- 作成日 : 2025年7月7日
社外CFOとは?IPO準備における役割やメリット・活用法を解説
IPO(新規株式公開)を目指す企業にとって、「社外CFO」とは何か、そして導入すべきなのかという疑問を抱く方も多いでしょう。
本記事では、社外CFOの基本的な役割から業務内容、社外CFOの活用がおすすめの企業の傾向や契約形態などについて解説します。
目次
社外CFOの役割と社内CFOとの違い
社外CFOとは、自社の従業員や役員ではなく外部の専門家としてCFO(最高財務責任者)業務を担う人材のことです。社内に常勤するCFOと異なり、社外CFOは企業に雇用されず必要な期間・業務に限定して関与する点が特徴です。財務戦略の立案・実行、資金調達、管理部門の統括といったCFO本来の役割を果たしつつも、外部からの客観的な視点で企業をサポートします。
社外CFOと社内CFO(常勤CFO)の大きな違いとしては、以下のような点が挙げられます。
- 雇用形態
社外CFOは業務委託など契約ベースで関与し、社内CFOは社員(役員)として会社に属します。 - 費用負担
社外CFOは必要な業務に応じた変動費として報酬を支払い、一方で社内CFOには一定の固定給与が発生します。 - 関わり方
社外CFOはスポット的・定期的など柔軟な関与が可能ですが、社内CFOは常時フルタイムで経営にコミットします。
社外CFOは、企業のニーズに応じて柔軟に活用できる財務のプロフェッショナルだと言えます。
社外CFOを導入する企業の傾向
社外CFOのニーズが高まる企業にはいくつか共通した傾向があります。業種を問わず、「自社内に財務のプロ人材が不足している」「成長に伴い財務課題が高度化している」といった状況で、社外CFOの活用が検討されるケースが多くなっています。以下に、代表的な企業タイプごとの傾向を解説します。
スタートアップ企業
創業間もないスタートアップでは、専門の財務人材が社内にいないケースがほとんどです。資金調達や財務管理は創業者自ら対応することになりがちですが、本業に支障を来す恐れがあります。資金繰りや資本政策に知見を持つ社外CFOを一時的に迎え入れれば、創業者は本来注力すべき事業開発に専念でき、専門外の財務業務を効率的に進められます。
事業が急成長している企業
ビジネスの拡大に伴い取引や予算管理が複雑化してくる成長企業も社外CFO導入の好例です。今後の成長に向け経営管理基盤の整備やバックオフィス業務の効率化が必要になる一方、フルタイムCFOを置くほどではない場合があります。社外CFOであれば必要なタイミングで専門知識を発揮してもらい、財務戦略の高度化と事業拡大の両立が期待できます。
上場準備中・上場を目指す企業
IPO準備に入った企業にとって、上場実務に詳しいCFOの存在は極めて重要です。上場申請前には膨大な資料作成や組織整備、証券会社・監査法人との折衝など同時並行で進める専門業務が山積します。しかし多くの未上場企業では専任CFO不在で経営陣が兼務しており、手が回らなくなりがちです。経験豊富な社外CFOに参画してもらえば、上場準備を的確にマネジメントし、IPO成功の確率を高めることができます。
中小企業
一見、中小企業にはCFOは贅沢に思えるかもしれませんが、実は中小企業こそ社外CFOの支援によるメリットが大きい場合があります。人材やコストに限りがある中小企業では、社長自ら経営から財務まで判断しているケースも多く、どうしても視野が狭くなりがちです。そこに外部の財務エキスパートが加わることで、資金調達力の強化、財務体質の健全化、経営戦略の高度化などを一段上のレベルで実現できます。社外CFOは中小企業の良き伴走者として、経営者を客観的に支える役割を果たします。
社外CFOの活用は、スタートアップから中小企業、急成長ベンチャー、IPO準備企業まで幅広い企業で進んでいます。共通しているのは「社内に十分な財務リソースがない」「財務戦略の専門性が求められる局面にある」という点であり、そうした状況下で社外CFOは企業成長を加速させる心強いパートナーとなります。
IPO準備における社外CFOの役割・業務
企業がIPOを目指す段階では、財務面でやるべきことが飛躍的に増加します。社外CFOはIPO準備期において、専門知識と経験を活かして多岐にわたる業務を担います。ここでは社外CFOが具体的に果たす役割について、解説します。
資本政策の策定
株式公開に向けて必要な資本政策の立案をサポートします。発行株式数、資金調達計画、株主構成の戦略などについて、企業の成長段階に合わせた最適なスキームを設計します。適切な資本政策はIPO成功の基盤となるため、経験豊富なCFOの助言が極めて有効です。
開示体制の整備
上場企業並みの決算体制やIR体制の構築を進めます。財務諸表や有価証券報告書といった開示資料の作成準備に加え、社内でのレビュー体制や適時開示のルール設計などを行い、金融商品取引法など関連法令に則った体制を整備します。
