- 更新日 : 2024年7月12日
ERPと人工知能AIの活用は業務効率化につながるのか
近年、AI技術に注目が集まっていますが、AIとはどのような技術でどのように業務に応用されているのでしょうか。この記事では、AI技術の概要や注目されている理由、さらにERPにおけるAI活用について解説を行います。
目次
AIとは
日常生活においても急速に普及しつつあるAI(人工知能)ですが、実際にはどのような技術なのかわからないという方もいるでしょう。実はAIとは、ある特定の技術を指しているわけではなく、様々な技術や分野を総称した言葉です。なかでも現代のAIとして多く活用されているのが、「機械学習」と呼ばれる統計学の一種をベースとする技術です。また、その機械学習の中でも「深層学習(ディープラーニング)」と呼ばれる技術に注目が集まっています。
機械学習
機械学習は、統計に関連する技術の一つです。具体的には、あるタスクを行う際に過去データを利用して回帰や分類といった推測を行います。
例えば、これまでの国語のテストで70点、75点、80点を取った学生がいるとします。この学生は次のテストで何点を取ると予想できますか?おそらく85点くらいを予想する方が多いでしょう。この学生は過去のデータから徐々に学力を伸ばしていることが読み取れます。これが、機械学習の一つである回帰の考え方です。
また、自動運転において信号の色を判定する際に、赤であれば停止、青であれば発進するように設定するとします。この時に、古くなって赤茶けた青信号があった際にも、どちらかというと青色であることを判定して発進の指示を出すでしょう。このように、曖昧なものも含めて何らかの分類基準を定義します。
機械学習は、システム上で入力する項目の提案や自動入力の際の技術として用いられています。これまでシステムに入力されたデータを学習することで、どのような内容が入力されるのかを予測をすることができるようになるのです。
その結果、システム上にデータを手動で入力する手間を省くことが可能です。
深層学習(ディープラーニング)
近年では、機械学習の中でも深層学習(ディープラーニング)と呼ばれるニューラルネット系の技術を用いた手法が注目されています。深層学習は、従来の機械学習の手法よりも圧倒的に高い精度で回帰や分類を行うことができます。具体的には、画像を見て判断するタスクであれば人間と同じ判断能力で処理を行うことが可能となりました。
深層学習の基盤となっている技術は、ニューラルネットと呼ばれる人間の神経細胞を模したモデルです。ニューラルネット自体は以前より存在しますが、近年、このニューラルネットを複数の層でつなげ合わせることで高い精度を出せるようになりました。このように深い層まで処理を行うことから深層学習という名前で呼ばれています。
深層学習は、OCR技術や音声を認識して自動入力を行う技術として用いられています。
OCR(Optical Character Recognition)とは、光学文字認識のことです。紙やPDFに記載されている文字を認識し、データとしてシステム上に出力します。その結果、データを手入力する手間を削減するだけでなく、手入力によるミスをなくすことができます。
AIが注目されている背景
近年では第三次AIブームとしてAIに注目が集まっていますが、これにはどのような背景があるのでしょうか。
上述した通り、現在AIが注目されている大きな理由は、深層学習の登場にあります。深層学習は従来の手法よりも圧倒的に高い精度で処理を行うことができ、画像処理や音声認識、自然言語処理などのタスクに応用できます。これにより、製造業における検査業務の自動化やドローン等を活用した保守点検作業の自動化が実現し、チャットボットの活用や音声対話システムなど幅広い応用アプリケーションが登場しました。
また、DXというキーワードの浸透とともに、DX推進のためにAIを活用する企業が増えたことも、AIに注目が集まっている理由の一つです。AI技術を利用してDXを推進することで、従来であれば人手がかかっていた業務の自動化や、新規ビジネスの開発などを実現することが可能となります。
ERPとAIの活用
経営の効率化を支援するERPは、自社の重要なデータを一元的に蓄積することが可能です。AIの活用のためには学習元となるデータが重要となりますが、その収集元としてERPで蓄積したデータを活用することが有効となります。このように、ERPとAIは相性がよいといえるでしょう。
それでは、具体的にERPとAIはどのように活用できるのかを解説していきます。
ERPの登場
そもそもERPとは、どのような目的で登場したシステムなのでしょうか。
