• 作成日 : 2025年4月23日

J-SOXの改訂ポイントは?2024年4月施行の変更内容を解説

J-SOX(内部統制報告制度)は、2024年4月1日以後開始する事業年度より改訂後の制度が適用されています。今回の改訂では、内部統制の信頼性や評価方法、報告書の記載内容などが見直されました。

本記事では、実務担当者が押さえておくべき改訂のポイントをわかりやすく解説します。今後のJ-SOX対応や制度改訂への備えが求められる方は、ぜひ本記事を参考にして、早めの対応に役立ててください。

J-SOX(内部統制報告制度)とは|財務報告の信頼性の確保が目的の制度

J-SOXとは、内部統制報告制度のことで、上場会社が財務報告の信頼性を確保するために設けられた制度です。

J-SOXは、投資家保護の観点から、金融商品取引法に基づいて2008年4月1日に導入され、現在では15年以上が経過しています。

制度のもとで、経営者は有価証券報告書とともに「内部統制報告書」を提出する義務があります。報告書には、公認会計士または監査法人による監査証明を付ける必要があり、提出先は内閣総理大臣(実務上は金融庁)です。

J-SOXは、企業の透明性を高め、健全な市場環境を支える重要な仕組みといえるでしょう。

J-SOXに関する詳しい情報については、下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。

J-SOX改訂の背景

J-SOX改訂の背景を理解することは、内部統制への対応方針や企業実務に与える影響を正しく把握するうえで重要です。制度変更の意図を知ることで、今後の対策や準備も的確に進められます。

以下では、J-SOX改訂の背景について紹介します。

実効性に関する懸念のため

J-SOX改訂の背景には、制度の実効性に対する懸念がありました。

たとえば、経営者が評価対象としていない範囲で重大な不備が見つかったり、内部統制の評価が訂正されたりしたにもかかわらず十分な説明が行われない事例があります。

上記のような状況により、経営者が評価範囲を決定する際に、財務報告への影響を適切に考慮していない可能性について問題意識が示されました。

そのため、評価範囲の決定にあたっては、財務報告における信頼性への影響を重視すべきと強調され「評価範囲」の基準が改訂されました。

時代に応じてリスクに強い仕組みに直す必要があったため

J-SOX改訂の背景には、時代に応じてリスクに強い仕組みに見直す必要性があったことが挙げられます。

国際的な内部統制の枠組みでは、社会や経済の変化、リスクの複雑化に対応するため、制度の改訂が実施されました。日本においても同様に、時代の変化に対応できる体制が求められており、内部統制の基本的な考え方を見直す必要があると議論されています。

そのため、J-SOX改訂は、リスクに柔軟かつ実効的に対応できる仕組みへと進化させることが目的です。

J-SOXにおける「内部統制の基本的枠組み」の改訂ポイント

J-SOXでは、時代の変化や複雑化するリスクに対応するため、「内部統制の基本的枠組み」が見直されました。実務に直結する内容のため、改訂ポイントを把握しておくことが重要です。

以下では、J-SOXにおける「内部統制の基本的枠組み」の改訂ポイントについて紹介します。

1. 報告の信頼性

改訂により、内部統制の目的に「報告の信頼性」という表現が用いられるようになりました。

従来の「財務報告の信頼性」に加え、ESGやサステナビリティなど非財務情報の重要性が高まっていることや、COSO報告書の改訂を踏まえたものです。ただし、J-SOXの制度上の目的は今も「財務報告の信頼性の確保」であるとされています。

なお、サステナビリティ情報など一部の非財務情報については、すでに内部統制の整備が求められており、今後はESG情報全般への対応も視野に入れる必要があります。

2. 内部統制の基本的要素

改訂により、内部統制の基本的要素にも見直しが加えられました。

「リスクの評価と対応」では、不正リスクへの意識を高め、評価時には不正に関するリスクを的確に考慮することの重要性が明示されています。

「情報と伝達」では、情報量が増加するなかで正確性や信頼性を担保するために、情報システムが適切に機能する体制が求められています。さらに「ITへの対応」では、外部委託しているIT業務の管理やサイバー攻撃への備えなど、情報セキュリティ対策の強化が必要です。

