• 作成日 : 2025年7月7日

ISMS認証の取得・維持にかかる費用は?内訳や相場、コスト削減方法まで徹底解説

企業の信頼性向上やリスク低減にISMS認証は有効ですが、取得・維持には費用が伴います。この記事では、ISMS認証にかかる費用の全体像を、初心者にも分かりやすく解説します。コンサル費用や審査費用、内部工数といった費用の内訳から、企業規模による相場、コスト削減のヒントまで、ISMS費用に関するあらゆる情報を網羅し、あなたの疑問を解消します。

そもそもISMSとは

ISMSは「Information Security Management System」の略称です。組織が保有する情報資産のリスクを適切に管理し、機密性・完全性・可用性(情報のCIA)を維持・改善するための仕組み(マネジメントシステム)を指します。

ISMS認証とは、この仕組みが国際規格である「ISO/IEC 27001」の要求事項に適合していることを、第三者認証機関が審査し、証明する制度です。一般的に「ISMS認証」と言う場合、この「ISO/IEC 27001認証」を指すことがほとんどであり、本記事での「ISMS費用」も主にこの規格の認証取得・維持に関する費用を扱います。

費用をかけてISMS認証を取得するメリット

企業が費用と労力をかけてISMS認証を取得するには、それに見合うだけのメリットがあります。

社会的信用の向上

取引先や顧客に対して、情報セキュリティ対策を適切に行っていることの客観的な証明となり、信頼関係の構築・強化につながります。特に、大手企業との取引や官公庁の入札案件では、ISMS認証が条件とされるケースも増えています。

情報セキュリティリスクの低減

ISMSの構築・運用プロセスを通じて、自社の情報資産や潜在的なリスクを洗い出し、適切な管理策を講じることで、情報漏えい事故やサイバー攻撃被害のリスクを低減できます。

従業員のセキュリティ意識向上

ISMSの運用には全従業員の協力が不可欠です。教育や内部監査を通じて、従業員一人ひとりの情報セキュリティに対する意識を高める効果が期待できます。

業務プロセスの改善・効率化

情報資産の管理ルールや責任体制が明確になることで、業務プロセスの見直しや効率化につながる場合があります。

法令遵守(コンプライアンス)

個人情報保護法など、関連法規への遵守体制を強化することにも役立ちます。

これらのメリットを考慮すると、ISMS認証取得にかかる費用は、単なる「コスト」ではなく、将来の事業継続や成長のための「投資」と捉えることができます。

ISMS認証の取得にかかる費用の内訳

ISMS認証を取得するまでには、主に以下の費用が発生します。特に、自社で全て行うか、コンサルティング会社を利用するかで、かかる費用の種類や金額が大きく変わってきます。

コンサルティング費用

ISMSの構築・運用には専門的な知識が必要です。自社内にノウハウがない場合や、リソース(特に時間)を確保できない場合は、専門のコンサルティング会社に支援を依頼することが一般的です。

現状分析、適用範囲の決定、リスクアセスメント、各種文書(情報セキュリティ方針、規程類、手順書など)の作成支援、従業員教育、内部監査の実施支援、審査に向けた準備など、ISMS構築から認証取得までの一連のプロセスをサポートします。

コンサルティング会社の料金体系や支援範囲、企業規模、適用範囲の広さなどによって大きく変動しますが、一般的には数十万円から数百万円程度が目安となります。

審査費用

ISMS認証(ISO/IEC 27001認証)を取得するためには、第三者認証機関(審査機関)による審査を受ける必要があります。これは自力取得・外部委託に関わらず必須の費用です。審査は大きく分けて2段階(初回の場合)あります。

  • 第一段階審査(文書審査・準備状況確認)
    作成された文書類(規程や手順書など)がISO/IEC 27001の要求事項を満たしているか、また、第二段階審査に進む準備ができているかを確認します。
  • 第二段階審査(現地審査・運用状況確認)
    実際に組織内でISMSが要求事項に従って運用されているかを、現地でのヒアリングや記録の確認を通じて審査します。

審査費用は、主に審査工数(審査員が審査に要する日数)に基づいて算出されます。審査工数は、認証を取得する組織の規模(従業員数)、適用範囲(対象となる部署や拠点、業務)、事業のリスクレベルなどによって決定されます。

