- 更新日 : 2024年7月12日
退職後のストック・オプション行使は難しい?理由や裁判例を紹介
一部の例外を除いて、ストック・オプションを行使するためには在職を行使条件としている会社が多く、退職するとストック・オプションが行使できなくなります。しかし一部の例外も存在しており、ストック・オプションの取り扱いが会社によって異なるのも事実です。では一般的にはどのタイミングで権利を行使するべきなのでしょうか。
本記事では、退職後にストック・オプションが行使できない理由と、ストック・オプションを行使するベストなタイミングについて解説します。また、退職後にストック・オプションの行使を求めた裁判例も紹介。ストック・オプションの行使に悩んでいる人は参考にしてください。
目次
退職後のストック・オプションの行使可否は企業によって異なる

退職後にストック・オプションが行使できるかどうかは、企業が定める行使条件によって異なります。しかし多くの会社では、ストック・オプションの行使条件を在職時と定めています。
「新株予約権割当契約書」に記載されている行使条件に「在職」に関する文言が含まれていれば、退職後にストック・オプションを行使できません。ただし、退職金型1円ストック・オプションのような例外もあります。退職金を準備する目的でストック・オプションを導入している場合は、退職後一定期間について行使を認めているためです。1円ストック・オプションについては、こちらの記事も参考にしてください。
在職に関する文言例には、以下のようなものがあります。
【文言例】
 新株予約権者は、当社の取締役、監査役もしくは従業員、またはこれらの地位に準ずるものは、新株予約権の行使時においても、当社の取締役会が認めた地位にあることを要する。ただし、任期満了または定年退職による退任、その他の正当な理由があるとして当社の取締役会が認めた場合はこの限りでない。 
退職後にストック・オプションを行使できない理由

 退職後にストック・オプションを行使できない理由は、ストック・オプションを導入する本来の目的が、役員・従業員の会社に対する貢献度を高めることにあるためです。言い換えれば、在職中のモチベーションに関係する制度であるため、退職後を行使条件に定める必要がないのです。
ただし退職後一定期間は行使が認められている会社があるほか、退職の理由が任期満了や定年退職によるものであれば、問題なくストック・オプションを行使できる会社もあります。
退職後でもストック・オプションを行使する方法

 一部例外はあるものの、基本的には退職後にストック・オプションを行使する方法はありません。しかし、それでも退職後にストック・オプションを行使したい場合は「取締役会に上申する」という方法があります。これは、行使条件の文言に「当社の取締役会が認めた場合はこの限りでない」と記載がある場合に有効な方法です。
とはいえ、基本的に取締役会に上申したとしても、退職後の行使が認められる可能性は低いと考えておいたほうがよいでしょう。取締役会で行使が承認されるためには、特段の理由が必要だからです。「在職中に大きく会社に貢献した」「退職後も行使を認めるメリットがある」といった理由があれば、取締役会で承認される可能性が高くなります。
退職後にストック・オプション行使を求めた裁判例