上記のような改訂は、企業が直面するリスクの多様化に対応するために欠かせません。

3. 経営者による内部統制の無効化


改訂では、「経営者による内部統制の無効化」への対策が明確に示されました。

経営者による内部統制の無効化は、経営者が自らの権限で内部統制を無視したり、機能させなくしたりする行為への対応を目的としたものです。

経営者による内部統制の無効化への対策としては、いくつかの取り組みが検討されています。 具体的には、経営理念や倫理観の明確化、職務分掌の徹底、取締役会による監督体制の整備、内部監査部門から取締役会や監査役への直接の報告ルートの確保などが挙げられます。

上記の改訂内容は、経営者による不正リスクを防ぐ有効な手段です。また、経営者だけでなく、業務プロセスの責任者など他の上位者によって内部統制が無効化される可能性がある点にも注意が必要です。

4. 内部統制に関係を有する者の役割と責任

改訂では、内部統制に関係を有する者の役割と責任がより明確化されました。

監査役や監査等委員は、内部監査人や会計監査人と積極的に連携し、自ら能動的に情報を収集する姿勢が重要とされています。

上記の改訂は、経営者による内部統制の無効化が起こる可能性を前提とし、取締役会や監査役もリスクを認識して対応することが目的です。また、内部監査人には高い専門性と職業的注意義務が求められ、取締役会や監査役への適切な報告ルートを確保する必要があります。

各関係者がそれぞれの立場で責任を果たし、相互に連携する体制の整備が重要です。

5. 内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理

改訂では、内部統制・ガバナンス・全社的リスク管理(ERM)を一体的に整備・運用する重要性が明記されました。

内部統制はERMの構成要素であり、ERMはさらにガバナンスの一部であるという階層的な関係が整理されています。つまり、内部統制は企業全体のリスクを管理するERMの一部であり、ERM全体は経営全体を監督するガバナンスの一環として機能すべきとされています。

また、改訂では経営・リスク管理・内部監査の三者が連携し、それぞれの役割を果たす「3線モデル」の考え方も紹介されました。

J-SOXにおける「財務報告に係る内部統制の評価及び報告」の改訂ポイント

J-SOXでは、実効性確保の観点から「財務報告に係る内部統制の評価及び報告」の在り方も見直されました。制度対応の精度を高めるために、改訂内容を理解しておくことが重要です。

以下では、J-SOXにおける「財務報告に係る内部統制の評価及び報告」の改訂ポイントについて紹介します。

1. 経営者による内部統制の評価範囲の決定

今回の改訂では、経営者が内部統制の評価範囲を決定する際に、「財務報告の信頼性にどれだけ影響するか」を適切に考慮することの重要性が強調されています。

売上高の約3分の2」や「売上、売掛金棚卸資産の3勘定」などの基準についても、機械的に適用するのではなく、財務報告への影響に応じて柔軟に判断することが重要です。

また、評価範囲に含まれない期間が長くならないよう留意する必要があり、重大な不備が判明した場合には、発生期間を評価対象に含めることが求められます。さらに、評価対象に追加すべき業務プロセスの具体例も示されました。

評価範囲の決定は経営者の責任ですが、計画段階や状況の変化があった場合には、必要に応じて監査人と協議し、計画段階や状況変化時に助言を得ることが望ましいとされています。

2. ITを利用した内部統制の評価

ITを利用した内部統制の評価においては、改訂により留意すべきポイントが明確化されました。

評価の頻度は、「毎年」や「3年に1回」などの定型的な年数で機械的に実施するのではなく、企業のIT環境の変化やリスク状況を踏まえて、経営者が慎重に判断することが求められています。

IT統制は「何年に一度やればよい」という単純なものではなく、状況に応じて柔軟に対応することが重要です。企業ごとの実態に合わせた評価が、より実効性のある内部統制につながります。

