- 更新日 : 2025年3月19日
内部統制強化で経費精算の不正を防ぐ!監査のポイントを解説
粉飾決算や不正会計のニュースが相次ぎ、上場企業や上場を目指す成長企業は、内部統制の見直しや強化を求められています。
経費の不正利用などは経理・財務などの管理部門が徹底して内部統制をする必要がありますが、監査されるポイントがわかりにくいと感じる方もいらっしゃるでしょう。
本記事では、経費精算における内部統制を見直したい経営者や責任者向けに内部統制の重要性と監査のポイントを解説します。
目次
経理業務における内部統制の重要性
企業が社会的信用を保ちつつ、継続的にかつ健全に運営していくには、内部統制の実施および強化が重要です。
健全な事業活動の継続には組織内の不正などを未然に防ぐ必要があり、そのためにも経理・財務部門の管理体制の整備や強化が必須です。
特に経理における経費清算業務に関しては、内部統制と深いつながりがあります。正確で適正な経理体制を整えることで、効果的な内部統制につながるでしょう。また、内部統制システムを活用した経費精算業務になれば、より効率的で的確な業務遂行となるでしょう。
以下の記事では、経費生産の効率化について解説していますので、ぜひ確認してください。
不正会計経理処理を防ぐ
内部統制を実施する目的は、健全な事業活動を効率的に実施するためのプロセスや仕組みを整え、不正会計経理処理を防ぎ、健全でクリーンな事業活動を継続することです。
事業活動において企業の不正会計や粉飾決算などの不祥事を起こさないためにも、適切な経理業務は重要な役割を担います。
内部統制による経費精算の3つの重要な業務
内部統制による経費精算には、3つの重要な業務があります。内部統制を構成する4つの目的の中の「報告の信頼性」と「資産の保全」の2つに関係する、重要な任務が経理にはあります。
経理部門が中心となって果たすべき3つの重要な任務について解説していきます。
①日々のモニタリング
経費精算による不正を防ぐには、日々のモニタリングが大切です。
モニタリングをすることで内部統制の問題点や課題を早期に発見でき、さらに内部統制が正しく機能しているかを確認できます。
経理業務の管轄である経費精算や現預金の管理は、企業のお金を守るための重要な業務であり、企業の信頼性に直結するため取り扱いには十分に注意する必要があります。
通常の経理業務にモニタリングを組み込むことで、効果的な内部統制が取れるでしょう。
②体制整備
経費精算には、体制の整備が大切です。
体制整備とは不正にいち早く気付ける環境を作ることを意味します。
内部統制下で、誰にも気づかれずに経費の不正などが働けるような会社体制では、内部統制が正しく機能していないということになります。
不正にいち早く気付けるようにするために、経費精算業務の工程に分業と承認プロセスを取り入れましょう。体制を整えて不正チェックを効率的に行い、不正出来ない仕組みづくりを構築することが重要です。
③ITシステムの導入による業務効率化
経費精算では、ITシステムを導入することによる、業務の効率化も大切です。内部統制の実施における人員・労力の課題にはITシステムの導入で解決できるためです。
経費精算の内部統制強化には大変な時間と労力がかかります。通常業務に加えて内部統制を実施・強化するとなると、それに伴って人員の確保、運用における支出が予測できます。
ITシステムによって人件費の削減などのコストパフォーマンスの実現や、ヒューマンエラーなどのミスの低下およびリスクを減らすことにもつながります。
ITシステムの運用によって正確な経費精算が可能となり、業務効率化が進むため、結果として企業の社会的信用の向上につながるでしょう。
内部統制の4つの目的
内部統制は企業が法的・社会的・経営的に健全な事業活動を続けていくうえで必要な考え方です。まずは内部統制の基本を解説します。
内部統制には金融庁が定めた内部統制への取り組みにおける「4つの目的」が存在します。以下では、一つひとつ詳しく解説します。
①業務の有効性および効率性
業務の有効性・効率性とは、企業が掲げる目標を的確に達成しつつ、ムダや非効率を排除して成果を最大化することです。
