- 作成日 : 2024年12月17日
IPOにおける法務の重要性や役割、業務内容を解説
不正会計などの問題が深刻化したことに伴い、IPOにおける法務の重要性が高まっています。
法務部門はIPOにおいて内部統制やリスクマネジメントなどの役割を担い、法務DDの実施やコンプライアンス体制の構築などを行います。本記事では、IPOにおける法務の重要性や役割、業務内容などを解説します。
目次
IPOにおける法務の重要性が高まっている背景
IPOの準備プロセスにおける法務の重要性が高まっている背景として、法令遵守やコーポレートガバナンスの重要性が社会全体で高まっていることが考えられます。一昔前までは、収益性や財務の安定性といった会計や財務に関する情報を投資家に提供することが最重要視されており、法務に関する情報提供は付随的なものでした。
しかし、不正会計や不祥事が相次いだことで、「適切に財務・会計の業務を行えているかどうかを精査する必要がある」という認識が市場内で広まりました。こうした流れに伴い、J-SOX(内部統制報告制度)の導入やコーポレートガバナンス・コードの制定などが続き、IPOにおける法務部門の役割は大きなものとなったのです。
また、取引所の実質基準にも「企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性」が含まれており、この基準をクリアするための対応も法務に求められています。
IPOにおける法務の役割
IPOで法務部門が担う役割は、大きく以下4つに分けられます。
内部統制およびコーポレートガバナンス・コードへの対応
1つ目は、上場審査を見据えた内部統制およびコーポレートガバナンス・コードへの対応です。
内部統制に関しては質がチェックされるため、業務フローや各部署の権限分配を可視化したり、法令違反や不正リスクを特定・評価・管理したりすることが重要です。
また、コーポレートガバナンス・コード(企業統治における原則)への対応も必要です。
コーポレートガバナンス・コードについては以下の記事にて詳しく解説しているので、ご参照ください。
リスクマネジメント
2つ目は、IPOおよび事業運営を取り巻くさまざまなリスクへの対応です。
IPOに際して企業が直面する可能性のある法的リスクを特定し、そのリスクを最小限に抑えるための対策を検討・実施します。
具体的には、契約書や就業規則などの見直しや改善、コンプライアンス体制の強化によって法的リスクを回避し、上場審査で不利にならないようにします。また、レピュテーションリスク(企業イメージの低下による企業価値の減少など)や、事業拡大に伴って生じ得るリスク(労働環境の悪化など)についても、事前にマネジメントを図ります。
IPOおよび上場後の事業運営における法務面でのサポート
3つ目はIPOおよび上場後における法務面のサポートです。IPOの準備に際しては、上場申請書類の作成や株主総会の開催、増資など、さまざまな法的手続きが発生します。法務部門は、こうした手続きを適切に実施し、円滑なIPOを実現することが求められます。
また、上場後も法的な手続きが発生するため、継続的にサポートを行います。
上場後の継続的な法令遵守
4つ目は、上場後における継続的な法令遵守です。法務部門の業務はIPOを実現して終わりではありません。長期的に事業を運営し、企業価値を成長させることが重要です。
そのためには、法令違反を回避し投資家や消費者などからの信頼を失わないことや、事業停止を防ぐことが求められます。これらを実現するために、法律を専門とする法務部門が大きな役割を果たします。
具体的には、事業規模の変化に応じて従来のマニュアルや業務プロセスなどを改善することが求められます。
また法令遵守に関連する業務として、上場企業としての責任を全うするために、反社チェックや契約書の精査などをより重点的に行うことも大切です。
加えて、敵対的買収への対策や不特定多数の株主への対応など、上場企業ならではの対応が必要になる場合も多いでしょう。
IPOで法務部門が担う業務
IPOにおいて法務部門が担う業務を具体的に解説します。
コンプライアンス体制の構築
IPOを目指す企業にとって、法令遵守(コンプライアンス)は必須です。
法務部門は、企業が法律や規則を遵守するための体制を整え、社内にコンプライアンス文化を根付かせる仕組みを確立します。
