- 更新日 : 2024年7月17日
ダウンラウンドとは?スタートアップ経営者が理解しておきたい全体像と回避策を解説
スタートアップにとって、投資ラウンドにて資金調達を行うことは、成長していく上で避けては通れません。
一方で、常に順調に成長しながら資金も調達できる企業は限られており、時には経営がネガティブな状態で資金調達を行わなければならない場合もあるでしょう。このようなダウンラウンドが生じた際、適切なアクションを選択するためには、回避策などを理解しておくことが重要です。
そこで本記事では、ダウンラウンドの全体像や回避策などを、事例も交えながら解説します。
目次
ダウンラウンドとは
ダウンラウンドとは、投資ラウンドにて前回の評価額よりも低い額で資金調達を行うことを指します。
本章では、ダウンラウンドの基礎として、投資ラウンドやダウンラウンドの影響について解説します。
投資ラウンドについて
投資ラウンドとは、スタートアップが投資家から出資を受ける段階のことを指します。
明確な定義はありませんが、スタートアップはその規模に応じて、シード、アーリー、ミドル、レイター、上場といったステージが存在します。
投資ラウンドの呼称もそれぞれのステージに対応しており、一般的に、エンジェル、シリーズA、シリーズB、シリーズC、IPOなどと呼ばれます。
ダウンラウンドは、例えば投資ラウンドのシリーズAで企業価値3億円の評価額で調達した企業が、次の投資ラウンドのシリーズBで2億円の評価額となってしまう事象のことを指します。
ダウンラウンドによる影響
ダウンラウンドはどの企業にも十分に起こり得ます。
ダウンラウンドによる影響は大きく、次のようなものが挙げられるでしょう。
- 顧客や取引先にマイナスな印象を与える可能性がある
- 一部株主の成長懸念およびモチベーション低下を引き起こす恐れがある
- 既存の株主の持分比率が低下するリスクがある
評価額が下がったということは、投資家らにそのように判断されるだけの懸念事項があるためで、それは対外的にも同様です。顧客や取引先などにも、何らからの成長性への懸念があるというシグナルを送ってしまうことになり、マイナスな印象を与えてしまう可能性があります。
これは経営内部にあまり関与しない、例えばストックオプションを保有する従業員などにとっても同様で、将来性への懸念やモチベーション低下につながる恐れもあるでしょう。
加えて、既存株主は前回の高い評価額で株式を取得していますが、新規の株主は低い額で株式を取得可能となります。そのため、新規株主が増え、既存株主の比率が減ってしまうリスクも、ダウンラウンドの影響として挙げられます。
ダウンラウンドにおいて重要な希薄化防止条項
この「ダウンラウンドによる影響」の3点目である既存株主の持分比率低下を避けるために、ダウンラウンドでは「希薄化防止条項」を締結することが一般的です。
本章では、その希薄化防止条項について解説します。
ラチェットと加重平均法
希薄化防止条項には、主にラチェットと加重平均法の2つの計算方法が存在します。
ラチェットは前回の評価額をダウンラウンド時の評価額に直接転換する方法であり、加重平均法は両者を加重平均して転換する方法となります。
したがって、ラチェットの方が経営者の持分比率が大幅に下がり、他の既存株主の比率を高めることにつながります。
希薄化防止条項のケーススタディ
創業者が1,000株、1,000万円で創業した企業を想定しましょう。この創業時の株価は1万円(1,000万円÷1,000株)となります。
次に、シリーズAでベンチャーキャピタルから1億円のバリュエーションを受け、100株を新規発行し対価として譲渡します。この際の株価は10万円(1億円÷1,000株)となり、また創業者の持分比率は、90.9%(1,000株÷1,100株)に下がります。
続いてシリーズBにてPEファンドから8,800万円のバリュエーションを受け、80株を新規発行したとします。このダウンラウンドの際の株価は、8万円(8,800万円÷1,100株)となります。
この場合の、各株主の持分比率は下記のようになり、シリーズAでは9.1%の比率を保有していたベンチャーキャピタルからすると、持分比率が低下していることがわかります。
株主 | 創業者 | ベンチャーキャピタル | PEファンド |
---|---|---|---|
保有株式数 | 1,000 | 100 | 80 |
持分比率 | 84.7% | 8.5% | 6.8% |
ラチェット
