- 作成日 : 2024年11月28日
IPO前に意識すべき時価総額について解説
IPOにおいて、「時価総額」は企業の規模や成長性を測る上で重要な指標の1つであり、投資家の投資判断に大きな影響を与えます。この時価総額について、正しく理解できていない方や、どのように活用したらよいのかいまひとつわかっていないという方も少なくないのではないでしょうか。
そこで本記事では、時価総額の概要やIPOにおける時価総額の重要性を解説します。IPOを実現するためのヒントとして、ぜひ本記事を役立ててください。
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時価総額とは
ニュースで「この企業の時価総額は○億円」というフレーズを目にすることがあります。
「時価総額」とは、株価に発行済株式数を掛け合わせて算出される数値で、企業の価値や規模を示す重要な指標の一つです。転職活動の際には、企業の時価総額を確認することでその企業の業界内でのポジションや市場からの評価をより詳しく把握することができます。
時価総額の計算式
「時価総額=株価×発行済株式数」で算出されます。
株価は、投資家の需給によって毎日変動します。株を買いたい投資家が多ければ株価は上昇し、逆に売りたい投資家が多ければ株価は下がります。一方、発行済株式数は頻繁には変わりません。
株価は市場評価に基づいて毎日変動するため、それに応じて時価総額も日々変化します。
時価総額が持つ意味
時価総額は会社の規模や経営状況を比較するために用いられることが多く、時価総額が大きい企業は価値が高いとされています。また株価が同じでも、発行済株式数が多ければ時価総額も大きくなります。
例えば、1株100円の株式を1,000株発行している企業の時価総額は、1株100円×1,000株=10万円です。同じく1株100円の株式を100株発行している企業の場合、時価総額は1株100円×100株=1万円となります。
株価が同一の場合、発行株数が多い企業ほど時価総額が大きく、規模も大きいとされます。企業価値が高いと見なされれば、転職や就職活動中の人々はその企業に成長期待を抱きやすくなり、優秀な人材が集まりやすくなります。その結果、企業はさらに発展し、好循環が生まれます。
IPOにおける時価総額の役割
上場時の株価を高い水準へ持っていくことは、特に未上場段階で大きなリスクをとったベンチャー企業にとって非常に重要であり、必須条件ともいえます。投資のリターンを最大化するためにも、上場時にできるだけ高い株価を目指すことは当然のことです。
しかし、上場を目指すベンチャー企業は、株価の水準をどれだけ重視すべきでしょうか?
IPOにおいて高い時価総額が持つ意味
ベンチャー企業が上場時の時価総額を高くすることは、上場後の企業価値の向上を見据えた戦略的な選択です。
高い時価総額での上場を達成することは、その企業の信用度や資金調達能力に直接影響を与えます。また、投資家からの評価も高まり、上場後の株価上昇や資金調達の機会を広げることにもつながります。
これは、将来の成長を加速させ、競合他社との競争において有利な立場を築くための重要な要素といえるでしょう。
低い時価総額でIPOを実施するリスク
ただし、上場そのものが非常に厳しい競争の中で行われるため、時価総額があまり高くないまま上場を検討する場合もあります。こうした状況では、時価総額が低くとも、上場のチャンスを逃さずに市場に参入するという戦略を取ることも選択肢の一つです。
しかし、低い時価総額で上場した企業は、その後の成長過程で困難に直面することが想定されます。低い評価での上場は、上場後の事業拡大や新たな資金調達の際にハードルを高める可能性があり、結果として企業の成長にブレーキがかかることが懸念されるからです。
実際、このような企業では上場後のさらなる成長を遂げるための資金調達が困難になる場合があるため、投資家の関心を引きにくくなるリスクも伴います。このような状況に陥ると上場後の成長速度が鈍化し、一定の規模に達した段階で拡大が止まってしまうケースも見受けられます。
そのためベンチャー企業が上場を目指す際には、時価総額の水準を慎重に検討することが求められます。単に上場すること自体が目的ではなく、上場後の成長を視野に入れ、企業の将来的な飛躍を支えるための健全な資本政策を考えることが重要です。
時価総額と企業価値の違い
時価総額は、発行されている株式の総額を表します。会社の価値を評価する際に、この時価総額を基準とすることがあります。
一方で企業価値は、時価総額に有利子負債の金額を加えたものです。計算式では「企業価値=時価総額+有利子負債」と表せます。
時価総額が投資家に向けた評価額だとすれば、企業価値はそれに加えて金融機関などの融資者からの評価も反映された金額だといえるでしょう。
上場準備から上場後を見据えて注意すべきポイント
この章では、上場準備段階で心がけるべき3つの重要なポイントについてお伝えします。
上場時の時価総額を高く設定する
上場時における時価総額は高い方が望ましいでしょう。そしてそれを達成するためには、上場後の株主構成を機関投資家主体にする必要があると考えられます。
時価総額が大きいと機関投資家の投資方針と合致することが想定され、個人投資家の売却があっても機関投資家が買い支えることが期待できます。このためには、機関投資家向けのIR戦略が重要になります。
人材の入れ替えも視野に入れる
上場プロセスは経営陣に大きな負荷をかける上、マインドチェンジを求めます。特にCFOに求められるスキルセットは、上場準備段階と上場後では異なります。
上場準備段階では組織の変革、マネジメント、文書化が重視されますが、上場後は市場との対話や資金調達に関するスキルが中心となります。そのため、ガバナンス強化が求められる環境に合わないメンバーは入れ替えが必要です。
経営陣の保有株比率を高めに維持する
企業が大きく成長し続けるためには、M&Aが不可欠であるといっても過言ではないでしょう。特に株式交換(完全親会社となる会社が完全子会社となる会社の発行済株式をすべて取得する手法のこと)を利用すれば、現金を用意せずにM&Aが可能です。しかし、元々の株主の持株比率が減るリスクがあります。
東証グロース市場へのIPOでは高い成長性が求められるため、ガバナンスを維持しつつ、経営陣によるリーダーシップの強化が重要です。そのため、経営陣の持株比率を高めに設定し、必要に応じて自社株買いを戦略的に活用することが求められるでしょう。
IPO事例
オンラインフリマプラットフォーム運営企業のIPO事例を紹介します。
この企業は、日本の「ユニコーン企業」(時価総額10億ドル以上の未上場企業)として、以前から投資家の注目を集めていました。
2018年6月のIPOでは、公開価格は1株3,000円で、時価総額は約4,000億円に達しました。また、初値ベースでの企業価値は約6,700億円に達し、IPOにより約1,300億円の資金を調達しました。
さらに、2021年6月には、ユーロ円建ての転換社債型新株予約権付社債(CB)を発行し、追加で約500億円の資金を調達しました。
高い時価総額と信用力を背景に、効果的な資金調達に成功した事例といえます。
参考:株式会社野村総合研究所コンサルティング事業本部「スタートアップによるレイター期・IPOファイナンス等の見直しに係る調査報告書」
まとめ
IPO時には、企業の信頼性や市場での競争力を示すためにある程度高い時価総額が求められます。
時価総額が高いと、投資家からの注目を集めやすくなり、資金調達の面で有利になります。株価の安定も期待できるため、上場後の株式市場での信頼性を高めます。
また、高い時価総額は企業の成長力を示し、上場後の株価下落リスクを軽減します。
時価総額の高さは、企業のブランド力や市場での競争優位性を強調し、将来的な成長の期待を高める要素ともなります。
今回の記事を皆様のIPOの時価総額についての理解を深めるための参考としてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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