• 作成日 : 2025年7月7日

ISMSクラウドセキュリティ認証とは?取得方法やメリットもわかりやすく解説

近年、多くの企業が業務効率化やコスト削減、柔軟な働き方の実現のためにクラウドサービスを利用しています。しかし、その利便性の裏側には、情報漏洩やサービス停止といった、クラウド特有のセキュリティリスクも存在します。

このような背景から注目されているのが、ISMSクラウドセキュリティ認証です。この記事では、ISMSクラウドセキュリティ認証の定義や基準となる国際規格「ISO/IEC 27017」との関係、そして取得するメリットやプロセス、費用感まで、ISMS初心者の方にもわかりやすく解説します。

ISMSクラウドセキュリティ認証とは

ISMSクラウドセキュリティ認証とは、組織がクラウドサービスを利用または提供する上で、情報セキュリティ対策を適切に管理・運用していることを、第三者の認証機関が審査し、証明する制度、またはその証明書自体を指します。

この認証を取得することで、組織は自社のクラウドセキュリティへの取り組みが、客観的な基準を満たしていることを社内外に示すことができます。

そもそもISMSとは

ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とは、Information Security Management Systemの略称で、組織における情報セキュリティを管理するための仕組み全体を指します。これは、単一の技術的対策だけでなく、組織が情報資産を適切に管理し、リスクに対応していくための包括的なアプローチです。具体的には、情報セキュリティ方針の策定、リスクアセスメント、管理策の導入、従業員教育、内部監査、そして継続的な改善(PDCAサイクル)といった活動が含まれます。

ISMSクラウドセキュリティ認証とISMS認証の違い

ISMSクラウドセキュリティ認証は、単独で取得できるものではありません。情報セキュリティマネジメントシステムの基盤となるISMS認証(ISO/IEC 27001認証)が前提となります。

ISO/IEC 27001で組織全体の情報セキュリティの仕組みを構築し、その上でクラウド利用に特化した対策を追加・強化するものとして、このクラウドセキュリティ認証(ISO/IEC 27017に基づく認証)が位置づけられます。そのため、「アドオン(追加)認証」と呼ばれます。

ISMSクラウドセキュリティ認証の基準となる「ISO/IEC 27017」とは

ISMSクラウドセキュリティ認証で適合性が評価されるのは、国際規格「ISO/IEC 27017」および国内規格「JIS Q 27017」に定められたセキュリティ対策の項目です。

ISO/IEC 27017は、クラウドサービスに関する情報セキュリティ管理策の実践のための規範を定めた国際規格文書を指します。この規格には、クラウド環境特有の情報セキュリティリスクに対応するための具体的な管理策や実施の手引きが記載されており、クラウドセキュリティ対策における国際的なガイドラインの役割を果たします。

ISO/IEC 27017規格は、クラウドサービスを提供する側(CSP:Cloud Service Provider)と利用する側(CSC:Cloud Service Customer)の双方に対する管理策を示しています。そのため、ISMSクラウドセキュリティ認証も、組織がCSPなのかCSCなのか、あるいは両方の立場なのかに応じて、それぞれの視点での適合性を証明するものとなります。

ISMSクラウドセキュリティ認証の認定機関とは

実際にISMSクラウドセキュリティ認証を取得する際の審査プロセスで登場するのが、認定機関です。

  • 認定機関:認証機関が特定の規格に基づいて適切に審査・認証を行う能力があるかを評価し、認定する機関。日本ではISMS-AC(情報マネジメントシステム認定センター)やJIPDEC(日本情報経済社会推進協会)が主なISMS分野の認定機関です。
  • 認証機関:認定機関から認定を受け、実際に組織を審査し、認証証明書を発行する機関。

認定機関は、認定を行う認証機関に対して、特定の規格(この場合は、ISO/IEC 27017 / JIS Q 27017)に基づく認証審査を行う際の具体的な要求事項やルールを定めています。

ISMSクラウドセキュリティ認証が必要とされる背景

ISO/IEC 27017に基づくクラウドセキュリティ認証が必要とされる背景には、クラウド利用の普及と、それに伴う特有のリスクがあります。

クラウドコンピューティングの普及

サーバーやソフトウェア、データなどをインターネット経由で利用するクラウドコンピューティングは、初期投資の抑制、運用負荷の軽減、場所を選ばないアクセス性など、多くのメリットを提供します。そのため、大企業から中小企業まで、多くの組織で導入が進んでいます。

