- 更新日 : 2024年8月21日
シリーズAとは?投資ラウンドの意味や調達額・シリーズBとの違いを解説
スタートアップにとって資金調達は、事業を成長させるうえで非常に重要な業務です。しかし、資金調達=資本関連の意思決定は後で修正がきかないものが多く、ポイントをよく理解したうえで決定していく必要があります。今回は、そのなかでも特に重要となるシリーズAやシリーズBといった、投資ラウンドについて解説します。
目次
投資ラウンドとは
投資ラウンドとは、スタートアップ企業が投資家などから資金を調達する際に参考にされる会社の成長の段階のことを言います。スタートアップ企業が成長していく過程で、必要な資金を段階的に調達していくことで、リスクを最小限に抑えながら成長を促進することができるのです。
一方で、投資家側も成長が期待できるスタートアップ企業に投資することで、将来的にリターンを得ることが期待できるでしょう。
資金調達には、主に3つの方法があります。お金を借りて資金を調達する「Debt(デット)」、新株の割当と引き換えに資金を調達する「Equity(エクイティ)」、そして国や自治体から開発資金などを補助金として支援してもらう方法です。
特にEquity(エクイティ)で資金調達を行う場合、投資家に企業の投資ステージを正確に把握してもらうことが重要です。
シリーズAとは
「シリーズA」とは、投資ラウンドと呼ばれる投資家がスタートアップ企業に投資をする際の投資フェーズの種類のひとつです。
事業の成長フェーズと投資フェーズは切り分けて考える必要があり、シリーズAと呼ばれる投資フェーズは、事業フェーズとしては「アーリー期またはミドル期」であることが一般的です。アーリー~ミドル期とは、スタートアップとして新しく始めた事業について「Unit Economics(顧客を獲得した際に得られる将来も含めた収入が、顧客獲得コストを上回っている状態)が達成している、または達成が見込まれる」状態のことを指します。
アーリー期は起業直後の段階で、事業がまだ軌道に乗っていない時期です。この段階では売上や利益が限られており、多くの企業が赤字の状態です。事業の立ち上げや成長のために多くの資金が必要で、主に自己資金やエンジェル投資家、ベンチャーキャピタルからの資金調達が行われます。
一方でミドル期は事業が本格的に成長し始めた段階で、売上が増加し、利益が出始める時期です。この段階では事業が軌道に乗り始め、社会的な信用も高まります。さらなる成長のために設備投資や人材確保が必要で、民間金融機関からの資金調達が比較的容易になり、大型の資金調達が可能です。
このように、アーリー期は事業の立ち上げと初期成長に焦点を当て、ミドル期は事業の拡大と安定化に焦点を当てています。
また、シリーズAの状態のことをプロダクト(製品)が、マーケット(市場)にフィット(有益)であることを指して「Product Market Fit(PMF)が成立している」と呼ぶこともあります。
シリーズBとの違い
シリーズBはシリーズAよりも事業フェーズが進んでおり、プロダクトの機能が拡充され、顧客をどのように攻略していくべきか、より明確になってきます。資金調達の目的としては、「顧客拡大のための開発費用」やPMFした製品をさらにマーケットに広げるために「マーケティング投資目的の調達」として行われる傾向があります。
シリーズAの資金調達額
アーリーフェーズになると事業規模がより拡大しており、PMFが見え始めている状態となっている一方で、継続的に事業として収益を上げていくにはまだ事業上、課題が残っています。
シリーズBに向けて、投資家に対し解くべき課題の提示および解決に必要なリソースとして、1~2年分の必要資金を外部から調達することとなります。調達金額は、数千万絵~数十億円規模です。
シリーズAの資金調達方法
シリーズAの主な資金調達方法には、以下の2つがあります。
- ベンチャーキャピタルからの出資
- 金融機関からの融資
それぞれ見ていきましょう。
ベンチャーキャピタルからの出資
ベンチャーキャピタルとは成長が見込まれるスタートアップなどの企業に対して出資という形で資金を提供する会社のことです。資金の提供を受けた企業は、基本的にお金を返済する必要がありません。一方、ベンチャーキャピタルは出資先の企業から一定の制限をつけた株式を受け取ることになります。このため、出資後に出資先の企業が大きく成長した場合、ベンチャーキャピタルは株式を売却することで利益を得ることが可能です。
金融機関からの融資
