- 更新日 : 2024年7月17日
不確実な市場で活きるエフェクチュエーションとは?概要や実践方法などを解説!
新規の事業開発を行う際は、どのように考えて行っているでしょうか。多くの人は市場の機会を捉えて環境分析をしながら、事業計画を策定するというプロセスを経ているとことが想定できます。
しかしながら昨今の市場環境は変化が激しく、不確実性が高い状況下であるといえ、この上記のようなプロセスでは太刀打ちできないケースも出てきています。このような状況下で成功する起業家の思考・行動パターンを分析した結果、エフェクチュエーションという概念が注目を集めています。
本記事では、このエフェクチュエーションについて解説します。
目次
エフェクチュエーションとは
まずは、エフェクチュエーションとは何か、従来のプロセスと比較しながら解説します。
エフェクチュエーションの定義
エフェクチュエーションとは、「今の自分がコントロールできる範囲で望ましい未来を作るための行動・思考プロセス」のことだと定義されています。
エフェクチュエーションの概念は、インドの経営学者サラス・サラスバシー教授によって、現代の成功した起業家への意思決定に関する実験より導き出されました。
コーゼーションとの違い
従来の、市場の機会を捉え市場を分析し事業計画を策定しながら進めるというプロセスは、エフェクチュエーションに対してコーゼーションと呼ばれます。
コーゼーションは基本的に未来を予測するスタンスであるのに対して、エフェクチュエーションは未来を自ら創り出すスタンスである点が異なります。
ただし、どちらかが正しいということではなく、状況に応じてそれらを使い分けることが重要だといえるでしょう。
コーゼーションはある程度予測可能な範囲で、既存のルールの中でシェアを拡大したい場合に有効となります。
一方のエフェクチュエーションは、不確実性が高い新しい価値創造を目指す場合や、創業期など自らの用いるリソースに限りがある場合に有効なアプローチです。
エフェクチュエーションの現代における重要性
上記のような特徴を持つエフェクチュエーションは、現代のビジネス環境で非常に大きなパワーを発揮します。
なぜなら、昨今の市場環境は変化が激しく、またパンデミックや地政学、環境問題など、将来の不確実性が高い状況であるためです。このような環境では、エフェクチュエーションが有効となるケースが多いといえるでしょう。
エフェクチュエーションの5つの原則
続いて、サラスバシー教授による起業家への実験から導き出された、エフェクチュエーションにおける5つの原則について解説します。
1. 手中の鳥の原則(Bird in Hand)
2. 許容可能な損失の原則(Affordable Loss)
3. クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt)
4. レモネードの原則(Lemonade)
5. 飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane)
この5つの行動・思考プロセスによって、不確実な状況下で新しい価値創造を行うことができるとされています。
1. 手中の鳥の原則(Bird in Hand)
1つ目の原則は、達成したい目標や目的から出発するのではなく、手持ちのリソースから何ができるかをまずは考えることです。
特に起業家は既存の大企業とは異なり、持ち得るリソースが限られるため、この考え方が重要視されます。
また、手中の鳥の原則を実践する際には、主に次の3つの問いを行いましょう。
1) 自分・自社は何者か?:属性、能力、特異性など
2) 何を知っているか?:知識、専門性、経験など
3) 誰を知っているか?:ネットワークなど
2. 許容可能な損失の原則(Affordable Loss)
次の原則は、将来得たい利益を定めるのではなく、どこまでの損失なら許容できるかを設定することです。
コーゼーションでは達成したい目標を掲げ、そこから逆算するプロセスを経ることが多いですが、エフェクチュエーションでは許容可能な損失に目を向けます。その許容できる範囲の中で、実現し得る戦略を立案します。
3. クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt)
