• 作成日 : 2025年4月23日

M&Aする際のストックオプションはどうなる?買取・課税・注意点まで徹底解説

M&Aが行われると、ストックオプションは「買取・継続・消滅」のいずれかの対応が取られ、税務や契約面でも注意が必要です。とくに従業員や役員にとっては、大きな経済的影響があるため、正しい知識と事前の準備が欠かせません。

本記事では、M&Aにおけるストックオプションの扱いについて実務に即してわかりやすく解説します。

M&Aとストックオプションの関係性

M&Aとは、「Mergers(合併)」と「Acquisitions(買収)」の略で、複数の企業が統合したり、ある企業が他社を買収したりすることを指します。

ストックオプションは、従業員や役員が事前に定めた価格で、一定期間内に自社株を一定数購入できる権利です。業績が向上して株価が上がると、株価と購入価格との差が利益となるため、従業員のモチベーション向上につながります。

M&Aによって組織体制が変わっても、ストックオプションを活用することで、役員や従業員の士気を維持し、企業価値の向上に向けて組織が一体となって取り組むことが可能です。

M&Aにおけるストックオプションの役割や活用方法を知っておくことで、変化のなかでも適切な判断ができるようになるでしょう。

ストックオプションに関する基本情報は、下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。

M&Aをした際のストックオプションはどうなる?

M&Aが行われると、既存のストックオプションが無効になるケースや、買収企業の株式に切り替えられるケースがあります。条件変更や新たな付与が行われることもあるため、事前に確認しておくことが重要です。

以下では、M&A時のストックオプションの取り扱いパターンについて紹介します。

1. 株式譲渡による完全子会社化の場合

株式譲渡によって対象企業が完全子会社化される場合、ストックオプションの行使が困難になる可能性があります。

行使によって新株が発行されると、親会社の100%持株比率が崩れる恐れがあります。そのため、買収企業がストックオプションの公正価値をもとに買い取る対応が一般的です。

具体的には、行使価格と時価の差額を現金や親会社株式で補填する方法が用いられます。さらに、買収企業が自社のストックオプションやリテンションボーナスを付与し直し、役職員のモチベーション維持や引き留めにつなげるケースも有効です。

2. 合併による法人格の消滅の場合

ストックオプションを発行していた企業が、吸収合併や新設合併により法人格が消滅する場合、ストックオプションも原則として消滅します。

権利行使者に不利益が生じないよう、存続会社や新設会社が新たなストックオプションを交付する、または金銭で補償する対応が取られます。

十分な補償や代替がない場合、権利行使者は発行会社に対してストックオプションの買取請求が可能です。上記のような対応を円滑に進めるには、合併契約書に「存続会社がストックオプションを承継する」旨を明記しておくことが重要です。

3. ストックオプションを譲渡する場合

ストックオプションは原則として譲渡が禁止されていますが、会社の承認を得た場合に限り譲渡が認められます。ただし、譲渡する場合は税制適格要件である「譲渡制限」が外れるため、譲渡した時点で税制非適格となります。

M&A時にストックオプションの譲渡が行われるケースは稀です。しかし、従業員から経営陣への移転や、特定の株主にオプションを集約する目的で行われることがあります。

また、買収企業がオプションを買い取る場合でも、譲渡が伴うと税制非適格扱いとなります。その結果、譲渡者には給与所得として課税されるため注意が必要です。

M&Aにおけるストックオプションの役割

M&Aでは、ストックオプションが従業員や役員のモチベーション維持離職防止に有効です。買収後の一体感を高め、企業価値向上に向けたインセンティブとして機能します。

以下では、M&Aにおけるストックオプションの役割について紹介します。

また、下記の記事ではストックオプションの行使方法について詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。

人材へのインセンティブと統合後の活用

ストックオプションは、役員や従業員に当事者意識を持たせる重要なインセンティブツールです。

役員や従業員の尽力により業績が向上すれば、成果がストックオプションの価値上昇という形で本人に還元されるため、モチベーションの向上が期待できます。

M&Aにおいては、買収側企業が被買収側の従業員に新たなストックオプションを付与することで、「統合後も成長に貢献してほしい」という意思を伝える手段になります。とくにターゲット企業の経営陣やキーパーソンを継続的に関与させる目的での活用が効果的です。

M&A後にも、統合された会社が新たにストックオプションを付与するケースがあり、PMI(Post Merger Integration)を成功に向けた重要な要素として機能します。

共通目標を共有する仕組みとして、ストックオプションは新体制でのモチベーション維持・向上に大きな役割を果たします。

保有株式の取得

M&Aにおいては、ストックオプションが取引の一環として扱われるケースがあります。

買収側企業は、ターゲット会社のストックオプション保有者に対して、自社株式や現金、または両方を提供し、ストックオプションを取得することがあります。

ストックオプションの発行数が多く、保有者が多数存在する場合、取り扱いがM&A全体に与える影響も大きくなるため、慎重な対応が必要です。

M&A時のストックオプションの課税関係

M&A時には、ストックオプションの譲渡買収企業による買取が行われることがあります。ストックオプションが税制適格か非適格かによって課税方法が異なるため、取り扱いには注意が必要です。