クラウド環境特有のセキュリティリスク

一方で、クラウド利用には以下のような特有のリスクが伴います。これらのリスクへの対応が、クラウドセキュリティの重要な課題です。

  • 責任範囲の曖昧さ
    クラウドサービス事業者(CSP)と利用者(CSC)の間で、セキュリティ対策の責任分界点が不明確になりがちです。どこまでが事業者の責任で、どこからが利用者の責任なのかを明確にしないと、対策漏れが発生する可能性があります。
  • 設定ミスによる情報漏洩
    利用者側の設定不備(アクセス権限、公開設定など)が原因で、意図せず情報が外部に公開されてしまうリスクがあります。クラウドサービスの機能は多岐にわたるため、適切な設定を維持することが重要です。
  • 不正アクセス・サイバー攻撃
    複数の利用者がリソースを共有する環境であるため、他の利用者を踏み台にした攻撃や、クラウド基盤自体への攻撃リスクも考慮する必要があります。
  • データ保管場所の不透明性
    データが物理的にどこに保存されているのか、利用者が正確に把握しにくい場合があります。国境を越えてデータが保存される場合、各国の法規制への対応も必要になります。
  • サービス提供者の信頼性
    クラウドサービス提供者のセキュリティ対策レベルや、万が一の倒産・サービス終了時のリスクも考慮する必要があります。

ISMSクラウドセキュリティ認証を取得するメリット

企業が時間とコストをかけてISMSクラウドセキュリティ認証(ISO/IEC 27017に基づく認証)を取得することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

信頼性の向上

認証取得は、自社がクラウドセキュリティに対して国際基準(ISO/IEC 27017)に基づいた適切な管理体制を構築・運用していることの客観的な証明となります。これにより、顧客や取引先からの信頼性が大幅に向上します。特に、機密情報や個人情報を扱うサービスを提供・利用している企業にとっては、強力なアピールポイントとなります。

競争優位性の確立

クラウドサービスの利用が一般化する中で、セキュリティ対策のレベルはサービス選定における重要な要素です。ISO/IEC 27017に基づく認証を取得していることは、競合他社との差別化につながり、ビジネスチャンスの拡大に貢献します。特に官公庁や大手企業との取引において、認証取得が要件とされるケースや、有利に働くケースが増えています。

クラウドセキュリティ体制の強化

認証取得のプロセスを通じて、自社のクラウド利用におけるリスクを体系的に洗い出し、ISO/IEC 27017が示す管理策に照らして必要な対策を計画的に実施することになります。これにより、漠然とした不安が具体的な管理策に落とし込まれ、組織全体のクラウドセキュリティレベルが向上します。

責任範囲の明確化

ISO/IEC 27017はCSPとCSC双方の管理策や考慮事項を示しているため、認証取得に取り組む過程で、自社の責任範囲と利用している(または提供している)クラウドサービス事業者側の責任範囲が明確になります。これにより、「どちらがどこまで責任を持つのか」という曖昧さが解消され、インシデント発生時の迅速な対応や、平時からの適切な管理が可能になります。

法令・ガイドライン遵守への貢献

個人情報保護法をはじめとする各種法令や、業界団体が定めるセキュリティガイドラインなどが求めるセキュリティ要件を満たす上でも、ISO/IEC 27017に基づく管理体制の構築は有効です。認証取得は、これらの要求に応えていることの間接的な証明にもなり得ます。

ISMSクラウドセキュリティ認証の取得方法

認証取得は、一般的に以下のステップで進められます。

ISO/IEC 27001認証の取得

上記で述べたように、ISO/IEC 27017に基づくクラウドセキュリティ認証は単独では取得できません。まずISO/IEC 27001認証を取得していること、またはISO/IEC 27001とISO/IEC 27017の認証審査を同時に受けることが前提となります。

適用範囲の決定

ISO/IEC 27017に基づく認証を取得する範囲(対象となるクラウドサービス、関連する部門、拠点など)を明確に定義します。

自社がCSP(提供者)なのかCSC(利用者)なのか、あるいは両方の立場なのかを明確にし、それに応じて適用する管理策を特定します。

現状の把握

ISO/IEC 27017(JIS Q 27017)が要求する管理策と、自社の現状の管理策との差を分析・評価します。ISO/IEC 27001で構築した体制をベースに、クラウド特有の要求事項に対して何が不足しているかを確認します。

