- 作成日 : 2024年7月24日
社内不正調査とは?社内不正の事例や調査方法・対応の流れを解説
社内で不正行為が発覚した際には、迅速で適切な対応が求められますが、その具体的な対処方法がわからない企業も少なくありません。
不正が発覚した時こそ、丁寧な報告を行い、信頼性を保つことが重要です。
本記事では、社内不正調査の方法や流れを詳しく解説します。
目次
社内不正調査とは
社内不正調査とは、企業や組織内で発生する可能性のある不正行為を特定し、証拠を収集し、適切な対策を講じるためのプロセスです。
主に財務的不正や情報漏洩、従業員による不正行為、ハラスメントなど、さまざまな形態の不正行為を対象とします。
不正行為の疑いが生じた場合、企業は通常、内部監査部門やコンプライアンス部門に調査を依頼します。これらの部門は、調査の範囲を決定し、具体的な調査計画を立てる役割があるでしょう。
社内不正調査の重要性
社内不正調査は、企業の健全な経営と社会的責任を全うするために必要不可欠です。
不正行為が企業内部で発生すると、企業の信用と評判が大きく損なわれ、法的リスクや財務的損失に直結する可能性があります。
社内不正調査は企業の信頼性を保つための基盤となります。企業が不正行為を見逃したり、放置したりすることは、顧客に対する信頼を失わせる結果となります。
顧客や取引先、投資家は、企業が倫理的で透明性の高い運営を行っていることを期待しており、その期待に応えるためには、不正行為に対して厳格な姿勢を示すことが必要です。
社内不正の主な事例
会社で行われる不正には、例として以下の5つがあります。
- 賄賂
- 横領
- 情報漏洩
- データの改ざん
- ハラスメント
例えば、賄賂は企業の従業員や役員が自らの利益を得るために、金銭や物品、サービスなどの不正な利益を受け取る行為を指します。
横領は、企業の財産や資産を不正に取得し、私的に利用する行為です。
これらの社内不正は、主に資産の「不正流用」と「不正報告」の2種類に分類されます。
不正流用とは、企業の資産や資源を不正に使用する行為を指します。例えば、横領が典型的な例です。経理担当者が会社の資金を自分の口座に移し替えたり、在庫を無断で持ち出して個人的に売却したりする行為です。
不正報告とは、企業の業績や状況について虚偽の情報を報告する行為を指します。
この不正行為は、企業の意思決定やステークホルダーへの報告に重大な影響を及ぼします。典型的な例として、粉飾があります。
決算書や財務報告書の数字を操作し、業績を実際よりも良く見せる行為がこれに該当します。
参考:一般社団法人日本内部監査協会|【資料】「企業不祥事、企業不正事例 10事案」
社内不正調査の方法・流れ
社内不正調査は、一般的に以下の流れで進めます。
- 対応方針の決定
- 取引先・監督官庁への報告
- 不正に関連する証拠の確保
- 関係者に対するヒアリングの実施
- 消費者など一般向けの公表
- 本格的な調査の実行
- ステークホルダーへの調査報告
- 不正を行った社員の処分
- 再発防止のための施策の検討
①対応方針の決定
社内不正調査の方法・流れについて、まずその全体像を把握することが重要です。これは内部告発、定期的な監査、従業員からの報告など、さまざまな方法で行われます。
企業は、従業員が安心して不正行為を報告できる内部告発制度を整備しておくことが重要です。
この段階では、不正行為の疑いが生じた場合に速やかに調査を開始できるよう、初動対応の体制を整えておきましょう。
②取引先・監督官庁への報告
取引先に提供する製品やサービスに関する不正が発覚した場合や、許認可を受けて事業を行っている場合には、取引先や監督官庁に対する不正の報告の要否を検討しなければならないことがあります。
取引先との信頼関係を維持するために、早期に事実を伝え、再発防止策や補償の方針を示すことが重要です。
一方、監督官庁への報告については、法令や規制に基づく義務がある場合が多く、報告の内容やタイミングについては、法務部門や外部の法律顧問と連携して慎重に進める必要があります。
③不正に関連する証拠の確保
不正の疑いが発覚した場合、まず社内で速やかに不正に関連する証拠の確保が重要です。
まず、不正行為が疑われる経緯や具体的な手口、関与した人物や部門を特定するために、徹底的な情報収集が行われます。
例えば、メールや取引記録、経理データ、監視カメラの映像など、さまざまな形式の証拠が含まれます。これらの証拠は、削除や改ざんが行われないよう、慎重に取り扱い、適切に保管しましょう。
また、収集した証拠をもとに詳細な分析が行われ、不正の全容が明らかにすることも重要です。この過程では、証拠間の関連性を確認し、不正行為の具体的な内容や影響範囲を特定します。