内部統制の構築
上場審査をクリアするためには、社内の統制システムを高度に整備する必要があります。社外CFOは経理・財務プロセスを見直し、監査法人からの指摘に対応できるよう統制フローを構築します。内部監査体制の確立も視野に入れたサポートを提供します。
監査法人・証券会社対応
監査法人や主幹事証券会社の選定、契約、対応を担います。IPOの過程では外部関係者との連携が頻繁に発生するため、社外CFOが窓口となって交渉や調整を行い、情報の整理と進行管理を一手に引き受ける体制を整えます。
社外CFOが対応するこれらのIPO準備業務は、専門性が高く、同時進行で行うタスクが多数存在します。そのため、CFO業務を経営者や他の役員が兼務することで疲弊し、進行が滞ってしまうケースも少なくありません。上場という企業にとって重要な局面を乗り切るには、上場準備の実務経験を持つ人材の参画が現実的な選択肢となります。
また、上場準備が本格化したフェーズでは、理想的には常勤のCFOを招聘し、社外CFOからバトンタッチする体制が望ましいとされています。最近では、事業拡大期までは社外CFOを活用し、IPO直前に常勤CFOに交代するモデルも増えており、スムーズな移行と体制強化を両立する仕組みが整いつつあります。
社外CFOの契約形態と働き方
社外CFOは基本的に業務委託契約などによって企業と結ばれ、柔軟な働き方で支援を行います。正社員や役員としてではなく外部の委託契約で関与するため、契約内容次第で業務範囲や期間を調整できるのが特徴です。一般的に、社外CFOサービスの形態は次の3種類に大別できます。
契約形態 | 概要 | 主な支援内容 | 適しているケース | 特徴 |
---|---|---|---|---|
顧問型 | 月額固定で定期的に経営を支援するスタイル | 財務アドバイス、月次経営分析、定例ミーティングなど | 継続的に軽めの関与を希望する場合 | 長期的な伴走に適している |
プロジェクト型 | 一定期間・目的に特化して集中的に業務を遂行するスタイル | 資金調達、M&A、新規上場準備などの実務支援 | 明確な課題に短期間で取り組みたい場合 | 短期集中型、成果に直結しやすい |
チーム型 | 複数分野の専門家で構成されたチームが総合的に支援するスタイル | 財務・経理・税務・法務など複数領域にわたる支援 | 上場準備や組織改革など全社的な高度課題を抱える場合 | 包括的支援、横断的な知見を提供 |
社外CFOの報酬水準・相場
社外CFOの費用面は、企業規模や依頼内容、契約形態によって大きく異なります。フルタイムCFOの年俸(数千万円規模)に比べれば抑えやすいとはいえ、専門家ゆえそれなりのコストは発生します。一般的な相場観として、以下の金額帯が参考になります。
契約形態 | 想定報酬相場 | 支払い形態の例 | 稼働・関与内容の特徴 | 備考 |
---|---|---|---|---|
顧問型 | 月額30〜100万円程度 | 月額定額制/時間課金制 | 定期的な助言・月次面談・経営分析など | 経験値や企業規模により報酬は変動 |
プロジェクト型 | 100〜1000万円(案件単位) | 一括支払い/期間契約/成果報酬制もあり | 資金調達、M&A、IPO支援など、成果に直結する集中的な支援 | 規模の大きなプロジェクトで報酬も高額化 |
非常勤(パートタイム) | 月額20〜50万円程度 | 月額定額制/時間課金制 | 週数日の稼働。特定業務範囲のみを支援 | 比較的ライトな支援、短期導入に適する |
フルタイムCFO(参考) | 年間1000万〜2000万円 | 固定年俸+社会保険など | 常勤役員として経営全般・財務責任を担う | 社外CFOよりコスト高、柔軟性は低い |
社外CFOを見つける方法
社外CFOの活用を検討する企業にとって、適切な人材をどのように探し出すかは重要な課題です。ここでは代表的な3つのアプローチ方法とその特徴について解説します。
知人・人脈による紹介
経営者仲間や信頼できる知人から、実績ある財務人材を紹介してもらう方法です。人物面や能力について事前に把握できる可能性があり、信頼性の面での安心感があります。ただし、このルートでは該当人材が非常に限られており、自社の希望するスキルや経験を持ったCFO候補に巡り合える確率は高くありません。紹介された人材がフィットしない場合、他の候補をすぐに探すことも難しいという課題があります。
会計事務所・財務コンサル企業のサービス利用
公認会計士や税理士法人、財務アドバイザリー企業が提供する社外CFOサービスを利用する方法です。監査やコンサルティングの実績が豊富なプロフェッショナルによる支援が受けられる点で、専門性の高さや信頼性において強みがあります。一方で、コストが割高になりやすく、また事業会社での実務経験が少ない場合もあるため、企業のフェーズや現場に即した対応力にはばらつきが出ることもあります。
