- 作成日 : 2025年1月21日
IPOにおける決算早期化とは?重要性やポイントを解説
IPOに向けた決算早期化は、上場企業の決算開示に対応するための重要なプロセスです。また、経営管理の効率化や企業価値の向上なども期待できます。本記事では、決算早期化の重要性やプロセス、成功のポイントを解説します。
目次
IPOにおける決算早期化の重要性
上場準備では、予実管理やショートレビューなどに向けて適切な体制を整えておく必要性があります。体制整備の中でも、決算早期化は特に重視すべきものの1つです。IPOにおける決算早期化とは、上場準備企業がIPOに向けて、財務諸表や関連資料を従来よりも迅速かつ正確に作成するための体制を整備することです。
IPOを目指す企業が決算早期化に取り組む重要性(メリット)は、以下の4点です。
上場後の決算開示早期化に対応するため
法律の規定により、上場企業は期限内に所定の書類を提出・開示する義務を負います。
例えば、上場企業は半期報告書を中間会計期間の末日から原則45日以内(金融システムを担う企業は60日以内)、有価証券報告書は事業年度経過後から原則3ヶ月以内に、それぞれ内閣総理大臣に提出する義務を負います(金融商品取引法 第24条1項、第24条の5の1項)。
また原則として、これらの提出前には会計監査人による監査(半期報告書の場合は原則レビュー)を受ける必要があります。そして、監査や提出を終えた書類の開示義務も負います。
つまり、こうした情報開示等を行う前までに決算が完了している必要があるのです。一方非上場企業(一部例外を除く)は上記の義務を負わず、納税や最低限の法令遵守を目的に決算を行うことから、比較的ゆるやかなスピード感で決算業務が行われます。
以上のことから、上場後に求められる決算開示のスピードに近づくには、IPO準備の段階から決算早期化に取り組むことが必要不可欠です。
経理業務の効率化によって過剰な人員配置の防止につながる
決算早期化を推進する過程では、関連業務の無駄が省かれて、業務負担の軽減が図られます。経理業務の効率化が実現すれば、過剰な人員を配置する事態を防ぐことができます。
例えば、手動で入力していたデータをCSVデータの取り込みに変更することで、データ処理の省力化やミス防止が実現します。また、決算早期化に向けて部門別だったデータ管理を一元化することで、部門間のすり合わせなどに要する時間やコストの削減につながるでしょう。
経営判断のスピード向上による競争優位性や成長性の向上が期待できる
決算の早期化により、経営陣はよりスピーディーに正確なデータを入手できます。経営環境の変化に対して迅速な経営判断を行えるようになるため、競争優位性や企業の成長性を高めることが期待できます。
内部統制の強化により、財務情報の透明性や正確性が高まる
決算早期化のプロセスでは、業務フローの見直しや内部統制の強化も求められます。こうした取り組みにより、財務情報の透明性・正確性の向上も見込めます。結果的に、上場審査に通る可能性や投資家からの信頼性を高めることが可能です。
IPOにおける決算早期化のプロセスと問題点
次に、IPOに向けた決算早期化のプロセスとそれに付随する問題点、および解決策を解説します。
IPOに向けた決算早期化のプロセス
決算早期化は、一般的に以下の流れで実施されます。
会計の各業務(単体決算など)における工数を洗い出す
各業務に目標の工数を設定し、現時点との差分を分析する
各業務の問題点とその要因を洗い出し、改善を図る
決算早期化に付随する問題点とその解決策
決算早期化を実現するには、会計の各業務における問題点を洗い出し、その改善を図ることが重要です。本項では、業務ごとに想定される問題点と、その解決策を紹介します。
単体決算
問題点の例 | 解決策 |
会計データの手動入力で時間がかかる、ミスが生じる | データの自動読み込み機能が搭載された会計システムを利用する |
連結決算
問題点の例 | 解決策 |
連結パッケージ(※)が正確でないことで、連結精算表の修正工数がかかる ※連結決算を行うために、各子会社・関連会社に必要な情報を入力してもらうための定型フォーマット |
|
開示作業
問題点の例 | 解決策 |
開示作業の過程で、作業の重複やミスが生じる |
|
監査対応
問題点の例 | 解決策 |
監査に必要な資料の準備に時間がかかる | 事前に監査法人と協議し、必要な資料一覧を事前に提出してもらうことで下準備を早めに済ませておく |
IPOにおける決算早期化のポイント
IPOにおける決算早期化を成功させる上では、4つのポイントを押さえることが効果的です。
ポイント1:目標から逆算して具体的なスケジュールを策定する
前述のとおり、上場企業には決められた期限までに資料の提出や開示を行うことと、それに向けた監査対応が求められます。ゴールが明確なため、そこ(≒目標、ゴール)から逆算して、具体的に「いつまでに、何を、誰が行うべきか」を策定することが、決算早期化を着実に実現する上で効果的です。目標ベースでスケジュールを策定することで、無駄な業務や手戻りが発生するリスクを低減できるでしょう。
ポイント2:早い段階から専門性の高い人材を育成・確保する
決算早期化を実現するには、会計の専門的な知見やノウハウを有する人材の確保が不可欠です。そのためには、優秀な人材の確保に向けて新規採用や育成を図ることが重要になります。
また、必要に応じて外部のコンサルティングサービスを活用することも効果的です。会計やIPOの知見を有する専門家に協力してもらうことで、自力で行うよりもスピーディーに課題を解決できる可能性が高まるでしょう。
ポイント3:社内全体で早期化に向けた体制を強化する
決算業務を行うには、経理部門のみならず、営業や生産管理、販売など、多様な部門の情報が必要です。そのため、各部門が自らの業務を正確かつ迅速に行えるような体制や仕組みを構築することが、決算早期化を実現する上で不可欠です。
具体的には、業務フローの見直しなどを図り、作業時間の短縮や業務の生産性向上を図ることが求められます。
また、各部門が連携を図ることも、決算業務をスピーディーに進める上で重要です。
ポイント4:ITツールを最大限活用する
ITツールを最大限活用することで、IPOに向けた決算早期化を進めやすくなります。
例えば、クラウド型会計システムやERPシステムを導入することで、部門を横断してリアルタイムに会計データを管理・把握したり、データ入力や集計作業などの自動化を図ったりすることが可能です。その結果、業務遂行のスピード向上やヒューマンエラーの防止、生産性の向上などの効果が見込めます。
また、ワークフロー管理ツールやタスク自動化ツールの導入により、無駄な業務や重複の削減を図れるでしょう。
まとめ
IPOに向けた決算早期化は、上場後の決算開示に向けた準備の中でも重要なものの1つです。企業価値の向上や経営の効率性向上にもつながるため、積極的に取り組むべきでしょう。ぜひ、本記事の内容をIPO準備にお役立てください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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