④関係者に対するヒアリングの実施
不祥事に関する証拠の収集と同時に、関係者へのヒアリング調査も実施します。
不祥事に直接関与した者だけでなく、同じ部署の上司や同僚などにもヒアリングを行い、事実関係をできる限り詳しく明らかにしましょう。
⑤消費者など一般向けの公表
不正行為の性質や影響範囲に応じて、消費者など一般向けの公表が必要になることもあります。消費者への公表は、企業の透明性を確保し、信頼回復を図るための重要なステップです。
具体的には、プレスリリースの発表や公式ウェブサイトでの情報公開、記者会見の開催などが考えられます。これにより、消費者や一般の関心を集めると同時に、企業の姿勢を明確に示すことが可能です。
公表の内容には、不正行為の概要、企業が講じる対応策、再発防止策などが含まれます。公表のタイミングと方法については、広報部門と協力しながら慎重に検討されます。
⑥本格的な調査の実行
一般向けの公表が完了した後は、本格的に調査を実施する必要があります。
本格的な調査内容は、主に以下の通りです。
【本格調査の方法例】
- フォレンジック調査
- 関係書類の分析
- 第三者による現場視察
- ホットラインの設置
- 関係者へのインタビュー
- 従業員へのアンケート
フォレンジック調査
フォレンジック調査とは、デジタル証拠の収集、分析、保全を行う専門的な調査手法です。この調査の目的は、不正行為の証拠を科学的かつ法的に有効な形で収集し、分析することです。具体的には、コンピュータやスマートフォン、サーバーなどのデジタルデバイスからデータを抽出し、不正行為の痕跡を探ります。
フォレンジック調査を行う場合は、データの改ざんや削除を防ぐために、証拠の保全が厳重に行いましょう。
関係書類の分析
不正調査では、客観的な記録が事実確認の重要な基盤となるため、関係書類の分析が重要です。関係書類とは、取引記録や契約書、請求書、内部メモ、会議議事録、電子メールなど、不正行為に関連する可能性のあるすべての文書を指します。
書類の内容を精査し、不正行為の手がかりとなる情報を見逃さないようにしましょう。
第三者による現場視察
第三者による現場視察とは、外部の専門家や調査員が実際の現場を訪れ、現地の状況を直接確認することです。
この視察は、書類やデジタルデータからは得られない現場の具体的な状況や物理的な証拠を把握するために行われます。第三者の視点を加えることで、客観的かつ公正な調査が実現します。
ホットラインの設置
ホットラインの設置は、従業員や取引先、顧客などが不正行為の疑いを匿名で報告できる窓口を提供することです。
ホットラインに寄せられた通報は、専門の担当者によって迅速に受理され、調査チームに報告されます。通報内容は慎重に検討され、必要に応じて追加の調査が行われる流れです。
順序としては、まずホットラインの運用目的と範囲を明確にし、通報者が安心して利用できる体制を整えます。次に、ホットラインの連絡先を社内外に広く周知し、通報の方法や保護される匿名性について説明します。
ホットラインは、電話やメール、ウェブフォームなど、複数の通報手段を提供することが望ましいです。
関係者へのインタビュー
客観的資料の分析結果を基に、関係者へのインタビューを行います。中には、不正の内容が書類に記録されていないことも多いため、関係者へのインタビューは重要な調査手段です。
インタビューの際には、質問内容を事前に準備し、具体的かつ明確な質問を行うことが重要です。
インタビューは、できるだけリラックスした雰囲気で行い、対象者が率直に話しやすい環境を整えます。対象者の話を注意深く聞き、必要に応じて追加の質問を行い、事実関係を詳細に確認しましょう。
従業員へのアンケート
アンケートの実施にあたっては、まず調査の目的を明確にし、従業員に対してその意図を伝えることが重要です。
アンケートの設計段階では、不正行為に関連する具体的な質問を作成します。これには、従業員が直面している問題や不正行為に関する目撃情報、疑わしい行為についての意見などが含まれます。
質問は、従業員が回答しやすい形式であり、匿名性を保つことが必要です。これにより、従業員は安心して率直な意見や情報を提供できるようになるでしょう。
⑦ステークホルダーへの調査報告
ステークホルダーは、取引先や監督官庁、株主、従業員、顧客などが含まれます。
取引先への報告では、信頼関係を維持するために、不正行為の概要とその影響、会社が講じる対応策や再発防止策についての説明が必要です。
監督官庁への報告は、法令や規制に基づく義務がある場合が多く、報告の内容やタイミングについては、法務部門や外部の法律顧問と連携して慎重に進めます。