1960年代に効率的な在庫管理を目的として、「必要なものを」「必要なときに」「必要なだけ」部品や材料を調達するMRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)と呼ばれる考え方が生まれました。MRPの考え方は主に製造分野を中心として広まりましたが、これを財務会計や販売、流通など経営全体に拡大することで生まれたのがERP(Enterprise Resources Planning:企業資源計画)です。
1990年ごろに登場したERPは、そのメリットから多数の企業で導入されるようになりました。近年では、クラウド型のERPも登場しており、手軽に利用できる仕組みとして普及が進んでいます。
ERPとAI による業務推進
それでは、ERPにおいてAIはどのように活用できるのでしょうか。AIの活用による業務推進について、「予測」と「発見」の2つの観点から解説します。
予測によるデータが収集できる
AIの活用によって、実績値を元に将来を予測して業務を実施することができます。例えば、過去の販売実績から需要を予測するといったことが可能となるでしょう。ERPに蓄積された販売実績データをAIに読み込ませて学習させることで、気温・天候・季節・イベントの有無などの条件によりどのように需要が変化するのかを分析します。
このように、AIによる予測を活用することで、業務の推進や精度向上につなげることができます。
人間が発見できない問題点を発見することができる
ERPとAIを活用することで、人間が発見できないような問題を見つけることができます。具体的には、IoTによって収集した設備情報から、故障の予測などを行うことが可能となるでしょう。ERPに保持されている設備情報とその作動状況を元に、AIに過去の故障ケースを学習させることで、故障が発生しやすい条件や故障リスクが高い設備を発見します。
このようなAIによる問題発見によっても、業務の推進や精度向上が期待できます。
業務プロセスの自動化・効率化
AIが搭載されたERPを活用することで、業務の効率化や業務プロセスの自動化が可能になります。
ERPにデータを入力したり読み取らせたりすることで、AIが入力された内容をもとに候補を提案してくれるようになり、作業時間を大幅に短縮することができます。
手作業で入力する手間が減るというメリットだけでなく、入力ミスを最小限に抑えられるという効果もあります。
このように、AIによる自動入力技術を活用することで、これまで時間がかかっていた業務プロセスの自動化・効率化が期待できるでしょう。
問題のあるデータを早期に発見できる
入力したデータに異常やミスがあった際に、AIが入力者に通知を出すことができます。
入力データの異常やミスは業務の遅延につながるため、なるべく避けたいものです。
また、人間の目で異常を探していると時間がかかるだけでなく、見落しをしてしまう恐れがあります。
しかしAIを用いれば、異常やミスをスムーズかつ確実に発見することができるでしょう。
このようにAIを活用することで、入力データの確認に要するコストの削減も期待できます。
ERP AI導入時の課題と解決策
上述のとおり、ERPシステムにAIを導入することで業務効率の向上や作業時間短縮などのメリットが得られます。
しかしAIを導入するためには、いくつかの課題を解決しなければいけません。
ここでは、ERPシステムにAIを導入する際の課題と、解決策について説明します。
ERP AI導入時の課題
ERPシステムにAIを導入する際の課題として、以下の3つが挙げられます。
専門知識の不足
OCRや画像処理を行うAIを導入する場合は、専門的な知識が求められます。
例えば、OCRや画像処理を行う際は、ラベリングと呼ばれる作業が必要です。
ラベリングとは、AIがデータの学習時に行う作業です。データ中の文字を四角で囲い、記載されている内容と紐付けを行う工程を指します。
このような単純な作業を正しく実施できるかどうかがAIの精度を大きく左右します。
そのため、専門的な知識を持つ人材が企業におらず、導入時の作業ができないことがAI導入の障壁になることがあります。
導入コスト
AIを導入するためには、高額な費用が必要です。
AI自体の費用に加えて、AIの処理に耐えうるGPUやCPUを搭載したパソコン、データ保存用のクラウドサービス・ハードディスクドライブなども必要になります。
AIの動作環境が整っていない場合は、必要な設備を追加で導入しなければいけません。しかし、導入コストが高額で、その費用を捻出できないためにAIの導入を断念してしまう企業は多いです。
