- 更新日 : 2024年7月17日
オーバーアロットメントによる売り出しとは?上限や株式の調達方法を解説
「オーバーアロットメント」とは、IPOや株式公開時に見られる戦略の一つで、株式市場での需要予測を超える追加発行を指します。
この手法は、市場の揺れ動きを安定させ、株式の価値を最大化する効果があります。しかし、どのように実施すれば最適な結果を得られるのか、戦略的な視点が不可欠です。
本記事では、オーバーアロットメントの概要を詳しく解説します。
目次
オーバーアロットメント(OA)による売り出しとは

オーバーアロットメントとは、有価証券の公募・売り出しの際、当初の予定株数を上回る需要があった場合に主幹事証券会社が株主から一時的に株式を借りて、同じ条件で追加的に販売を行うことです。
この手法は、主に新規公開株(IPO)や追加株式の公開において見られます。
国内では2002年1月から許可されるようになり、市場における株価の過度な変動を抑え、よりスムーズな株式の市場導入を目指す戦略の一環です。
オーバーアロットメントの意義・目的
オーバーアロットメントを行う目的として挙げられるのが、株価の安定を図ることです。
新規公開株式の需要が供給を上回る場合、その価格は急激に上昇し、市場に不安定さをもたらす可能性があります。
逆に、供給過剰で需要が不足している場合は、価格が大幅に下落することもあり得ます。オーバーアロットメントによって、これらの過度な価格変動を緩和し、より滑らかな市場参入を実現するのです。
主幹事証券会社のメリット・デメリット
オーバーアロットメントを行うことによる主幹事証券会社のメリット・デメリットは、主に以下の通りです。
| メリット | デメリット |
|---|---|
オーバーアロットメントを行う主な利点は、市場での価格安定化機能です。公開株式の需給バランスを調整することで、株価の急激な変動を防ぎ、市場の信頼性を高めることができます。
追加された株式を市場価格より高く売却できれば利益を上げることができる一方で、市場価格が予想よりも低下した場合、証券会社は損失を被る可能性があります。
このような市場の変動は予測が困難であり、特に市場が不安定な時期には大きなリスクとなるでしょう。
主幹事証券会社については以下の記事で詳しく解説しておりますので、併せてご参照ください。
オーバーアロットメントで行われる株式の調達方法

オーバーアロットメントで売り出す株式を株主から調達する方法は、一般的に既存の株主から借りることが多いですが、借りた株式を返す方法主に以下の2種類です。
- グリーンシューオプション
- シンジケートカバー取引
詳しく解説します。
グリーンシューオプション
グリーンシューオプションとは、主幹事証券会社が公開価格で追加の株式を発行会社から借り受け、オーバーアロットメントのために市場に売り出す権利のことです。
このオプションが行使されるのは、市場価格が公募価格よりも大きい場合です。
市場がこの追加供給を吸収し、証券会社は借り受けた株式を発行会社に返却することで、オーバーアロットメントのプロセスを完了します。
シンジケートカバー取引
シンジケートカバー取引とは、証券会社のシンジケート(共同体)が市場から株式を買い戻す操作のことです。
市場価格が公募価格よりも低い場合、先のグリーンシューオプションを使う必要がなく、市場から株式を買うこで買い戻すことができます。
公募・売り出しの申込期間終了日の翌日から最長30日以内に実施される取引です。
オーバーアロットメントで売り出せる株数の上限

オーバーアロットメントで売り出せる株数には上限があります。
上限は、本来の公募・売り出し数量の15%です。
公開初期に市場の需要が供給を超え、株価が予想以上に上昇する可能性がある場合、証券会社が株価の安定を図りながら、さらなる需要に応えるために追加株式を売り出せる余地を持たせる必要があります。
このプロセスは、市場の流動性を高め、株価の急激な上昇や下降を防ぎ、より安定した市場環境を作り出すことが目的だと言えるでしょう。
参照:日本証券業協会|有価証券の引受等に関する規則(第29条 第1項)
オーバーアロットメントで売り出す株式の返済期限

オーバーアロットメントで株主から調達した株式の返済期限は、株券等の募集又は売り出しの申し込み期間の終了する日の翌日から最長30日間です。
返済期限の設定には、公開株式の価格安定化を確保し、市場の信頼を維持するという目的があります。
株式公開後の初期段階で、株価が不安定になることが予想されるため、この期間内に主幹事証券会社は市場の動向を注視し、必要に応じて追加株式を買い戻すことで価格の安定を図ります。
出典:日本証券業協会|有価証券の引受等に関する規則(第29条 第3項)
オーバーアロットメントによる株価への影響

