• 更新日 : 2024年12月20日

ソフトウェア資産化とは?判断基準やメリット・デメリットを解説

ソフトウェアの導入により、新たな企業価値の創造やビジネスの効率化などを実現できます。一方で、ソフトウェアをいかに資産として計上し、効果的に管理するかは、多くの企業が直面する課題です。
ソフトウェア資産化とは、ソフトウェアを財務上の資産として計上し、管理や償却していくことを意味します。しかし、このプロセスは非常に複雑であり、管理面において悩んでいる企業は少なくありません。
本記事では、ソフトウェア資産化の基本的な情報や資産計上の基準、メリットとデメリット、社内データの整備方法について詳しく解説します。

ソフトウェア資産化とは

まず、ソフトウェア資産化の定義や基本的な情報を解説します。

ソフトウェアとは

ソフトウェアとは、コンピューターに指示を出し、様々なタスクを実行させるためのプログラムです。システムの運用や特定の作業などを行う目的で設計されており、企業活動や私たちの日常生活において重要な役割を果たしています。例えば、データの管理や通信、業務自動化など、ソフトウェアは様々な場面で使用されており、私たちの生活をより便利にしています。

ソフトウェア資産化(資産計上)とは

ソフトウェア資産化、または資産計上とは、ソフトウェアの開発や取得にかかる費用を財務会計上、簿記上で資産として計上することです。ソフトウェア資産化により、ソフトウェアに関する投資は単なる短期的な経費ではなく、長期にわたって価値を提供する資産として扱われます。
ソフトウェアの経済的価値を正確に反映し、企業の財務状況をより正確に把握するのに役立ちます。

資産計上の要件

ソフトウェアを資産として計上するには、「使用目的」「使用期間」「取得金額」の3つについて条件を満たす必要があります。

使用目的

資産計上の対象となる固定資産は、企業が自社業務で利用することを目的とし、販売を目的としないものに限られます。例えば、業務効率化を目的として導入されたシステムは、自社での利用が前提となるため、資産計上の対象となります。

使用期間

資産計上には、1年以上の長期的な使用が想定されることが求められます。これに対し、1年未満の短期利用が見込まれる資産は消耗品費として扱われます。

金額

企業が設定する基準金額以上であることが条件となりますが、税法上は10万円以上の資産が一般的に資産計上の対象とされます。企業はこれを基に内部基準を定めることが多く、10万円未満の資産についてはその年度内に費用として処理されることが一般的です。

ソフトウェアにおける資産計上と経費処理の比較

ここからは、ソフトウェアにおける資産計上と経費処理との違いを比較しながら解説します。

経費とは

経費とは、事業活動を行うためにかかった費用を指します。これには、事業収益を得るために直接かかる費用や、業務運営に必要な費用が含まれます。

具体例として、福利厚生費、会議での飲食費、備品の消耗品費などが挙げられ、資産ではなく当期の損益に計上されます。

判断基準

金額が10万円未満の場合は、原則として経費扱いとなります。また、耐用年数が1年未満のものも経費扱いとなります。

上記のいずれにも該当しないソフトウェアは、資産として計上が可能です。

  • ソフトウェアを資産化すると、以下の特例を受けられます。
  • 一括償却資産の特例:取得額が10万円以上20万円未満のものは、3年間の均等償却で処理可能
  • 少額減価償却資産の特例:青色申告の中小企業が取得した30万円未満の資産は、取得年度に全額償却可能

会計・税務上の影響

会計・税務上では、以下のような影響があります。

減価償却費の発生

ソフトウェアは無形資産であるため減価償却が求められ、会計・税務上も耐用年数に基づいて償却を行います。税法上の耐用年数は一般的に5年(利用形態により異なる場合もあり)と定められており、この期間にわたって減価償却費を費用として税務申告できます。

