• 更新日 : 2025年3月19日

経理の内部統制はなぜ必要?メリットやデメリットについて解説

昨今はニュースで企業の横領や、隠蔽、会計不正などが報道され、多くの企業で経理による内部統制の強化を進める傾向にあります。

しかし、内部統制はどこまでやればいいのか、導入するにはどうすればいいのかわからないという経理担当者も多いのではないでしょうか。

この記事では、経理による内部統制の基本から重要性を解説します。メリットとデメリットも併せて紹介するので、内部統制の強化を検討している方はぜひ参考にしてみてください。

内部統制はなぜ必要なのか?

昨今、国内のあらゆる企業で内部統制の実施が広がっている背景には、企業の不正摘発の増加があります。

会計のごまかしや粉飾決算、情報漏洩、リコールの隠蔽などのさまざまな不正摘発の事件が報道されているのを目にします。

企業の不正が発覚すると社会的信用の喪失や、取引先への悪影響など損害や損失が少なくありません。企業の不正防止のためにも内部統制の強化を進める企業が増加傾向にあります。

さらに2006年6月には金融商品取引法(金商法)が制定され、2年後の2008年4月には上場企業とその子会社、関連会社を対象とした内部統制のルールとして「J-SOX(日本版SOX法)」が定められました。

法規制も厳しくなり、適切な企業活動の継続のためにも内部統制の導入が積極的に推進されています。

内部統制とは

内部統制とは、会社を健全に運営するための仕組みのことです。会社内の各部門がそれぞれ正しい体制で適切に機能することで、社内の指揮や監督が発揮されます。

組織全体で見ると、取締役(会)・監査役(会)・社内規定・承認システムなどの各部門が相互的に機能することで全体の指揮・監督機能を発揮することを意味します。

経理部門に着目すると、粉飾決算や不正会計といった不祥事を未然に防ぐという重要な監督的役割があります。

さらに上場企業の場合には、財務報告の信頼性確保のために「内部統制報告書」の提出義務が金融商品取引法で定められています。上場企業に限らず、上場を目指す企業なら視野に入れておきましょう。

内部統制の6つの基本要素

内部統制は6つの基本要素で構成されています。下記の要素は金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」で定められている項目で、ひとつひとつを十分に理解し、それぞれに対応する必要があります。

①統制環境

統制環境とは、組織全体で内部統制を機能させるための土台となる環境・文化・仕組みのことを指します。

6つの基本要素のなかでも最重要視される統制環境は、従業員や経営者など会社組織に所属するすべての人員の考えや倫理観、さらに経営方針や事業戦略などによって構成されます。

組織内のすべての人が内部統制の重要性を理解し、従業員・経営者全員に社内ルールを遵守してもらうことが重要です。

統制環境が整備されていなければ社内規則やシステムは活かしきれません。内部統制を正しく機能させるには、適切な社内ルールの運用のための統制環境の整備が必要です。つまり統制環境の整備とは組織風土の整備ともいえます。

②リスクの特定・評価・対応

いかなる業務でもリスクは必ず存在します。

企業としては、直面するリスクを特定し、識別し、分析・評価したうえで適切に対応するプロセスを繰り返す必要があります。

リスクに対して場当たり的に対処していては、重大な損失や不正が発生してしまう可能性があるため、体系的なリスク管理を行うことによる、企業の安定経営や信頼確保が必要です。

リスク管理はおもに経営陣の業務範囲ですが、一従業員も実務上でリスクに直面する場面は出てきます。企業としてリスクへの対応の基準やルールを統一し、全従業員に共有しておきましょう。

③統制活動

統制活動とは、リスクへの対応策を具体的に実行するための仕組みや手続きを指します。

業務プロセスの中に組み込まれた承認フローやアラート機能などが該当し、不正やミスを防止・早期発見する役割を果たします。

いくらリスクを洗い出しても、実際の業務プロセスに具体的な統制活動が組み込まれていなければ、防止策や早期発見の機能は十分に果たせないため、重要なポイントと言えるでしょう。

④情報と伝達

社内および社外に正確で最適な情報を伝達するための仕組みを整えることも重要です。

情報の伝達が滞ると、経営判断の遅れやリスクの見落としが起きやすくなります。正しい判断と迅速な対応のために、情報の「質」と「流れ」が整備されていることが欠かせません。

社内の情報伝達はもちろん、外部とのコミュニケーションや内部通報制度の仕組みなどの仕組みを整えることも大切です。

また、情報伝達には、情報漏えいのリスク管理もしなければなりません。トラブル回避のために、メールやチャット、SNSやプレスリリースなど情報発信には十分に注意を払う必要があります。

さらに、情報漏えいリスクに備えた具体的な対策も準備しておきましょう。添付ファイルの送信時の規制や、企業SNSアカウントのセキュリティ対策など情報公開時にも注意しておかなければいけません。

⑤モニタリング

モニタリングとは、内部統制が適切に機能しているかを継続的に監視し、必要に応じて改善するプロセスです。内部監査部門や外部監査、経営陣のレビューなどが具体的な手段となります。

定期的な確認によって内部統制の評価や見直し、新しい課題が発見できるなどより精度の高い内部統制が実施できます。

モニタリングは「日常的なモニタリング」と「独立的評価」のふたつの意味を有します。

日常的なモニタリング社内で内部統制が適切に発揮されているかなどの日々の確認作業
独立的評価取締役会や内部監査などの定期検査などによる確認

どちらも内部統制には必要な確認作業です。

⑥ITへの対応

内部統制を適切に運用していくには、ITを活用することが大切です。

さまざまな要素や作業を行う内部統制をひとつひとつ手作業で取り組んでいては、通常業務に加えて時間も手間も人員も圧倒的に足りません。

業務効率化のためにもIT環境へ適切に対応し、ITシステムを上手に活用することでIT統制に取り組みましょう。

また、セキュリティやシステム安定稼働への備えも必要です。不備があると、金銭的な被害だけでなく、社会的信用の失墜も招きかねません。

内部統制の4つの目的

内部統制には4つの目的が設けられています。

4つの目的は金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」で定められており、すべてを正しく実行することで内部統制は成立します。