オーバーアロットメントは、主に市場の需要が供給を超え、株価が急騰する可能性がある場合に利用されます。
追加の株式が市場に供給されることで、株価の急激な上昇を防ぎ、より安定した価格推移を促せるのです。
この安定化効果は、公開直後の株価の不安定性を減少させ、投資家にとってより公平な取引環境を提供します。
まとめ
オーバーアロットメントは、株式公開時に設けられる戦略で、公募・売り出し数量を超える需要に応えるため、証券会社が一時的に追加株式を市場に供給する方法です。
2002年から日本で許可され、市場の安定や株式価値の最大化に貢献しています。
本戦略にはグリーンシューオプションやシンジケートカバー取引など、株式を調達し返済する複数の方法があり、公開初期の株価安定に重要な役割を果たします。
オーバーアロットメントによる株式の売り出しは、公募・売り出し数量の最大15%までと制限されており、この枠内で株価の急激な変動を抑制し、市場の流動性を向上させることが目的です。
以下の記事では上場準備において注意すべき点を解説しておりますので、併せてご参照ください。
この記事をお読みの方におすすめのガイド4選
最後に、この記事をお読みの方によく活用いただいている人気の資料・ガイドを紹介します。すべて無料ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
やることリスト付き!内部統制構築ガイド
内部統制を基礎から知りたい方・内部統制の導入を検討している担当の方・形式だけになっている内部統制を見直したい方におすすめの人気ガイドです。
内部統制の基本と内部統制構築のポイントをギュッとまとめています。
ストック・オプション丸わかりガイド!
ストック・オプションの概要や種類、IPO準備企業がストック・オプションを利用するメリットに加え、令和5年度税制改正の内容についても解説した充実のガイドです。
IPOを検討している企業様はもちろん、ストック・オプションについて学習をしたい企業様も含め、多くの方にご活用いただいております。
J-SOX 3点セット攻略ガイド
すべての上場企業が対象となるJ-SOX(内部統制報告制度)。
本資料では、IPO準備などでこれからはじめてJ-SOXに対応する企業向けにJ-SOXの基本からその対応方法までをまとめた、役立つガイドです。
マネーフォワード クラウドERP サービス資料
マネーフォワード クラウドERPは、東証グロース市場に新規上場する企業の半数※1 が導入しているクラウド型バックオフィスシステムです。
取引データの自動取得からAIによる自動仕訳まで、会計業務を効率化。人事労務や請求書発行といった周辺システムとも柔軟に連携し、バックオフィス業務全体を最適化します。また、法改正に自動で対応し、内部統制機能も充実しているため、安心してご利用いただけます。
※1 日本取引所グループの公表情報に基づき、2025年1月〜6月にグロース市場への上場が承認された企業のうち、上場時にマネーフォワード クラウドを有料で使用していたユーザーの割合(20社中10社)
よくある質問
オーバーアロットメントの目的は?
オーバーアロットメントを行う目的は、株価を安定させることです。 市場での供給過多や需要不足による不均衡を避ける目的で開始された制度であり、価格変動を緩和し、より滑らかな市場参入を実現できるようになるでしょう。
オーバーアロットメントで株式を調達する方法は?
オーバーアロットメントで売り出す株式を株主から調達する方法一般的には株主から借りることですが、返済する場合に調達する方法は主に以下の2種類です。
- グリーンシューオプション
- シンジケートカバー取引
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
IPOに必要なタスクは?進め方やIPO準備の管理方法を解説
IPOを成功させるためには、多くの複雑なタスクを効率的に管理する必要があります。 ここでは、IPOに向けた重要なタスクとして、監査法人の選定、資本政策の策定、内部統制の強化、ITシステムの整備について詳しく解説し、プロジェクト管理を効率化す…
詳しくみる購買サイクルのRCMとは?リスクマネジメントの重要性・RCMの作成手順【テンプレート付き】
購買サイクルの最適化は、企業の成長に欠かせない戦略の一つです。特に、信頼性中心のメンテナンス(RCM)を取り入れることで、製品やサービスの品質を向上させ、顧客満足度を高めることができます。 本記事では、RCMが購買サイクルに与える影響と、そ…
詳しくみる東証マザーズとは?特徴やジャスダックとの違いなどわかりやすく解説
「東証マザーズ」とは、東京証券取引所が運営している株式市場のひとつで、主にベンチャー企業(新興企業)を対象にした市場です。株式会社メルカリやBASE株式会社といった成長企業を中心に、2022年2月時点で426社が東証マザーズに上場しています…
詳しくみる赤字でも上場できる!メリットや満たすべき基準・事例を紹介
「自社は赤字だから上場できないのでは…」と思い込んでいませんか?実は、赤字でも上場できる可能性があります。必ず可能というわけではありませんが、可能性が残っているのならチャレンジしようと考える人もいるでしょう。 この記事では、赤字でも上場する…
詳しくみるテクニカル上場とは?事例も含めてわかりやすく解説
「テクニカル上場」とは、上場会社が非上場会社と合併して解散する際、もしくは株式の交換などで非上場会社の完全子会社になる場合に、非上場会社の株式をスムーズに上場させる制度のことです。 テクニカル上場には、どのようなメリットがあるのでしょうか。…
詳しくみる情報統制とは?内部統制の強化にITへの対応が必要な理由を解説
内部統制を実施するにあたり、ITへの対応を早急に進める企業も多いのではないでしょうか。しかし、IT業務に関しては、経理担当者や経営者本人ではなくITシステムの管理ができる技術を持った人が担当するはずです。 この記事では、内部統制を進めている…
詳しくみる