コストの平準化

開発や購入にかかった費用を複数年度にわたり配分することで、使用年数に応じた費用計上が可能です。これにより、毎期の損益に与える影響を平準化できます。

貸借対照表への影響

資産計上されたソフトウェアは、無形固定資産として貸借対照表に記載され、総資産額が増加します。これにより財務構造や企業価値に影響を与えることがあります。

一括償却資産・少額減価償却資産の特例の適用

先述のとおり、一括償却資産や少額減価償却資産の特例を適用できる場合は償却年数を縮めることができ、税負担の軽減が可能です。

税額控除

一部の開発型ソフトウェアは研究開発税制の対象となる可能性があります。この場合、資産計上した上で税額控除が適用できるため、税務上の負担を軽減する効果が期待できます。

ソフトウェアを資産計上する場合の影響

ソフトウェアを資産として計上すると、どのような影響が生じるのでしょうか。ここでは、資産計上による影響やメリット・デメリットを解説します。

ソフトウェアを資産計上するメリット

ソフトウェアを資産計上する主なメリットは、減価償却が可能となることです。
減価償却により、ソフトウェアの価値が時間の経過とともに減少することを資産上で考慮でき、経年的に費用として計上できます。ソフトウェアのコストを、利用期間や特定の基準に沿って分散させることが可能となるでしょう。
結果として、ソフトウェアの投資を長期的な視点で捉え、財務戦略におけるコスト管理をより効果的に行えるようになります。

減価償却によるメリット

ソフトウェアの減価償却によって初期投資コストを分散させることで、財務状況が安定しやすくなります。また、税務上の利益が減少するため、税金の負担も軽減することが可能です。これらは、特に大規模なソフトウェア投資において重要なメリットとなります。

ソフトウェアを資産計上するデメリット

ソフトウェアを資産計上するデメリットとして、資産価値の増減に伴う会計処理の複雑化が挙げられます。資産計上する際は、資産化する妥当性を明示する必要があるため、外注先への外注費だけでなく、自社での開発コストが当該資産に発生したものであるか、そのコスト自体が適切であるかを把握する体制を整える必要があります。

減価償却によるデメリット

減価償却のデメリットは、税負担を分散させる代わりに導入年度の税負担が増加することです。ソフトウェア資産の性質によって費用認識や償却方法、税務上の取り扱いに違いが生じる為、対応時は注意する必要があります。会計上は使用年数によって経費を計上しますが、税務上は資産の種類や用途によって耐用年数が決められています。

ソフトウェアの資産化をする際の基準・タイミング

資産計上の基準

ソフトウェアが企業活動に長期的な価値をもたらすと見込まれ、かつ会計上の対象基準を満たす場合に、無形固定資産として計上可能な対象となります。ソフトウェアが直接的な収益創出に貢献するか、業務の効率化に寄与するかなどの観点から判断するとよいでしょう。

資産計上が可能な3つのケース

以下3つのケースについて、資産計上が可能な費用の範囲や、資産計上タイミングなどをご紹介します。

①受注制作のソフトウェアを購入した場合

  • 購入費用などを資産に計上できる
  • 取得価格:購入費用、運用開始までにかかる費用(設定・修正など)の合計額
  • 税務上のソフトウェアの耐用年数:5年
  • 資産計上タイミング:購入日から

②市場販売目的のソフトウェアを開発した場合

  • 研究開発費に該当する部分を除く製品マスターの製作費は、資産に計上できる
  • 取得価格:材料費、人件費、運用開始までにかかる費用の合計額
  • 減価償却期間:原則3年
  • 税務上のソフトウェアの耐用年数:5年
    ※会計上と税務上の減価償却額が変わる可能性がある
  • 資産計上タイミング:製品マスター開発完了後から
  • 勘定科目は、製品マスターの作成中と完成後で異なる