以下では、M&A時のストックオプションの課税関係について紹介します。

ストックオプションの会計処理については、下記の記事で解説しているため、あわせてご覧ください。

譲受側が譲渡側のストックオプションを買取した場合

M&Aの過程で譲受企業が譲渡企業のストックオプションを買い取る場合、譲渡企業側の取締役会の承認によって譲渡制限が解除されると、譲渡制限の解除時に給与所得として課税されます。

税制適格か非適格かを問わず、譲渡制限解除時の時価が課税対象です。課税された金額は将来の取得費となり、同じ金額でストックオプションを譲受企業に売却すれば譲渡益は発生せず、譲渡所得も生じません。

なお、税制適格ストックオプションであっても、M&Aの内容によっては非適格扱いとなる可能性があるため、実務上の確認と対応が重要です。

譲渡側の従業員がストックオプションを使った場合

M&Aにより、譲渡企業の従業員が保有していたストックオプションを行使するケースがあります。従業員がストックオプションを行使して株式を取得した後、株式を売却するか保有を続けるかによって、課税のタイミングと区分が変わります。

税制適格ストックオプションの場合は、行使時に課税されません。株式を売却した時点で譲渡所得が発生します。

課税額は「(売却価格-権利行使価額)× 株式数 × 20.315%」で計算され、税率は一律20.315%です。行使の時点で給与所得は発生せず、時価より安く株式を取得しても課税されません。

一方、税制非適格ストックオプションの場合は、権利行使時点で給与所得が発生し、株式売却時には譲渡所得も発生します。給与所得は15〜55%の累進課税が適用され、所得が高いほど税額も大きくなるため注意が必要です。

M&Aのストックオプションを活用するメリット

M&Aにおいてストックオプションの活用は、従業員の離職防止や企業価値の維持に直結する重要な施策です。事前にメリットを把握することで、統合後の人材戦略を効果的に設計できます。

以下では、M&Aのストックオプションを活用するメリットについて紹介します。

短期的なモチベーションを高められる

M&Aでは環境が急激に変わるため、従業員が将来に不安や不満を抱くことがあります。

従業員の不安が高まるタイミングでストックオプションを付与することで、「自分に期待されている」「成果が報われる」という意識が生まれ、日々の業務への集中力やエネルギーが高まります。

とくに、新たな経営陣や方針に対する信頼を築くためには、「成果が自身の利益につながる」仕組みを早期に示すことが効果的です。企業の成長と個人の利益を結びつける構造は、従業員の意識改革や行動の変化を促しやすくなります。

上記の結果、PMIの初期段階でも、混乱や停滞を乗り越える前向きな姿勢が生まれやすくなります。

中長期の人材定着を促進できる

M&Aでは処遇や組織文化の変化により、優秀な人材が離職するリスクが高まります。そのため、従業員の継続的な関与を促す仕組みが重要です。

ストックオプションは、一定期間の在籍を前提とした設計により、離職抑止に効果があります。また、企業が「長期的な成長の仲間でいてほしい」というメッセージを伝える手段としても有効です。

短期的な報酬では得られない将来的な利益の共有は、長期視点での関与を引き出します。付与時点の評価と将来の成果が結びつくことで、従業員は自身のキャリアの軸を企業内に築きやすくなります。

結果として、組織への帰属意識やエンゲージメントが高まり、中長期的な人材定着の促進が可能です。

M&Aにおけるストックオプションの注意点

M&Aではストックオプションの取り扱い次第で、従業員の士気や税務負担に大きな影響を与える可能性があります。誤った対応を避けるためには、事前に注意点を把握しておくことが重要です。

以下では、M&Aにおけるストックオプションの注意点について紹介します。

社内でのコミュニケーションを欠かさないようにする

会社でM&Aを実施する場合、従業員はストックオプションについて「インセンティブがなくなるのではないか」という不安を抱くことがあります。インセンティブが失われる懸念は、モチベーションの低下や離職につながります。

そのため、ストックオプションの売却や条件変更がある場合は、できるだけ早い段階で内容を明確に伝えることが重要です。

M&Aの目的や意義、ストックオプションの取り扱い方針、新たなインセンティブ制度の有無、今後のスケジュールなどを丁寧に説明することで、不安を軽減して従業員の信頼を得られます。結果として、円滑なM&Aの実施につながるでしょう。

社内規定や契約を事前に確認する

M&Aを実施する際、ストックオプションの取り扱いは、社内規定や契約内容に基づいて適切に進める必要があります。

譲渡企業側のストックオプションに関する規定については、付与条件や権利消滅条項などを事前に確認しておくことが重要です。不明確な点や矛盾がある場合は、専門家と連携しながら早期に解消する必要があります。

もし会社が規定に反した対応を取ると、ストックオプション保有者からの買取請求を受けたり、法的トラブルや企業イメージを毀損したりするなどのリスクに発展する可能性があります。

したがって、適切な対応を行うには、事前確認が欠かせません。

M&A後もストックオプションを活かして企業の成長を目指そう

M&Aによってストックオプションの扱いは大きく変わりますが、正しく対応すれば従業員のモチベーション維持や人材定着に役立ちます。

制度や課税、注意点を理解したうえで、M&A後もストックオプションを活用し、企業の持続的な成長につなげていきましょう。


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