- 作成日 : 2025年1月14日
棚卸立会の目的は?監査法人がチェックすべきポイントや必要な準備を解説
棚卸業務は企業の在庫管理に必要なことですが、実施には精度の確保と透明性が求められます。
特に第三者によるチェックを行うことで、棚卸資産が適切に管理され、企業の価値向上にも繋がるでしょう。
そこで本記事では、棚卸立会監査の目的やチェック方法などを詳しく解説します。
目次
棚卸立会とは?監査における重要性と目的
棚卸立会とは、会計監査人が実地棚卸の場に同席し、企業が報告する在庫数量の正確性を独立した立場から検証する監査手続の一環です。
この手続は、在庫管理や財務報告の信頼性を担保するために重要な役割を果たします。
具体的には、監査人が棚卸業務の流れを確認し、ランダムに選んだ項目について数量を再チェックすることで、企業が記録した在庫データが実物と一致しているかを検証するといった感じです。
監査における棚卸立会の位置づけ
棚卸資産は多くの企業にとって資産規模の大きな割合を占めます。そのため、評価や計上が正確であるかを確認することは、財務諸表の信頼性を確保する上で重要です。
監査証拠としての棚卸立会の意義は、棚卸をしているところに臨席し、正確なチェックが行われているかを確認することです。
また、監査人がその場で抜き取り検査を行うことで、企業内部の在庫管理プロセスの正確性や透明性を評価し、記録の妥当性を担保します。
特に在庫が過大または過少に計上されると、利益や資産の評価に重大な影響を及ぼす可能性があるため、財務諸表の適正性という観点からも重要な役割を果たすでしょう。
棚卸立会で検証されるポイント
棚卸立会で検証されるポイントは、主に以下4つです。
- 実在性:計上されている在庫が実際に存在するか
- 網羅性:すべての在庫が漏れなく計上されているか
- 権利と義務の帰属:計上されている在庫が自社の資産として適切か
- 評価の妥当性:陳腐化していないかなど在庫の状態が適切に評価されているか
実在性の検証では、記録されている棚卸資産が実際に存在するかを確認し、虚偽記録を防ぐことができます。
網羅性は、実際に存在している棚卸資産がすべて帳簿に記録されているかを確認し、帳簿に記載漏れがないことの確認が可能です。
権利義務は、棚卸資産が本当に企業の所有物であるかを確認し、第三者の所有物が誤って自社の棚卸資産として計上されることを防ぎます。最後に、棚卸資産の評価額が適正であるかを確認します。
棚卸立会で達成される目的
不正や誤謬のリスク低減という観点では、棚卸立会を行うことで在庫記録が実際の状況と一致しているかを第三者の視点で確認することが可能です。
在庫の過大または過少計上、架空在庫の記録、記録漏れといった不正やミスを早期に発見でき、資産の適切な管理ができるようになります。
さらに、経営者の在庫管理責任の遂行という面では、棚卸立会は経営者にとって、適切な在庫管理を行っていることを外部に証明する絶好の機会です。
在庫管理は企業運営の根幹をなす部分であり、その正確性が問われる場面では、経営者が責任を果たしている証拠を示すことが求められます。
監査人が実地で確認を行うことで、企業としての管理能力が客観的に評価され、取引先や株主に対する信頼性を高めることができるでしょう。
棚卸立会の手順とチェックポイント
棚卸立会の一連の流れは、事前準備から実査、事後の確認までいたります。
本項では、下記2つについて詳しく解説します。
- 棚卸立会に向けた事前準備
- 棚卸立会当日|監査の流れと重要なポイント
- 棚卸立会後のフォローアップ
棚卸立会に向けた事前準備
棚卸立会に向けた事前準備は、主に以下2つあります。
- 必要な書類
- 担当者間の連携
必要な書類
一般的に、棚卸立会に向けて用意する書類は、以下の通りです。
必要書類 | 内容 | 準備のポイント |
棚卸実施要領 | 棚卸の実施手順や注意点 | 作業手順を明確化する |
在庫一覧 | 在庫の数量や単価など記載 | 会社で活用しているもので問題なし |
棚卸リスト | 在庫の数量や品名、品番など | 在庫管理システムなどから出力 |
入出庫伝票 | 入庫伝票と出庫伝票 | 最新版を記録する |
担当者間の連携
担当者間の連携が重要で、特に経理部門と監査法人が密接に連携し、事前に詳細な打ち合わせを行うことで、実地棚卸がスムーズに進み、正確な結果が得られる基盤が整います。
在庫管理の全体像や、特に重点的に確認すべきリスクの高いエリアについて意見を交換し、在庫の種類や物理的な配置、評価基準などを話します。
これらの情報を共有することで、監査法人が必要な手続を計画的に組み立てることが可能です。
棚卸立会当日|監査の流れと重要なポイント
棚卸立会当日は、主に以下のようなことを行います。
- 棚卸手順の確認
- 棚卸漏れの確認
- テストカウントの実施
- 聞き取り調査
- カットオフテスト
棚卸手順の確認
監査当日はまず、棚卸の全体スケジュールと実施手順を確認することから始まります。監査人は企業の棚卸担当者と打ち合わせを行い、当日の作業の概要と計数方法を再確認します。
この段階では、実際に担当者が準備した棚卸リストや現場の配置図を基に、予定された手続が正確に遂行されるかの確認が必要です。
また、特に重要な在庫品目やリスクの高いエリアがある場合は、その優先順位を明確にすることで、限られた時間内で効率よく確認作業を進められるよう調整します。
棚卸漏れの確認