これを防ぐために、希薄化防止条項により既存株主であるベンチャーキャピタルに対して、ラチェットを適用したとします。
ベンチャーキャピタルが保有している株価は1,000万円(10万円×100株)ですが、これが今回の評価額の株価8万円で再評価されます。
したがって、保有株数は125株(1,000万円÷8万円)となり、持分比率は次のように変化します。
株主 | 創業者 | ベンチャーキャピタル | PEファンド |
---|---|---|---|
保有株式数 | 1,000 | 125 | 80 |
持分比率 | 83.0% | 10.4% | 6.6% |
加重平均法
一方、加重平均法では、株価は98,644円((1,100株×10万円+80株×8万円)÷(1,100株+80株))と再評価されます。
したがって、保有株数は101株(1,000万円÷9.8644万円)となり、持分比率は次のようになります。
株主 | 創業者 | ベンチャーキャピタル | PEファンド |
---|---|---|---|
保有株式数 | 1,000 | 101 | 80 |
持分比率 | 84.67% | 8.55% | 6.77% |
ダウンラウンドの回避策
希薄化防止条項は、ダウンラウンドが生じた際に取るべきアクションの1つでしたが、ここではダウンラウンドを回避するための対応策について解説します。
そもそもダウンラウンドとは、投資ラウンドにてエクイティ出資を受ける際にバリュエーションを行ったため、その評価額が下がるという現象でした。
したがって、この影響を回避するには大きく2つの方向性があるといえるでしょう。
- 評価額が下がらないようにする、または下がっている状態で調達しない
- エクイティ出資以外の調達方法を用いる
前者は、単純に資金調達を先延ばしにしてしまうか、または評価額が下がらないようにバリュエーションのロジックを交渉することなどが挙げられます。
バリュエーションの方法は1つではないため、自社の価値が想定以上に低いと感じた際には、バリュエーションを見直すことも重要な対策となり得ます。
後者については、資金調達の方法は他にも、銀行からの借入であるシニアローンや、短期的な調達ニーズの場合に使用可能なブリッジローンなども存在します。
これらを加味して、ダウンラウンドを行うことが適切かどうかを総合的に判断するようにしましょう。
ダウンラウンドの事例
最後に、ダウンラウンドを実際に行った企業の事例を紹介します。
Facebook(現:MetaPlatforms)は、2009年にシリーズDでDigital Sky Technologiesより2億ドルの資金調達をダウンラウンドにて行っています。
その前の2008年のシリーズCでは150億ドルのバリュエーションを受けていたものの、翌年には100億ドルの評価に下がった状態での調達となりました。
しかし、ご存知の通りその後は順調に成長を遂げ、現在は有数のグローバル企業にまで上り詰めています。
本件からわかるように、Facebookのような企業でも、市場変化などからバリュエーションが下がることは避けられず、むしろそこからどのように回復し成長に向かうかが重要だといえるでしょう。
したがって、ダウンラウンドが必ずしもネガティブなものとは限らないということに留意が必要です。
2023年の国内でのダウンラウンド
直近の国内企業でもダウンラウンドはしばしば起こっています。
実際に、上場時のIPOにてダウンラウンドを行った企業は2023年で10社存在します。
具体的には、フードロス削減を掲げショッピングサイトを運営する株式会社クラダシや、宇宙関連事業を行うispace、DXソリューションなどを提供する株式会社アイデミーなどがダウンラウンドを行いました。
これらの企業が今後どのようにバリュエーションを回復させるかに注目することも、重要な情報収集の1つとなるでしょう。
まとめ
本記事では、資金調達におけるダウンラウンドついて、その影響や対応策などを解説しました。
投資ラウンドを活用して資金を調達し成長を遂げていくことは、スタートアップ経営者にとって重要なテーマの1つです。その中で前回よりも評価額が低くなるダウンラウンドは、どの企業でも十分起こり得るといえるでしょう。
希薄化防止条項をはじめとして適切な対策を取りながら、ダウンラウンドを必ずしもネガティブなものと捉えるのではなく、今後の成長につなげて戦略的に対応できるようにしましょう。
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