具体的には、各種法律や規程に対応するためのマニュアル策定、従業員向けの研修実施、違反が発生した際の対応手順の作成などが含まれます。これによって法的リスクを回避し、企業の信頼性を高めます。
J-SOX(内部統制報告制度)への対応
J-SOXとは、上場企業に求められる内部統制の報告制度で、財務報告の信頼性を確保するための仕組みです。法務部門は、財務部門と協働し、J-SOXに対応するための仕組みづくりを行います。
具体的には、内部統制に関する規程の策定や運用評価、リスクの特定などを担当します。これにより、上場企業としてのガバナンス強化を実現します。
J-SOXについては以下記事で解説していますので、ご参照ください。
コーポレート業務
IPOに向けた法務部門のコーポレート業務では、定款の改訂や株主総会の運営支援、取締役会の議事録作成といった業務を行います。また、増資などによる資金調達や事業の成長に向けたM&Aを行う際は、法務部門がスキームや契約内容をチェックします。
企業統治の観点から、これらの手続きは法的に適切に行われなければならず、これはIPOに際しても同様です。これにより、上場準備の透明性と法的安定性を担保します。
法務DDの実施
法務DD(法務デューデリジェンス)は、IPO準備において欠かせないプロセスです。企業が法的リスクを把握し、必要な対策を講じるために実施されます。法務部門(または弁護士などの専門家)は、契約書や法令遵守状況、訴訟リスクなどを調査し、問題があれば早急に対応します。
これによって、IPO後のリスクを最小限に抑えることが可能です。法務DDについては以下の記事にて詳しく解説しているので、ご参照ください。
労務・人事制度の整備
上場審査では、適切に労務管理を行えているかもチェックされます。そのため、法務部門では人事部門と協働し、労務・人事制度の整備を図ることが一般的です。
具体的には、法律に適合した規程となっているか、未払賃金などの法的問題が残っていないかどうかなどを確認し、必要に応じて対応策を検討します。
その他
上記以外の業務として、主に下記が挙げられます。
業務の種類 | 具体例 |
---|---|
事業の成長に貢献する仕組み構築の支援 | ・新規事業における法的リスク精査 ・適法性チェック ・契約管理の効率化 |
資本政策の策定支援 | ・スキーム構築や契約書作成などの手続き遂行 ・資本政策(ストックオプションなど)の制度設計 |
知的財産の保護 | ・商標や特許などの出願 ・知的財産権の侵害に対する対応 ・ライセンス契約のアレンジ |
IPOにおいてリスクとなり得る契約内容
IPOにおける法務部門の業務の中で主となるのが、契約の管理です。
契約内容の適法性やリスクを精査し、今後も契約を続けることに問題がないかをチェックすることが求められます。そのためには、リスク要因が大きい契約例を重点的にチェックする必要があります。具体的な契約内容の例として、主に下記が挙げられます。
契約の種類 | リスクとなり得る契約内容例 |
---|---|
業務提携契約 | 競業避止義務 |
投資契約・株主間契約 | 経営の独立性を低下させる条項 |
製造委託契約・開発委託契約 | 著作権の帰属 |
フランチャイズ契約・ライセンス契約 | 最低保証、中途解約に関する条項 |
サービス等利用契約 | 独占的かつ長期間の利用義務 |
上記は一例であり、企業ごとにリスクとなり得る項目は異なります。したがって、必ず個別のケースごとに契約書の内容を精査し、「IPOの実施に悪影響を及ぼすリスクがあるか」を確認することが求められます。
まとめ
IPOで法務部門が担う役割は非常に大きいものです。法務部門が法律上のリスクを精査したり、法に則った手続きを行ったりすることで、IPOで失敗するリスクを軽減することができます。
ただし、IPOにおいて法務部門が担う役割や業務は多岐にわたる上、求められる専門性も高い傾向があります。そのため、必要に応じて弁護士や法律事務所などにサポートを依頼することがおすすめです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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