<製品マスターの作成の勘定科目>

  • 研究開発費:製品マスターの完成(研究開発が終了するまで)にかかる制作費用
  • それ以降の製作費は資産計上する

<製品マスター完成後の勘定科目>

  • 取得原価:ソフトウェアの機能の改良・強化を行うための費用
  • 研究開発費:ソフトウェアの著しい改良、ソフトウェアの機能維持に要した費用(バグ取りなど)
  • 製造原価:ソフトウェアのマニュアル制作費など

③自社利用目的を開発した場合

  • 将来の収益を見込める場合は、資産として計上できる
  • 取得価格:材料費、人件費、運用開始までにかかる費用の合計額
  • 減価償却期間:原則5年
  • 税務上のソフトウェアの耐用年数:5年
  • 資産計上タイミング:「将来の収益または費用の削減が確実である」と認められる状況になった時点から

ソフトウェアを資産計上する際の注意点

ソフトウェアを資産計上する際は、以下のポイントに注意しましょう。

  • 総費用を把握する
  • 減価償却の方法を把握しておく

総費用を把握する

ソフトウェアの開発に必要な費用には、直接的な労働コストだけでなく、間接的な経費も含める必要があります。

これらの費用には、材料費や外注費、人件費、設備費、購入費用などが含まれます。これらの間接費を漏らさず計上することが重要で、正確な取得価額を算出できない場合には、資産評価を誤るリスクがあります。

全体の費用を的確に把握することで、会計および税務の両面で適切な資産計上を実現できます。

減価償却の方法を把握しておく

減価償却の方法には「定額法」と「定率法」があり、自社利用のソフトウェアについては、定額法による減価償却を行うのが一般的です。

定額法では、法定耐用年数に基づいて毎年同額の減価償却費を計上します。一方定率法では、未償却残高に対して一定の割合をかけ、減価償却費を計上します。

減価償却方法の把握が不十分だと、資産の償却費計上を適切に処理できず、監査等で指摘を受ける可能性があります。

減価償却時は定額法を用いて、正しく償却費を計算することが求められます。

【分類別】ソフトウェアを資産計上する際の会計処理

ソフトウェアを資産計上する際は、対象となるソフトウェアの目的などによって会計処理方法が異なります。

研究開発目的

研究開発目的のソフトウェアには、新製品やサービスの創出を目的とした調査・探求活動の成果物や、既存製品を大幅に改良したものなどが該当します。

これらのソフトウェアによる将来の収益獲得が不確実である場合は、研究開発費として、費用の発生時に全額費用処理します。

研究開発終了後に商業利用が可能となった場合は、一部費用を特定条件下で資産計上するケースもあります。

受注制作

受注制作のソフトウェアとは、特定の企業や個人から受託し、それぞれ異なる仕様で制作するソフトウェアです。

開発が進み、商業的に実行可能な段階に達した時点以降の制作費用は、資産として計上が可能になります。

会計処理基準については、進行基準または完成基準が適用されますが、これは進捗状況に基づいて判断されます。

工事進行基準

工事進行基準は、プロジェクトの進捗状況が客観的に把握でき、成果の確実性が認められる場合に適用されます。この基準では、決算時点での進捗度を原価比例法などの適切な方法で見積もり、収益を原価に比例させて計上します。

工事進行基準を採用することで決算時点での収益および費用の正確性が高まるため、経営状況の適切な開示に寄与します。これは特に、大規模かつ長期間のプロジェクトにおいて、収益の平準化を図るために有用です。

工事完成基準

工事完成基準は、プロジェクトの成果が確実ではない場合や進捗度を正確に測定できない場合に適用されます。この基準では、プロジェクトが完成した段階で収益および原価を計上します。

