- 更新日 : 2024年7月23日
グローバルオファリングを活用したIPOとは?メリットや事例から見る成功のポイントを解説
グローバルオファリングとは、株式や債券等の有価証券を国内のみならず、米国市場やユーロ市場などで同時に募集、売出すことです。
IPO時にグローバルオファリングを実施することで、大規模な資金調達の成功が期待できます。
しかし、海外での投資勧誘活動や規制対応などに追加コストが発生することには注意が必要です。
資金調達の成功には海外投資家目線の事業戦略やグローバルオファリングを見据えた資本政策が求められます。
本記事では、IPO時にグローバルオファリングを実施することのメリットやリスク、事例、実施前の準備などについて解説します。
目次
IPOの動向
まずは昨今のIPOの動向を理解しておきましょう。
2022年4月の東証再編で「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つの新しい市場区分が誕生しました。
市場別IPO企業数の推移
2023年に東証に上場した企業は88社です。市場区分別の上場企業数は以下のとおりでした。
- プライム市場…2社
- スタンダード市場…21社
- グロース市場…65社
見てのとおり、グロース市場が多く、88社中65社、全体の73%をグロース市場が占める結果となりました。
グロース市場は、ベンチャー企業などの新興企業に開かれた市場区分です。IPO要件が緩和されていることが特徴で、「株主数150人以上」「流通株式数1千単位以上」などの要件を満たすことでIPO申請を行うことができます。
グロース市場は、IPOが容易で、IPOを目指すベンチャー企業の登竜門のような存在なのです。
業種別のIPOの傾向
次に2023年に東証に上場した企業の業種に注目しましょう。IPO企業の上位5業種は以下のとおりでした。
- 情報・通信業…39社(40.6%)
- サービス業…27社(28.1%)
- 小売業…6社(6.3%)
- 機械…4社(4.2%)
- 医薬品…3社(3.1%)
情報通信業やサービス業で全体の約7割を占め、IT業界の発展と勢いが見て取れます。
同年は大手ネット銀行である住信SBIネット銀行や楽天銀行がIPOを果たしており、投資×IT業種の台頭が鮮明に見て取れました。
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グローバルオファリングとは
本章では、グローバルオファリングの概要や目的について解説します。
グローバルオファリングとは、企業が自社の株式を世界中の投資家に対して一斉に公開し、米国市場やユーロ市場などで株式を調達することを指します。
通常のIPOでは、日本国内の金融市場で株式を公開し、国内の投資家から資金を調達します。しかし、グローバルオファリングを実施することで、欧米投資家からの資金調達が可能です。
最大の魅力は、海外投資家から広く資金調達することで大規模な資金調達が可能になる点です。
また、海外市場で株式が公開されることによる知名度向上やそれに伴う新規顧客や取引先とのビジネス創出などの付随的な効果も期待できます。
グローバルオファリングのメリットとデメリット
本章では、グローバルオファリングのメリットとデメリットを解説します。
メリット
企業にとってグローバルオファリングには以下のメリットがあります。
- 資金調達額の最大化
- 株主構成の最適化
- 知名度向上
- IPO後の資金調達方法の多様化
米国市場やユーロ市場で自社株式が公開されることで、欧米の機関投資家や投資意欲が旺盛な個人投資家から資金調達ができます。
また、海外投資家が株主に加わると、株主構成が多様化し、異なる機関や個人投資家が株主になります。多様性に富む株主構成はリスクの分散と安定性に貢献するでしょう。
知名度向上というメリットも挙げられます。海外投資家に評価されたという事実により知名度が向上し、これによって新たなビジネスが生まれるかもしれません。
また、将来の資金調達の選択肢も広がります。自社の成長ステージや資金需要に応じて、国際市場での債券発行による外貨建て資金調達や、外貨を利用した外国企業の買収も視野に入るでしょう。
デメリット
一方でグローバルオファリングには潜在的なリスクやデメリットもあります。
- 追加作業とコストの発生
- 規制対応
海外投資家に自社株式を購入してもらうためには、英文の目論見書、取引契約、財務報告書の作成が必要です。
これらの資料作成のため、監査法人や弁護士に支払うコストが発生します。また、海外で投資家向けのロードショーを開催するためのコストも発生するでしょう。
他にも、IFRS(国際会計基準)や米国会計基準への対応や、現地当局の規制対応、訴訟予防などの措置も講じないといけません。
プレイドの事例にみるグローバルオファリングの成功ポイント
プレイドは、アプリやウェブで顧客体験プラットフォーム「KARTE」を運営するSaaS企業です。
2020年12月のIPO時にグローバルオファリングを実施し、8割の株式を海外投資家向けに売出しています。
IPO前の時価総額は500億円とグローバルオファリングを実施する企業としては小規模でした。同社の成功事例はSaaS系ベンチャー企業にとって希望の星となるかもしれません。
成功ポイント①海外投資家の支持を集めやすい分野
成功の要因の1つに同社の事業領域が関係しています。
同社はSaaS領域でサービスを提供していますが、海外、特に米国はSaaS大国といわれるほどSaaS分野が先行しています。
SaaS領域に関心を持つ投資家が多いので、米国では知名度の低い日本のベンチャー企業でも商品やサービス次第で投資を決められる可能性があります。
成功ポイント②海外市場を見据えた資本政策
同社は、2020年12月以前から数年にわたって海外市場を視野に入れた資本政策を実施してきました。
創業から4年後の2015年9月にはEight Roads Ventures Japanから出資を受けています。2018年10月には独証券出身でIPOやM&Aに知見のある武藤健太郎氏がCFOに就任します。2019年11月にはグーグルから、2020年10月には米系投資会社のティー・ロウ・プライス・グループから出資を受けました。
海外で知名度の高い機関投資家の出資を受け、自社を海外市場にアピールし続けていたのです。
グローバルオファリング特有の準備と気をつけるべきポイント
本章では、グローバルオファリング特有の準備や気をつけるべきポイントを解説します。
必要な準備
通常のIPO準備に加えてさまざまな準備が必要になります。
- IFRSや米国会計基準の財務報告書の作成
- 米国証券法に基づく英文目論見書の作成
- 法務リスク対策の法務デューデリジェンス
- 為替リスクを想定した対応
これらの準備に際して、金融機関や会計士、翻訳会社、監査法人、弁護士などさまざまな関係者への追加費用が発生します。
気をつけるべきポイント
気をつけるべきポイントもあります。
- 規制対応(現地証券法や取引所規程への対応)
- 資本政策(安全株主対策)
- IFRS適用
EUのIAS適用命令により、EU市場へIPOを予定する場合にはIFRS適用準備が必要です。世界標準基準ですので、海外投資家向けに任意適用することも選択肢の一つです。
まとめ
IPO時にグローバルオファリングを実施することで、米国や欧州市場で大規模な資金調達が可能となります。
一方で海外投資家向けの勧誘活動や現地規制対応のために追加作業やコストが発生する点には注意しましょう。
ベンチャー企業でも事業領域や資本政策次第で海外市場での資金調達に成功する可能性は十分にあります。
特にSaaS領域ではグローバルオファリングを実施する企業が増えており、これまで以上に多額の資金調達に成功するベンチャー企業が登場するかもしれません。
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