- 更新日 : 2025年1月29日
赤字でも上場できる!メリットや満たすべき基準・事例を紹介
「自社は赤字だから上場できないのでは…」と思い込んでいませんか?実は、赤字でも上場できる可能性があります。必ず可能というわけではありませんが、可能性が残っているのならチャレンジしようと考える人もいるでしょう。
この記事では、赤字でも上場することはできるのか、実際の事例を参考に解説していきます。上場を目標としているけど、赤字が続いていて足踏みしている状態に陥っているなら、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
赤字でも上場はできる
赤字だと上場できないイメージがあるかもしれませんが、実は直近が赤字でも上場審査を通過することは可能です。上場審査で重視されるのは、「高い成長性」であることから赤字黒字はそこまで重要視されない傾向にあります。
東京商工リサーチの「株式上場(IPO)目標は全国で1,857社、赤字率4割で業績伸び悩みの傾向 全国「IPO意向企業」動向調査」によると、新規上場を目指す企業のうち、赤字率は約4割を占めています。上場を目指すベンチャー企業は広告宣伝費や上場費用などにコストをかける傾向にあるためです。
実際に赤字上場した企業のなかには、現在は大きく成長している企業もあります。たとえば、バックオフィスクラウドサービスの代表格であるfreee株式会社は、2019年のマザーズ上場時、売上高約45億円に対して赤字が約27億円と赤字の割合が50%を超えていました。
また2017年時点の数字ですが、アメリカの新規上場企業の7割以上が赤字上場という報告もあります。これは、直近に新規上場した企業の約6割がテック系企業であることと関係しているようです。
赤字上場するメリット
上場審査にとおりにくくなるデメリットを抱えながら赤字上場するなら、「黒字転換するまで待つほうがよいのでは?」と思うかもしれません。しかし、赤字上場することにも以下のようなメリットはあります。
直近の決算で赤字が出ていても、上場による影響で早々に黒字転換できる可能性を秘めています。赤字だからと上場を先延ばしにすればするほど、成長機会を失うことになっているかもしれません。
上場により知名度が向上すれば、資金調達が強化され、潤沢な資産で既存部門の強化や新規事業の開拓などに着手できるようになります。資金繰りがうまくいけば、赤字からの脱却も図れるでしょう。
上場するために満たすべき基準とは
上場するために満たすべき基準には、形式基準と実質基準の2種類があります。形式基準や実質基準とはどのような基準なのか、それぞれ詳しく解説します。
形式基準
形式基準とは、上場申請するうえで最低限クリアすべき基準です。この基準をクリアできていなければ、上場申請を通過できません。主な形式基準を以下の表にまとめました。
項目 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
---|---|---|---|
株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
流通株式 | a,流通株式数20,000単位以上 b,流通株式時価総額100億円以上 c,流通株式比率35% | a,流通株式数2,000単位以上 b,流通株式時価総額10億円以上 c,流通株式比率25% | a,流通株式数1,000単位以上 b,流通株式時価総額5億円以上 c,流通株式比率25% |
公募の実施 | ― | ― | 500単位以上の新規上場申請にかかる株券等の公募を行うこと |
事業継続年数 | 3か年以前から取締役会を設置していること | 3か年以前から取締役会を設置していること | 1か年以前から取締役会を設置していること |
財政状況 | (i)純資産要件 ・連結純資産の額が50億円以上かつ、単体純資産の額が負でないこと (ii)利益・売上高要件(次のうち片方を満たす) ・直近2年間の利益額の総額が25億円以上であること ・直近1年間の売上高が100億円以上かつ時価総額が1,000億円以上となる見込みがあること | ・連結純資産の額が正であること ・直近1年間の利益額が1億円以上あること | ― |
実質基準
実質基準とは、上場企業にふさわしいかの適格性を判断するための基準です。形式基準のように、明確に数字で示されるものではなく、判断は証券取引所によるところが大きくなります。赤字企業が上場を目指すグロース市場の場合、主な実質基準には、以下のものがあります。
企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあることが求められます。会社情報を適時、適切に開示することができる状況にあること、法令に則った書類が作成できていることなどが求められています。
事業を公正かつ忠実に遂行していることが求められます。特定の者に不当に利益を与え享受していないかなどが求められます。
企業は経営者のものではなく、株主のものであるという考えのもと、経営監視に努める仕組みをコーポレートガバナンスと呼びます。役員の適正な職務の執行を確保するための体制が相応に整備され、適切に運用されておらず、単に親族が役員になっていたり、社外取締役がいなかったりすると、コーポレートガバナンスの有効性が実証されず審査に影響する可能性があります。また、内部統制とは不正が起こらないように適正な業務を実行するための仕組みです。上場審査では、内部統制を行う体制や、適正な会計処理基準の採用や会計組織の運営などが対象となります。
相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあることが求められます。
赤字でも上場できる市場
市場再編前は、赤字上場できるのは東証マザーズ市場だけでした。市場再編後、グロース市場のみ赤字上場できるようになっています。
以前は東証マザーズ市場のみでしか赤字上場できませんでしたが、その理由は、高い成長性が期待できる一方、リスクの高い企業向けの市場として東証マザーズ市場が設定されていたためです。現在のグロース市場がその役割に当たりますが、内容に変化はありません。
赤字でも上場できる企業の特徴
赤字でも上場できる企業の最大の特徴は、成長可能性が高いことです。
前述のfreee株式会社は約27億円の赤字経営でしたが、SaaS型クラウドサービスを提供しており、今後の増益が見込める事業展開をしていました。独自システムの開発費や広告宣伝費に初期費用はかかりますが、サブスクリプションを導入することで、継続的な利益を得やすい特徴があります。
また、2022年に上場したエアークローゼットも人件費や広告宣伝費にコストがかさみ、直近は赤字経営となっています。しかし洋服のサブスクリプションという新しいサービスは、外出しにくいウィズコロナの時代、そして流行が変わりやすい現代において成長可能性を秘めたものであると考えられます。
赤字で上場した事例
ここで、実際に赤字上場が成功したランサーズ株式会社の事例を紹介します。
ランサーズ株式会社は、クラウドソーシングサービスとして個人間・個人法人間の請負業務のマッチングサービスを提供する企業です。上場したのは2018年で、2018年3月期(連結決算)における売上は約19億円、営業利益はマイナス3億5,000万円と本業で赤字を出してしまっていました。
2018年は新型コロナウイルス感染症が流行し始め、在宅ワークが注目されるようになった時期でもあります。また、YouTubeなどの動画投稿サービスが普及し、動画編集やデザイン、シナリオ作成の需要が高まったことも、赤字上場が認められた理由だと考えられます。
まとめ
直近の決算が赤字でも、現在の市場なら赤字上場は可能です。赤字で上場するメリットは、赤字経営を黒字に転換させるきっかけになる点です。上場により認知度が向上し、資金調達力が強化されて資金繰りしやすくなることもメリットに挙げられます。
代表的な事例を参考に、自社に当てはめて上場審査を通過できるか検討してみましょう。
よくある質問
赤字でも上場できる?
赤字でも上場は可能です。実際に新規上場を目標とする企業のうち、約4割は赤字という調査もあります。実際に、2017年に上場したfreee株式会社の場合、赤字割合は50%を超えていました。
赤字で上場する目的は?
赤字で上場する目的は、資金調達力の強化や認知度の向上により赤字脱却を図ることです。証券取引所を通した株式発行、上場による企業イメージの向上により資金繰りしやすくなり、黒字転換を狙えます。
赤字で上場できる市場はどれ?
現在は、グロース市場のみ赤字上場が可能です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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