企業が持続的に成長するためには、限られたリソース(ヒト・モノ・カネ・時間)を最適に使い、計画通りに目標を達成する必要があります。
業務が非効率だったり、方向性がずれていたりすると、コスト増や品質低下を招き、競争力を失います。
最小のコストと時間で最大の成果を上げることができれば、企業としての競争力や収益性が高まり、長期的な成長と安定につながります。
②報告の信頼性
報告の信頼性とは、財務諸表やその他の経営データなど、社内外への情報提供が正確・完全・適時であることを指します。
不正確な報告が行われると、経営判断を誤るリスクが増大し、投資家や取引先など利害関係者の信頼を損ねる恐れがあります。また、法令上の開示義務や金融商品取引法に違反すると、行政処分や社会的信用の失墜につながりかねません。
報告の正確性は、ステークホルダーからの信頼確保に直結し、企業の社会的評価や資金調達の面でも大きな影響を与えるため、重要な事項だと言えるでしょう。
③事業活動に関わる法令などの順守
法令などの遵守(コンプライアンス)とは、企業がその事業活動において関係する法律・規制・業界ルール・社内規程・倫理規範などを正しく守ることです。
法令や規定を守らないと、行政処分や罰則、訴訟リスクなどが発生し、社会的信用を大きく失います。また、従業員のモラルや企業風土の悪化につながり、経営の安定を脅かす要因にもなります。
あらゆるステークホルダーとの良好な関係を維持するためにも、コンプライアンスは企業を存続するための根幹であり、組織全体で継続的に取り組んでいく必要があります。
④資産の保全
資産の保全とは、企業が保有する現金・預金、在庫、有形固定資産、知的財産などを不正や事故、劣化などから守り、適切に管理することです。
企業の資産が流出・毀損すれば、直接的な金銭的損失はもちろん、信用低下や事業継続の危機に陥る可能性があります。また、資産が不正に流用されたり情報漏洩が起きたりすると、法的責任追及や経営トップの引責問題にまで発展しかねません。
資産を確実に保全する仕組みを整えておくことで、企業の財務基盤が安定し、投資家や取引先からの信頼を得ることにもつながります。
内部統制の監査ポイント
ここでは、内部統制の監査ポイントについて解説していきます。具体的には、以下のような点を確認しましょう。
- 文書管理
自社で使用する領収書等は定型化され、担当者の責任の下に保管されていますか。 - 現預金・小切手
手許現金と帳簿の残高は一致していますか。 - 固定資産
固定資産については、付番管理を行うとともに配置場所を把握していますか。
参考:自主点検チェックシート|公益財団法人 全国法人会総連合
自主点検チェックシートでは、上記の項目を含めた84のチェック項目を設けています。
特に経費精算の分野において、これらは内部統制を実現させる上で欠かせないポイントであり、監査でも見過ごせないポイントとなっていますので、ぜひ一度ご確認ください。
内部統制監査とは
内部統制監査とは、企業が作成した「内部統制報告書」の内容の適正の是非を外部の監査人が確認することです。ここでの「外部の監査人」とは、監査法人や公認会計士を指します。
監査人がひと通り監査し、完了したのちに「内部統制監査報告書」としてまとめて企業へ戻します。この監査人から提出された「内部統制監査報告書」と自社で作成した「内部統制報告書」のふたつを金融庁へ提出する義務があります。
すべての上場企業は内部統制を実施しなくてはいけません。また、内部統制を実施している場合には、必ず内部統制監査が義務付けられています。
これから上場を目指す企業は内部統制の整備とあわせて、監査を受けるための企業体制を整えることも必要になります。
内部統制監査の4つのポイント
内部統制監査を受けるうえで知っておくべき4つのポイントについて解説します。
内部統制監査は、企業が財務報告にかかる内部統制を適切に実施・運用しているかどうかを第三者的立場の監査人に確認・調査してもらい、監査人が得た情報をもとに当該企業と利害関係にある法人や個人が正しく意思決定できるようにすることが目的です。