 退職後のストック・オプションをめぐる裁判も実際に起きています。ここでは一例として、退職後にストック・オプションの行使を求めた裁判例として、東京高裁平成28年度11月10日の事例を紹介します。
要約
ある会社Yの従業員であったXが、退職後のストック・オプションの行使を求めてY社を提訴しました。XはY社に在職中、Y社からストック・オプションの割当てを受けました。この際の行使条件は以下のとおりです。
【文言内容】
 その行使の時点で、Yの取締役、監査役、従業員又はYの取締役会が認めたこれに準ずる地位(以下「従業員等の地位」という。)にある限りにおいて、新株予約権を行使することができる。ただし、任期満了による退任又は定年退職その他正当な理由があると取締役会が認めた場合にはこの限りでない。 
その後XはY社から退職勧奨を受け、1か月半後に退職します。ストック・オプションの割当てに関する契約書には在職要件が記載されていました。しかしXが提示した退職勧奨通知書にはストック・オプションの行使について、「両者合意の上有効とする」と記載されていたため取締役会に上申します。
Y社は当初Xにストック・オプションの行使を認めようと考えていたようですが、退職後の取締役会においてXとY社で意見が対立。この取締役会において、Xが退職後にストック・オプションを行使することは承認されませんでした。
その後、非上場だったY社が上場した後に、Xが再びストック・オプションの行使をY社に求めました。しかし、Y社がこれを拒否したためXはY社を提訴したのです。
主張内容
Xの主張は、退職勧奨通知書の「両者合意の上有効とする」との記載は、取締役会で承認を受けなくともストック・オプションの行使は当然に認められるものだというものです。
それに対してY会社は、「両者合意の上有効とする」との記載は、あくまでY会社の取締役会で決議するものだと反論しました。この裁判では「両者合意の上有効とする」の解釈が争点となったわけです。
結果
裁判所は結果としてXの主張を退けました。裁判所は「両者合意の上有効とする」と記載があったとしても、ストック・オプションを行使することについて取締役会が承認したとはいえないとし、Xの訴えを退けます。退職勧奨通知の内容はあくまで、行使条件の補足に過ぎないということです。
この判例から、退職後にストック・オプションを行使するためには取締役会で承認を得るしか方法がないようです。
基本的には退職までに!ストック・オプションの行使手順

 ここからは、ストック・オプションの行使手順を解説します。ストック・オプションの行使手順は「税制適格ストック・オプション」と「税制非適格ストック・オプション」で口座開設の要否が異なります。
- ストック・オプション口座を開設(税制適格ストック・オプションのみ)
 ストック・オプションが付与されたら、まずはストック・オプション口座を開設する。口座を開設する場合は、証券会社等へ所定の書類を提出する必要がある。
- ストック・オプションの権利行使手続きを行う
 発行会社へ「権利行使請求書」を提出し、ストック・オプションの権利行使手続きを行う。
- 発行会社が指定する払込銀行へ権利行使代金を振り込む
 自社株を購入するために必要な費用として、権利行使代金を支払う。税制非適格ストック・オプションの場合、権利行使代金は通常権利付与時の価額と権利行使時の価額の差額(利益)となる。
- ストック・オプション口座に株式が入庫される
 証券会社等をつうじてストック・オプション口座に株式が入庫(株式等を証券会社に預けること)される。
- 入庫処理日の翌日から売却可能
 入庫処理完了の翌日に設定された時間を過ぎると、自由に売買できるようになる。
先述したとおり、基本的に退職後はストック・オプションの行使ができなくなるため、退職までにストック・オプションを行使しましょう。
ストック・オプションを行使するタイミング

 退職するまでの間にストック・オプションを行使するベストなタイミングは、自社の株価が権利行使価額より高くなったときです。
特に「無償税制非適格ストック・オプション」の場合、権利行使時の価額が権利付与時よりも高いと、その差額(利益)に対して税金がかかります。権利行使時と株式売却時のタイミングが近いと、納税資金が準備できることから「権利行使価額 < 自社の株価」となったときがベストなタイミングといえるでしょう。
まとめ
ストック・オプションが導入されていると、権利行使時のタイミングに悩むと思います。しかし、権利を行使するタイミングに明確な決まりはありません。一般的にベストなタイミングは「権利行使価額 < 自社の株価」といわれていますが、長期的に自社株を保有するのであれば、自社株の株価が権利行使価額より低いタイミングで行使する手段も有効です。
 いつまで会社にいるかわからないという人でも、在籍しているうちは自社の成長に貢献し、円満退職できるようにしておくことも大切ではないでしょうか。
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よくある質問
退職後でもストック・オプションは行使できる?
退職後にストック・オプションが行使できるかは、企業の行使条件によって異なります。しかし多くの会社では、行使条件を在職時に定めているため、退職後はストック・オプションの行使ができなくなります。
退職後にストック・オプションを行使するにはどうすればよい?
一部例外はあるものの、基本的には退職後にストック・オプションを行使する方法はありません。しかし、それでも退職後にストック・オプションを行使したい場合は、「取締役会に上申する」という方法があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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