内部統制の4つの目的
  1. 業務の有効性・効率性を高める
  2. 財務報告の信頼性を確保する
  3. 事業活動にかかわる法令遵守の促進
  4. 資産の保全を図る

出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(金融庁)

以下では、4つの目的のそれぞれの詳細を解説します。

①業務効率化

業務の有効性・効率性を高めるためには業務効率化が必須です。業務における人員・商品・費用・時間などの資源を適切に効率よく活用することで事業活動の目的を達成できます。

②財務報告の信頼確保

企業としての社会的信用を失わないために、クリアでクリーンな財務情報を公表します。2023年4月に「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」が見直され、「財務報告の信頼性」は「報告の信頼性」に改訂されました。

財務情報に限らず、非財務情報も併せて報告することで、より精度の高い信頼性を確保する必要があります。

③法令順守の促進

内部統制を適切に運用することで、法令順守のもとリスク回避を徹底します。

昨今の報道で注目される企業の社会的信用問題から世間は一企業へ厳しい視線が送られる風潮にあります。内部統制によって企業イメージのクリーン化を図り、社会的信用を失わないようにします。

④資産保全

企業が保有する資産は、正しい手続きのうえで事業活動に利用されます。

企業の資産とは有形資産(金銭・土地)と無形資産(従業員・知的財産・顧客情報)のことで、資産の管理と保守を徹底することで事業の継続に大きく影響します。

内部統制で取り組むべき3つの課題

企業は内部統制において3つの取り組むべき課題を抱えます。

経営者による不正や、目の届きにくい海外支社やグループ企業の不正への取り締まり、時間経過によって内部統制の仕組みが形骸化してしまい、機能していない状態になってしまうなどの課題が挙げられます。

①経営者による不正

システムの運用や特定の部署で管理せず、経営者自身が内部統制を行う場合には注意が必要です。

経営者自身が内部統制を行うと、経営者本人が不正をしたり、経営者が従業員に指示をして不正を働いた際に、不正の事実が見えにくく、未然に防止するのが困難になるためです。

②海外支社やグループ会社の不正

自社以外の企業を管理することはかなり難しいでしょう。

海外に支社や支店を持つ企業や、複数のグループ会社を全国に持つ企業などは、全体像が把握しにくく、目の届きにくい土地にある会社の不正に気付くのが遅くなってしまいます。

海外支社や離れた地域にあるグループ会社は物理的な距離のせいですべてを管理し、把握することは困難といえます。

③時間経過による仕組みの形骸化

内部統制をするなら定期的な見直しを心がけましょう。

時代と共に環境の変化や従業員の入れ替えなど、導入当初の仕組みのままでは現在の環境に対応しきれない場面も出てきます。形骸化してしまったあとでは内部統制は全く意味をなさないため、コンスタントに調査、修正するようにしましょう。

内部統制をする2つのメリット

内部統制をすることには大きく2つのメリットがあります。内部統制の本来の目的である企業の社会的信用の向上のほかにも、従業員へのモチベーションアップや抑止力への効果などが期待できます。

社内ルールの整備で従業員のモチベーションアップにつながる

内部統制によって社内や業務における無駄を発見できます。無駄な経費や業務、コストなどを削減できれば業務の効率化が進み、従って従業員の業務へのモチベーション向上につなげられます。

定期的な内部統制で見直しできる点は、以下の通りです。

  • 社内ルール
  • 業務プロセスやフロー
  • 経費精算フロー
  • 承認プロセス

以上のような課題を発見、効率化できるのも内部統制のメリットの一つといえます。

不正を未然に防げて抑止力につながる

内部統制によって不正を未然に防ぐだけでなく、連鎖する不正やトラブル、リスク対策への抑止力になります。また、経費管理において分業やダブルチェック体制が徹底されていれば、不正が早期発見できる可能性を高めます。

抑止力の効果が発揮できれば企業のクリーンなイメージを守り続けることも可能でしょう。

内部統制をする最大のデメリット

内部統制の必要性や重要性、またメリットを紹介しましたが、以下では、内部統制することのデメリットについて解説していきます。

手間と時間がかかり、経理部に大きな負担がかかる

内部統制をする最大のデメリットは、業務プロセスをすべて見直すためにかなりの時間と手間がかかり、経理部にとってかなり負担増となることです。さらに、見直し作業は一度に行うのは困難なため、少しずつ実行するほかありません。

また、見直した業務プロセスは実現可能なものにしなければ目的を逸脱してしまいます。さらにJ-SOX対象企業であれば、見直し作業に加えて「3点セット」の資料作成も求められます。

これらの作業を通常業務に加えて手作業で行うにはあまりにも非効率的といえるでしょう。

以上を踏まえると、内部統制に対応したシステムを導入し、経理部の負担を軽減しながら、業務プロセスを強化する方法が理想的です。

システムの導入で内部統制を解決しよう

内部統制の基本的な考え方を踏まえたうえで、内部統制を行う重要性や経理における内部統制のメリットとデメリットについて解説しました。

内部統制は上場企業や上場を目指す企業にとって必ず行うべき組織体制の管理です。しかし、内部統制の実施には経理業務の比重が重くなりがちです。

内部統制を強化したいけど、経理部へ負担をかけたくないなど業務負担について悩んでいる方や、社内環境の整備を考えている企業は、「「マネーフォワード クラウド会計Plus」」をぜひご検討ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事