• 作成日 : 2025年7月7日

内部監査報告書とは?記載項目や作成手順を解説

上場を目指す企業にとって、内部監査報告書の整備は形式的な書類作成ではなく、企業の信頼性や統治体制の成熟度を示す重要な要素です。IPO審査では、内部統制の運用状況やその裏付けとなる監査結果が厳しく確認され、報告書の内容や整合性が問われます。

本記事では、内部監査報告書の基本から作成手順、提出先を解説します。

内部監査報告書とは

内部監査報告書とは、自社内で実施した内部監査の結果をまとめた文書です。内部監査とは、会社内部の監査担当者が財務会計や業務全体を対象に調査・評価を行い、改善点や指摘事項について助言を行う活動を指します。これは外部監査と異なり、社内で任意に実施されるものであり、法令上は義務ではありません。外部監査が第三者である公認会計士や監査法人により行われるのに対し、内部監査は自社の内部統制の強化を目的として行われ、その結果を経営者や取締役会に対してフィードバックするものです。

内部監査報告書の目的

内部監査報告書は何のために作成するのか解説します。

リスクの特定と不正防止

内部監査報告書は、業務プロセス上のリスクを抽出し、潜在的な不正や不備を明らかにします。これにより、不正会計や法令違反などの重大な問題が表面化する前に対処することが可能となり、企業にとってのリスク低減に貢献します。内部監査を通じて、事業のあらゆる部分に内在するリスクを可視化し、健全な経営基盤を支えることができます。

業務プロセスの改善と効率化

内部監査は、現行の業務における無駄や非効率を洗い出し、より合理的な手続きやプロセス改善を提案する役割も果たします。

これにより業務フローが簡素化され、人的・財務的リソースの適正配分が実現し、全社的なコスト削減や生産性の向上が期待されます。監査報告書には、そうした改善提案が盛り込まれることが多く、継続的な業務改善を促すための起点となります。

経営目標の達成支援

内部監査は、経営が掲げる短期および中長期の目標の達成を阻害する要因を洗い出す機能も担います。たとえば、組織内の連携不足、リスク管理の未整備、ITインフラの不備など、目標実現の足かせとなる要素を分析し、改善の方向性を提言します。このように、監査結果をもとに的確な助言を行うことで、内部監査報告書は経営目標達成を下支えする文書としての役割を果たします。

法令遵守の確認

法令や規程に基づいて業務が適正に実施されているかを確認するのも、内部監査の重要な目的の一つです。社内規程違反やコンプライアンスの緩みがないかを監査によって検証し、適切な是正措置を講じるきっかけとなるのが報告書です。これにより、企業としての社会的信頼性や法令遵守姿勢が強化されることにつながります。

以上のように、内部監査報告書は単なる監査記録ではなく、企業が持続可能で透明性の高い経営を実現するための実務的・戦略的なツールと位置づけられています。

IPO準備段階における内部監査の必要性

IPOを目指す企業にとって、内部監査および内部監査報告書の整備は重要です。法令上の義務ではないものの、証券取引所や投資家からの信頼を得るためには、内部監査体制を計画的かつ継続的に運用していることが不可欠です。ここでは、IPO準備段階における内部監査の役割について、設置のタイミング、審査との関係、市場からの信頼性の観点から整理します。

内部監査の実施有無が審査される

IPO審査では、直前期(上場申請直前の1年間)に内部監査が適切に実施されていることが求められます。そのため、内部監査部門は少なくとも上場申請の2期前(直前々期)までに設置し、内部監査を実際に稼働させておく必要があります。スケジュール管理の観点では、「直前期に稼働実績が必要であるため、前期中に監査部門が活動できる体制を整える」といった逆算的な準備が望まれます。

上場審査に報告書を活用する

証券取引所や主幹事証券会社は、上場審査において内部監査体制が単に存在しているかではなく、実効的に運用されているかを確認します。そのため、内部監査計画の立案から実施、フォローアップ、改善措置までの一連の流れを報告書として記録し、Ⅱの部等の申請書類に盛り込む必要があります。したがって、内部監査報告書は上場申請資料の一部としても機能する、実務上の必須書類といえます。

投資家との信頼関係を構築できる

内部監査の充実は、投資家に対する企業の信頼性を示す材料となります。財務や業務プロセスの健全性を自律的にチェックする仕組みが機能していることは、外部ステークホルダーにとって安心材料となります。反社会的勢力との関係遮断、労務管理の適正化など、コンプライアンス面での整備状況が厳しく問われる現在、社内における内部統制と内部監査の体制は、上場審査のみならず、市場での信頼確保にも直結します。

