- 更新日 : 2024年7月12日
海外子会社における内部統制の必要性|導入手順や内部通報制度も紹介
企業のグローバル化に伴い、子会社が海外にあることも珍しくなくなりました。内部統制においては海外子会社も対象となることがあるものの、言語や習慣の違いから親会社と同じ内部統制を構築・評価できるわけではありません。
本記事では海外子会社における内部統制の重要性と導入の流れを解説します。また、海外子会社の内部統制構築・評価に効果がある内部通報制度に関しても言及します。
目次
海外子会社における内部統制の必要性

 海外子会社における内部統制の必要性は年々高まっているのが現状です。世界4大会計事務の一角であるKPMGは、2019年の調査で以下の数字を明らかにしました。

 (引用:KPMG「日本企業の不正に関する実態調査」)
海外子会社においては「粉飾決算等の会計不正」を中心に、国内子会社よりも高い水準にあることが分かります。粉飾決算については不正が発生していても発見できていないケースも珍しくありません。損害額は1,000万円以上1億円未満と大きな金額を記録。発生すれば、多額の賠償責任を負う可能性があるのです。
海外子会社で不正が発生する原因

 同調査報告書内では「親会社のコントロール不足」を不正発生の根本原因としています。

 (引用:KPMG「日本企業の不正に関する実態調査」)
「当外国独自の特殊事情」と並んで高い数字を記録しています。また、海外子会社に多い原因として「行動規範等の倫理基準の未整備または不徹底」が高い数字になっていることから、内部統制による親会社からの指導や親会社主導の内部統制の構築・評価が急がれる結果となっています。
海外子会社の内部統制を導入する流れ

 海外子会社の内部統制を導入するには、以下の手順で準備を進めるといいでしょう。
- 導入スケジュールを作成する
- 文書のフォーマットや項目を決定する
- 内部統制の概念を説明する
- 統制内容を調査する
- 業務内容を調査する
- 3点セットを作成する
それぞれ詳しく解説します。
①導入スケジュールを作成する
導入スケジュールは国内評価と同じスケジュールではいけません。時差をはじめとする問題で、国内子会社と同じやり取りができない可能性が高いためです。祝祭日や休暇の取り方なども違うことを頭に入れておかなければ、思わぬ箇所でトラブルが発生する可能性もあります。
作業に後れや問題を発生させないためにも、海外子会社独自の、余裕を持ったスケジュールを作成する必要があります。
②文書のフォーマットや項目を決定する
内部統制を実施する際に使用する文書のフォーマットを決定します。作成する必要がある文書は以下のとおりです。
- フローチャート
- 業務記述書
- リスクコントロールマトリックス
- 評価調書
評価調書以外は3点セットと呼ばれます。
文書作成時は、使用する言語を現地担当者が理解できるものにする、新任担当者でも理解できる文言で記載することをおすすめします。調査報告書は同じ2点に気を付けるほか、評価項目をどうするのかを監査法人と協議しておきましょう。
③内部統制の概念を説明する
内部統制の実施決定後、その旨を海外子会社に説明しなければなりません。この時重要なのは、内部統制の意義をしっかりと伝えることです。伝達方法に問題があるとミスコミュニケーションにつながり、内部統制がうまく機能しない可能性があります。
絶対にやってはいけないのは、日本式のやり方を押し付けるトップダウンです。海外子会社の所在地によって、言語やルールに違いがあるためです。内部統制は親会社が強制するものではなく、子会社が主導します。子会社のメンバーが主体的に構築できるような体制作りと理解が必要です。同意が取れて初めて、構築に入ります。
④統制内容を調査する
現地の慣習やルールをもとに、現地に適した統制内容は何かを調査しなければなりません。ただし、J-SOX法で必ず盛り込まなければならない評価項目も存在しています。
おすすめの調査方法として、親会社から対象の海外子会社に対して質問書を送り、もらった回答を見てすり合わせを行う方法があります。齟齬が少なく、比較的スムーズに統制内容の調査が完了します。
⑤業務内容を調査する
統制内容の調査と同時進行で実施したいのが、現地子会社の業務内容の調査です。海外子会社が所有している業務規定やマニュアルを取り寄せて、3点セットを作成するために必要な情報を収集・取りまとめましょう。
代表的なもので言えば、販売プロセス・決済方法です。内部統制に大きな影響を及ぼすため、必ず確認するようにしてください。また、規定やマニュアルのあいまいな箇所は放置せず、質問書にまとめて問いかけるようにしましょう。
⑥3点セットを作成する
3点セットは、先にも紹介したフローチャートと業務記述書、リスクコントロールマトリックス(RCM)の3つの総称です。国内子会社で使用しているものがそのまま使用できるわけではなく、現地特有の業務に合わせたり、追加・削除したりしなければなりません。
海外子会社で内部統制を実施するにあたり最も時間がかかる工程です。不十分なままリリースすることなく、妥協せずに作り上げる必要があります。
海外子会社の内部統制について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
内部通報制度も不正発見に効果あり

 不正の発見経路は、内部からの通報が多いという結果が出ています。

 (引用:KPMG「日本企業の不正に関する実態調査」)
仮に内部統制が上手く機能していない場合、国内子会社とは違ってブラックボックス化しやすい海外子会社に対しては不正の発見が遅れがちです。その時に正規の相談窓口として内部通報制度を用意しておくと、いち早く不正に気が付くことができるでしょう。
内部通報制度の設計方法
内部通報制度は、以下の3パターンで設計できます。
- 全社をカバーする相談窓口
- 海外子会社専用の独立した相談窓口
- 両方を併設して運用
このうち最も効果が高いと言われているのが3番目の設置方法です。海外子会社専用の相談窓口を設置しても効果がないわけではありませんが、通報後の検討・調査の難解さを考えると、2つを同時に設置したほうが良いでしょう。両方で窓口を設置しているケースも多いため、導入に積極的なのであれば2種類の内部通報窓口を設けるといいかもしれません。
まとめ
海外子会社は親会社の監督が行き届かないことから、不正が起きやすい環境になりがちです。内部統制作りにも国内子会社とは異なる手法が必要で、構築に時間がかかります。しかし、手を抜いてしまうと内部統制が意味をなさなくなってしまうでしょう。内部通報窓口を設置するなどして、不正にいち早く気が付けるような体制を整えるようにしてください。
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よくある質問
海外子会社の不正発生の割合は?
海外子会社の不正は、高い順に以下のとおりとなっています。
- 金銭・物品の着服または横流し:64%
- 粉飾決算等の会計不正:16%
- 情報の漏洩または破壊(サイバー攻撃含む):16%
海外子会社における不正発生の原因は?
海外子会社における不正発生の原因で象徴的なものは「親会社のコントロール不足」です。不正発生原因の33%を占めており、親会社主導の内部統制の重要性が表れています。
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