従業員数が少ない小規模な企業は数十万円程度、中規模以上の企業や適用範囲が広い場合では100万円を超えることもあります。審査機関によっても料金設定が異なるため、複数の機関から見積もりを取ることが推奨します。

内部リソース費用(人件費・工数)

ISMSの構築・運用には、コンサルティング会社を利用する場合でも、自社の担当者(推進事務局など)の活動が不可欠です。自力取得を目指す場合は、この内部リソース費用が最も大きなコスト要素となります。

ISMS担当者の任命、規格要求事項の学習、現状把握、適用範囲の決定、リスクアセスメントの実施、数十種類に及ぶ可能性のある文書(規程、手順書、様式など)の作成・レビュー、従業員への説明・教育の実施、内部監査員の育成と内部監査の実施、マネジメントレビューの実施、審査対応など、多岐にわたる活動が必要です。

これらの活動に費やす従業員の時間を人件費として換算すると、相当なコストになります。特に自力取得の場合、担当者はISMS構築に多くの時間を割く必要があり、通常業務への影響(機会損失)も考慮に入れる必要があります。専門知識習得のための研修費用などもここに含まれます。

その他費用

上記以外にも、状況に応じて以下のような費用が発生する可能性があります。

  • ツール導入費用
    リスク管理ツール、資産管理ツール、eラーニングシステムなどを導入する場合
  • 設備投資費用
    サーバールームの物理的なセキュリティ強化(入退室管理システム、監視カメラなど)や、セキュリティ対策ソフトウェア・ハードウェアの導入など
  • 教育・研修費用
    外部のセミナー受講や、専門教材の購入など。(特に自力取得の場合は重要度が増します)

ISMS認証維持にかかる費用の内訳

ISMS認証は、取得したら終わりではありません。有効期間は通常3年間で、その間もISMSを適切に維持・運用し、定期的に審査を受ける必要があります。

維持審査費用(サーベイランス審査費用)

認証取得後、1年に1回(または半年に1回)、認証機関による維持審査(サーベイランス審査)が行われます。ISMSが引き続き有効に機能しているかを確認するための審査です。

維持審査の工数は、通常、初回審査(第一段階+第二段階)よりも少なくなります。そのため、費用も初回審査よりは低くなる傾向にありますが、それでも年間数十万円程度はかかります。費用算出の考え方は初回審査と同様で、組織規模や適用範囲に依存します。

更新審査費用(再認証審査費用)

認証の有効期間(通常3年)が満了する前に、認証を更新するための更新審査(再認証審査)を受ける必要があります。

更新審査は、初回審査(第二段階審査)と同程度の工数がかかることが一般的です。そのため、費用も初回審査と同程度か、それより若干低くなるくらいの金額を見込んでおく必要があります。

内部リソース費用(人件費・工数)

定期的なリスクアセスメントの見直し、内部監査の実施、マネジメントレビュー(経営層による見直し)、従業員教育の継続、インシデント発生時の対応、審査対応など、認証維持のために継続的なISMS運用活動が必要です。これは自力取得・外部委託に関わらず発生します。

ISMSの費用を左右する主な要因

これまで見てきたように、ISMSにかかる費用は一律ではありません。以下の要因によって大きく変動します。

組織の規模・従業員数

従業員数が多いほど、管理対象となる情報資産やプロセスが増え、審査工数が増加するため、審査費用が高くなる傾向があります。コンサルティング費用や内部リソース費用も同様に増加します。

適用範囲

ISMSを適用する部署、拠点、業務範囲が広ければ広いほど、構築・運用の手間が増え、審査工数も増加します。全社適用か、特定の事業部のみかなどで費用は変わります。

業種・事業内容のリスクレベル

取り扱う情報の機密性や事業の特性によって、求められるセキュリティレベルや管理策の数が異なり、審査工数に影響を与える場合があります。

自力取得か外部委託か

これが費用構造を最も大きく左右する要因の一つです。

自力取得の場合、直接的なコンサルティング費用はゼロですが、内部リソース(人件費、時間、学習コスト)が大幅に増加します。専門知識の習得や文書作成に時間がかかり、取得までの期間が長期化する可能性もあります。