上場後の統制報告に備える

IPOを達成した後も、内部監査の役割は継続的に重要となります。上場企業は金融商品取引法に基づき、毎年「内部統制報告書」を金融庁へ提出する義務があります。これは経営者が自ら、財務報告に係る内部統制の整備・運用状況を評価・開示するものであり、その前提として社内の内部監査が有効に機能している必要があります。新規上場企業は当初3年間、外部監査人による内部統制報告書の監査が免除されるとはいえ、報告書自体の作成は求められ、内部監査結果がその根拠資料となります。

このように、IPO準備段階において内部監査の体制を構築し、運用を実践することは、単なる準備項目ではなく、上場企業としての基礎的要件の一部です。信頼性ある経営の実現に向けて、内部監査は上場前後を通じて企業の統治基盤を支える中心的役割を担います。

内部監査報告書に記載すべき内容

内部監査報告書は、監査の目的から所見、提言に至るまでの全体像を記録するものであり、経営判断の材料として機能することが求められます。書式に法的な決まりはありませんが、一定の構成に基づいて記載することで、読み手にとって分かりやすく、実用性の高い文書となります。以下に、報告書を構成する主な要素について解説します。

監査の目的

報告書の冒頭では、なぜその監査を実施したのかという背景と目的を明示します。たとえば「資産管理プロセスの適切性を検証し、不備がないか確認することを目的とした」といった形で記載することで、読者が監査の意図を理解しやすくなります。目的が曖昧であると報告書の方向性もぶれてしまうため、明確な記述が求められます。

監査の範囲

監査がどの部署、どの期間、どの業務を対象としたのかを明確に記載します。たとえば「経理部門の現金出納業務(2024年4月〜9月)」のように範囲を明確に設定することで、対象の限定性とその根拠を示すことができます。監査の信頼性や比較可能性を担保するうえでも、範囲の記載は欠かせません。

監査手続きの方法

監査実施にあたり採用した手法を記載します。ヒアリング、帳簿類の精査、現場観察、業務フローの追跡、データ分析など、どのような手続きを通じて情報を収集・評価したかを具体的に説明することが求められます。手続きの透明性が高まることで、報告書の客観性が担保されます。

所見と指摘事項

監査により明らかとなった事実や問題点を、客観的な事実に基づいて記載します。たとえば「在庫管理マニュアルが未整備であった」「承認フローに一部手続きの漏れが確認された」といった具合です。必要に応じて、問題の背景、リスクの程度、影響範囲についても補足し、関係者に対する理解を促します。

結論と提言

報告書の総括部分では、監査結果に基づく全体評価とともに、対応すべき課題に対する提言を記載します。「在庫管理プロセスに重大な統制不備が認められるため、管理マニュアルの整備と定期的な棚卸の実施を提言する」といった具合に、具体的かつ実行可能な提言を盛り込むことで、関係部署による対応が進みやすくなります。

良好な点

指摘事項だけでなく、監査を通じて把握された良好な取組も記載することが推奨されます。たとえば「各種手順書が最新化されており、現場で適切に運用されていた」といった内容です。ポジティブな評価を取り入れることで、被監査部門の士気を高め、社内でのベストプラクティスとして他部門への波及も期待できます。

その他

実際の報告書では、上記の構成要素を基に、経営陣向けの要約(エグゼクティブサマリー)や重大リスクに関する特記を冒頭に加える場合もあります。また、指摘事項については「所見」「原因」「改善計画」「所管部署・期限」などを一覧で整理した表を添付する形式が一般的です。これにより、報告書が経営判断や改善指示の基礎資料として有効に活用されやすくなります

内部監査報告書の提出先

内部監査報告書は完成後、経営トップや関係する監督機関に提出・共有されます。社内での意思決定や是正対応の起点となると同時に、IPO準備企業にとっては審査機関への確認資料にもなるため、提出先や共有方法を明確にしておくことが重要です。以下に、主な提出・報告先について整理します。

最高経営者

内部監査部門は監査結果をまず社長など最高経営者に報告します。社長直轄で内部監査部門が設置されている場合は、直接報告するのが通常です。監査結果の内容によっては、経営判断に直結する重要事項を含むこともあるため、タイムリーかつ正確な報告が求められます。

