- 作成日 : 2024年9月30日
取締役が負う善管注意義務とは?違反リスクを最小化するアクションを解説
企業の規模が大きくなるにつれて、ガバナンスはますます重要になってきます。その中でも、取締役には会社の経営責任が求められ、それと同時に果たすべき義務も課せられます。
その代表的なものが善管注意義務であり、取締役の善管注意義務が違反なく履行されるかどうかに企業がガバナンスを効かせることは不可欠だといえるでしょう。本記事では、善管注意義務の内容や違反時の対応などについて解説します。
目次
善管注意義務とは何か
まず、善管注意義務の定義や内容について解説します。
善管注意義務の定義
善管注意義務とは、ビジネスシーン以外でも多く用いられる用語であり、「善良な管理者が注意すべき義務」と定義することができます。
その「善良な管理者の義務」の指す範囲は幅広く、実際に民法第644条にて下記のように示されています。
引用元:e-Gov「民法第644条」
善管注意義務が課される例
上記の定義から、善管注意義務が発生するシーンは日常生活を含めて多々存在することが読み取れるでしょう。具体的には、次のようなものが代表的な善管注意義務として挙げられます。
- 不動産の賃貸
- 医師による診断
- 準委任契約による業務の請負
すなわち、何らかの委任に基づいて業務などを受任する場合に、受任した側に善管注意義務が発生するといえます。
取締役に課される善管注意義務
その中でも、会社における善管注意義務としては、取締役が負うものが最たるものとなります。会社法第330条では、取締役は企業と委任関係にあるとされており、善管注意義務が生じることがわかります。
また会社法第355条によると、取締役は会社のために忠実に職務を遂行するという忠実義務も課せられています。忠実義務は善管注意義務と同様の意味を持ち、いずれにしても取締役は企業に対して「善良な管理者」としての義務が強く求められていることが読み取れます。
取締役の善管注意義務は基本的に、その地位や立場によって水準が異なっており、これは取締役に選任された際の期待役割やバックグラウンドによって程度が変わります。
例えば、会計の専門性が期待される取締役は、会計領域において特に強い善管注意義務が求められる一方で、経営全般やITなどの他分野については比較的低い水準の善管注意義務が課せられます。
取締役の善管注意義務違反
次に、取締役が善管注意義務に違反したと見なされる具体的な例と罰則を紹介します。
取締役の善管注意義務違反の具体例
取締役が善管注意義務に違反したと見なされるケースとして、主に次の4つの例が挙げられるでしょう。
- 取締役自身が法令や反社会勢力、コンプライアンスなどの違反を行った場合
- 他の取締役や従業員の違反行為を見逃した場合
- 経営判断を誤り、会社に重大な損害を生じさせた場合
- 競業や利益相反となる取引の開示や承認取得を怠った場合
すなわち、取締役自身がコンプライアンスなどの違反を起こさず「善良であること」は当然のことながら、「善良な管理者」であることも同時に求められます。管理者として、他の取締役や従業員をきちんと適切に管理し、会社や株主に損害を与えないことが必要となります。
取締役が善管注意義務違反を起こした際の罰則
取締役が上記のようなケースで善管注意義務を怠った場合には、その重大さに応じて次のような罰則が課せられる可能性があります。
- 取締役の解任
- 会社からの損害賠償請求
- 株主や債権者からの損害賠償請求および集団訴訟
これらの罰則は生じた善管注意義務違反の程度や、該当の取締役の立場によって程度が異なってきます。例えばコンプライアンス違反などは取締役自身の解任などに留まる一方、横領などの場合は株主らからの損害賠償請求や訴訟を受ける可能性が高くなります。
いずれにしても罰則の内容は重く、今後のキャリア活動に重大な影響を与える罰則が課せられる可能性が高いでしょう。それは言い換えれば、会社の経営全体を担う取締役の責任の重さを物語っているともいえます。
取締役の善管注意義務違反に対する企業の対策
本記事の最後に、善管注意義務違反をなくすために企業が取るべきアクションについて紹介します。企業のアクションとして、主に実際に善管注意義務違反が起こってしまった場合と、未然に防ぐ場合の両面について解説します。
善管注意義務違反が発覚した際の対応
取締役による善管注意義務違反が発覚した場合には、次のようなステップを経る必要があるでしょう。
- 他の取締役などの経営陣および顧問弁護士にて対応方針を協議
- 対応方針に関する株主らへの説明(株主総会、プレスリリースなど)
- 該当の取締役への罰則(損害賠償請求、解任など)
- 再発防止策の検討
まずは経営層らで違反事項の認識合わせと、対応方針を協議することから始まります。その際に違反の内容に応じて、弁護士などの専門家も召集することが肝要です。
その後、企業の主権者である株主を中心に対外発表を行った上で、該当の取締役に罰則を課します。
また、今回の善管注意義務違反そのものへの対応だけでなく、今後同様なことが発生しないために再発防止策を検討することも忘れてはなりません。
未然に善管注意義務違反を防ぐための対応
一方で、善管注意義務違反が起こらないようにガバナンスを強化することも重要です。違反を未然に予期し、あらかじめ対策を講じることは非常に困難ですが、そのためのアクションとしては次のようなものが挙げられます。
- 監査体制を強化し内部監査・外部監査を定期的に行う
- 取締役間の情報共有を増やし相互監視を強化する
- 社内の違法行為を減らすために社内のコンプライアンス体制を強化・徹底する
基本的にはガバナンスを強化するための仕組みを構築していくことがポイントとなりますが、その具体的な方法として、監査体制の見直しや、取締役間の連携、社内のコンプライアンス意識や体制の改善などが必要です。
しかしながら、これらのガバナンスを強化することに重点を置きすぎるあまり、企業の柔軟性や意思決定スピード、イノベーションなどが阻害されないように注意することも重要となります。
まとめ
本記事では、何らかの委任を受けた時に「善良な管理者」として求められる、善管注意義務について解説しました。善管注意義務は不動産の賃貸や医師による診断など、日常生活にも多く関係するテーマですが、企業では取締役がその義務を深く負っています。
取締役は会社の経営に関する執行責任を負っていることから、同時に重い善管注意義務が求められます。取締役自身の誠実性などの他にも、従業員の違反や企業方針に関する違反、またこれらに伴って企業に重大な損害を与えた場合にも、その責任が問われます。
取締役の善管注意義務違反が発覚した際には、速やかに関係者を集め対応方針を協議することが重要です。同時に未然に事故を防ぐための方法も日頃から検討しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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