シリーズAで資金調達する方法としては、金融機関から融資を受けるという方法もあります。通常、金融機関から融資を受けるためには、事業内容や業績に対して審査が行われることになります。シリーズAの企業はすでに一定の業績を残していると考えられるため、金融機関から融資を受けることも十分に考えられるのです。
金融機関から融資を受けた場合、ベンチャーキャピタルから出資を受ける場合とは異なり、返済をしていく必要があります。一方で、株式を渡す必要がないため、経営権を握られてしまうといった心配がない点はメリットとなります。
スタートアップの各フェーズに合わせた資金調達方法
スタートアップには、それぞれの事業フェーズにあった資金調達の方法や金額規模の考え方があります。資本政策は、後戻りできないものなので、シリーズA以外の各フェーズの資金調達方法についてもあらかじめしっかり確認しておきましょう。
シード(エンジェル・シード調達)
シード期は、まだ製品開発またはPMFを仮説検証するフェーズとなります。このタイミングでは、PMFを仮説検証するための資金(期間にして1~2年分)の調達を行うこととなります。従業員数としても10人未満のスタートアップが多く、調達額としては社員の年収×2年分=数千万~数億円の金額となることが多くなります。
出資者としては、ベンチャーキャピタルから個人投資家まで様々いますが、事業への有益なアドバイスをしてくれる投資家を選ぶようにしましょう。一度、投資をしてくれた株主は、簡単に入れ替えをすることはできないため、IPOまたはそれ以降も長く付き合うパートナーとして慎重に選ぶことが重要です。
ミドル(シリーズB)
ミドルフェーズでは、ある程度PMFも確実となっており、あとはマーケティング投資や開発投資を積極的に投下していくことで、売上(トップライン)をより拡大していくフェーズとなります。
toC向けのサービスでは、テレビCM投資のための資金調達をするなど、上場に向けて事業規模を一気に拡大させていくフェーズとなります。このフェーズでは、事業計画もより精緻化されたものが求められ、投資金額に対する事業インパクトの的確な説明が求められます。
レイタ―(シリーズC~・上場)
ミドル期を無事乗り越え、事業が拡大したタイミングでIPOやシリーズCによる資金調達を行います。
このタイミングでの資金調達は、既存事業の拡大のみならず、既存事業を生かした新規事業投資のための資金ニーズやM&Aまたは海外展開による事業展開など、より大胆な事業投資を目的とした大型の資金調達として株式市場から調達が行われます。
シリーズCの後も、企業の成長や事業拡大に応じて、シリーズD、E、Fといった投資ラウンドが続く場合があります。これらのラウンドでは、さらに大規模な資金調達が行われ、企業の成長を加速させるための資金が提供されます。
シリーズDは、企業が安定した収益を上げ、さらなる成長や市場拡大を目指す段階です。このフェーズでは、IPO(株式公開)やM&A(合併・買収)を具体的に検討することが一般的です。また、関連事業の開発や上場準備のための組織強化も行われます。
一定数の企業にとって、シリーズCまたはシリーズDが最終的な資金調達ラウンドとなることがあります。これらのラウンドで十分な資金を調達し、IPOやM&Aを通じてイグジット(投資回収)を目指す企業が多いです。
このように、企業の成長段階に応じて資金調達のラウンドが進み、それぞれのフェーズで異なる目標や課題が存在します。
資金調達を成功させるために重要ポイントと注意点
各フェーズで共通して注意すべき重要なポイントがあります。
資金の余裕があるうちに交渉を始めること
事業運営で忙しいため、資金がギリギリになるまで資金調達の動き出しをせず、タイトな期間での調達が必要になってしまうケースがあります。よく見受けられるケースではあるのですが、資金がない状態での交渉となると足元を見られ、不利な条件での調達を強いられてしまうおそれがあります。
資金調達には、3カ月前後かかることが一般的なため、資金が尽きる半年より前には資金調達に動くようにしましょう。
経営権を渡しすぎないこと
事業をより拡大するために資金調達を行いますが、一方で、株式=経営権を外部に譲渡することとなります。このとき、必要な資金のために経営権を渡しすぎてしまうと、重要な意思決定を自分たちでできなくなってしまったり、IPO時に創業者利益をほとんど受けられなくなってしまったりすることがあります。資金調達の際は必ず将来も含めた経営権の希薄化を考慮して、金額を決めるようにしましょう。