3点目は、予め定めた顧客セグメントや競合を意識するのではなく、顧客・競合・委託企業などのステークホルダーの中から、同じ方向を向いてコミットメントを示してくれる人や企業を探すという原則です。
そのようなパートナーと関係性を構築することで、「手中の鳥の原則」に立ち返り、改めて持ち得る手段を精査するサイクルを回していきます。
このように、場合によっては顧客や競合もパートナーと見なすプロセスが、柄や形が異なる布を縫い付けるクレイジーキルトに例えられ、本原則に当てはめられました。
4. レモネードの原則(Lemonade)
アメリカのことわざで「人生があなたにレモンを与えるなら、レモネードを作れ」という言葉があります。意味は、「試練(すっぱいレモン)があっても、いい方向(甘くておいしいレモネード)にしていこう!」という前向きな言葉です。
サラスバシー教授の実験の結果、成功する起業家は、パートナーとの出会いや検討を進めることで得た気づき・失敗など、その全てを学習機会だと捉える傾向にありました。すなわち、運や偶然もテコとして最大限活用しようとする姿勢を有していたのです。これを指して、上記のことわざからレモネードの原則と呼ばれています。
5. 飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane)
上記の4原則から導き出された「コントロール可能な範囲」の中での取り組みにおいて、常に状況を見ながらプロセスを回し続けるという点が、5つ目の原則です。
コーゼーションのように事前に予測することではなく、コントロールできる範囲の結果やアプローチを改善することに集中します。
またこの呼び名は、操縦中のパイロットが常に数値を見て臨機応変に対応することになぞらえています。
エフェクチュエーションの実践方法
本章では、上記の5つの原則を実際にアクションとして実践するためのポイントと事例を紹介します。
エフェクチュエーションの実践に必要なステップ
エフェクチュエーションの5つの原則を実践するにあたっては、次の4つのステップを心掛けましょう。
1. 自分や自社のアイデンティティに目を向け、言語化・可視化する
2. パートナーシップを構築するために、アイデンティティに基づき、問いかけを行う
3. とにかく行動に移し、改善を続ける
4. 失敗やトラブルを楽しんだり、チャンスと捉えるためにマインド・考え方・物事の見方を変える
エフェクチュエーションの事例
最後に、エフェクチュエーションを実践したソニーの事例を紹介します。
ウォークマンのイノベーション
ご存知の方も多いと思いますが、ウォークマンが登場する以前では、音楽は「室内で聴く」ことが前提でした。
しかしながらウォークマンによって、今では当たり前となっている、音楽を「〜しながら聴く」という習慣が生み出されました。
ソニーのエフェクチュエーションによるアプローチ
アイデアの発端は、井深名誉会長が「海外出張時に手軽にきれいな音楽を聴きたい」と感じたところに起因します。そこで当時既に世の中に出ていた、手のひらサイズのテープレコーダー「プレスマン」に、当時のソニーが持ち得るステレオ回路の取り付けを、井深会長から部下に依頼しました。
この依頼に基づき、ソニーの開発チームは、ステレオ回路を取り付ける際にテープレコーダーの録音機能を取り去り、有り合わせのヘッドホンをつけて試作品を作成させました。これを当時会長の盛田氏らに試してもらい、最終的に商品化へ至ったのです。
これはまさに、市場の予測から始まるコーゼーションではなく、プレスマンの改良などの「手中の鳥」や、井深氏の気付きを発端とした「レモネード」などの原則を用いたエフェクチュエーション的アプローチとなります。
まとめ
本記事では、近年の成功する起業家に共通する新たなアプローチである、エフェクチュエーションについて解説しました。
エフェクチュエーションでは、従来型の未来を予測し市場を分析するコーゼーションとは異なり、自身が持ち得る範囲にて、損失可能な水準内でステークホルダーを巻き込み、前へと進める手法を採ります。
エフェクチュエーションは昨今のような不確実性の高い市場環境においては非常に有力である一方で、寡占市場での競争など、コーゼーションが有効なケースも存在します。それぞれのアプローチの良さを理解しながら、適切な手法を選択できるようにしましょう。
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