- 更新日 : 2024年7月12日
内部統制で業務マニュアルを作成すべき?メリットやデメリットを解説
内部統制では業務の適正化を図るため、業務内容のマニュアル化が求められます。では、業務マニュアルとは一体どのようなマニュアルなのでしょうか。この記事では、業務マニュアルとは何か、作成するメリットとデメリットを紹介します。さらに、内部統制に必要な書類3点セットについても解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
内部統制における業務マニュアルとは
業務マニュアルとは、業務プロセスを文書化したものです。マニュアルには業務の手順や概要、背景などが書かれており、業務プロセスにおける注意点や留意点も記載します。内部統制では、業務の適正を確保するために業務マニュアルの整備が求められます。
業務マニュアルと混同されやすい文章が「手順書」です。手順書とは、作業プロセスを解説した文書を指します。一方、業務マニュアルは業務全体のフローを記載するもので、イメージとしては全体像を業務マニュアルで解説し、個々の細かい作業プロセスは各工程の手順書で説明する形です。飲食店の業務で例えると、接客方法全般の業務はマニュアルで、レジの扱い方やテーブルの片付け方はそれぞれ手順書として用意することになります。
手順書の役割は、作業手順を細かく記載することで、手順書を見れば誰でも同じように作業できるようにするものです。
内部統制で業務マニュアルを作成するメリット
なぜ、内部統制には業務マニュアルが必要なのでしょうか。
内部統制で業務マニュアルを作成するメリットは、主に以下のとおりです。
- 業務品質を均一化できる
- 人材育成にかかる時間を削減できる
- 業務の属人化を防止できる
- 業務内容を改善するきっかけとなる
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
業務品質を均一化できる
内部統制で業務マニュアルを作成するメリットは、業務品質を均一化できることです。そもそも業務品質の均一化とは、誰が作業しても同じ品質の業務を行えることを指します。業務品質を均一化することで、ミスやトラブルが減り、業務が効率化されます。
業務マニュアルを作成するだけでなぜ業務品質を均一化できるのかというと、マニュアルには業務の概要や背景、理由が書かれており、基礎知識や気付きを共有することで情報格差を軽減できるからです。
人材育成にかかる時間を削減できる
人材育成にかかる時間を削減できることも、内部統制で業務マニュアルを作成するメリットの一つです。
業務マニュアルを読んでもらうことで、基礎的な業務プロセスの流れを説明する手間がなくなり、教える側の時間が浮いて別の業務に時間を充てられるようになります。たとえば、新入社員の教育や人事異動・退職による引き継ぎに業務マニュアルがあれば、教える側の時間を削減できます。
業務の属人化を防止できる
業務マニュアルを作成すると、業務の属人化を防止できるメリットもあります。
業務の属人化とは、特定の担当者だけが業務の進め方や詳細を把握しており、その人物以外が対応できない状況です。たとえば、担当者Aさんはこの業務のベテランで、他の従業員は分からないことがあればAさんに聞いて業務を実施しています。しかしAさんが突然の体調不良で数ヶ月間、休職しなくてはならない状況になってしまいました。
普段から業務の詳細はAさんに任せきりで、他の従業員はトラブルに対応できません。その結果、業務が滞り利益へ影響を与える事態になってしまいました。このような状況を防ぐためにも業務マニュアルの整備は重要です。業務マニュアルを作成しておけば、誰でも同じように業務プロセスを実行できるようになるため、業務の属人化を防ぐことが可能です。
業務内容を改善するきっかけとなる
内部統制で業務マニュアルを作成するメリットとして、業務内容を改善するきっかけになることも挙げられます。
なぜ業務マニュアルを作成することで業務内容を改善するきっかけになるのかというと、マニュアル作成のときに業務を洗い出す必要があるためです。「これは本当に必要な内容なのか」「これは重要なポイントだ」といった具合に、あらためて業務プロセスを一つひとつ見直していきます。
そのため、業務マニュアルを作成するときは記載する内容を洗い出し、見直すことが重要です。課題が明確になれば、業務改善を実施して、業務の無駄を省くことができるようになります。
内部統制で業務マニュアルを作成するデメリット
前項では、内部統制で業務マニュアルを作成するメリットを紹介しましたが、一方でデメリットも存在します。
内部統制で業務マニュアルを作成するデメリットは、主に以下の2つが挙げられます。
- マニュアル作成に手間がかかる
- マニュアル通りに行動することが目的となる
それぞれのデメリットについて、詳しくみていきましょう。
マニュアル作成に手間がかかる
内部統制で業務マニュアルを作成するデメリットは、マニュアル作成に手間がかかることです。
メリットの部分では、業務マニュアルの作成で人材育成にかかる時間を削減できると説明しましたが、業務マニュアルの完成までにはある程度の時間と手間がかかります。業務マニュアルを作成する際は、以下のコツを活用しましょう。
- テンプレートを使う
- マニュアル作成ツールを使う
業務マニュアルは一から作成しなくても、テンプレートやツールを利用することができます。
WordやExcelのマニュアルテンプレートは無料でダウンロードすることも可能です。マニュアル作成ツールはコストがかかりますが、一から業務マニュアルを作成する時間を減らすことができるでしょう。
マニュアル通りに行動することが目的となる
業務マニュアルの作成では、マニュアル通りに行動することが目的となるデメリットもあります。
「マニュアル通りに行動することが目的となる」とはどういうことなのかというと、「業務マニュアルに記載されていることだけをやればよい」と解釈し、その通りにさえやっていれば問題ないと思い込んでしまうことを指します。
業務マニュアル通りにやればよいと解釈されてしまうことの問題点は、イレギュラーなトラブルが発生したときに適切な対応ができないことです。「マニュアルに書いていないことはできない」「しない」という考えになり、自分で考えて行動することができなくなってしまう可能性があります。