株主への報告は、株主総会や定例報告の場で行われることが一般的です。株主に対しては、会社の透明性を示し、不正行為に対する具体的な対応策や再発防止策を明確に伝えることが求められます。
これにより、株主の信頼を回復し、会社の健全な運営を維持することができるでしょう。
⑧不正を行った社員の処分
ステークホルダーへの調査報告が完了したら、不正を行った社員の処分を行いましょう。
社内規定や就業規則に基づいて、適切な処分を決定します。処分の内容は、不正行為の重大さや影響の大きさに応じて、警告や懲戒処分、減給、停職、解雇などが考えられます。
処分の決定に際しては、公正かつ適正な手続きが求められます。これには、当事者に対する弁明の機会を与えることや、労働法規や就業規則に従った手続きを遵守することが含まれます。また、処分の決定は、経営陣や関連部門と協議の上で行われます。
⑨再発防止のための施策の検討
最後に、不正行為の原因を分析し、システムやプロセスにどのような欠陥があったのかを明確にし、再発防止のための施策を検討しましょう。例えば、内部統制の不備、監視体制の弱さ、社員教育の不足などが原因として挙げられることがあります。
次に、原因に対する具体的な対策を立案します。内部統制の強化としては、業務プロセスの見直しや、チェック機能の強化が必要です。
また、監視体制の強化には、定期的な監査の実施や監視システムの導入が考えられます。さらに、社員教育の充実には、コンプライアンス研修の実施や、倫理教育の強化が含まれます。
これらの対策を効果的に実施するためには、具体的な計画を立てることが重要です。
社内不正調査を行う際の注意点
社内不正調査を行う際の注意点として、主に以下3つあります。
- 公益通報を行った従業員を保護する
- 弁護士など第三者を調査チームに入れる
- 情報発信は適切なタイミングで行う
公益通報を行った従業員を保護する
社内不正調査を開始する際、最初に重要なのは、公益通報を行った従業員の保護です。公益通報とは、従業員が内部で発見した不正行為や違法行為を社内外に報告する行為を指します。
違法行為を公益通報した従業員に対しては、益通報者保護法により、解雇やその他の不利益な処遇を行うことを禁止されています。
この通報があることで、不正行為の早期発見と適切な対応が可能になりますが、通報者が報復を受けるリスクを防ぐための保護措置が必要です。
弁護士など第三者を調査チームに入れる
不正行為が疑われる場合、社内で迅速かつ徹底的な調査が求められます。
この調査を円滑に進め、信頼性を確保するために、内部の監査部門やコンプライアンス部門だけでなく、弁護士などの第三者を調査チームに加えることが有効です。
弁護士を調査チームに加えることで、法的な視点からの助言を受けられます。不正行為の調査は法的な問題が絡むことが多いため、法的な専門知識を持つ弁護士の参加は不可欠です。
弁護士は、調査の進行中に発生する可能性のある法的リスクを評価し、適切な対応策を提案します。これにより、調査が法的に適正な手続きを経て行われることが保証されるでしょう。
情報発信は適切なタイミングで行う
ステークホルダーへの情報発信は、タイミングを見計らい、必要かつ十分な内容を提供することが重要です。
タイミングをあやまったり情報が不足したりしている中での発信は、ステークホルダーの信頼を損なう可能性があります。
情報を伝える際には、曖昧な事柄ではなく、その時点で確定している事実のみを公表するよう心がけましょう。
まとめ
社内不正調査は、企業内で発生する不正行為を特定し、証拠を収集し、適切な対策を講じるためのプロセスです。
財務的不正や情報漏洩、従業員による不正行為やハラスメントなどが主な対象となり、これらの行為が発覚した際は、迅速かつ丁寧な対応をしなければなりません。
まずは社内で不正調査ができる環境を構築しておき、自社に合う調査方法を実施できるようにしましょう。
よくある質問
不正調査の方法はどうやる?
不正調査の方法は、主に以下6つの方法があります。
- フォレンジック調査
- 関係書類の分析
- 第三者による現場視察
- ホットラインの設置
- 関係者へのインタビュー
- 従業員へのアンケート
不正調査報告書とは?
不正調査報告書とは、社内で行われた不正行為に関する調査の結果をまとめた公式な文書です。これは、調査の全体像を明らかにし、企業としての対応策を明確にするために作成されます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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