また、投資契約のなかには、取締役を強制的にベンチャーキャピタルから派遣できる条文が含まれていることがあります。結ぼうとしている契約書が、経営にとってどんなリスクがあるのか、必ず詳しい弁護士に確認をとるようにしましょう。
コミットする意思のない事業計画を立てないこと
投資家は、経営者が立てた事業計画をもとに投資を行います。一方で、スタートアップの事業計画ほど不確実性の高いものはありません。だからといって、調達時にまったくコミットする気のない事業計画は立てないようにしましょう。
資金調達ができたらOKというわけではなく、むしろ立てた事業計画へコミットすることが当然求められ、もしも計画の変更があれば合理的な理由の説明が必要となります。「実は最初からコミットする気はなかった……」という姿勢が見られれば、投資家から信頼を失い、次回の投資ラウンドで支援してくれる投資家はいなくなってしまうでしょう。
複数の投資家に話を聞いてもらうこと
出資をしてくれる投資家を見つけたとしても、ほかの投資家にも話を聞いてみましょう。資金調達は、経営者にとって非常に重要な交渉事となります。投資家が1社のみの場合、投資家サイドの競争環境がないことから、不利な交渉を強いられて、バリュエーションが不当に低かったり、契約書に不利な条文が盛り込まれたりする可能性があります。
複数の投資家に話を聞いて出資条件を比較することで、自社にとって適切かつ有利な条件で調達を行えます。可能な限り、今後の事業拡大によりプラスとなるような条件で、資金を調達するようにしましょう。
シリーズAで資金調達した成功事例
シリーズAで資金調達に成功したスタートアップの事例は数多く存在し、業界や事業内容によって様々です。日本企業としては、以下の2社が代表的と言えるでしょう。
- BASE株式会社
ネットショップ作成サービスの提供。シリーズAで10億円弱を調達し、個人でも簡単にオンラインストアを開設できる環境を提供。 - 株式会社SmartHR
クラウド人事労務ソフトの提供。シリーズAで5億円を調達し、人事部門の業務を効率化。
シリーズAでの成功に共通する要素として考えられるのが、明確な事業計画を立てていたことです。投資家は、事業の成長性と収益性を評価するため、詳細な財務予測や市場分析が求められます。そのため具体的な事業計画と、その実現可能性を裏付けるデータを示すことが重要です。
また優秀な経営陣をはじめ、プロダクトの開発スピード、顧客獲得、市場拡大など、実行力のあるチームであることを示す必要があります。
まとめ
今回は、シリーズAと投資ラウンドについてご説明しました。シリーズAは投資ラウンドにおいて事業が軌道に乗り始め、ベンチャーキャピタルからの出資だけでなく金融機関からの融資という選択肢もある段階です。ベンチャーキャピタルからの出資は返済の必要がないものの契約内容次第ではベンチャーキャピタルから経営権を握られてしまうといったリスクが存在します。
LinkedInの創業者 リード・ホフマンの名言のひとつに、「スタートアップとは、崖の上から飛び降りながら、飛行機をつくるようなものだ」という言葉があります。名言の通り、将来の不確実性が高いなかで事業をつくりながら、資金についても冷静にプランニングしていくことはとても困難かとは思いますが、自社の事業フェーズを見極めながら、最適な資金の調達を検討いただければと思います。
よくある質問
バリュエーションは高いほうがいいのか?
不当にバリュエーションを上げてしまうと、次回ラウンドでそれ以上のバリュエーションを達成するための事業目標が高くなりすぎてしまい、調達が困難になるケースがあります。バリュエーションは上げすぎず、適切と思える範囲で交渉しましょう。
必要な金額の計算方法は?
事業によって違いますが、一般的には事業計画上1~2年分の資金を調達します。
投資契約時に気をつけたほうがいい条件とは?
経営権の譲渡に関する条文や、自社がM&Aされることとなった場合の条文は、投資家も強気の内容を盛り込んでくることが多いため、注意して確認しましょう。
シリーズAの調達額はいくら?
シリーズAにおいて、どの程度の資金を調達できるかは、事業内容にもよりますが、数千万円から数十円を目指すことができるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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