管理策の導入・実施

ギャップ分析の結果に基づき、不足している管理策を導入・実施します。これには、クラウド利用に関する規程の追加・修正、アクセス管理の見直し、CSPとの契約内容の確認・調整、従業員へのクラウドセキュリティ教育などが含まれます。

内部監査の実施

導入した管理策がISO/IEC 27017(JIS Q 27017)の要求事項に適合し、有効に機能しているかを、組織内部の監査員が客観的にチェックします。ここで問題点が発見されれば、認証審査前に是正処置を行います。

認証審査(第一段階・第二段階)

準備が整ったら、認定機関から認定を受けた第三者認証機関による審査を受けます。この審査は、認定機関が定めた要求事項・ルールに則って行われます。通常、文書審査(第一段階)と現地(またはリモート)での運用状況確認審査(第二段階)に分けて実施されます。審査の結果、要求事項への適合が認められれば、認証登録となります。

維持審査・更新審査

認証は取得して終わりではありません。その有効性を維持するために、通常1年ごとに維持審査(サーベイランス審査)、3年ごとに更新審査を受ける必要があります。これらの審査を通じて、マネジメントシステムが継続的に運用・改善されていることを示します。

ISMSクラウドセキュリティ認証の取得にかかる費用

認証取得・維持には、主に以下のような費用が発生します。組織の規模や適用範囲、コンサルティング利用の有無、選択する認証機関などによって費用は大きく変動するため、あくまで目安としてお考えください。

審査費用

認証機関に支払う費用です。初回の認証審査(第一段階・第二段階)、毎年の維持審査、3年ごとの更新審査のそれぞれで費用が発生します。審査に必要な工数(日数)に基づいて算出されるのが一般的です。数十万円から数百万円程度が目安となりますが、適用範囲や組織規模により大きく異なります。複数の認証機関から見積もりを取ることをお勧めします。

コンサルティング費用

自社だけで取得準備を進めるのが難しい場合や、効率的に進めたい場合に、専門のコンサルティング会社に支援を依頼することがあります。その場合のコンサルティング費用です。支援範囲によって費用は様々ですが、数十万円から数百万円程度が目安です。

内部コスト

  • 担当者の人件費
    認証取得・維持活動(文書作成、内部監査、審査対応など)に携わる従業員の工数
  • 教育・研修費用
    従業員へのクラウドセキュリティに関する教育や、内部監査員養成研修などにかかる費用
  • ツール導入・運用費用
    認証要求を満たすために、新たなセキュリティツールなどを導入・運用する場合の費用

他のクラウドセキュリティ関連規格・制度との関係

ISO/IEC 27017以外にも、クラウドセキュリティに関連する規格や制度があります。混同しないように、主なものとの関係性を理解しておきましょう。

ISO/IEC 27018

ISO/IEC 27018は、クラウド環境における個人情報の保護に特化した国際規格です。主にクラウドサービス提供者(CSP)が、個人情報処理者としてどのような管理策を実施すべきかを定めています。個人情報を扱うクラウドサービスを提供・利用する場合、ISO/IEC 27017と合わせてISO/IEC 27018に基づく認証の取得を検討することがあります。これもISO/IEC 27001のアドオン規格です。

ISMAP

ISMAPは、日本政府が定める、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度です。政府機関が利用するクラウドサービスのセキュリティレベルを確保し、円滑な導入を促進することを目的としています。ISMAPの要求事項には、ISO/IEC 27001やISO/IEC 27017の管理策が多く取り入れられています。そのため、ISO/IEC 27001やISO/IEC 27017に基づく認証を取得していることは、ISMAP登録を目指す上で管理体制の基礎となり、有利に働く場合があります。ただし、ISMAPは日本政府独自の制度であり、第三者認証機関による国際規格に基づく認証とは異なります。

ISMSクラウドセキュリティ認証の取得を検討しましょう

ISMSクラウドセキュリティ認証(ISO/IEC 27017に基づく認証)は、クラウドサービスの利用が当たり前となった現代において、組織がクラウド特有のリスクを適切に管理し、セキュリティ対策に真摯に取り組んでいることを示す国際的な証明です。

自社がクラウドサービスを提供する側であっても、利用する側であっても、その安全性を高め、ステークホルダーからの信頼を獲得するために、ISMSクラウドセキュリティ認証の取得を検討してみてはいかがでしょうか。


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