一方、外部委託の場合、コンサルティング費用が発生しますが、専門家の支援により効率的に構築を進められ、内部リソースの負担を軽減し、取得期間を短縮できる可能性があります。どこまでの支援を依頼するか(フルサポートかスポットか)によっても費用は変動します。

認証機関(審査機関)の選択

審査機関によって料金体系や審査方針が若干異なるため、見積もり金額に差が出ることがあります。

既存の情報セキュリティ対策レベル

すでに一定レベルのセキュリティ対策が実施されている場合は、ISMS構築にかかる手間や追加投資が少なくて済む可能性があります。

ISMS費用の相場

上記要因を踏まえた上で、大まかな相場をまとめます。

ただし、特にコンサルティング利用の有無で初期費用は大きく変動する点にご注意ください。あくまで目安として参考にしてください。

小規模企業(従業員数 ~30名程度)の場合
  • 初期費用
    • コンサル利用時:100万円~250万円程度
    • 自力取得時:数十万円(審査費用)+ 多大な内部工数
  • 年間維持費用
    20万円~50万円程度
中規模企業(従業員数 30名~100名程度)の場合
  • 初期費用
    • コンサル利用時:150万円~400万円程度
    • 自力取得時:数十万円~100万円超(審査費用)+ さらに多大な内部工数
  • 年間維持費用
    40万円~80万円程度
大規模企業(従業員数 100名~)の場合
  • 初期費用
    • コンサル利用時:300万円~(規模・範囲により大きく変動)
    • 自力取得時:100万円超(審査費用)+ 極めて多大な内部工数(自力取得の難易度も上がる)
  • 年間維持費用
    60万円~(規模・範囲により大きく変動)

※上記金額には、内部の人件費(自力取得の場合は特に重要)や設備投資費用は含まれていません。

ISMS費用を賢く抑えるためのヒント

ISMS認証は投資とはいえ、できるだけ費用は抑えたいものです。コスト削減のためのいくつかのヒントをご紹介します。

適用範囲を適切に設定する

最初から全社適用を目指すのではなく、事業継続に不可欠な部門や、特にセキュリティリスクが高い部門に限定して適用範囲を設定することで、初期費用や審査費用を抑えられます。段階的に範囲を拡大していくことも可能です。

自社のリソースを最大限活用する

社内に情報システム部門がある、セキュリティに関心のある担当者がいる、時間を確保できるなどの場合は、自力取得を目指すことで、コンサルティング費用を大幅に削減できます。ただし、相当な学習意欲と時間、経営層のコミットメントが必要です。完全に自力でなくとも、必要な部分だけスポットでコンサルティング支援を依頼するという方法もあります。

複数のコンサルティング会社・審査機関から見積もりを取る

サービス内容と費用を比較検討し、自社に最適なパートナーを選びましょう。価格だけでなく、実績や担当者との相性、自社の状況(自力取得支援かフルサポートかなど)に合ったサービスを提供しているかを確認することが重要です。

既存のルールやツールを活用する

すでに社内で運用されている関連規程や、導入済みのITツールをISMSの要求事項に合わせて見直し、活用することで、新規作成の手間や導入コストを削減できます。

シンプルな文書体系を心がける

要求事項を満たしつつも、過度に複雑・詳細な文書を作成しないようにしましょう。シンプルで分かりやすい文書は、運用しやすく、維持管理の手間も省けます。

クラウドサービスやテンプレートを活用する

ISMS構築・運用を支援するクラウドサービスや、規程類のテンプレートを利用することで、効率化とコスト削減を図れる場合があります。ただし、テンプレート依存には注意が必要です。

補助金・助成金を活用する

自治体や政府機関によっては、中小企業の情報セキュリティ対策支援を目的とした補助金・助成金制度を設けている場合があります。利用可能な制度がないか確認してみましょう。

自社に最適なISMS費用の計画を立てましょう

本記事ではISMS認証にかかる費用の内訳、相場観、そしてコスト削減のヒントを解説しました。コンサル費用、審査費用、内部工数など費用は多岐にわたり、企業規模や自力取得か外部委託かといった要因で大きく変動します。しかし、情報漏洩リスクの低減や社会的信用の向上といったメリットを考慮すれば、ISMS費用は単なる支出ではなく、企業の将来を守るための重要な投資です。この記事の情報を活用し、自社の状況に最適な計画を立て、ISMS認証取得・維持を成功させてください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事