- 更新日 : 2024年7月16日
オープンイノベーションとは?課題と解決策、成功のポイントなどを解説
オープンイノベーションは、外部企業と連携して新規事業の創出や研究開発に取り組むことです。事業展開のスピード向上やコスト削減といったメリットがあります。
本記事では、オープンイノベーションの意味やメリットから、課題と解決策、事例まで解説します。
目次
オープンイノベーションとは
はじめに、オープンイノベーションの定義やクローズドイノベーションとの違いを解説します。
オープンイノベーションの定義と概念
文部科学省「平成29年度科学技術白書」によると、アメリカの研究者へンリー・チェスブロウは、著書の中でオープンイノベーションについて、「外部に存在するアイデアや技術を活用しつつ、内部で活用されていないアイデアや技術を外部に活用してもらうことで、価値を創造すること」と定義しています(一部意訳)。
簡単にいうと、新規事業や研究開発において、自社のみならず外部組織の技術やアイデアを取り込むことで、イノベーションの達成を図ることがオープンイノベーションです。
クローズドイノベーションとの違い
チェスブロウは著書の中で、「自社開発の技術や製品を既存取引先のみに販売する自前主義」がクローズドイノベーションだと定義しています。つまり、オープンイノベーションとクローズドイノベーションの違いは、「外部のアイデアや技術を活用するか」もしくは「外部に自社技術やアイデアを提供するか」という点にあります。
クローズドイノベーションとは異なり、オープンイノベーションでは外部との技術やアイデアの相互活用が図られます。
※参考:文部科学省「平成29年度科学技術白書」
オープンイノベーションにおける3つのメリット
オープンイノベーションによって新規事業や研究開発を行う3つのメリットを解説します。
メリット1:事業展開のスピードや効率の向上
外部のパートナーと協力することで、自社が有していないリソースや知識を共有してもらえます。リソースや知識の獲得にかかるプロセスが省略されることで、事業展開にかかる時間が早まります。また、既存のノウハウを活用することで、無駄な試行錯誤が減るため、効率的にプロジェクトを進行することが可能です。
スピードや効率の向上は、結果的に競争優位性の確立にもつながります。
メリット2:新しい技術やノウハウの獲得
外部企業や研究機関との連携により、最新技術や革新的なノウハウなどを獲得できます。自社だけでは獲得が困難な先端技術を迅速に取り込むことで、対象プロジェクトの成功だけでなく、技術力アップや人材育成、顧客ニーズへの適応力向上にもつながります。
結果として、中長期的な企業価値の向上も期待できるでしょう。
メリット3:コスト削減
一から新製品の開発や研究、新規事業の立ち上げを行う場合、開発や研究、市場調査などに多額のコストがかかります。一方でオープンイノベーションの場合、自社が有していないノウハウや知識、技術を活用できるため、自社で開発・研究、市場調査を行うのにかかるコストを削減できます。
必要なコストが減るため、万が一事業が失敗した場合の損失も最小限に抑えられるでしょう。
オープンイノベーションの課題と解決策
オープンイノベーションに取り組むにあたって想定される課題、およびそれらの解決策について解説します。
情報漏えいや知的財産権の侵害リスクがある
外部パートナーとノウハウや技術、知識などを共有するため、情報漏えいや知的財産権の侵害リスクが増大します。こうしたリスクが顕在化すると、中長期的に自社の競争優位性が失われたり、顧客や市場からの信用が失墜したりし、利益や売上の減少を招きます。
このリスクを軽減するためには、秘密保持契約(NDA)の締結や、知的財産権の管理を徹底することが求められます。また、信用調査などによってパートナー企業の信頼性を事前に評価したり、情報の取り扱いに関して明確な規定を設けたりすることも効果的です。
組織内外におけるコミュニケーションの停滞
提携する企業や学術機関は、自社とは異なる文化や価値観、業務プロセスを持っています。そのため、連携するにあたってコミュニケーションに支障を来す恐れがあります。
この課題を解決するためには、定期的にチャットやオンライン・対面でのミーティングといった手段によってコミュニケーションを重ねて、意思や価値観のすり合わせを行うことが大切です。また、調整役となるプロジェクトマネージャーの配置や、情報共有に関するルールを明文化することも効果的です。
利益率や開発力の低下
自社のみで事業を行うと、ビジネスで得られた利益は全て自社内部に残ります。しかし、オープンイノベーションでは外部の企業や組織と連携するため、連携先と利益を分配することになります。そのため、利益率は基本的に自前主義の場合よりも低下してしまいます。
また、外部企業の技術やアイデアに依存することで、自社内部の開発力を高めようとするインセンティブも失われる恐れがあります。開発力の低下は、長期的な企業価値や競争優位性の低下につながり得ます。
利益率の低下は、売上の増加によってカバーできます。オープンイノベーションを行わない場合よりも圧倒的に多くの売上を得られれば、「率」が低下しても最終的な利益額は多くなるためです。
開発力の低下に関しては、同時進行で自社のコア技術や強みを維持または強化することが対策となります。つまり、依存度合いを高めすぎないことが求められるのです。
オープンイノベーションを成功させるポイント
オープンイノベーションを成功させるポイントは3つあります。
目的や計画の明確化
1つ目は、プロジェクトの中間・最終目標を具体的に設定することです。これにより、関係者全員が同じ方向に向かって進むことができるため、時間短縮や失敗などのリスクの軽減につながります。また、明確な計画は、進捗管理やリスク管理にも役立ちます。
外部サービスや資本を最大限活用
2つ目は、外部の専門知識や技術、資金を効果的に取り入れることです。自社だけでは達成できない成果を上げることが可能となるため、これも非常に重要なポイントです。自社の強みとシナジー効果が創出されたり、弱みを相互補完できたりするパートナーを選定することで、開発スピードを加速し、競争力を強化できるでしょう。
適切な組織構築や人材確保
3つ目は、適切な組織構築や人材確保です。オープンイノベーションの推進に際しては、外部企業と円滑に情報共有や連携を図るための柔軟な組織体制が求められます。
また、イノベーション創出に必要な専門知識を有する人材を、社内外から幅広く確保することも重要です。人材確保に際しては、業務提携先である外部企業だけでなく、研究機関や大学といった機関との産学連携も視野に入れましょう。
オープンイノベーションの事例
消費財化学メーカーの花王株式会社では、製品開発のシーンでオープンイノベーション的な開発体制を敷いています。
例えば、同社は株式会社ヘルスケアシステムズと共同で、「皮脂RNA」を用いた郵送検査サービスの開発に取り組んでいます。ヘルスケアシステムズは、生活習慣や食事に基づく健康状態を可視化する独自の郵送検査キット技術を有しています。
一方で花王は、皮脂から採取したRNAから体や肌の状態を把握する独自の解析技術、および採取した皮脂RNAを常温で安定的に保存・輸送できる技術を構築しました。
両社は、双方が有する上記の技術を組み合わせることで、自宅にいながら体や肌の健康状態を手軽に把握できるサービスの創出に着手しています。お互いの強みを活かしていることから、オープンイノベーションの参考となる事例だといえるでしょう。
※参考:株式会社ヘルスケアシステムズ「花王と『皮脂RNA』を用いた郵送検査サービスの共同開発を開始しました」
まとめ
コスト削減やスピード向上など、新規事業立ち上げや新製品開発段階において、オープンイノベーションは効果的な手法です。
IPOを目指している企業にとっては、実現を後押しする手段として役立つでしょう。
オープンイノベーションの活用を検討している経営者の方は、ぜひ本記事の内容を参考にしてみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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