- 更新日 : 2024年7月16日
ストラクチャードファイナンスとは?特徴やメリット・デメリットなどを解説
「ストラクチャードファイナンス」という言葉をご存じでしょうか。実際に扱ったことがないと、具体的なイメージを持つのは難しいかもしれません。「構造において何かしらの工夫がなされた金融手法」という、広い意味で使われる言葉です。金融商品の設計において、特定の目的やニーズに応じて複雑な構造を持たせた手法のことを指します。
本記事では、まずストラクチャードファイナンスの基本について説明し、その後、代表的な種類についても解説していきます。
目次
ストラクチャードファイナンスとは
ストラクチャードファイナンスという用語には明確な定義はありません。直訳すると「仕組み金融」となります。
この言葉は「構造に何かしらの工夫がされた金融手法」という、広い意味で使われています。
また、企業が所有する事業や資産の価値に注目し、企業自体の信用力に依存せず資金を調達する方法といった意味もあります。
自社の信用だけでなく、他の要素に着目して資金を調達できるというメリットがある手法です。
ストラクチャードファイナンスの必要性
1980年代後半からのバブル経済期、多くの日本企業が余剰資金を背景に、設備投資や不動産・株式への投資を拡大しました。しかし、バブルが崩壊すると、不良債権の増加や企業の財務の問題が浮き彫りになりました。
日本政府は経済再生や国際競争力の向上を目指して多くの制度改革を行い、以前は難しかった金融手法の実行も可能になりました。
そして1990年代後半以降、外国の金融機関が日本市場に参入し、金融商品の開発や提携が進んで、新しい金融手法が普及していきました。
その中でもストラクチャードファイナンスは、アイデアと実行力が重要な金融手法です。
企業の財務の健全性や収益性がより重視されるようになった状況において、ストラクチャードファイナンスは必要性の高い金融手法であるといえます。
ストラクチャードファイナンスの仕組み
ストラクチャードファイナンスは企業の資産を異なる種類の金融資産に分け、それぞれのリスクとリターンに応じて資金を調達する方法です。
ストラクチャードファイナンスでは、資産を個別に取り扱います。例えば、不動産や売掛金などを別々に評価し、金融機関や投資家からそれぞれのリスクとリターンに応じた資金提供を受けます。
企業は多様な資金源から効率的に資金を調達でき、投資家は自分のリスク許容度に応じた投資を選択できるようになります。
次の章では、より具体的な例について説明します。
ストラクチャードファイナンスの種類
ストラクチャードファイナンスの手法は複数あります。それぞれについて、本章で詳しく説明します。
企業が所有する不動産の活用
まずは企業の資産である不動産を活用する「不動産の流動化」という方法があります。不動産の流動化とは、不動産を売却したり、より流動性の高い有価証券として扱えるようにする方法です。
不動産を所有する企業は、多額の資金を調達し、事業の拡大や他の用途に充てられるというメリットのある手段となります。
企業が所有する債権の活用
企業が保有する売掛債権や貸付債権を証券化して売却したり、債権を担保に融資を受けたりして資金を調達することができます。この方法により、企業は債権の所有権を変えずに、債権を収益源として活用できます。
特定の事業に焦点を当てたプロジェクトファイナンス
プロジェクトファイナンスでは、特定の事業から得られるキャッシュフローに基づいて融資が行われます。返済原資や担保は対象となる事業に限定されます。
設備利用の形態に着目したリースファイナンス
リースファイナンスは、設備を購入する代わりに、リース契約を結んでリース料を支払うことで設備を導入する方法です。これにより、借入金を増やすことなく設備を利用できます。
出資金と借入金を利用したLBOファイナンス
LBOファイナンスでは、買収先企業の資産やキャッシュフローを担保にして借入し、借入金は買収先企業が返済します。これにより、少ない資金で大規模な買収が可能となります。
LBOファイナンスは、対象企業(または事業部門)のキャッシュフローや資産を担保に金融機関から融資を受けることで資金を調達し、買収を行う手法です。
被買収企業のキャッシュフローや資産を担保に資金調達が可能なため、比較的少額の自己資金で資金を調達し、買収を実行することができます。
日本でも、多数のプライベート・エクイティ・ファンドが設立され、業界が発展してきました。
LBOファイナンスは一般的に、大規模な借入金額と5年程度の長期にわたる借入期間から、金利が高くなる傾向があります。さらに、買収対象企業のキャッシュフローに依存する構造のため、融資契約上で借り手に多くの制約が課せられます。
融資契約書の作成には専門家に依頼する費用がかかるなど、多くの労力が必要です。しかし、少ない資金で大規模な買収が可能となります。
ストラクチャードファイナンスのメリット
ストラクチャードファイナンスは企業と金融機関の両者にメリットがあります。
企業側のメリット
企業がストラクチャードファイナンスを利用する主なメリットは、資金調達方法の多様化やROEの向上などが挙げられます。
ストラクチャードファイナンスを利用することで、資産の証券化や債権の活用など、さまざまな手段での資金調達が可能になります。
またROE(Return on Equity)は、自己資本に対してどれだけ企業の利益を生み出しているかを示す指標です。資産の証券化などによって自己資本を減らせば、利益が変わらなくてもROEを向上させることができます。
金融機関側のメリット
金融機関はストラクチャードファイナンスを通じて、従来の銀行商品では提供できないような資金調達サービスを顧客に提供できます。また、独自の多様な商品を提供することで、サービスの差別化を図ることができます。
事例:大規模データセンター保有SPCの例
クラウドサービスやAI、IoT、VRの発展により、データセンター(DC)の需要が急増し、大規模化が進んでいます。しかし、国内のハイパースケールDC(大規模・大容量DC)の供給はまだ限られています。この状況を受け、三菱商事株式会社と世界最大のDC事業者の一つであるDigital Realty Trust, Inc.(米国)が2017年に合弁会社として設立したMCデジタル・リアルティ株式会社は、国内のハイパースケールDCの供給拡大に取り組み始めました。
そこでMCデジタル・リアルティ株式会社は、データセンター保有特定目的会社(SPC)を設立し、日本政策投資銀行から不動産ファイナンスのノウハウや通信インフラに関する知見を活用したノンリコースローンの提供を受けました。これにより、国内のハイパースケールDCの供給拡大を進めることができました。
参考:日本政策投資銀行「デジタル大阪1特定目的会社(大規模データセンター保有SPC)へのノンリコースローンを提供」
まとめ
本記事では、ストラクチャードファイナンスの基礎的な内容について説明しました。
これまでの従来的な企業全体の信用力に依存した資金調達方法にとどまらず、特定のプロジェクトや買収先企業の信用力をもとにしたストラクチャードファイナンスは、財務指標の改善やリスクの分散を実現します。
ストラクチャードファイナンスへの理解により、企業は適切な資金調達の選択肢を持つことができるでしょう。
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