行為が認められた場合は、株主総会の決議を経ずに監査役などが解任することも可能です。

会計監査人の報酬と決定方法

会計監査人の報酬は、取締役会が決定しますが、以下の機関に同意を得ることが必要です。(会社法第399条)

  • 監査役(過半数であること)
  • 監査役会設置会社では監査役会
  • 監査等委員会設置会社では監査等委員会
  • 指名委員会等設置会社では監査委員会

報酬決定のプロセスに、取締役と監査役の双方が関与することで、会計監査人の独立性と公平性を確保できます。

なお、報酬は監査の内容や規模によって異なり、会計監査人は取締役会に報酬提案書を提出し、双方の協議によって見積もられることが一般的でしょう。

その他の法令に基づく会計監査人設置義務

会社法や金融商品取引法以外に、その他の法令においても、一定の要件を満たす法人に会計監査人設置が義務付けられています。ここでは、社会福祉法人法と公益法人認定法における設置義務について解説します。

社会福祉法人における設置義務

特定社会福祉法人は、社会福祉法第37条により、以下のいずれかの要件を満たす場合は会計監査人の設置義務があります。

  • 前年度の事業活動収益が30億円を超えること
  • 前年度の貸借対照表の負債額が60億円を超えること

なお、定款に定めれば、これらのいずれかの要件を満たしていない場合でも、会計監査人を設置できます。また会計監査人は、会社法における条件と同様に社会福祉法の定義でも公認会計士か監査法人に限られています。(社会福祉法第45条の2)

参考:社会福祉法|e-Gov法令検索

公益法人における設置義務

公益法人は、公益法人認定法第5条第12号と公益法人認定法施行令第6条により、次のいずれかを満たす場合、会計監査人の設置が義務付けられています。

  • 収益の額が1000億円以上
  • 費用及び損失額の合計額が1000億円以上
  • 負債額が50億円以上

公益法人は、社会貢献や公共の利益を追求することを目的に運営されているため、公的支援や寄付などを受ける場合が多く、より財務の透明性と信頼性を確保することが必要です。

なお、2025年4月から公益法人における会計監査人設置の適用基準が引き下げられます。法改正について後述しますので、参考にしてみてください。

参考:
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令|e-Gov法令検索
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律|e-Gov法令検索

会計監査人の設置義務を違反した場合のリスク

会計監査人の設置する法的義務のある会社が、会計監査人を設置せず監査を怠った場合は、会社法違反として、100万円以下の罰金が科されることがあります。(会社法第976条第22号)

一見すると、監査報酬は罰金よりも高額なことが多いため、罰金を払う方が経済的に得だと思えるかもしれませんが、実際のリスクはそれだけではありません。

銀行などの金融機関から信用を失いかねず、上場企業の場合は、上場廃止となることもあります。この長期的な損失を考慮すると、法的義務を果たすことが企業にとって、より大切でしょう。

会計監査人の設置義務に関する法改正(2025年4月施行予定)

会計監査人の設置義務に関して、2025年4月に法改正が行われる予定です。以下の通り、設置義務要件の基準が大幅に引き下げられ、適用範囲が拡大します。

現在の基準新しい基準(2025年4月)
収益1,000億円以上100億円以上
費用・損失1,000億円以上100億円以上
負債額50億円以上50億円以上

参考:新しい公益法人制度説明資料

なお、これらの基準は、「いずれかを満たす法人」に設置義務が生じます。現在の基準に合致する公益法人は、数法人のみであるため、現状との乖離を見直すことが目的です。

また、公益法人の責務として、ガバナンスの強化と透明性の向上を図ることを趣旨としています。

これにより、会計監査人の設置義務が生じる法人は、内部体制を整え監査人設置に向けた準備が必要です。

会計監査人の設置義務を正しく理解し、自社の体制を整えよう

会計監査人の設置は、企業の財務報告の透明性を高め、利害関係者への信頼を築くことにつながります。設置義務の要件は企業の形態や規模によって異なり、設置のタイミングをあわせて正しく理解することが重要です。

また、2025年4月施行の法改正により公益法人の会計監査人設置義務の適用基準が引き下げられ、適用範囲が拡大されます。各企業や法人は、これらの改正内容を正確に把握し、自社に設置義務が生じる場合は適切に対応しましょう。


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