3. 財務報告に係る内部統制の報告

財務報告に係る内部統制の報告では、内部統制報告書に記載すべき内容がより具体化されました。

主な改訂点は、評価範囲の根拠に関する説明責任と、過去の不備への対応状況の開示の2点です。具体的には、経営者が評価範囲を決定する際に用いた指標、たとえば売上高や資産の割合などや、割合を設定した理由を報告書内で明確に記載する必要があります。

また、前年度に「開示すべき重要な不備」が報告されていた場合には、是正状況も付記事項として記載が必要です。改訂により、評価範囲の妥当性や報告の透明性が高まることが期待されています。

J-SOXにおける内部統制報告書に記載されるべき事項の改訂ポイント

J-SOXでは、内部統制報告書に記載すべき内容が具体化され、説明責任や透明性の確保が重視されています。適切な対応のためには改訂ポイントの把握が必要です。

以下では、「3. 財務報告に係る内部統制の報告」で示した内容を前提とし、J-SOXにおける内部統制報告書に記載されるべき事項の改訂ポイントについて紹介します。

評価の範囲や評価時点及び評価手続き

改訂により、内部統制報告書に記載すべき「評価の範囲・時点・手続き」について、内容がより具体化されました。

評価の範囲では、重要な事業拠点の選定に用いた指標と割合や、業務プロセスの選定に重視した勘定科目(売上・売掛金など)、個別に追加した拠点やプロセスを記載します。

評価時点は、実態とのズレを防ぐために内部統制をいつ評価したかを明記することが重要です。評価基準については、公正妥当な内部統制評価基準に準拠していることを示す必要があります。

さらに、実際に実施した評価手続きの概要も報告書に記載するようにしましょう。

付記事項

改訂により、内部統制報告書における付記事項の記載内容が具体化されました。

まず、前年度に報告した「開示すべき重要な不備」については、その後の是正の進捗や完了状況を記載する必要があります。継続的な改善への姿勢を明確にするうえで、情報の開示は重要です。

次に、財務報告の信頼性に重大な影響を与える「後発事象」について、評価時点以降に発生した不正やシステムトラブルなども記載対象とされました。

また、決算期末日以降に実施された是正措置も、新たに記載すべき項目に追加されています。

J-SOXの改訂により、報告書の透明性が高まり、信頼性のある情報開示が期待されています。

J-SOXの改訂は2024年4月1日以降から適用されている

J-SOXの改訂は、2024年(令和6年)4月1日以降に始まる事業年度から適用されています。

多くの企業では、2025年3月期(2024年4月〜2025年3月)の内部統制の評価や監査から、新しい基準に基づいた対応が必要となります。

J-SOXの改訂に伴い、実務上どのように対応すべきかが重要な課題となっており、日本公認会計士協会は関係者と連携し、2024年2月13日付で内部統制監査の実務指針を改正しました。

企業側も適用初年度からスムーズに対応できるよう、事前の準備や見直しが求められます。

内部統制報告制度については、下記の記事で導入時期や必要書類について詳しく解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。

J-SOXの違反による罰則

J-SOXにおける罰則は、内部統制報告書に虚偽の記載があった場合に適用されます。

たとえ内部統制に「重要な欠陥」が見つかっても、事実を正しく報告していれば、上場廃止や罰則の対象にはなりません。虚偽の記載がある場合に限って、処罰の対象となるため注意が必要です。

虚偽の記載があると判断された場合は、金融商品取引法第197条の2に基づき処罰されます。個人の場合は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金、または両方が課されます。

また、法人が関与した場合は5億円以下の罰金が課されるため注意しましょう。なお、J-SOX制度は2009年3月期決算から、上場企業および連結子会社に適用されています。

J-SOXの改訂ポイントを理解して適切に対応しよう

J-SOXの改訂は、企業の内部統制体制に大きな影響を与える重要な変化です。

改訂内容を正しく理解し、自社の状況に応じて見直しや対応を進めることが求められます。リスクを防ぎ、信頼性の高い財務報告を行うためにも、今のうちからしっかりと準備しておきましょう。


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