ここでの「企業と利害関係にある法人・個人」とは、金融機関や投資家、税務署などを指します。
以下では、監査を受ける際のポイントについて解説していきますので、参考にしてください。
①無限定適正意見
無限定適正意見とは、内部統制監査で監査人が企業の内部統制が適切に運用されていると判断した意見結果です。
監査人は、内部統制監査で企業の内部統制の設定や運用状況を調査し、重大な欠陥がないかを確認します。その結果、特別な不備がなく適切に機能していると判断された場合に「無限定適正意見」として発表されます。
「無限定適正意見」として企業の財務報告が信頼できる情報であると判断されると、投資家や利害関係者にとっては重要な指標となり、安心な判断材料になりえます。
つまり、内部統制を実施するすべての企業はこの「無限定適正意見」になることを目指して内部統制を実施します。
②限定付適正意見
限定付適正意見とは、例外的に一部適切ではない部分があると判断されたものの、基本的には企業の内部統制が適切に整備・運用されていると判断された意見結果です。
監査人が内部統制を評価する際、特定の領域で不備・制約が確認できた場合でも、財務報告の信頼性を大きく損なうものでなければ、「限定付適正意見」とされます。
例えば、一部業務工程に不備がありつつもほかで補完されている場合などが挙げられます。「限定適正意見」と判断された場合、当該企業は指摘された不備を早急な修正対応をしなくてはいけません。
投資家や利害関係者にとっては、内部統制に懸念があるものの、財務報告全体としては一定の信頼性が確保されていることを意味します。
③不適正意見
不適正意見とは、内部統制監査の結果、内部統制に適切でない部分が多いまたは重要な欠陥が発見されたなど、総合的に判断して当該企業の財務報告書が不適正と判断された意見結果です。
監査報告書の中で不適正の理由が明らかにされます。誤った財務報告に不適正意見が示され、当該企業にとっては財務報告に対する重大な警告となります。利害関係者にとっても注意すべき企業と判断されてしまいます。
不適正意見となった場合には、迅速に内部統制の修正・改善・対処を行い、企業の信頼回復に努める必要があります。対応しないまま放置すると株価への悪影響や資金調達など事業活動に大きな損害が発生する可能性を高めてしまいます。
④意見不表明
意見不表明は、①〜③とは違い、そもそも内部統制監査が実施できなかった場合に表明されるものです。内部統制監査において、監査人が当該企業の十分な監査証拠が得られず、内部統制の適性が判断できなかったとされる意見結果です。
意見不表明となるケースは企業が必要な監査資料の未提供や、大幅な監査範囲の制限がされた際などに発生します。また、内部統制の状況が極めて不透明で、適正か不適正かの判断ができなかったケースもこれに該当します。
意見不表明と判断されると、企業の財務報告の信頼性に大きな疑問が生まれ、利害関係者にとって大きなリスクと判断されます。
当該企業は監査を受け入れる環境を整備し、適切な情報開示を改めて行うことで、意見不表明を撤回するように努めなければいけません。意見不表明を放置すると、社会的信用が低下し、それに伴って上場廃止や資金調達などにも影響が出ます。
システムを導入して正確で適正な経理清算を!
内部統制の基本的な情報をもとに重要性や強化の必要性について解説しました。また内部統制監査についても基本的な情報から監査ポイントまでお伝えしました。内部統制の強化で得られるメリットも多いのはたしかですが、強化のためには十分なリソースを割く必要があり、経理にとっても負担増となりえます。
これらの課題解決には、システムの導入がおすすめです。経理業務の負担軽減だけでなく、業務効率化にも役立ちます。マネーフォワードなら正確で適正な経理清算システムで、業務負担を軽減できます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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