また、AIを搭載したERPを活用するためには、従業員に使い方を習得してもらう必要があります。
そのためには、操作方法の指導やマニュアル作成などの作業が求められます。
しかし、中小企業ではAIを導入するための準備に時間や労力を割けず、断念してしまう場合も少なくありません。
このように、AIを導入する際の高すぎるコストも課題の1つとして挙げられます。
学習データの準備
AIを活用するためには、予測や発見を行うために大量のデータをAIシステムに学習させなければいけません。
そのためには、膨大な量の学習データを準備する必要があります。
判断基準となる学習データを十分に用意できないと、AIが予測や発見を行うことは不可能です。
加えて、質の良いデータを学習させないとAIの判定精度が低下してしまう恐れもあります。
この質の良いデータを必要数準備できないために、AIが導入できない企業も多いです。
ERP AI導入時の解決策
ERP導入時の課題の解決策には、以下のようなものが挙げられます。
補助金、支援制度の活用
国や自治体がDX推進のために提供している補助金や支援制度を活用することで、コストを抑えた導入が可能です。
DX推進のために活用できる制度には、以下のようなものが挙げられます。
・IT導入補助金: 中小企業や小規模事業者がITツールを導入する際の経費の一部を補助する。
・事業再構築補助金: 新型コロナウイルスの影響を受けた中小企業などが、新分野への展開や事業転換などのために利用できる補助金。
これらは補助金の他に、人材育成目的の講座や専門家との相談を提供している場合もあります。
ただ、上記のような支援を受けるには特定の条件や要件を満たす必要がある点には留意してください。自社の所在地域や業種によって利用できる補助金や支援制度は異なるため、自社のニーズに合ったものに申し込むとよいでしょう。
トライアルの活用
AIを搭載したERPシステムを本格的に導入する前にトライアルで従業員に試してもらい、意見を集めることも重要です。
システムの導入時には使う側の人間が操作しやすいかどうかが大切になってきます。
トライアルを通じて従業員から意見を集め、実際の環境との適合性を評価することで、適切なシステムを選定できるます。その結果、AIのスムーズな導入につながるでしょう。
データ収集代行会社、オープンデータセットの活用
学習データの収集時にデータ収集代行会社やオープンデータセットを用いるのも1つの手段です。
オープンデータセットとは、様々な機関が無料で公開している学習データのことです。
例えば、以下のようなwebサイトでオープンデータセットが公開されています。
これらのwebサイトから質の良いデータを無料で入手できるため、費用面の負担を軽減することができます。
もしオープンデータセットで欲しいデータが配布されていない場合は、データ収集代行会社への依頼を検討してみてください。
有償にはなりますが、学習データの用意やラベリングなどの準備を代行してもらえるため、AI導入のための時間や労力を抑えることが可能です。
ERP AIのトレンド予測
将来的に、ERPとAIはどのような発展を遂げていくのでしょうか。
ここからは、ERP AIの将来的な発展、予測されるトレンド、長期的な影響について説明します。
生成AIの登場
近年では、ERPシステムに生成AIが導入されるようになっています。
生成AIは、入力された内容を元に図や表、文章などを自動で作り出してくれる機能を持っています。
例えば、ERPに入力された売上データを自動的に分析し、表や図にまとめて可視化することができます。
データの蓄積と精度の向上
AIを搭載したERPは、長く使い続けるほどデータが蓄積していきます。溜めていったデータをAIに学習させることで、精度向上が見込めるでしょう。
AIの精度向上で業務効率がより良くなることで、業務に費やす時間や労力を減らせるでしょう。
AIの処理速度の向上
将来的にはAIの処理速度の更なる高速化が見込まれます。その結果、より迅速な意思決定が可能になります。
ERPとAIの活用で高速処理も可能になる
この記事では、AI技術の概要とともに、ERPとAIの活用について解説しました。深層学習の革命により、AIは一気に身近なものとして実用化しました。また、ERPとAIを組み合わせることで、ERPに蓄積されたデータをAIにて活用することができます。自社の業務の中でAIの活用範囲を検討し、積極的に導入していくことをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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