- 更新日 : 2024年7月23日
指名委員会等設置会社とは?各委員会の権限やメリット・デメリットを解説
指名委員会等設置会社とは、指名委員会や監査委員会、および報酬委員会を設置する組織形態です。業務執行と経営監督が分離している点が特徴であり、委員の過半数を社外の取締役とする必要があります。
コーポレートガバナンスの強化につながるというメリットがある一方で、役員報酬が増加するリスクもあります。
本記事では、指名委員会等設置会社の概要やメリット・デメリット、各委員会が担う業務について、IPO予定の企業目線で解説します。
目次
指名委員会等設置会社とは
はじめに、指名委員会等設置会社の概要や各委員会の権限、人数と選任のルールを解説します。
指名委員会等設置会社の概要
会社法第2条12項によると、指名委員会等設置会社とは「指名委員会、監査委員会、報酬委員会(指名委員会等)を設置する株式会社」です。
東京証券取引所の「有価証券上場規程」第437条や会社法第327、328条の規定により、公開会社である大会社や上場する企業は、「監査役会設置会社」や「監査等委員会設置会社」、「指名委員会等設置会社」のいずれかの形態をとる必要があります。
したがって、IPOを行う場合には選択肢の1つとして指名委員会等設置会社を検討することになります。
なお、上記要件に該当しない会社(非公開会社など)でも、任意で指名委員会等を設置することが認められています。
指名委員会等設置会社の特徴
指名委員会等設置会社には「業務執行」と「経営の監督」が分離されているという特徴があります。
監査役会設置会社では、取締役会が業務執行の意思決定と監督を行います。
一方で、指名委員会等設置会社では、業務執行は執行役に委任され、取締役会の内部に設置された各委員会が経営を監督します。
執行役とは、業務の執行を主な職務とする役員です(会社法第418条)。
指名委員会等設置会社では、1人または2人以上の執行役を設置する必要があります(同法402条1項)。
各委員会の権限と業務
指名委員会等設置会社では、指名委員会、監査委員会、報酬委員会それぞれが異なる権限や業務を担います。
指名委員会
指名委員会は、主に株主総会に提出する取締役(会計参与を設置する場合は会計参与を含む)の選任・解任に関する議案内容を決定する権限を持っています(会社法第404条1項)。
指名委員会が提出した議案をもとに、株主総会によって取締役の選任・解任が決議されます。
監査委員会
監査委員会は、主に以下3つの業務を担います(会社法第404条2項、第407条)。
- 執行役等の職務執行の監査および監査報告の作成
- 株主総会へと提出する会計監査人の選任・解任、再任しないことに関する議案内容の決定
- 執行役や取締役に対する行為の差止め請求
報酬委員会
報酬委員会は、主に以下2つの業務を担います(会社法第404条3項、第409条1項)。
- 執行役が支配人その他使用人を兼ねている場合、その報酬等の内容の決定
- 役員等の個人別報酬の内容や方針の決定
ちなみに、報酬内容に関する方針とは、報酬の計算方法や種類(固定報酬、業績連動報酬など)に関するものを指します。
各委員の人数と選任のルール
会社法第400条の規定により、各委員会は最低でも3人以上の委員で構成される必要があります。また、会社法では他にも以下のルールが規定されています。
- 委員は、取締役の中から、取締役会の決議によって選定する
- 委員の過半数は社外取締役で構成される
- 監査委員会の委員は、会計参与や支配人、使用人と兼任できない
指名委員会等設置会社のメリット
指名委員会等設置会社に移行すると、以下2つのメリットを期待できます。
コーポレートガバナンスを強化できる
指名委員会等設置会社では、異なる役割を持つ3つの委員会が設置されることで、一部の経営陣に権限が集中する事態を防げます。
また、各委員会の過半数が社外取締役であるため、社内の経営陣にとって有利な意思決定(役員報酬の増額など)が行われるリスクを軽減できます。
経営の透明性が高まることで、経営陣による不祥事によって企業イメージが低下する事態を防ぎやすくなるでしょう。
海外投資家からの信用を得やすい
日本の上場企業の大半は、監査役会と取締役会によるガバナンス体制が敷かれています。一方で、欧米を中心とした海外の株式会社では、より経営の透明性が高い指名委員会等設置会社が大半です。
そのため、指名委員会等設置会社は、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社と比較すると、海外投資家からガバナンス体制に対する信用を得やすいです。
海外進出を本格的に計画している企業にとっては、指名委員会等設置会社への移行は有効な選択肢となるでしょう。
指名委員会等設置会社のデメリット
指名委員会等設置会社に移行する場合は、以下3つのデメリットに注意が必要です。
役員報酬が増加する可能性がある
前述のとおり、3つの委員会それぞれに最低3人の取締役が必要です。
そのため、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社と比べた場合、役員報酬の合計額が増える傾向があります。
人員の確保が必要となる
3つの委員会それぞれに3人以上の取締役が必要ですが、監査委員会を除き、執行役が委員を兼任することは認められています(会社法第400条4項)。しかし、各委員会の委員の過半数は社外取締役である必要があり(会社法第400条3項)、人員確保が求められます。
IPO後に指名委員会等設置会社の機関設計をとる場合、コストと人員面の負担増加は織り込んでおく必要があるでしょう。
一部の役員が不満に思う可能性がある
通常、株式会社では定款または株主総会によって役員報酬の総額を定めています(会社法第361条1項)。そして、取締役会または代表取締役が個人別の報酬額を決定するケースが一般的です。
一方で指名委員会等設置会社では、報酬委員会が各個人の報酬内容を決定します。
社外取締役が大半を占める委員会が報酬額を決めるため、社内の一部役員が不満に思う可能性があります。場合によっては社内取締役と社外取締役の間で軋轢が生じ得るため、注意が必要です。
指名委員会等設置会社に関するよくある質問
最後に、指名委員会等設置会社に関する重要な論点を2つお伝えします。
取締役と執行役の兼任は可能?
指名委員会等設置会社では、取締役と執行役の兼任が認められています(会社法第402条6項)。
取締役の任期は何年?
通常、取締役の任期は2年と定められています(会社法第332条1項)。ただし、指名委員会等設置会社に関しては、取締役の任期が例外的に1年とされています(同法第332条6項)。
なお、取締役の任期に関しては、定款もしくは株主総会の決議で短縮することができます。
まとめ
指名委員会等設置会社は、コーポレートガバナンスを強化し、経営の透明性を高めることが可能です。特に海外投資家からの信用を高めることができるため、IPO後の海外進出を目指す企業に適しています。
一方で、役員報酬の増加や一部の役員に不満が生じ得るなどのデメリットもあります。
メリットとデメリットを考慮した上で、指名委員会等設置会社の機関設計にするかどうかを検討すると良いでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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