取締役会

取締役会や経営会議にも内部監査の結果を報告し、重要な指摘事項や改善提案について説明・共有します。取締役会が内部監査計画を承認している場合、その承認者に対して結果を報告することが内部監査基準でも求められています。監査報告を通じて経営レベルでの是正措置や統制強化の意思決定につながります。

監査役/監査役会(または監査等委員会)

監査役や監査役会等の監督機関にも報告します。内部監査人は取締役会だけでなく、監査役(会)にも必要に応じて結果を伝達し、指摘事項に対する対応状況を共有することが重要です。監査役等との情報共有により、内部監査と監査役監査との連携も図られ、ガバナンス全体の実効性を高めることができます。

関係部署の責任者

監査対象となった各部門の部門長へも、監査結果をフィードバックします。部門長には指摘事項の原因分析や改善計画の策定を求めることになり、報告書を用いて是正指示を正式に行います。現場への具体的な改善アクションにつなげるためには、監査報告を丁寧に説明し、実行可能な改善プロセスを共有することが不可欠です。

上場審査関係者(主幹事証券・取引所)

社外の提出先ではありませんが、IPO準備においては内部監査報告書の内容が上場審査時にチェックされます。具体的には、上場申請書類の「Ⅱの部」に内部監査の実施状況(計画・結果・フォローアップ含む)を記載し提出する必要があり、主幹事証券や証券取引所が審査過程で社内の内部監査報告書や関連資料の提出を求めるケースがあります。したがって事実上、内部監査報告書は上場審査機関にも閲覧・レビューされる文書といえます。

内部監査報告書作成のプロセス

内部監査報告書は、計画策定から現場監査の実施、結果の分析と評価、そして報告・フォローアップに至るまで、段階的なプロセスを経て作成されます。各ステップでの的確な対応が、報告書の信頼性や実効性を左右します。以下に、標準的な作成プロセスを段階ごとに解説します。

監査計画の策定

まず監査対象や目的を定め、監査範囲、日程、手順を含む監査計画を策定します。過去の監査報告書や業務マニュアル、業績データなどの情報を事前に収集し、リスクが高い領域や重点確認項目を洗い出します。策定した計画は、取締役会や経営者の承認を受けて確定します。

予備調査と監査準備

本格的な監査に入る前に、対象部門へ必要な資料の事前提出を依頼し、関係者へのヒアリングを行います。監査チームはチェックリストや質問票などの準備を進め、関連する社内規程や業務フローを事前に確認しておくことで、現場監査がスムーズに進むよう備えます。

内部監査の実施

監査計画に基づき、現場での監査を実施します。インタビュー、帳簿や関連書類の確認、業務手順の観察などを通じて実態を把握し、事実に基づいた監査を行います。問題が発見された場合、その場で是正可能な点は即時修正し、その他は記録として残します。確認内容や所見は監査調書として詳細に記録されます。

監査結果の評価・分析

監査で収集した情報をもとに、統制が適切に機能しているかを評価します。法令遵守、リスク管理、業務手続の整合性などの観点から、指摘事項の重要性や原因を分析し、必要に応じて被監査部門と見解のすり合わせを行います。評価結果に基づいて、改善案の策定や今後の監査方針への反映を行います。

内部監査報告書の作成・提出

評価結果を基に、正式な内部監査報告書を作成します。監査の目的・範囲・手続・所見・結論・提言といった構成要素に従い、経営層にも伝わる分かりやすい形式で記述します。不明点や誤認が生じないよう、被監査部門とも内容を共有し確認を取った上で、社長、取締役会、監査役会などへ提出・報告します。

フォローアップ

監査で指摘された事項について、被監査部門に改善計画の策定と実施を促します。内部監査部門は、その実施状況をモニタリングし、完了報告の提出を受けて内容を精査します。必要に応じてフォローアップ監査を行い、是正措置が定着しているかを再確認します。こうした一連の改善プロセスを通じて、内部統制の継続的な向上につなげます。

内部監査報告書を経営の武器に変えよう

内部監査報告書は、単なるチェックリストではなく企業の内部統制やガバナンスの水準を示す鏡です。IPOを目指す企業にとって、適切な内部監査体制の確立と充実した報告書の作成は、上場審査をクリアするだけでなく上場後の持続的成長にもつながります。

内部監査報告書の作成・運用は手間もかかりますが、得られる効果は計り知れません。不備の未然防止によるリスク低減や業務効率化、社内の意識改革など、企業価値向上につながる側面も多く持っています。このガイドを参考に、自社の状況に合った形で内部監査報告書の充実を図り、IPO成功とその後の発展に役立てていただければ幸いです。


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