マニュアル通りに行動することが目的にならないようにするためには、業務マニュアルは限定した書き方をせず、理由や背景などを盛り込み、マニュアル内の業務の意味を問うような内容にするとよいでしょう。また、日常的に業務マニュアルの意義を説明し、マニュアルだけに頼らない風土作りをしておくことも重要です。
内部統制システムの構築には3点セットの作成も有効
内部統制システムの構築には、以下の3点セットの作成も有効です。
- フローチャート
- 業務記述書
- リスク・コントロール・マトリックス
上記の3点セットを作成する目的は、財務報告の信頼性確保です。フローチャートと業務記述書で業務プロセスを可視化、そしてリスク・コントロール・マトリックスで各業務のリスク把握と統制方法を明確化していきます。
内部統制システムの構築で重要な3点セットについて、それぞれ詳細を説明します。
フローチャート
フローチャートとは、業務プロセスを図にしたものです。図にすることで、業務の流れやリスクが把握しやすくなります。取引や会計処理の流れを整理し、内部統制上のリスクを把握・識別できるようにするのがフローチャートの目的です。
後述する業務記述書を図に表したものがフローチャートになるため、内容は業務記述書と整合性が取れている必要があります。
内部統制におけるフローチャートについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:「内部統制におけるフローチャートとは?作成方法や使用記号を紹介」
業務記述書
業務記述書とは、業務内容を明文化した資料です。内容はフローチャートと同じものになります。
リスクとコントロール抽出に必要な書類でもあり、取引の流れを5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)で記述します。リスクとコントロールだけでなく、業務プロセスの全体像を網羅し、時系列で記載していくのが業務記述書です。
リスク・コントロール・マトリックス
リスク・コントロール・マトリックスとは、作成した業務記述書とフローチャートで抽出したリスクとそのリスクに対応したコントロールをまとめた表です。またリスク・コントロール・マトリックスでは、財務諸表の作成に関連したものについても記載します。
業務記述書と似たような書類と思われがちですが、リスク・コントロール・マトリックスは、業務記述書のリスクとコントロールだけを抽出したものです。抽出したリスクごとにコントロールを並び替えており、時系列で記載する業務記述書とは記載方法が異なります。
まとめ
内部統制における業務マニュアル作成には、業務品質の均一化・人材育成の時間削減・業務の属人化防止・業務内容の改善といったメリットがあります。業務マニュアル作成には時間がかかることや、マニュアル通りに行動することが目的となるデメリットはあるものの、一度マニュアル化してしまえば、修正や加筆だけで簡単に改訂することができます。
内部統制においては、業務マニュアルのほかにもフローチャートや業務記述書、リスク・コントロール・マトリックスの3点の作成も有効です。併せて作成を検討してみましょう。
よくある質問
内部統制で業務マニュアルを作成するメリットは?
内部統制で業務マニュアルを作成するメリットは、主に以下の4つです。
- 業務品質を均一化できる
- 人材育成にかかる時間を削減できる
- 業務の属人化を防止できる
- 業務内容を改善するきっかけとなる
内部統制で業務マニュアルを作成するデメリットは?
内部統制で業務マニュアルを作成するデメリットは、主に以下の2つです。
- マニュアル作成に手間がかかる
- マニュアル通りに行動することが目的となる
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
中小企業において内部統制が重要な理由3つ|進め方をわかりやすく説明
内部統制は法律で定める大企業、上場企業に義務化されています。しかし、対象外の企業も内部統制を構築しても何ら問題はありません。むしろ中小企業が内部統制を整備することで、企業の成長を促進できる可能性があるのです。 本記事では、中小企業に内部統制…
詳しくみる内部統制を外注する際の注意点!外部委託リスクとメリットを解説
昨今の事業活動において、すべて自社で運用するのは難しいと言えます。内部統制もそのひとつで、専門知識やノウハウ・実績を持った専門業者やコンサルタントへ外注する企業も増えています。 しかし、内部統制を外注する場合、メリットだけでなくデメリットや…
詳しくみる内部統制報告制度とは?目的や改訂ポイントをわかりやすく解説
上場企業は、財務報告の信ぴょう性を確保するために内部統制報告制度への対応を行う必要があります。内部統制報告書の提出が義務付けられており、提出しなかった場合は罰則を受けることになるためです。そのような状況にならないためにも、まずは内部統制報告…
詳しくみるSOCレポート(報告書)とは?種類や注目されている理由・注意点を解説
近年、多くの企業でクラウドサービスを導入する機会が増えており、SOCレポートが利用されることも多くなりました。 SOCレポートは、サービスのプロセス管理を評価した保証報告書です。利用したいサービスを安心して利用し続けられるかは、信頼性を示す…
詳しくみる内部統制におけるフローチャートとは?作成方法や使用記号を紹介
IPOの申請を進めるうえで、内部統制が機能しているかを評価する「内部統制報告書」の作成・提出は欠かせません。その際に必要になるのがフローチャート。金融庁もサンプルを提示しているこの資料、ポイントを知らなければ作成に手間取ってしまう可能性もあ…
詳しくみる棚卸立会の目的は?監査法人がチェックすべきポイントや必要な準備を解説
棚卸業務は企業の在庫管理に必要なことですが、実施には精度の確保と透明性が求められます。 特に第三者によるチェックを行うことで、棚卸資産が適切に管理され、企業の価値向上にも繋がるでしょう。 そこで本記事では、棚卸立会監査の目的やチェック方法な…
詳しくみる