人材マッチングサービスの活用
近年急速に広まっているのが、プロ人材のマッチングプラットフォームを活用する方法です。副業人材やフリーランスとして活動するCFO候補者が多数登録しており、そこから自社の要件に合う人材を紹介・仲介してもらえます。スキルや経験のある専門家と出会いやすく、知人紹介よりも短期間で候補者を見つけられるというメリットがあります。ただし、候補者のスキルや業務遂行力には差があるため、エージェントを通じて実績や適性を丁寧に見極めることが求められます。
この中でも、業務委託人材マッチングサービスの活用は、今最も注目されている選択肢です。上場準備経験者や国際財務に強い人材など、自社の目的に応じた専門人材を柔軟に探し出すことが可能です。従来の紹介ベースでは1〜2年かかっても見つからなかったような人材に、短期間でアクセスできることから、多くの企業で導入が進んでいます。
国内では「シェアリングCFO」「Anycrew」などのサービスが代表的で、必要に応じてスポットで登用できる仕組みが整っています。複数のサービスに相談し、候補者のバックグラウンドやフィット感を慎重に比較・検討することが、成功の鍵となります。
社外CFOに求められる資質・実績
社外CFOを採用・活用する際、企業が重視するのはその人材の資質や実績です。CFOとしての能力はもちろん、信頼関係を構築し、経営チームの一員として機能する人物かどうかも問われます。ここでは、社外CFOとして求められる主要なバックグラウンドと資質について解説します。
IPO・監査の専門知識
監査法人で新規上場企業の監査経験がある、公認会計士資格を保有しているといった経歴を持つ人材は、社外CFOとして非常に重宝されます。上場に必要な財務報告や内部統制の知識を備えており、IPO準備を主導できるスキルが期待されます。監査法人での経験を通じて得られた審査対応のノウハウも、企業にとって大きな価値となります。
上場達成の実務経験
実際に事業会社でCFOや経営幹部としてIPOを達成した経験がある人材も高く評価されます。上場準備から審査対応、本番での体制整備に至るまでの全体像を把握しているため、経営陣にとって非常に心強い存在となります。過去に上場プロセスを完遂したCFO経験者は、IPO後の体制づくりにも明るく、持続可能なガバナンス整備にも貢献できます。
ファイナンスの高度な専門性
投資銀行や会計系コンサルティングファームでの勤務経験があり、M&Aアドバイザリーやエクイティファイナンスの実務を担ってきた人も、社外CFOとしての適性が高いとされています。複雑な財務スキームの設計や資本政策の最適化を担えるだけでなく、企業の成長戦略に即したファイナンス戦略を描くことが可能です。
投資家側の視点・ネットワーク
ベンチャーキャピタル(VC)やプライベートエクイティファンド出身の人材も、投資家との関係構築や資金調達の戦略設計において高い評価を受けています。投資家の視点を理解しているため、IR対応の質を高めたり、出資交渉を円滑に進めたりする力を持っています。ファンドとの豊富なネットワークを持つことで、調達機会の拡大にも寄与します。
経営パートナーとしての資質
ビジネスモデルや業界への理解、経営陣との相性、そして高いコミュニケーション力は、社外CFOにとって極めて重要です。財務知識に長けているだけでなく、経営判断に伴走し、企業の課題に対して主体的に動ける姿勢が求められます。非常勤で関与することが多い社外CFOにとっては、自律的に行動し、短時間で成果を出す推進力も必要不可欠な要素です。
社外CFOの導入は成長企業の重要な経営戦略
社外CFOは、財務の専門性を柔軟に取り入れることができる経営支援の形として、スタートアップからIPO準備企業、中小企業にまで浸透しつつあります。資本政策、開示体制、内部統制といった上場準備に必要な体制構築をはじめ、資金調達や経営管理における専門知識を社外から補完できる点が大きな利点です。企業の成長フェーズや課題に応じて、顧問型、プロジェクト型、チーム型といった多様な契約形態から選択でき、コストとパフォーマンスの最適化も図れます。さらに、プロ人材マッチングサービスなどの外部支援を活用することで、より迅速かつ的確に優秀な人材と出会うことも可能です。社外CFOは単なるアドバイザーではなく、信頼できる経営のパートナーとして、企業価値の向上に大きく貢献する存在と言えるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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