在庫の網羅性を確保し、財務諸表における適正な在庫情報の表示を担保するために棚卸漏れの確認も欠かせません。
監査人は、棚卸リストに記載された品目が現場にすべて存在しているか、逆に現場に存在する品目がリストに全て記載されているかを確認します。
次に、在庫の保管場所全体を実際に歩いて確認することも重要です。企業の倉庫や保管場所が広範囲にわたる場合、特定のエリアや棚が確認対象から外れる可能性があるため、監査人は隅々まで確認することを意識しましょう。
棚卸除外品がある場合は、専用のエリアを設けることや、色分けされたシートや仕切りを活用するなど、視覚的に判別しやすい方法で管理するようにしてください。
テストカウントの実施
テストカウントは、棚卸の実際の手順が適切に行われているか、また、在庫数量の確認が正確であるかを検証するために必要な手続きです。
監査人によるサンプル抽出の基準は、棚卸の規模や在庫の種類によって異なりますが、基本的には、選ばれたサンプルが全体の在庫の代表として機能するように、ランダムに抽出されることが一般的です。
このランダム抽出の方法は、偏りがないようにするために重要で、特定の製品群に偏らず、広範囲にわたる在庫が抽出されます。
差異が発見された場合、発生した原因を特定し、棚卸の手順を見直す、在庫の評価方法を改善などの対策が必要です。
聞き取り調査
棚卸が完了後、聞き取り調査を行います。ここでいう聞き取り調査とは、主に以下のようなものが該当します。
調査項目 | 確認ポイント |
在庫管理体制 | 日常的なチェック方法 |
前回からの改善 | 過去の指摘事項への対応 |
異常時の対応 | 不一致発見時の処理手順 |
担当者の習熟度 | 実務経験と理解度 |
実際に作業を行っている従業員から直接情報を得ることで、棚卸作業における潜在的な問題やリスクを早期に発見できる可能性が高まります。
カットオフテスト
カットオフテストは、期末日における在庫の数量が正確で、期末の財務諸表に反映されるべき取引が適切に記録されているかを検証するために必要です。
カットオフテストを実施する際、監査人は、期末日を前後して行われた入出庫取引が正しい期間に分類されているかを確認します。
単に数量の確認だけでなく、取引が適切な会計期間に記録されているかどうかを確かめ必要があります。
棚卸立会後のフォローアップ
棚卸立会後は、監査報告書を作成します。監査報告書は、棚卸立会で得られた監査証拠をもとに作成され、財務諸表の適正性に関する最終的な判断を示すものです。
そのため、監査人は棚卸立会での確認結果や発見された問題点を正確かつ詳細に記載する必要があります。
報告書の作成に加えて、指摘事項への対応が不可欠です。棚卸立会の結果、誤差や不正確な記録、あるいは内部統制の問題が明らかになることがあるでしょう。
これらの指摘事項に対して、監査人は適切な対応方法を提案し、経営陣に対して必要な改善策を提示します。
効率的な棚卸実施のためのポイント
効率的な棚卸を行うためには、主に以下3つを意識する必要があります。
- 正確な在庫管理システムの導入
- 定期的な棚卸の実施
- 監査法人との良好な関係構築
正確な在庫管理システムの導入
効率的な棚卸実施において、正確な在庫管理システムの導入は不可欠です。
適切な在庫管理システムを導入することで、企業は在庫の状況をリアルタイムで把握し、棚卸作業の精度と効率を大幅に向上させられます。
特に在庫管理システムは、バーコードやRFID技術を活用することが多く、在庫の受け渡しや棚卸が迅速に行われるようになります。
システムを通じて在庫数を自動的にカウントできるため、実際の棚卸作業を行う際の負担を軽減し、作業者のミスを最小限に抑えることが可能です。
定期的な棚卸の実施
定期的な棚卸は、在庫の実態を常に把握し、管理の精度を向上させるための基本的な手法です。
在庫の実態とシステム上のデータとの整合性を確認し、必要に応じて修正を加えることができ、在庫管理の透明性を常に保つことができます。
特に期末棚卸の規模が大きくなる企業や在庫の流動性が高い企業にとっては、中間棚卸は効果的です。
この時期に在庫を確認することで、期末棚卸に向けた準備が進み、もし在庫の不一致や誤りがあった場合には早期に発見し、修正することができます。
監査法人との良好な関係構築
監査法人との円滑なコミュニケーションは、棚卸業務がスムーズに進行し、精度が高まるために欠かせません。
監査法人との連携は、棚卸準備段階から始まります。棚卸の日程や方法、監査法人が求める情報の共有を事前に行うことで、スムーズな監査の実施が可能となります。
また、監査法人からの要望や指摘事項に対して早期に対応できるように、日頃から細かな情報交換を行うことが必要です。
このような継続的なコミュニケーションを通じて、棚卸時に発生し得る問題を予見し、事前に対策を講じることができます。
まとめ
棚卸立会は、在庫管理や財務報告の信頼性を担保するために重要です。
棚卸立会を行う際は、しっかりと監査人に向けて必要な書類を準備し、当日スムーズにいくよう、担当者と密に連携する必要があります。特に日頃から在庫管理を徹底して行っていれば、棚卸がスムーズにでき、監査が立ち会っても時間をかけずに済むでしょう。
倉庫や事務所などは日頃から適切に管理しておくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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