例えば、新しい技術を用いた開発や顧客の要望が曖昧な場合など、完成まで成果が確定しにくいプロジェクトに適しています。

市場販売目的

市場販売目的のソフトウェアは、複数のユーザーに対して販売することを目的としたパッケージや、ライセンス販売を前提に開発されたソフトウェアを指します。

開発段階で発生した費用は資産計上せず、研究開発費として処理します。

製品が完成し、商業的利用が可能な段階に達した後にソフトウェアの修正が発生した場合は、内容次第で処理方法が変わります。

内容処理
機能の改良・強化に要した費用無形固定資産として、資産計上する
著しい改良に要した費用研究開発費として、費用計上する
バグ修正・ソフトウェアの機能を維持するための費用原価として、費用計上する

自社利用目的

自社利用のソフトウェアは、社内業務の効率化や自社サービスの提供を目的に開発・導入するソフトウェアを指します。

外部から購入したソフトウェアは、取得価額を無形固定資産として計上し、定額法に基づいて耐用年数(通常5年)で減価償却します。

自社で開発し自社内で利用しているソフトウェアは、商業的利用が可能となった段階で資産計上し、減価償却を行います。

開発に要した費用の内訳(労務費や外注費など)は、別途集計して資産計上します。

取得時/制作時の原価算出のための社内データ整備

取得原価を算出する際には、社内でデータ管理の環境を整備しておくことが重要です。ここでは、工数管理と原価管理の方法や、管理データの粒度について解説します。

工数管理と原価管理の方法

ソフトウェア資産化における工数管理と原価管理は、資産計上の正確さを保証するために重要な要素です。
工数管理では、プロジェクトに投入される人的リソースの時間や単価を正確に記録し、そのデータをもとにコスト計算を行います。原価管理では、プロジェクトの進行に応じたコストを記録し、適切に計上することが求められます。
場合によってはプロジェクトの管理ツールなどを活用し、プロジェクトの状況をリアルタイムに把握できるデータ基盤の整備を行う必要があるでしょう。
このような対応をマニュアルで行うことも可能ですが、従業員の増加、プロジェクトの増加により、後に非常に煩雑になるため、工数管理ソフトや会計管理ソフトなどの活用がおすすめです。

管理すべきデータの粒度

ソフトウェア資産化においては、管理すべきデータの粒度を適切に設定することが重要であり、詳細な記録が求められます。個々の開発タスク、使用されるリソース、関連する費用などを詳細に追跡しなければなりません。これにより、正確な原価計算と効率的な資産管理を実現できます。データ管理の正確性がソフトウェア資産化の成功に直結するため、細部にわたる注意が必要です。

原価計算/工数管理を一体で管理するマネーフォワード クラウド個別原価

資産計上を行うにあたり、実際に発生した原価及び工数の実績情報が必要となります。
ここでは、原価計算/工数管理が可能なマネーフォワード クラウド個別原価を実際にご利用いただいている株式会社オプティマインド様の事例をご紹介します。

導入前の課題

精緻な原価計算体制を敷くために、原価計算と工数管理が一体でできるツールの導入を検討していました。

マネーフォワード クラウド個別会計を導入して課題を解決

マネーフォワード クラウド個別原価の導入により、以下の成果を得られました。

  • 工数入力の手間を削減
  • 周辺システムとの連携によって、情報の一元管理に成功
  • 緻密な個別原価計算が可能となり、監査に耐えうる原価管理体制を実現

本事例については以下で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。

まとめ

この記事では、ソフトウェア資産化の基本からメリット・デメリット、ソフトウェアを資産計上する基準とタイミング、社内でのデータ整備まで解説しました。
ソフトウェアを資産化することで減価償却が可能となり、初期投資コストの分散や財務状況の安定化を図れます。しかし、資産計上は適切な基準やタイミングで行う必要があり、管理のためには詳細な工数・原価の記録が欠かせません。
管理は容易ではありませんが、ソフトウェア資産化を適切に行うことで企業の財務健全性を高め、効果的な経営推進をサポートする手段となります。ソフトウェア資産の管理にあたり原価計算や工数管理に課題を感じている方は、マネーフォワード クラウドの導入を検討してみてはいかがでしょうか。


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